雷門にて
浅草の、少しだけ古い飲食店。
店内には、円安を謳歌する白人の若者グループの声が、不躾に響いていた。
彼らは隣の席の日本人女性を指差して、最低な性的なジョークで盛り上がっている。
「ハハハ! こいつら、俺たちが何を言ってるか一言も分かってねえよ。イエス、イエス、って笑ってるだけだ」
グラスを掲げ、さらに声を張り上げる。
「最高に安い国だな!」
その時。カウンターの向こうから、店主が重い鉄板を彼らのテーブルに、静かに置いた。
店主は、若者たちの目を一人ずつ、瞬時に見据えた。
その視線の鋭さに、若者の一人が気づき、言葉が止まる。
店主は鉄板焼きを始めた。彼らの注文に応えるために。
最初はスマホを向け、はしゃいでいた若者たちも、いつしか静まり返っていた。
店主が肉を焼き、魚をさばく。ただ見入るしかなかった。
一枚の肉を、均等に分ける。
一尾の魚を、均等に分ける。
最後に野菜まで、寸分違わず分け終える。
流れるような手つき。
そして、流暢でありながら、どこか温度を感じさせない英語。
店主は黙々と焼き続ける。
もう誰も、声を発しない。
やがて最後の肉が、静かに裏返された。
火が落ち着く。
パチパチと弾ける油の音だけが、店内に残った。
彼は顔を上げ、若者たちを見た。
怒りはない。軽蔑もない。
ただ、もう関係が終わっている目。
店主は、さらに流暢な英語で言った。
”You enjoyed the meal.”
一拍。
”This place is not for you.”
そして、ほんのわずかに、深く息を吐いてから。
”Wabi-Sabi Fuck.”




