妖月 その3
司祭「おお、それは何と奇妙な色をしているんだ。これは凄いな」
手を伸ばし触れようとするがヒュドラは遮った。
ヒュ「触らない方がいい。色々とよからぬことを考えていると何かと悪い事が起こるかもしれない」
レ「ヒュドラ何を言うんですか、大丈夫に決まっているでしょう」
今までエモ達が目の当たりにした出来事はこの宝石の欠片によって引き起こされてきたことがある。
それは残酷な事ばかりで、心の中の小さな悪が増幅されてしまうのだ。
例外もあったが大体は欲望が心を取り込み理性をなくす。
もしも目の前でその悪の塊が欠片に触れたらどうなるのかまだ見た事がない。
必ずしも安全ではないと言う事だ。
司祭だから大丈夫という事も先の出来事によって分かる事だろう。
人を疑うのは良くないが、忠告は出来る限りする、その方が円滑に物事が進むものである。
言葉に出すことで言われた方も気づくだろう。
司祭「そうだな、私が触れたら何か起こってしまうかもしれないな」
残念そうに手を引っ込めた。
レ「司祭まで何言ってるんですか、大丈夫に決まっているでしょう」
司祭「レンシー、それは分からないよ。私もあの頃とは変わってしまったからね」
年月は人を変える。
子供だと思っていたのに気づけば背丈は変わらなくなり自らの老いを知る。
軒下に作った巣にいた雛はもうどこかへ行ってしまったようだ。
妙な沈黙の後、司祭は外を見た。
もう日は沈み暗くなり、聖堂の窓から見下ろす村の明かりだけがポツポツと見える。
司祭「ふむ、もうすぐ夕飯どきだな。君たち、今日はここに泊まるといい。夕食を一緒にとろうじゃないか」
レ「ありがとうございます」
二「わーいご飯だー」
司祭「この村名産の小麦を使った料理を私が振舞おうじゃないか。お手製のカ・・・」
ヒュ「カニですか?」
カニ「!?」
司祭「カレーだ」
エ「ヒュドラ反応早いなおい」
食堂まで案内され、しばしの休息をとる。
司祭「出来るまでゆっくり休んでいるといい。疲れただろう。もう少し話を聞きたい。何か私でも役に立てればいいのだが」
彼らが発する声は怖ろしく、神経を尖らせる。
人々を辺りを見回し自らを奮い立たせ歩みを進める。
いつ襲われるともしれない道、夜なら尚の事、こうなるのならもっと早く出発していれば良かったと後悔しても遅いのだ。
何かの気配がする、後ろから誰かに見られているようだ。
その次は横から、そして前からも。
遠吠えは近くから聞こえてくる。
次第に大きくなる、麦畑をかき分ける音、風の様で全く違う。
寒気がする、カンテラを突出しても何も見えない、仲間を呼ぶ声、一瞬の出来事だった。
痛みを通り越して気が付いた時にはもう分からなくなっている。
黄金色の穂は赤く染まったが何事も無かったようにただ揺れていた。
エ「おーい、そろそろ夕食できるぞー」
司祭を手伝っていたレンシーとエモは忙しそうにしている。
全くやる気のないヒュドラとニアスに皿を運べやら、テーブルを綺麗にしろやら命令を出した。
司祭「さぁ食事にしよう」
質素だがこの村名産の小麦を使ったパンと一緒に食べる特製カレーは絶品だった。
疲れも癒え多少の雑談をしたあとレンシーは司祭に問うた。
レ「この辺りでは狼の影響で旅人が少なくなっているそうですね」
司祭「そうなんだよ、狼は昔からいたんだが、いつもは人から隠れるように住んでいてな今では人を襲うようになってしまってね」
エ「何か原因があるの?」
司祭「これといった原因は見当たらないな。今まではこんなことは一度も無かったし。
村人は何とか対策しようとしたけども村長の指示でなすがまま対策はしないことになってね。
それも仕方ないんだよ、この村は狼と共に生きてきたからな。しかし旅人が来ないと困るので村人達は何とかしたいと思っているんだよ」
ヒュ「村長が怪しいな」
レ「何言ってるんですかヒュドラは」
司祭「それはないだろうよ、村長はこの村にずっと住んでいるんだからね」
ヒュ「逆に怪しい」
レ「まだ言いますか」
司祭「狼の被害なのだが、この村を襲うことはなく旅人だけを襲うんだよ」
レ「妙な話ですね」
司祭「村人に被害はないものだから対策するのも後手後手になってしまっていてね」
ヒュ「そりゃ仕方ないよな」




