39 鍵
「おねえさま。わたくし今日朝一番にオランジェリーの中を調べてみたんですの。昨日の明るい光のことがとても気になったので」
昨日の今日でおかしな動きのあった場所に行くだなんて危ないだろうと思わずリリーはアンナを見た。
「ちゃんと護衛にご同行願いましたからご安心ください」
リリーの視線の意味を正しく受け取ったアンナが答えた。
「それでねお姉さま。少し面白いものを見つけたのこれ、おわかりになる?」
シシィが差し出した袋の中をのぞくとさらさらとした砂のようなものが入っていた。じゃっかん通常の砂よりも光を反射している気がしないでもないが至って普通の砂に見える。
「砂?」
「手に取ってみてくださいな」
いわれたとおりに指先で一つまみするとぴりりとした刺激があった。
「きゃ」
思わず声を上げ指先を見つめるリリーにシシィが満足げにほほ笑んだ。
「やっぱり?ピリッとしますでしょ?私もですの。でもアンナは何も感じなくて。おもしろいわよね。でね、こちら魔石が使われた後に出る魔石くずなのです。ご存じでした?」
「え?いえ。魔石を使ったことはないので」
魔獣退治などのような魔石を必要とする魔道具を扱うようなことはリリーの令嬢教育には含まれていなかった。
「この魔石くずが面白いの。昨日の光を出したのが魔道具だとして、魔道具で使われた後の魔石がだすくずは本当はもっとたくさんの量がでていないとおかしいらしいの。あともっと粒が大きいはずなんですって。護衛官の方が言われてたわ」
「ええ」
まだ何を言われているのかピンとこないリリーは曖昧な返事をした。
「だから使われた魔道具が新しい技術を使っているのではないかと思うのだけれど」
「はぁ」
「ね?昨日の人物像が絞れてきませんこと?」
ご機嫌なシシィがニンマリと笑う。
「新しい技術に関係している人物。あ、技術を開発研究している人物?」
「かつ今日図書棟を利用した人ですわよ」
シシィの言葉にその人物像にドンピシャの人物がリリーの脳内に浮かんだ。不健康そうな白髪交じりの艶のない髪の男は設計図と言っていた。なんの設計図なのか?この場合もちろん魔道具の設計図と思うのが普通であろう。リリーもそう思った。
「今日男性とぶつかったのですが、その方は設計図をたくさん持っていて。たぶん魔道具の設計図……」
「さっすがお姉さま。もう犯人を見つけましたのね!!さ、どんな方でしたの?」
シシィはリリーの言葉に飛びつくように答えを急かす。目は爛々と輝き手にもつ扇を開いては閉じ開いては閉じ落ち着かない様子を見せる。
「痩せ型で背は男性としては普通?肩までのわら色の髪にはかなり白髪がまじっていましたし、お年は中年?四十代以上に見えました。かなりお疲れのようで目の周りの隈がひどくて眼鏡をかけてましたわ」
「アンナ?」
シシィはアンナにむかって合図を送る。
「うーん。今の特徴に当てはまるのは文官方の中にかなりの数がいらっしゃるんですが。設計図をお持ちだったということから魔道具設計関係のお方だとハイデン・ベアグ様かと思いますわ」
アンナは主の意を受けてすらすらと名をあげた。
「アンナさんはたったあれだけの特徴で名前まであてがつけられるのですか?」
「もちろんリリー様にご確認いただかなくてはいけませんけれど。王宮に勤める以上王宮内にいる主な方は存じております。不審者に気づけずシシィ様に何かありましたら大変ですもの」
「ほんとうに皆さんのことをご存じですの?」
「まぁリリー様。同じ王宮に二十年も勤めておりますと最近は新しい顔だけ覚えれば良いのでたいしたことではないのですよ。うふふふふ」
本当になんてことはないように言うがこの王宮に勤める人間が何人いると思っているのか。アンナが言うのは警護の騎士団の者たちも含めているはずで千人は超えるだろうという人数を思ってリリーはまじまじとアンナを見つめた。
大したことはないと笑うアンナに対し、シシィは何をそんなに驚くのかという顔でリリーをみている。
「ちなみにハイデン様ご家族に病気の方がいるらしくお金に困っているらしいと聞いてますわ」
「そんな家族の事情まで?どうやって?」
「うふふふふふ」
リリーの質問にいたずらっ子のような表情でアンナは笑うだけだった。




