13 托卵令嬢
次の日中庭でレオを待ったが彼はこなかった。
不思議に思いながらも執務室へ向かうと皆物いいたげな顔で挨拶をしてきた。戸惑いながらリリーは部屋へ入った。
席につくとアレクサンダーがリリーを呼んだ。
今日も美しい顔をしたこの国の王太子は少し気まずそうな顔で切り出した。
「ダミアン。君アデノフォラ家のご令嬢をしっているね?」
「?はい。確かお二人いらっしゃいましたね」
「婚約許可願いが回ってきたんだが許可してよいか一応君に聞いておこうと思って」
「え?何故私に?」
「皆が君の相手はアデノフォラ家のご令嬢だと言うから」
「はぁ?初耳です!!」
「?そうなのか?じゃあ何故君はご令嬢の部屋へ通っているんだ?」
(!!そういうことか!!)
リリーが与えられた自室へ男装姿で出入りしているところを誰かに見られたんだとリリーは納得した。
運命の相手だから結婚してほしいと言ってきたのが行方不明の不名誉な過去を持つリリーだと思ったんだろう。
たしかに普通にしていては結婚相手が見つからない傷物令嬢ならダサいダミアンに結婚してほしいとせまってきそうだ。
(わかっていたけれど改めて現実をつきつけられると悲しいわね)
リリーは少し気落ちした。
ここで自分が男装している令嬢だとばらしてもまずくはないと思うのだが、とりあえず書類を見てみないことには何がおこっているのかわからない。
「その婚約許可願い見せていただいてよろしいでしょうか?」
「これだよ」
「……」
リリーは言葉を失った。そこにあるのはリリフォリア・アデノフォラとアルフォンス・ランズフートの婚約許可願い。元婚約者ともう一度正式に婚約し直したいという旨が書かれていた。なぜかランズフート家でもアデノフォラ家でもなくオーベアライヒ侯爵家が急ぎの添え状を書いて申請している。
「?」
(わけがわからない。なんでアルが私と?オーベアライヒ家がなんで?)
「性急にと頼まれたんだがアデノフォラ嬢がダミアンの恋人ならお前の気持ちも汲んでやりたいし。ご令嬢と話をしたいなら今日は仕事を休んでも大丈夫だぞ」
「いえ、このハインリッヒ・オーベアライヒ侯爵はなぜそんなに急いでらっしゃるんでしょうか」
「それがな、令嬢の名誉に関わるから一日でも早く……と」
アレクは気まずそうにリリーを見つめた。
部屋が静寂に包まれる。リリーは周りの視線が一段深く同情の気配をまとったのに気づいた。
(つまりアデノフォラ嬢が妊娠しているっていいたいの?)
「はぁ????」
王太子への礼儀も忘れて叫んだリリーだったがその無礼を誰も咎めはしなかった。
妊娠していることに気づいたリリーが父親として格下の子爵令息を選んだ。『運命だ』と性急に結婚しようとする話の筋が通る。
てひどい恋の裏切りにあった年下の同僚をみんなが優しく見守っていた。
(行方不明令嬢の次のあだ名は托卵令嬢だわ……)
くらりと目が回りそうだったがリリーは自らの将来がやはり修道院行きしかないと覚悟を決めた。
そうとなれば。
(せめて不名誉ははらさせていただきましょう)




