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第1話 不登校VTuber爆誕!え、スパチャ禁止!?

※本作は全44話、完結まで執筆済みです。

毎日18時に更新予定です。

挿絵(By みてみん)


「はあ…本当にやるのか、私」


 古い賃貸マンションの4階。

 カーテンのすき間から、午後の光が細い線になって床に落ちている。


 不登 校子ふとう・きょうこは、自室のパソコンの前に座って、大きなフーディーの袖を両手で握りしめていた。


 前髪が目にかかり、表情を隠すように自然に落ちている。鏡に映る自分は、いつも通り「地味で目立たない」。それでいいと思っていた。

 現時点のステータス、14歳。中学2年生。不登校は…3ヶ月目。

 名前の時点で人生ハードモードが確定している。

 両親が離婚する前は、まともな名字だったので問題なかったのだが…


 出席を取るたびに先生が二度見するし、クラスメイトには「運命じゃん」とか言われるし…まあ、そのへんはいろいろあって。


 今は、行ってない。


 今朝もアラームは鳴ってたけど止めたし、制服も見ないようにした。カーテンも開けてない。朝八時に布団の中で「今日も欠席します」と心の中で言う習慣が、いつの間にかついた。


 不登校子、ただいま登校拒否中。

 我ながら、出来すぎた話だと思う。

 それで成立する朝って、どうなんだろうとは思うけど。

 でも今日は違う。

 今日は、やることがある。

 机の上には、昨日の夜から準備してきたものが並んでいる。

 マイク。ウェブカメラ。タッチペンとタブレット。

 モニターには、配信の待機画面と—2Dアバター。

 Vtuber名は、宵闇よいやみユラ。


 肩までのストレート銀髪。

 右が深紅、左が金のオッドアイ。

 白と黒だけで構成されたゴシック調ドレス。レース、リボン、羽根。やたら情報量が多い。


 現実の私とは、真逆。

 パーカーで体を隠して、前髪で顔を隠してる私とは。

「…別人」

 小さく呟く。

 でも、それがいい。

 これは“私”じゃない。

 だからできる。


 設定はこうだ。

 —異世界から転生してきた元魔法使い。

 —この世界では魔法は使えない。

 —どうやら“教育”という名の呪いが、力を封じているらしい

 —力を取り戻すためには、“勉強”という修行を積んでスキルを解放しなければならない。


「……厨二すぎる」

 自分で言って、少し笑う。

 でも、嫌いじゃない。


 異世界に行ったら学校がなかった、じゃない。

 現代に来たら学校があった。

 その方がよっぽどホラーだと思う。


「……よし」

 深呼吸を三回した。

 それでも心臓は落ち着かない。

 カーソルを、配信開始ボタンに合わせる。

 一瞬だけ止まる。

「…ほんとに、やるの? これ」

 誰に聞かせるでもなく呟く。


 学校から配布された端末を使ったeラーニングだけでは、部屋の時間が長すぎた。

 でも、生身の自分のままで不特定多数とつながるのは抵抗があったので…

 Vtuberを始めてみることにした。


 今までに貯めてきた小遣いやお年玉やらをほとんどアバターと機材につぎ込んでしまったが、後悔はない…はず。

 でも、配信ボタンを押すのは、想像以上に怖かった。

 指が震える。

「……やる」


 クリック。

 画面の中で、銀髪の少女がゆっくり瞬きをした。

 右目は深紅、左目は金色。

 白い肌は月光のように淡く、黒レースのハイネックとコルセットが静かに光を吸い込む。

 ミュートを外す。

「—ごきげんよう、皆様」

 少しだけ、声を作る。

「ワテクシは…宵闇ユラと、申します」


 画面の中のユラが、口を動かす。

 それだけで、少し楽になる。


 声は震えていた。

 でも、アバターは堂々として見える。

 そのギャップに少しだけ救われた。


 配信は、静かに始まった。

 最初の数秒は、無音。

 コメントも、ゼロ。

 完全な砂漠。


「……ほんとに誰もいないじゃん」

 思わず笑う。

 まあ、そうだよね。と思う。


 深呼吸。


「ワテクシは異世界から転生してきた元・大魔法使い……のはずなのですが」

 一拍置く。

「この世界では魔法が使えないようでして。どうやら“教育”という名の呪いが、ワテクシの力を封じているようなのですわ」

 小さく肩をすくめる。

「力を取り戻すには…」

「“勉強”という修行を積んでスキルを解放しなければなりません」

 一瞬の沈黙。

 そして。

 チャット画面にコメント表示。

《草》

《設定いいな》

《ユラ可愛い》

 

「……え、来た」


《アバターのママは?》


「あ、え〜と。それはおいおいということで…」

 さらに一行。


おーるど★すたぁ《初配信おめでとう。君ならできる》


「えっ、誰!?」

 思わず素が出る。

「いや初対面で“君ならできる”は距離感おかしくない!?」

 画面にツッコむ。


おーるど★すたぁ《ユラ殿!ユラ殿と呼ばせていただきますぞ!》


「…クセ強」

 ちょっと笑う。

 緊張が、少しだけほどける。

「えー……ユラ殿でも、なんでも構いませんわ」

 咳払い。

「本日は—修行の様子をお見せいたします」

 一瞬の間。

「……つまり、勉強です」


《正直》

《草》

おーるど★すたぁ《ユラ殿!ファイトですぞ!》


 コメントが三つ。

 たったそれだけなのに、空気が変わる。

 ゼロじゃない。

(あ、これ)

(ひとりで勉強するより、ちょっとだけ楽かも?)


「では、本日の修行は—」

 画面を切り替える。

 eラーニング。数学。

「一次関数です」

 一瞬で現実に引き戻される。

「数学は嫌いじゃないんで…」


 淡々と問題を解いていく。

 学校の授業が今どの単元をやっているか分からないが、2年生後半の内容まで先に進んでいる。


「次は…ちょっと苦手な…国語」 

「漢文です」

「この世界の言語は難しいですわ…」


 学校に行ってた時は、正直よく分からなかったところがあったので、eラーニングでは1年生の後半からやり直している。


「できましたわ!」

「…あ」

「その、チャンネル登録などしていただけると、ワテクシ大変励みになります」

「あと…できればスパチャを…」

 そのとき。


501《スパチャはやめておけ》

501《学校に学習活動として説明するなら、収益化は障害になる可能性がある》


「…はい?」

 名前を見る。

 —501

 番号。

 意味不明。

 コメントはさらに続いた。


501《そのやり方だと失敗する》

501《再現性がない》

501《記録がない》


「…は?」

 空気が、少しだけ変わる。

 三連投。全部、結論だけ。

 説明ゼロ。

 でも—妙に引っかかる。

「…なんで失敗するの」


 自然に言葉が出る。

 返事はない。

 沈黙。


おーるど★すたぁ《続けて》


「…どっちだよ」

 思わず笑う。

 でも、その一言で。

 少しだけ空気が戻る。


「…まあいいや」

 ペンを持つ。

「魔法は使えませんので…」

 ユラの声に戻す。

「地道に参りますわ」

 ペン先がタブレットに触れる。

 次の問題の回答を書く。

 配信は、そのまま続いた。


 問題を解いて、少し雑談して、コメントにツッコんで。笑って。

 でも。

 頭のどこかに、ずっと残っている。

 “再現性がない”

 “記録がない”


 一時間後。

「今日は、ここまでにいたします。ご視聴ありがとうございました」


おーるど★すたぁ《初配信やり遂げましたな!ユラ殿!》

《おつかれ〜》

501《記録をつけろ》 


「記録って…なんで?」

501《この配信は、“学習活動”になる》

「学習活動?あの〜もうちょっとわかりやすく説明してもらえると…」

501《DMでやり取りできるか?》

「あ…はい」

501《では後ほどメッセージを送る》

「はあ…」


「あ、すみません!それでは、皆様ご視聴ありがとうございました。ごきげんよう」

 配信を切る。

 最大同時視聴者、5人。

 ヘッドホンを外す。

 椅子にもたれて、天井をみあげた。

「やった…やれた…」

 初配信。思い返すと、まだ少し心臓がバクバクする。

 少し落ち着いてから、部屋を見回す。

 いつもの部屋。 

 部屋の隅には、作りかけのコスプレ衣装。

 クオリティは高いと自分でも思うけど、自分では絶対に着られない服。

 でも、それを作ってる時間だけは、外のことを忘れられた。


 外が少し騒がしくなってきた。下校の時間だ。

 立ち上がって、カーテンを三センチだけ開ける。

 制服の集団が見えた。笑い声。

 三秒ほど眺めて、カーテンを閉める。


 通知あり。

【DM】送信者:501

501:

君はおそらく、登校していないのだろう。

このままでは詰む。

記録を残せ。

学習内容。 時間。 使用教材。

継続しろ。

君のeラーニングや配信活動は条件を満たせば、出席扱いにつながる。


「…意味わかんない」

 でも。

 少しだけ思う。

 もしこれが、“攻略情報”だとしたら。

 このルートは、まだ終わってないのかもしれない。

 なら——

「…やるか」

 ノートを引き寄せる。

 日付を書く。

 時間を書く。

 やった内容を書く。

 ぎこちない文字。

 だけど、

 それは、はじめての—

 “記録”だった。


〈ステータス〉

_________________________________


名前:不登校子ふとう・きょうこ

状態:不登校(教育制度に未接続)


【五教科】※経験値取得不可

 英語 Lv.中2 ■□□□□□

 数学 Lv.中2 ■■□□□□

 国語 Lv.中1 ■■■■□□

 理科 Lv.中2 ■■□□□□

 社会 Lv.中2 ■□□□□□


【副教科】※経験値取得不可

 音楽 / 美術 / 技術・家庭 / 保健・体育


【総合的な学習】※経験値取得不可


【スキル】※取得不可

 (現在解放されているスキルはありません)


_________________________________

お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら、ブクマ、評価や感想をいただけると今後の執筆の励みになります。

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