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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第17話 朝の招かれざる客たち【ルクス視点】

 主が眠っている間、俺は窓際で一度も目を閉じなかった。

 この部屋は久城の家よりはるかにましだ。だが、安心できるわけではない。

 主の器は脆い。

 そして乃亜の魂もまだ深く沈んでいる。

 こんな不安定な状態で、守りを緩める理由はどこにもなかった。

 隣室では主――ノアが眠っている。

 眠りは浅く、夜の途中で何度か気配が揺れ、乃亜の魂の灯もそれに合わせてざわついた。

 完全に乱れるほどではないが、安定しているとは言い難い。

 叔父の人間にも、今のところ害意はない。

 昨夜の話を受け入れたわけではなくとも、排除すべき相手ではないと判断した。


 ――だからと言って、気を抜く気にはなれないが。


 薄く朝の光が差し込み始めた頃だった。

 ぴり、と空気が震えた。

 契約回路の反応だ。しかも一つではない。

 俺は即座に身を起こし、主の眠る部屋へ視線を向ける。

 主の気配が浅く揺れていた。夢の底で無意識に術式へ触れたのだろう。


「……来るか」


 呟いた次の瞬間、居間の床に二つの光陣が開いた。


 白い月光のような円陣。

 それと、甘く毒のある香りを伴う紫の術式。

 組み合わせが最悪だった。

 まず現れたのはセレネ。白銀の長い髪に淡い紫の瞳、白い衣を纏った静かな女だ。

 穏やかに見えるが、主を傷つけるものへの怒りは深い。

 続いて現れたのがシオン。中性的な美貌に、毒と香りを纏う人間嫌いの妖。

 主にだけは異様に甘い。そして気に入らない。


「……やはり来ていたのね、ルクス」


 セレネはそう言いながら、すでに主の眠る部屋を見ていた。


「主の気配が弱すぎると思ったら、やっぱりこんな不安定な場所にいたんだ」


 シオンが眉をひそめる。


「人間の匂いが濃い。しかも、あまり愉快じゃない部類の」

「帰れ」

「朝の挨拶が雑だね、狼王」

「招いていない」

「主の契約に応じて来ただけさ」

「存在そのものが問題だ」

「奇遇だね。僕も君に同じ感想を抱いてる」


 相変わらず癇に障る。

 セレネは俺たちのやり取りを無視して、主の部屋の扉へ手をかけた。


「主はまだ眠っている」

「だから見に来たのよ」

「何を?」

「決まっているでしょう」


 セレネは静かに微笑んだ。


「抱きしめるためよ」

「…………は?」


 思わず本気で低い声が出た。

 シオンが鼻で笑う。


「やっぱりそうだよね」

「“やっぱり”じゃない」

「僕も同じ理由だもの」

「おい、お前もか」

「主の気配が不安定だったんだ。心配するに決まっているだろう? ついでに抱きしめて安心させたい」

「“ついで”の比重がおかしい」

「昨夜から主の魂と器の接続が揺れているもの。直接触れて落ち着かせるのは有効よ」

「それは分かる」

「ならいいでしょう」

「よくない」


 シオンが肩をすくめながら、俺に声をかける。


「君だって抱きしめたいくせに、妙なところで理性ぶるから嫌なんだ」

「黙れ」

「図星かい」

「今すぐ毒花ごと引き裂かれたいなら続けろ」


 思わず殺意が漏れ、俺の足元に薄く霜が走る。

 だがその前に、セレネが静かに言った。


「――やめなさい、二人とも。主を起こしたいの?」


 その一言だけで空気の張り詰め方が変わった。


「それに、私たちが来た理由は本当にそれだけではないでしょう?」


 セレネは俺たちの方へ向き直る。


「主が人間の家に身を寄せた。外の世界と接点を持った。乃亜の魂の状態も、主の身体の負荷も不安定。だから来たのよ」


 それは事実だった。

 昨夜の時点で、主の選択は新しい段階に入っている。

 久城の家を捨て、人間の叔父の元へ移った。協力者になるかもしれない人間が生まれた一方で、新しい危険も増えた。


「僕は主が人間に近づきすぎるのが気に入らない」

「同感だ」

「でも、今の主が一人で全部抱えるのももっと気に入らない」


 珍しく少しだけまともなことを言った。

 俺たちは居間のテーブルを囲む形になった。


「まず、乃亜の魂はまだ安定していない」


 セレネが最初にそう言った。


「昨夜、主が人間に正体を明かしたことで大きく乱れはしなかった。でも、器への負担は少し増えているわ」

「叔父の存在が影響してるのか?」

「完全には断定できないけれど、主が人間に理解されるかもしれないという可能性に触れたことで、魂の深層が揺れている」

「……良い意味か、悪い意味か」

「両方よ」


 面倒になった。

 頭を抱えながら、ため息を吐く。

 対し、セレネは話を続ける。


「次に主の身体……これはもっと問題ね。召喚の連続使用、ダンジョン潜行、睡眠不足……どれもよくないわ」

「ああ、それは分かっている」

「分かっているなら、もう少し主を休ませなさい」

「俺一人で制御しきれると思うか?」

「思わないわ」

「ならその言い方はやめろ」


 少し苛立ちが滲む。

 休ませたいのは俺も同じだ。

 だが主は、目的を見つけた瞬間から自分を後回しにしてでも進む。

 乃亜を返すと決めた今、その傾向はなおさら強い。


「だから来たんじゃないか。君一人じゃ足りないから」


 シオンが低く笑う。


「僕は対人面を見る。主に近づく人間の匂いは全部覚えるし、必要なら牽制もする」

「余計なことをするな」

「余計じゃないぞ、それに僕は人間を信用していない」

「それは俺も同じだ」

「でも君は正面からしか威嚇できないだろう?僕はもっと丁寧に壊せる」


 それを聞いた瞬間、やはりこいつは気に入らない。

 だが、対人の嗅覚だけは認めざるを得なかった。


「私は、乃亜の魂の安定を優先するわ。主が眠る時、夢の底で少しずつ接触して、戻る場所があると分からせるの」

「……主には」

「今すぐ全部は言わない。負担になるもの」


 それは妥当だった。

 今の主は表では冷静でも、内側はぎりぎりだ。

 人間を信じないと決めながら、乃亜を返すと決めている――その均衡は危うい。


「それと」


 セレネが少しだけ笑う。


「主が起きたら、ちゃんと抱きしめるわ」

「結局それをやるのか」

「必要だもの」

「じゃ、僕も」

「お前は必要ない」

「君に決める権利はないよ、狼王」


 また空気が険悪になる。

 その時、寝室の方から微かな気配の揺れが伝わってくる――主だ。

 眠りの浅いところまで、ゆっくり浮いてきている。

 それに伴って、乃亜の魂の灯もごくかすかに揺れた。昨夜よりは少しましだ。

 俺は即座に立ち上がる。

 セレネもシオンも動いた。


「起きるぞ」

「なら、迎えましょう」

「ふふ、寝起きの主も綺麗だろうね」

「……お前は本当に黙れ」


 あの顔を見るたび、本気で噛み砕いてやりたくなる。

 まったく、朝から面倒なことになった。

 だが同時に、これで守りは厚くなる。

 セレネがいれば乃亜の魂の安定に助かる。

 シオンは不快だが、対人の嗅覚と執着の深さだけは信用できる。

 主が望むかは別として、当面はこのまま三人で動くことになるだろう。

 それも悪くない。

 少なくとも、主を一人にしないで済む。

 寝室の向こうで、主の気配がゆっくりと目覚めへ向かう。

 主が起きる――今日もまた、あの方は進もうとするだろう。

 なら、俺はその隣に立つだけだ。

 その瞬間、セレネが静かに言った。


「ルクス」

「何だ」

「あなたも、本当は抱きしめたいのでしょう?」

「……」


 一拍置いて、シオンが吹き出した。


「ほら見ろ」

「黙れ」


 否定はしない。しても無駄だ。

 主の気配が弱れば触れて確かめたくなるし、傷ついていれば少しでも近くに寄せたくなる。

 それは事実だった。


 ――ただ、口に出す気はない。


 朝の光が薄く差し込み、床の上に淡い筋を落とす。

 新しい一日が始まるというのに、俺はもうすでに疲れていた。

 だが、それでもいい。

 主が目を覚ます。

 乃亜の魂もまだ消えていない。

 それでも、今日も守るだけだ。

 主が進むなら、その道を塞ぐものを噛み砕く。

 乃亜が戻るべき場所を失わないように、灯を守る――それが今の俺の役目なのだから。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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