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【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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第67話 病室の温度【篠宮智明視点】

 仕事が終わった時には、今日は少し早く帰れるなァと思ってた。

 書類を片づけて、デスクの上を軽く整えて、近くの同僚に「お先」と声をかける。

 定時で上がれる日なんてそう多くない。

 だからこそ、こういう日は妙にほっとする。

 乃亜――いや、ノアが俺の住んでいるアパートに来てから、生活のリズムは少し変わった。


「……ああ、お帰り」


 帰ると挨拶してくる彼の姿を見ると、何処かホッとしていた。

 帰れば誰かがいる。

 だが、その“誰か”が普通じゃない存在だった。


 それでも、帰る場所としては悪くないと思い始めていた。


 だから、その日は普通に帰るつもりだった――スマホが鳴るまでは。

 画面を見た瞬間、顔がしかめ面にってしまう。

 姉貴からだった。


「……嫌な予感しかしねえな」


 思わず独り言が漏れる。

 だが無視するわけにもいかず、通話を取った。


「もしもし」

『智明!?』


 出た瞬間から、向こうの声は切羽詰まっていた。

 それだけで胸の奥が嫌な音を立てる。


「何だよ突然電話して……」

『乃亜が……乃亜が倒れたの!』

「は?」


 一瞬、意味が入ってこなかった。


「倒れた?」

『学校の実習で、戻ってきたと思ったら……血を吐いて、そのまま……!』

「どこだ」

『指定された病院に――』

「場所送れっ!」


 それだけ言って切る。

 返事を最後まで聞く気もなかった。

 同時に、別の着信が入った。

 今度は学校からだった。

 短い確認と、搬送先の病院名。

 内容は姉貴の話とほぼ同じだったが、学校の方も相当混乱しているのが声の調子で分かった。


 実習ダンジョンでトラブルに、乃亜が入っていた班、四班が一時行方不明。

 帰還後、久城乃亜が血を吐いて倒れたと言う事。

 説明としてはそれだけだったのだ。

 それを聞いて、足が勝手に速くなる。

 鞄を掴んで会社を出る頃には、頭の中で嫌な想像ばかりが膨らんでいた。


 乃亜の身体は、もともとまともじゃなかった。

 いや、“乃亜”の中身がノアだという前提で考えるならなおさら。

 異世界の召喚士だの、魂の問題だの、身体への負荷だの、普通なら理解しきれないことばかり抱えている。

 その上で、血を吐いて倒れた。

 一体ダンジョンの中で何があったのかわからないが、血を吐いて倒れるほどの事があったと言う事だろう。

 胸を押さえながら、何とか俺は病院についた。

 受付を済ませて指定された病室へ向かうと同時、廊下の白さがやけに冷たかった。

 ドアの前で一度だけ息を吐いて、中へ入る。


「乃亜っ!」

 

 叫ぶと同時に最初に見えたのは、ベッドだった。

 そして次に見えたのはぐったりと横たわる乃亜の姿。

 点滴が繋がれていて、顔色はひどく悪い。

 白い、というより血の気が抜けすぎて青い。

 目は閉じられたままで、今にもどこか遠くへ沈んでいきそうな顔をしていた。


 ――その瞬間、胸の奥が冷えた。


 その姿を見て、愕然とした。

 叔父として見たくない姿だった。

 ふと、病室には何人かいたのに気づく。


 瑠亜――顔面真っ青で、椅子に座ったまま何も話していない。

 普段のあの柔らかい笑顔はどこにもない。

 乃亜と瑠亜の姉である詩織も顔色は悪いが、瑠亜ほどではないように見えた。

 そして、姉貴と義兄さん。

 二人とも困惑した顔をしていた。

 だが、その顔を見た瞬間に分かってしまった――ああ、こいつら、まだ本当に分かってないな、と。


「智明……」


 姉貴がこちらを見て口を開く。


「一体何があったのか、学校もはっきりしなくて――」

「……医者の話は、なんだって?」

「今、点滴をして様子を見てるって……でも、急に血を吐くなんてそんな……」

「それで――お前らは何してたんだよ?」

「え?」

「だから、何してたんだって聞いてんだよっ!」


 思わず、声が出てしまった。

 すると、義兄さんが間に入ってきた。


「今は責め合っている場合じゃないだろう?」

「俺はただ、確認してるんだ!」

「私たちは学校の説明を待っていたんだ」

「待ってた?」


 思わず声が低くなる。


「血を吐いて倒れた息子が目の前にいるのに?」


 俺の言葉を聞いて、姉貴が困った顔をする。


「だって、こっちだって急で……瑠亜もすごく動揺してるし……」

「は?」

「詩織だってショックを受けてるのよ。私たちも整理がつかなくて」

「乃亜は?」

「もちろん心配してるわよ!」


 その“もちろん”が、ひどく薄っぺらく聞こえる。

 どうしてなのかわからないが、姉貴はまるで乃亜の事は後回し、しているように感じてしまったのだ。

 俺は、再度二人に向かって叫ぶ。


「なら、なんで心配してるやつの会話が、さっきから瑠亜と自分たちのことばっかりなんだよ!!ふざけてんのか!!」


 病室の空気が止まる。

 義兄さんが顔をしかめる。


「と、智明くん」

「何だよ!」

「申し訳ないが、言い方に気をつけてくれ」

「気をつけるのはそっちだろうが!!乃亜が倒れて血を吐いて、苦しそうな顔をしてるんだぞ!」

「それは分かっている」

「分かってねえよ!!」

「な……」

「本当に分かってたら、もっと心配するだろう!それなのにあんたらはどうしてそんな平然とした顔が出来るんだ!!」


 詩織だって、瑠亜だって、呆然としている顔をしている。

 特に、瑠亜の顔色が悪い。

 それなのに、両親なのに、血の繋がりのある家族なのに、乃亜の事なんて心配しているのか?

 いいや、絶対にどうでもいい存在になっているに違いない。

 対し、姉貴は青ざめた顔で言う。


「そんな言い方……」

「じゃあどう言えばいいんだよ!」

「私たちだって困ってるのよ!」

「乃亜の方がよっぽど困ってるだろうが!」


 思ったより大きな声を出してしまった事で、瑠亜がびくりと肩を揺らす。

 詩織も目を見開いた。

 でも、止まらなかった。


「血を吐いて倒れたのは乃亜だぞ?」

「……」

「瑠亜が青ざめてる?詩織がショック受けてる?そりゃそうだろうよ。でも今一番どうにかなってるのは、このベッドで寝てる乃亜だろうが!」

「智明……だからねーー」

「……出ていけ」


 姉貴が固まる。


「え……?」

「今すぐ出ていけ」

「何言ってるの?」

「ここでまで乃亜より自分たちの話をするなら邪魔だ」

「邪魔って」

「聞こえなかったか?出ていけって言ってるんだよ!!」


 俺は再度叫ぶと義兄さんの顔色が変わった。

 怒るかと思ったが、その前にたぶん分かったのだろう。

 今の俺に何を言っても無駄だと。


「……行こう」

「でも、あなた……」

「今はこれ以上話しても無理だ」


 姉貴は何か言いたそうにしていたが、結局は黙った。

 二人そろって、気まずい空気をまとったまま病室を出ていく。

 ドアが閉まると同時に、ようやく、少しだけ呼吸ができた気がした。

 残ったのは、俺と詩織と瑠亜。

 そして、眠ったままの乃亜。

 瑠亜は相変わらず何も言わない。

 顔面は真っ青なままで、膝の上で握った手だけが小さく震えていた。

 さすがに今は、こいつに何か言う気にはなれなかった。

 代わりに、詩織へ目を向ける。


「お前は」

「……うん」

「学校で何か聞いたか?」


 詩織は少しだけ迷ってから、小さく首を横に振った。


「詳しいことは、まだ、聞いてないの……」

「そうか」

「でも、四班だけ戻ってこなくて……戻ってきた時、乃亜が一番ボロボロだったって、透花ちゃん……乃亜たちの幼馴染だった子も一緒の班だったから、そう聞いたの」


 その言葉が、妙に重く落ちる。

 ボロボローー実際、その通りなんだろう。

 ベッドの上の乃亜は、眠っているだけには見えない。

 何かを無理やりやり切って、その反動で落ちたような顔をしているように見えてしまった。

 詩織が、ためらいがちに言った。


「お、叔父さん」

「何だ」

「……乃亜、最近ずっと変だったの」

「だろうな……」

「でも、悪い意味だけじゃなかった気がするんだ・・…」


 その言い方に、少しだけ視線を向ける。

 詩織は乃亜を見ていた。

 後悔もあるのかもしれない。

 けれど、それだけじゃなくて、何かを考えようとしている顔をしており、ある意味良い傾向なのかもしれない。


「私、見てただけだったの……だから……今度はちゃんと乃亜の前に立てるようになりたい……多分、両親の前だと無理かもしれないけど……だって、未だに瑠亜中心だからね、私の家」


 へへっと笑いながら、詩織はそのように答えていた。

 その姿が、何処か悲しそうに見えてしまった。


「今さらだと思ってるかもしれないが……気づいたなら、次は見ないフリをしないで、乃亜を守ってやってくれ」

「……うん、頑張ってみる」


 詩織は小さく頷き、そして笑った。

 その返事だけで十分だった。

 ベッドの上の乃亜はまだ眠っている。

 点滴が静かに落ちていく音だけが、小さく病室に響いていた。

 俺は椅子を引いて、その傍に腰を下ろし、ボロボロのノアに目を向けた。

 小さな声で呟きながら。


「……きっと、お前の召喚獣たち、心配してるんだろうな、ノア」


 少しだけ、彼らの事を想像して、笑ってしまった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 乃亜にとってもノアにとっても、召喚獣のみんな以外で本当に彼らを理解してくれてるのはおじさんだけ…悲しいですな。
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