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婚約解消RTA失敗




 リズムにのってステップを刻む。音楽に合わせて振り付けをの行う。特別難しい振り付けでは無いけれど、『上手く』魅せる為には身体のキレを、手の、指の先まで意識して動かす必要がある。

 細かい部分にまで気を配り踊る。身体の動きに合わせて汗が落ち光が反射しキラキラと輝く。



 DANCING DEBU



 という事で私は歌の次にダンスを手を出していた。


 ダイエットが毎日続いているのは、楽しんでやれているからだろう。就職して働いている訳ではないので、忙しくないからというのも理由にはあるだろうか。

 ダイエットにばかり時間をかけていては身分的にそれはまずいんじゃないかと思う人もいるだろうけれど、その手の話はお兄様が対処している。


 勿論何も勉強していない訳では無い事は誤解のない様に伝えておく。ただ、一日の内に数時間程度を使ったとしても大した問題は無いのだ。

 友達がいないから暇なんだろって思った人は焼き土下座です。鉄板の上でついでに焼肉を焼いてあげますから食べてもいいですよ。(慈愛の微笑み)

 まあ、まともな友人がいないのは確かなのでその事は気にはしていない。気にしていないのだ。



(友人を作る機会はこれから幾らでも、・・・ん?そういえば学校で私の側に来る面子に変わりがないのは避けらて・・・、ま、まだ時間はあるので大丈夫な、はず。)



 人はそれを先送りと言う。話を戻すが何にせよ楽しくやれている事が何より重要だ。それに何もかもが新鮮に感じる。これ程、色々な事を知らずに過ごして来たのかと思うと、勿体無い時間の使い方をしていたとつくづく思う。

 鏡を見れば、少し、シュッとしている様に見えなくもない。多分幻覚では無いはず。


 最初は自身の現状に絶望していたけれど、始まりが絶望なら後は希望に向かって進むだけだ。



 浴場で汗を流し、外へと出たらエステで身体のケアを万全にする。特権をフル活用してダイエット道を爆進していく。お嬢様様々だ。



「お嬢様、陽介様がいらっしゃいました。既に応接室にご案内致しております。」


「・・・?えぇ、ありがとう。」



(陽介?天藤陽介?あっ、そう言えばお見舞いに来ると言っていた。完全に頭から抜けてる・・・。)



 幸いこのまま直ぐに向かう事も出来るので怪我の功名というやつだろう。例え何かで失敗したとしてもリカバリー出来れば成功と何ら変わりない。


 急いで応接室に足を進めた。




***




「それでは、ごゆっくりどうぞ。」



 紅茶とお茶菓子を揃えると、流れる様にメイドは席を外すした。

 お風呂に入って、エステまで行って凄く気合いを入れてると、もしかして思われてないだろうか。



「こうして顔を合わせるのは随分久しぶりに感じるよ、体調はもう大丈夫かい?」


「ええ。」


「それはよかった、安心したよ。」



 目の前でにこりと爽やかな笑みを浮かべる。王子様と陰で呼ばれている彼の笑みは確かな破壊力を持っている。それこそお布施としてお金を渡そうとするヤバい奴がいるくらいだ。

 表面上、汐音は目立った動揺を見せていない。それもそのはずで子供の頃からの付き合いで、尚且つ婚約者なので今更反応を示す事は無い。


 彼女の内面を見てみよう。



(顔良すぎないか???????)



 よく見ればこの女、ティーカップを握る手が小さく震えている。目がぐるぐると渦巻いて混乱の極致にいた。面白いぐらい動揺している。 


 お父様やお兄様も勿論容姿がいいのだけれど、家族として毎日会っているのもあってそういうものだと納得していた。

 ◼️◼️◼️◼️の記憶を前世とするなら、前世という一般的な視点を得たからこそより強く実感しているのだ。



(前世が一般人と言えるポジションだったとするのは少し語弊があるかもしれないけれど、それでも彼が際立っている事がよく分かる。)



 表面上は和やかに談合をする。



「以前庭を散策した際にインパチェスがとても綺麗に咲いていました。時間があればご覧になって下さい。」


「ふふっ、それは楽しみだね。後で見させて貰うよ。」



 (笑うな惚れるだろ!・・・私が居なければ幾らでももっと良い人と巡り会えただろうに、現実を見るたびに申し訳なさが湧いてくるな。)



 まさしく天藤陽介と藤嶺汐音の関係は豚に真珠だろう。自分で言っていて悲しくなるが、男性としての前世の記憶を得た事でより婚約者という形で引き止めている事を申し訳なく思ってしまうのだ。



「その、・・・もし貴方が許嫁という関係を解消したくなったらおっしゃって下さい。私に遠慮は不用ですから。」



 汐音は思わず陽介にそう告げた。きっと私が彼に対して所持していた感情は恋何て甘酸っぱいものでは無かったのだから。

 そんな急な提案に陽介は一瞬呆けた後、直ぐに笑みを浮かべた。



「ふふふっ、・・・ああ、君を笑っている訳じゃないんだ。余りに真剣な顔をするものだからどんな事かと思ってしまったよ。」


「一応、真剣な話なのですが。」


「謝るよ、重ねて軽んじている訳でもないよ。ただ・・・、最近よく似た事を聞いたと思ってね。」



「婚約の約束も嫌だと思った事はないよ。本当さ。」



 そう言い切った。




***




 天藤陽介の人生は常に縛られていた。家の厳しい躾や教育、それは窮屈なものであった。

 勿論それら全てが無駄では無かった。そこで学んだ知識や経験があるからこそ次代のリーダーとして期待されるまでに成長したのだ。


 ただ、そんな生活を良しとするほど精神は成熟してはいなかった。

 とある日、陽介は父に連れられてお偉いさんの集まる社交場へと顔を出した。そこで陽介は、汐音との出会った。


 彼女に連れられて庭を歩き、一時を過ごした。特別な事はしていないけれど、そんな何かに縛られる事の無いありふれた時間が好だったのだと後になって理解した。

 礼節も、花の知識も、覚えなくてはいけないお偉い誰かの事も、場を保つ話術も、全てを忘れてたただの子供の様に過ごした時間が。



(だから、本当に嫌いではないんだ。)



 その時間を与えてくれた彼女に、ちょっとした気づきを与えてくれた事に比べれば容姿何て要素は取るに足らないものだろう?




 


 本来のルートでは汐音はそのまま成長し、取り巻きに誘導されちょっかいを主人公に仕掛ける。段々と取り巻きというフィルターを通して語られる主人公の話を聞いていく内に汐音もヒロインという存在が自身の物を奪おうとする泥棒に見えて行く。

 しかし、そうして始まったいじめは逆に主人公と天藤陽介の関係を補強する材料にしかならなかった。

 天藤陽介は主人公と接していく内に、自分が好きだった『ありふれた時間』を得ている事を自覚する。


 そこから先は語る必要の無い物語だろう。



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