耳なし創造主
エモは神だ。
神となって数億年。あまたの宇宙を創造してきた。星が生まれ、生命が芽吹く。しかし、いまだに最適解は見つからない。
可能性を絶対化し、不要な因子を取り除いた。
時間を操作し、あらゆる存在に加護を与えた。
しかし、どの宇宙もやがて閉じてしまう。
原因は何なのか。 エモ自身の能力の限界なのか。
それからエモはさらに数千億年、宇宙を創り続けた。
***
『ラドン・エモ。久しいな』
「久しぶりだ、因果の番人オコジフよ」
珍しい来客にエモは茶を出した。
宇宙が閉じるときに、滴り落ちるしずくを閉じた宇宙の残滓に注いだものだ。
二人はゆっくりとその茶を飲んだ。
茶会が始まって数億年が過ぎたころ、エモはこれまでの研究を因果の番人に語った。
『エモよ。私はあまたの因果を見てきた。思いがけないことが、思いがけない結果をもたらすことがある』
「オコジフよ、これを見てくれ」
エモはいくつかの光の玉を生み出した。
目の前に、圧縮された研究の記録が広がった。
「私は因果を並列化し、多次元にわたって観察してきた。しかし、最後はどの次元も閉じてしまった」
「エモよ。すべての因果を見たわけでもあるまい。視界に入っていない何かがあるのでは?」
因果の番人はそう言って茶の礼を述べると、去っていった。
***
エモは、これまで視界に入れていなかったものへと目を向けた。
そして一つの考えが浮かんだ。
エモ自身でも馬鹿らしいと思った。 しかし、その考えは消えなかった。
「エモ、準備できたよ」
彼女は美しかった。
金色の光に包まれた、エモが生み出したものだ。
「ミラドーラよ。すべての星には管理者は配置できたか?」
「エモの一部から生まれた子どもたちを置いたよ。まだ小さいけど、素直でいい子たちばかり」
「ではやってみようか。あとは頼んだぞ」
「たまに会いに行ってもいい? 心配だし」
「心配をかける兄で申し訳ない。ただ、これはやってみたいんだ」
二人は微笑んだ。
その余韻は数千億年、消えない加護となった。
「では、カウントします。5秒前……2……1……」
エモは多数ある首を自ら切り落とし、羽をもぎ取った。
切り離した部位に自身の奇跡を一つ一つ封印する。
それらは小さな道具へとなった。
身体を縮め、ミラドーラのように光輝く姿に変えた。
美しさよりも、愛らしさか。
そう思いなおすと、さらに形を整えた。
ミラドーラはその姿を見て、思わず笑った。
あとは名前だ。
とにかく愛らしいものを。
妹の名と自分の名を組み合わせると、最後に自身の記憶を書き換えた。
「では、行ってくるね」
その手が幾何学模様の魔法陣に触れた。
***
あらゆる因果と次元が操作され続けている空間を漂った。
どれほどの時間が経ったのか、もはや知覚することもできない。
この空間には『食らう者』たちがいた。
小さいがその数が多い。身体の一部が食われた。
その襲撃に耐え続けた代償として、金色の光と頭にあった愛らしい耳が失われた。
そして、ついにすべての因果と次元の果てにたどり着く。
予定通りなら、ここが望んだ希望の世界への入り口だ。
「今年はいいことがありそうだ」
声が聞こえた。思わずうれしくなった。
そしてなぜか、思いがけないことを言いたくなった。
「いやぁ、ロックなことがないね」
そしてさらに続けた。
「三十分後に首を振ればいい」
「四十分後には熱狂となる」
楽しくなった。
そこにいるはずの、生命体に会いたくなった。
自らその扉に手をかける。
押して開く扉だ。
何かが引っかかっている。
『ゴト——ガタ——ゴト』
出口は狭かった。身体をねじ込んだ。
そして、その少年と出会うことができた。




