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第11話 魔法研究と白炎魔法

「全く、せっかくこの私が挨拶に来ましたのに、こんな待ちぼうけを食わせるなんてランドール卿も紳士失格ですわね」


『そりゃあまぁ、急に押し掛けたらそうなるよな』


 愚痴を溢すレトナに、俺は苦笑混じりにそう返す。


 レトナ達とちょっとしたお茶会を楽しんだ俺とティアナは、そろそろ時間ということで屋敷に戻ることにしたんだが……その際レトナから「またあとで」という何とも不穏な言葉を頂いた。


 そして案の定というべきか、俺達がこっそり屋敷に戻って食事を済ませ、ようやく一息吐いたというタイミングを見計らって、レトナがシーリャと共にランドール邸を訪問してきたのだ。


 領内の視察に出向く旨は事前に伝えていたそうだが、あくまで非公式のお忍び旅行という建前。

 突然の訪問に、クルト・ランドールは度肝を抜かれたことだろう。しかも、レトナが「ティアナに会いに来た」などと口にしたものだから、もうてんやわんやだ。


 これまでティアナの身支度にほとんど干渉してこなかったメイド達が、彼女を目一杯着飾らせるようクルトに指示を飛ばされて右往左往する姿は、滑稽を通り越していっそ哀れですらあったな。


 まあ一番の被害者は、そんなメイド達に付き合って普段はしないコテコテのメイクをしなきゃならなくなったティアナだろうけど。


「あら、私達は同じ西部貴族として、隣国の脅威に備えなければならない同志ですのよ? 同年代の私とティアナが親睦を深めるのは至って自然な流れですもの、文句を言われる筋合いはありませんわ」


『その歳で、全部分かった上でそれを言うお前は相当に将来有望だな』


「ふふっ、お褒めに与り光栄ですわ」


 くすくすと、貴族らしい腹黒さを見せながら微笑みを浮かべるレトナ。

 ティアナは貴族としては純粋で素直過ぎるところがあるし、こういう子が味方になってくれるのはありがたいな。


「まあ、そんな話はいいですわ。それよりも、貴方はどんな本を読みたいんですの?」


『そこの棚の……そうそう、その魔法大全で頼む』


 ともあれ、そうしてティアナが来るまで暇を持て余すことになったレトナは、同じく放り出された俺を連れてランドール家の書斎へ足を運んでいた。

 もちろん、当主であるクルトの許可は取ってある。暇潰しの本を所望したレトナのために、彼が気前よく開放してくれたのだ。


 このチャンスを逃すわけにはいくまいと、俺もまたレトナに抱かれて書斎を訪れ、こうして魔法研究に精を出そうというわけ。


 決して、ティアナに比べて随分と大きな膨らみに意識を奪われてなんかいない。だからシーリャ、俺をそんな目で見るな。視線だけで殺す気か。


「せっかくですし、私が読ませて差し上げますわ。百年前の大賢者様とやらがどんなことを研究するのか、興味ありますの」


『そうか? 俺としても助かるよ、魔力がない体じゃ本を読むのも一苦労だからな』


 他人の魔力に干渉すると一言で言っても、そう易々と出来ることじゃない。大抵は、当人が無意識に周囲へ拡散している極微量の魔力を頂戴するのが関の山だ。


 結構な重量物でもある本を、そんな僅かな魔力で動かして、かつ内容を吟味する。正直、俺でも疲れるんだよな、これ。


『お礼代わりに、気になることがあったら教えてやるよ』


「それは良いですわね。じゃあ、ティアナにどうやって中級魔法を習得させるつもりなのか教えてくださいな」


『おっと、いきなり核心を突いて来たな』


 よっぽど気になっていたのか、「当然でしょう?」と悪びれもせず言い放つレトナに、俺はどう答えたものかと思案する。


 別に、取り立てて隠すようなことじゃないんだけど、説明が難しいからな……さて。


『そうだな、まずレトナは苦手な属性魔法ってあるか?』


「むむっ……そうですわね、強いて言えば火属性が苦手ですわ。し・い・て・い・え・ば」


『なら、軽くでいいから火属性魔法を使ってみてくれないか?』


「ここで……ですの?」


 苦手があるというのを認めたくないのか、強いての部分をやたらと強調して言うレトナだったが、いざ使うとなると失敗の恐れからかやや及び腰だ。

 まあここは書斎だし、うっかり燃え移ったら大変だからな。


『使うのは《灯火トーチ》の魔法でいいぞ。最悪暴発しかかっても俺が押さえてやるから、ほれやってみ』


「ぼ、暴発なんてするわけないでしょう!? ええい、では行きますわよ!! 《炎よ、灯火となりて我が道を照らせ! トーチ》!」


 しゅぼっ! とレトナの掲げた指先に炎が灯る……が、その炎は何ともフラフラと頼りなく、途切れ途切れという有様だった。

 うん、本当に苦手みたいだな。適性点にして、四点くらいか? ティアナからすれば羨ましいくらい高い適性だが、レトナの中では低い部類なんだろう。


「きょ、今日は偶々調子が悪かっただけですわ。それより、これが何ですの?」


『まあ偶々かどうかはさておいてだ。そういう苦手な魔法があった時、レトナならどうする?』


「……苦手な中でも出来るだけ上手く発動出来るよう、鍛錬を重ねますわ」


『それもまた一つの手だな。けど、俺ならこうする』


 レトナの魔力を拝借し、頭上に《灯火》の魔法陣を浮かび上がらせる。

 そして、更にその上に光属性の《発光》の魔法陣を展開し、両者を重ね合わせていく。


「なっ……」


『《白き光よ、赤き炎よ、一つに交わる灯火となりて我が道を照らせ。トーチ》』


 そこから噴き上がった炎は、レトナのそれとはまるで異なる白い炎。眩い輝きを放ちながら揺らめくその炎に、レトナはあんぐりと口を開けたまま動けなくなっていた。


『光と火の複合魔法、“白炎”だ。後は、これをちょちょいと調整して形にすれば……』


 書斎にあった白い紙とペンを風魔法で操作し、今発動した魔法陣を描き出すと、軽く調整。そのままレトナにふわりと手渡す。


『新魔法の出来上がりってな。ほれ、発動してみろ。詠唱文はトーチそのままでいいぞ、頭だけ白炎にしとけ』


「え、ええ……《白炎よ、灯火となりて我が道を照らせ。トーチ》!!」


 レトナが魔法を発動するや、俺と全く同じ白い炎が噴き上がる。しかも、最初にレトナが使った《灯火》とは比べ物にならないほど安定した状態で、だ。

 ……適性、六点ってところか? まだまだ調整が甘いことを思えば、七か八くらい行くかもしれん。思ったより大分高いな。


「こんなに容易く、特殊魔法を作り出すなんて……!? あ、あり得ませんの……!」


『ふっふっふ、凄いだろ、これが大賢者の力よ!!』


 ドヤッ、と胸を張ってみせれば、レトナは神妙な顔でこくりと頷く。


 まあこれ、本当は変な混ぜ物したことで純粋な火属性より適性が下がって、最悪ボンッ! てなる可能性もあったりしたんだが……上手くいったんだから黙っておこう。その時はちゃんと助けるつもりだったしね、うん。


『まあこんな感じでな、複数の属性や魔法陣を組み合わせて新しい特殊魔法を作るのは俺の特技なんだ。だからひとまず、ティアナの適性の中でも比較的マシな光属性を中心に色々作って、一番相性が良かったやつを特殊魔法として確立させようと思ってる』


「なるほど……確かにそれなら、八属性全てに適性がなくとも、何か一つくらい見いだせるかもしれませんわね」


『ああ。それで上手く行けば楽だな』


「……えっ、それでまだ楽な方なんですの?」


『そりゃあ、雑に属性を混ぜただけで分かるのは楽な部類だよ。それで見つからなければ、ここに載ってる魔法一つ一つ試しては微妙な適性の違いを割り出して、そこからティアナの得意な概念形状を作り上げて、それを中心にまた一から属性一つずつ検証し直し、とかも……』


 ポン、と分厚い魔法大全を叩きながら言うと、レトナは頬を引き攣らせる。


 魔法一つ一つ、事細かに適性の違いを割り出すなんて簡単に言うが、俺が生きていた時代ですら千を軽く超える魔法が存在したんだ。百年も経った今ならもっとだろう。とてもじゃないが、一日二日でどうこうなる作業じゃない。

 だけど、それでも。


『約束したからな、ティアナを魔法使いにするって』


 俺自身の目的、そしてティアナの夢。両方がかかってる一大事を前に手を抜くなんて出来るわけないし、やるべきことが決まってるなら、それに向かって全力を尽くすだけだ。


 ……ただ。


「そうですか。……まあ、私としてもティアナが魔法学園に通えないというのは納得いきませんし、精々頑張るといいですわ。でも、大丈夫ですの?」


『ん? 何がだ?』


「魔法学園の入学試験、再来月ですわよ? 間に合うんですの?」


『……えっ』


 このタイムリミットばかりは、ちょっと予想外だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弟子がいなかったら百年の間で高度な魔法は失伝してそうですね
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