46 父の勘
「そもそもその残念な方とはどうやって知り合ったのだ?」
父が先程の明るい表情から一転眉根を寄せて強面を強化したのを見てリリーは小言を覚悟した。やはり貴族令嬢としては父の知らない男性と交流をしているというのは外聞がよろしくない。
「私の滞在している部屋からつながるかわいらしい中庭がございますでしょう。あちらで散歩をしている時にお会いして」
いきなり抱きつかれたと言うのはまずいだろうとさすがにその箇所は省く。
「いきなり私のことを運命だとおっしゃって。それからしばらくして毎朝中庭でお会いするようになりまして」
ちらりとリリーは父の顔を伺う。小言は最小限な方がいい。
「なるほど。約束をして会うことにしたならお前もまんざらでもなかったということか」
「いえ、はい。まぁ……」
実の父に向かって殿方への感情を赤裸々に語りたくはないリリーは言葉を濁す。父に対面で断ってもらわなかればならないのだ、大まかな真実を伝えておくことで後から父がレオから聞く情報とかけ離れていることは避けたいとリリーは辻褄をあわせるために頭をひねった。
「なんだ煮え切らない」
「たまたま中庭で私を待ってらっしゃるのを拝見しまして。会えない場合は朝からずっと私を待ち続けているということでお気の毒に思いまして毎朝中庭に顔を出しております」
「リリー……お前は男性というものをよく知らないからそういう行動をしたのだろうが、その方はお前がその方のことを好ましいから会いに来てくれているのだと思っているぞ」
至極まっとうな意見でリリーも否やの言いようもない。が、リリーはわずかばかりの言い逃れをする。
「ですが、お気の毒な方だと思ったものですから、つい」
「頭が多少残念だろうがなんだろうが自分が好意を示した相手が拒絶をせずに会いに来てくれているのだからその方はお前が結婚を受けると思っているだろうな」
お前が巻いた種だぞと言わんばかりの父の表情にリリーも己の分が悪いことを改めて思い知らされる。だがレオと結婚するわけにもいかないのだから、父には断ってもらわなければならない。
「だってその方、絶対ご出自もお気の毒な方だと思ったんですもの。普通の社交界に出られないご事情があるなら私と多少会うくらい問題ないと思いまして。だって私の評判はこれ以上ないほど悪いのですから……」
「社交界に出られないからこそお前の噂話もしらなかったのではないのか?……それで結婚を申し込まれてこれはまずいと?」
「ごめんなさい。お父様。私また家名に傷をつけるのかもしれません」
リリーがしおらしく父に頭を下げるとヨーグは彼女の肩を優しく叩いた。
「なに、たいしたことないさ。アルフォンスに続いて一人お前が袖にするだけだ」
「それが、あの……」
「なんだ?言ってみなさい」
「多分レオ様は王家に関係のある御方でして……」
「?なぜだい。レオ様というお名前は私は思い当たらないが」
「ですから、普通の社交界には出られないお姿なのです」
「どういう意味だい?」
「レオ様、王太子殿下にそっくりなのです」
「なんだ、じゃあ弟君のうちのお一人かい?だがお二人共少し感じの違うご容姿だったがなあ。」
「いえ、父様。ほんとうにそっくりなのです」
「そんなわけないだろう?王太子殿下の弟君お二人以外には年の近い王族方はいないはずだ」
「そうなのです。ですからレオ様のお姿はおかしいのです」
「あ、お前!!」
「なんでしょうか?」
「アルフォンスにそのレオとかいう方と一緒のところを見られたのだろう!だからあいつは王太子殿下とお前がつりあわないなどと!!」
「はい。よくおわかりですね」
「お前はそうやって都合の悪いところを隠す!!ちゃんと話をしなさい!!」
「アルフォンスに婚約を迫られ暴力をふるわれかけたところをレオ様が助けて下さいました」
リリーはレオに抱きしめられたことと殴られかけたことを天秤にかけてアルフォンスを父に差し出すことにした。真実なのだからアルフォンスへの評価は地に落ちてもかまわない。
「アルフォンス!!あいつ今度あったらタダではすまさん。だが、本当にそれだけか?」
父ヨーグのぎょろ目がリリーを見据えた。なれない者なら胃が痛くなるような視線だが実の父だ、リリーにとってはなんということはない。ただ、抱きつかれたとは言いたくない罪悪感が顔に出ないように平然とした表情を保つ。
「……はい」
「ちゃんと話をしなさい!!」
やはり親の目はごまかせない。リリーは結局いやいや口を開くことになった。
が、もちろん最初のプロポーズ時に気を失って部屋へ連れて行かれたことは黙っていた。
(父様が精霊の呪いを持って無くて本当に良かったわ)
そう思いつつうなだれ小言を聞くふりをするリリーであった。




