38 疑惑
執務室の前でしばらく無言だったアレクサンダーはリリーにじゃっかんの気まずさが感じられる視線と「またあした」という言葉をなげて去っていった。
(いったいなんだというのかしら?妹?本当の父と母?)
リリーはアレクサンダーとシシィのことで頭をいっぱいにして王宮の廊下をすすむ。
夕方遅いとはいえまだ明かりのついていない廊下は夜よりも人の姿が見えづらい。一応周りの目を気にしながら部屋の扉に手をかけて異変に気付いた。
(鍵が?)
一瞬ためらったリリーの前で扉が素早く開かれる。
「おかえりなさいませ」
笑顔で出迎えてくれたのは昨夜ぶりのアンナと、かぐわしい茶の香りと豊満な胸を強調したドレス姿の黒髪美少女シシィであった。
「おかえりなさいお姉さま」
「これはご丁寧に。ただいま戻りました。……シシィ様どうなさいましたの?」
一応鍵がかかっていたはずの部屋で茶まで入れてくつろがれていることに若干の不満を覚えつつ、シシィがかなりの自由人であることを理解していたリリーは色々飲み込んで微笑んだ。
「お姉さまのお仕事がどの程度進んだのか叔母様が気にされてたものだから。この後一緒によばれているのよ。さ、早く着替えてくださる?アンナおねがいね」
「かしこまりました。お着替えのドレスはそちらの衝立後ろにご用意しました。ささ、上着をおあずかりしましょうね」
シシィの指図にアンナはてきぱきとリリーの着替えに取り掛かった。有無を言わさず上着を脱がされ衝立後ろへと押し込まれる。
と、リリーの上着から何かが床へと落ちた。
「あら?」
手織りの絨毯の上に落ちた何かを見てシシィは目を丸くした。
「アンナ!!それ」
リリーの着替えを済ませようとしていたアンナも手を止めてそれをみた。
「あら、まぁ。では」
二人の視線がリリーに注がれた。
「お姉さまが犯人なの?」
『どうしましょう!!私たち口封じに何かされるの?』
「はい?」
「お姉さまのことは信頼してるわよ。でもお姉さま私になにか隠してる?」
『面白くなってきたわ!!犯人!!犯人なの?』
「ですからどうしてそのようなことになるんですか?」
シシィの青い瞳が興奮にキラキラと輝く。
「昨夜からオランジェリーのカギが一つ行方不明になっているのよ。昨日の昼間はオランジェリーの鍵があいていたのよね。で、夜には閉まっていて私たちは入れなかった。」
シシィの言葉をアンナがついだ。
「オランジェリーのカギをもっているのはオランジェリー管理の第一庭師。王妃様の第一侍女。あとは庭園管理室に予備のものが保管されていますが庭園管理室にあったはずのものがなくなっていまして」
「第一庭師も第一侍女も昨日の夜にはオランジェリーの鍵を使ってないと言ってるの。オランジェリーは普段あきっぱなし。つまり昨日オランジェリーで密会をしていた人物がカギをかけるために持って行ったと考えるのが普通でしょう?鍵を持っている人物が犯人なのよ!!」
興が乗ってきたのかシシィは手に持った扇で腰掛けた椅子の腕置きをパシパシと叩き出す。
「で、この鍵。オランジェリーの鍵なのよお姉さま」
言いたいことはわかるだろうとシシィはリリーを見つめた。
「昨日はシシィ様とわたくしはご一緒してましたよね?」
「そうなのよ。でも中で密会をしていた二人がお姉さまの関係者ではないという証拠はあるの?」
「この鍵は私今日拾ったばかりで届けに行こうと思っていたんです。忘れていたから今もまだ持っているのですが」
「どこで?」
「図書棟の前です。昨日だってシシィ様にお会いするまで仕事しかしていません。オランジェリーまで行く時間などありませんでした」
「あら?」
「辻褄はあいますわね。でもリリー様がオランジェリーにいたものと知り合いではないという証拠にはなりませんよ」
「だからなんでそんなに疑うんですか?」
リリーの困惑した視線を向けられた二人は顔を見合わせた。




