表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/151

17

 作業現場に到着した。

 俺が今回こなす物資の運搬というのは、どうやら建設現場の資材を移動させることらしい。

 町外れの石切り場から、少し離れたここまで何度も往復することになりそうだ。


「今回の仕事は一日限りだからな。少しでも運んでくれりゃそれで良い。お嬢ちゃんみたいな子に無理はさせられないしな」


 とは現場監督の言葉だ。

 俺は気にしなくて良いと返答したが、曖昧に笑って誤魔化された気がする。

 周りを見ると、どうやらこの手の仕事は色々な冒険者が請けているらしく、明らかに貧弱な体格の男女までもが混じっている。

 あれで本当に運べるのかよ、と思ったところで、今の俺も大して変わらない貧弱っぷりを思い出す。

 そりゃあ曖昧に笑われるわな。

 監督の号令の下、班編成がなされる。俺達のような駆け出し冒険者と思われる貧弱班は、作業員の一人を伴って石切り場へと赴くことになった。

 出発まで少し時間があるようだ。それまでに自己紹介でもしていろ、とのこと。どうしようか。

 などと思っていると、


「なぁなぁ、お前もこの依頼請けたんだよな?」


 少し離れた場所にいた少年が、こちらに歩み寄って話しかけてくる。馴れ馴れしさマックスだ。


「ああ。とりあえずの日銭を稼ごうと思って」


 無視する必要も無いので適当に話をあわせる。


「女の子一人だけって何かと物騒だろ? 俺達と一緒にこなさないか?」


 俺達? 複数形なのが気になり、少年が来た方を見る。するとそこには、やはり同年代に見える男女が合わせて三名。

 恐らく四人でパーティーを組んでいるのだろう。

 断る理由も無い。仕事さえすれば依頼は達成されるんだ。仮にこいつらが逃げ出したところで、俺自身がやり遂げれば問題ない。


「別にいいぜ。よろしくな」


 口の端を吊り上げて手を差し出す。

 なぜか少年は顔を赤くし、おずおずと手を握り返してくる。

 何だこいつ気持ち悪いな。

 少年と連れ立って三人組の方へ行く。

 一応誘われた側だ。こちらから名乗っておくか。


「藤堂雪、呪い士だ。今回、こちらにお邪魔させてもらうことになった。よろしくな」

「おっと、名乗ってなかったな。俺はカルロス。一週間ほど前に冒険者になったんだ」

「こいつの友人のマディです。カールは戦士。僕は魔術師をやってます」

「私はミリア。カルロスと同じで戦士よ。まぁ、武器が剣か槍かの違いはあるけど」

「あの、ライネです。弓を使います。よ、よろしくお願いします」


 最初に接触してきたカルロスという少年は戦士。革の鎧に小手と脚絆。ショートソードを腰に提げている。背中にはラウンドシールド。恐らく盾役なんだろう。血気盛んな顔つきはいかにもリーダーらしく、年相応の無謀さを持っている。

 その友人のマディという少年は魔術師と名乗った。役職に相応しく、麻のローブを着用している。落ち着いた雰囲気で、カルロスの暴走を抑える役割でも持っているのだろう。

 ミリアも戦士。こちらは長い槍を背負っている。スピード重視なのか、カルロスよりも鎧の面積は少ない。胸を守るレザープレートだけのようだ。生意気そうな女で、赤く短い髪を苛立たしげに抑え、カルロスを睨んでいる。

 ライネは弓使い。気弱そうに眉根を寄せた少女ではあるが目つきは鋭く、青いポニーテールを風に揺らしている様が大人びて見える。


「カルロス。こんな依頼じゃなくて、もっと実入りの良い依頼だってあったでしょ? なんでこんな地味な作業をしなきゃならないのよ」


 ミリアが随分と食って掛かっている。上昇志向が激しいのか、派手な世界を夢見ているのか。お近づきになりたくないタイプだ。


「ミリア、僕らの装備はまだ完璧じゃないだろう? 君の槍だって、最初の戦闘で痛んだままじゃないか」


 そんなミリアを宥めるマディ。カルロスは横で頷いている。何も考えてないんじゃないかこいつ。


「仲間の装備は大事だからな。戦闘中に壊れたら死んじまうかもしれないんだぞ。そんな危険は冒せない。武器が直ったらまた討伐依頼に行こうぜ!」


 意外と考えていた……ように見えたが、ミリアに見えない位置で、マディに確認を取っていることから、恐らく吹き込まれていたのだろう。


「う、分かってるわよ! アンタがそこまで言うなら、ちょっとは我慢してあげるわ」


 はいはい、イチャイチャは他所でやってくれ。

 口に出すといらない火の粉が飛んできそうなので、おくびにも出さないが、心の中で呪うくらいは良いよな? リア充爆発とか生温い、溶けろ。

 横を見ると、ライネも似たような呆れ顔だった。

 お互いに見合って苦笑する。苦労人なんだな、この人は。


「ところでユキさん。そちらの小さな女の子は?」

「ああ、妖精のティトだ。色々やってくれるから助かってる。俺自身は大して強くないしな」


 そういってティトを紹介する。

 あれ、何だか急に空気が凍ったぞ。


「……一人称……俺って……」

「……確かに……は無いけど……」

「それよりも……妖精憑き……」

「……えと……皆……」


 目の前で内緒話されると若干鬱陶しいな。

 しかし一体どうして。


「ユキ様。妖精憑きの説明をお忘れですか?」

「え? ……あ、ああああぁぁあ!?」


 思い出した。妖精憑きってド変態に対する蔑称じゃねえか!


「趣味は人それぞれですから」

「そうね。それに妖精憑きなら安心だわ」

「あの、あの、大丈夫です、私は味方ですから!」

「そんなことよりさっさと現場に行こうぜ?」

「やめて! 変なフォローしないで!」


 遠巻きに後ずさる彼らを追いかけ、作業員と一緒に石切り場へと向かう。

 さすがに依頼が始まれば、駆け出しといえどプロ意識が働くのか、互いの戦力調査を持ちかけてきた。


「ユキさんは呪い士とのことですが、どのくらいの呪いが使えるんですか?」


 マディが尋ねてくる。俺としてはイメージできる範囲でならある程度はこなせると思う。ただ、他者強化はどこまでできるのやら。その辺は素直に伝えることにする。


「基本ソロだからなぁ。自己強化には自信あるけど、他人を強化したことがない」

「あら、妖精は強化しないのかしら?」


 少し前を歩いているミリアが振り向きざまに聞いてくる。


「しなくても強いからな」

「そうですね。妖精は、人知の及ばない強力な魔力を持っているわけですし、肉体強化をかけるまでもないんでしょう」


 勝手に誤解してくれたようだ。中途半端に知識のあるインテリキャラとして認識するぞ、マディ。


「そ、それに、妖精憑きであれば、本人も妖精の加護の効果を受けるそうですし! 普段から自己強化をかけているようなものだそうですし!」


 何で声が上ずってるんだ。中途半端にエロ知識のあるムッツリキャラとして認識するぞ、マディ。

 コホン、と一つ咳払い。気を取り直したマディが俺に話しかけてくる。


「ではすみませんが、僕を実験台に強化の呪いをかけていただけませんか?」

「いいのか?」

「ええ。第一、僕は今回役立たずだと思って来ていますからね。強化で仕事が手伝えるならそれに越したことはありません」


 なるほど、魔術師だもんな。肉体労働は苦手なのだろう。

 だったらお言葉に甘えて実験台にさせてもらうとしよう。


「じゃあ早速」


 そしてイメージを固めていく。先ほどティトは筋力と持久力を強化すればいいと言っていた。ならば、その二つの働きを強化できるように、魔素で筋肉を膨らませていく。

 あまりやりすぎてマッチョにするのも嫌だし、程ほどのところで止めておく。


「……凄いですね。僕の体とは思えない。これが呪いの強化ですか」

「いや、それは、どうだろう……」


 後で聞いた話だと、魔素の動きを筋肉の動きに追従させて、動作を補助するのが正式な呪いのイメージらしい。さらに言うなら、あまり強化しすぎると、筋肉が魔素でぼろぼろになるとか。

 そんなの知らなかったから仕方ないよね。見た目にはほとんど変わってないし、結果が同じならどっちでもいいよね。

 あまり長いこと補助をかけているのも体に悪かろうということで、くっつけた魔素を散らしていく。

 補助がなくなったことで、マディの体は元に戻ったはずだが、どうにも興奮冷めやらないようだ。


「呪い士って凄いんですね!」


 輝く笑顔が胸に痛い。

 やめて、そんな純粋な笑顔で俺を見ないで。

 妖精憑きのイメージが払拭されたようで何よりだけども!

 俺本当は呪い士じゃないんだよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ