51 茶番
アルフォンスに目を留めたリリーを見てキリアンがにたりと笑った。
「君は貴族社会で生きていくには少し素直すぎるようだから、お勉強したほうがいいな」
すうぅぅぅと大きく息を吸う音が聞こえた。
「うわぁぁぁやめてください!!」
キリアンは大声で叫びながら床に尻餅をつき後ずさる。上等な衣服に泥がつくのもお構いなしだ。
「あなたは何を言っ」
「やめて!!誰か助けてくれ!!」
キリアンの鬼気迫る演技にリリーはわけが分からず棒立ちになった。
床には倒れたアルフォンス。助けを求め叫ぶキリアン。棒を持ったリリー。
(はめられた)
棒を投げ捨てその場を離れるために走り出したリリーの後ろで男の声がした。
「どうした!!」
「助けて!!この男があの男を殺そうとしているのを見てしまって!!」
キリアンがかけられた声にこたえている。ちらりと視線をやると騎士団の制服を来た男がキリアンの側に駆けつけていた。
「王宮内で人を殺そうとするなんて!!凶悪犯です!!」
『人殺しを計画するような男が準備した不正の証拠など誰も信用しないさ。これで魔石の不正流通についてはもみ消せる』
聞こえてきたキリアンの真実にリリーはぞっとした。
(そういうことか!!ダミアンが調べた不正をもみ消すためにダミアンを消す!!)
リリーは扉に向かって飛びついた。がちゃりがちゃりと大きな音を立てるが何かがひっかかっているのか僅かな隙間しか開かない。
(どうすればいい?逃げるということは犯人だというようなもの、でも……相手がダミアンを消すつもりなら)
「ダミアン!待て!!」
どこからかトリスタンとジョージが現れた。
「トリスタンさん!どいてください!!」
「逃げなくても大丈夫だって」
「なぁそこのお前。なぜダミアンをはめようとしたんだ?アルフォンスとグルなのかな?『俺の婚約を邪魔した小僧を痛い目に見せてやる』って計画かい?」
「人の恋路をじゃまするやつは馬に蹴られるってしらないのか?」
「知らないなら教えてやらなくちゃな。俺の蹴りになるが」
「いやージョージのケリは結構いたいぜ。元騎士団小隊長どのだからな。男の尻を蹴りなれてる」
「トリスタン、茶化すな。茶番すぎて退屈なのは分かるが」
「はーい」
「な、あんたたちは何を言っているんだ。そいつは殺人犯だぞ!!」
追いついてきたキリアンと騎士の男がリリーをつかもうとする。
「だから、恋敵を追い落とすための自作自演だろうが。偽物の騎士まで用意して悪ふざけがすぎるんじゃないか?」
「偽物だと?何を証拠に」
「じゃあお前、俺の名前を言ってみろ」
騎士の男の視線が一瞬およいだ。
「……」
「知らないだろう?お前のその制服は去年廃止になった旧型だ。どこからくすねたか知らんが人をおとしいれるなら細部までこだわらないとなぁ」
そういうとジョージは偽騎士の腕を取りひねり上げた。
「い゛い゛い゛っ!」
「痛いだろう。知ってる。悪い奴には痛くするって決めてるんだ」
「そこ、逃げるな!」
そっと逃げ出したキリアンに向かってトリスタンが叫ぶ。同時に彼の腕がしなり何かを投げつけた。飛んでいった何かがキリアンの足元に絡みつくのが見えた。
「うわぁ!」
派手に床に倒れ込んだキリアンは勢い余ってそのままそばにある茂みに頭をつっこんだ。
「頭隠して尻隠さず。ジョージの代わりにダミアン蹴っておいでよ。邪魔されたのは君の恋路なんだしさ」
そう言って笑うトリスタンは見かけによらず荒事に慣れているらしい。彼の投げた細い紐状のものがキリアンの両足を絡め取っているのを見てリリーは類は友を呼ぶということわざを思い出した。
(さすがは王宮勤め王太子の御学友)
感心しつつトリスタンを見ていたリリーに彼は言った。
「え?何お前。俺がかっこよすぎるからってほれんなよ!」
「ほれませんよ」
その瞬間なぜかジョージの視線が強く突き刺さるのを感じたリリーであった。




