冒険者ギルドにて~事件の始末。そして……~
早朝のギルド長の部屋に、縛られたジャンさんと仲間らしき二人の男が転がされている。この二人も冒険者だろう。ギルドで見た覚えがある。
「こいつらがギルドの商品を横流ししていたってことか」
壮年のギルド長が苦い顔をして彼らを見下ろした。
彼らを囲んでいるのは、私の上司であるギルド長とスティーグさん、私。
そしてもう一人、騎士団の制服を着た男性がいる。さっきギルド長が敬語を使っていたので、きっと偉い人なんだろう。
今回、スティーグさんが調査していた事件の真相は、ほぼあの時の予想通りだった。
解体場から提出された報告書をこっそり書き換えていたのは、マチルダ先輩だった。
そうしてくすねた魔獣素材をジャンさんに渡し、ジャンさんはその素材を工房街で売り払っていたそうだ。
あの日、ジャンさんはマチルダ先輩から素材を受け取るはずが、「今日は仕事が忙しくて遅くなるから」と断られていたらしい。それで私と間違えたのだと。
もちろん、あの日もマチルダ先輩は残業なんてしていない。きっと他の上級冒険者とデートでもしていたんだろうな……
この事件の始末として、ジャンさんとその仲間たち、そしてマチルダ先輩は、資格も仕事も剥奪されて、労役を課せられることになるそうだ。
ジャンさんたちの所持品と、念の為にと私の荷物を確認していた騎士団の部下の人が、何かを見つけたらしく険しい顔でこちらへやってきた。
騎士団のお偉いさんとギルド長が、部下の人が持ってきた物を確認する。ギルド長の目が吊り上がり、今度は私の方を睨みつけた。
「フリーダ。どうしてお前がこんな物をもっているんだ?」
ギルド長が見せたのは、いつだかに拾ったあの魔獣の鱗だった。
「これは、先日ギルドの裏で拾って…… あっ!」
そこまで自分で言って気が付いた。ギルドの裏に落ちていたことは、もしかしたらその横流しされていたギルドの素材の一部かもしれないじゃない。
今回の事件に私は全く関与していない。でももしその鱗がその横流し品の一つだったら、私には私の潔白を証明する術はない。
「ギルドの裏だと? そんな所に竜の鱗が落ちているわけがないだろう」
「でも…… 本当に、私は拾っただけなんです……」
これ以上何も言えなくて、ぎゅっと口を結んだ。
「なるほど……」
横から鱗をじっと見ていたスティーグさんは、ふいっと私の方を向いた。
「これは本当に拾ったものだな。フリーダ。いつもやっているようにその鱗をよく見てみろ。君にならわかるだろう?」
「え?」
それは…… 拾ったあの日にもやってみている。でもどんな魔獣の鱗なのかまではわからなかった。
でもスティーグさんがそう言うんだし…… 戸惑いながらも、言われた通りに鱗をじっと見つめてみる。いつもそうして魔獣の素材を見る時のように、鱗の前に半透明の文字が浮かんできた。
あ…… あれ?
「え……? でもこれ……」
今度はその鱗の主の名前の部分がちゃんと文字になっている。でも、どういうことだろう。なんでこれが……?
「いいから、いま分かったことを言うんだ。それは当たっている」
スティーグさんが私を後押しするように言った。
思い切って口を開く。
「こ、これは…… スティーグさんの……鱗、です……」
「え?」
今度は私を責めていたギルド長が、呆気にとられたような顔になった。
「その通り。それは俺の鱗だ」
そう言いながら、スティーグさんは、自分の腕装備を外し、袖をまくる。私たちの前に差し出された腕は、普通の人間の腕に見える。
と、不意にその腕が光り、魔力の靄が絡みつく。
次の瞬間、その腕は硬そうな鱗にびっしりと覆われた竜の腕になっていた。
「俺は竜人だ」
「「ええっ!?」」
その告白に、今度は私とギルド長が驚きの声をあげた。
竜の角や尾や翼を持つ竜人たちは、殆ど自分の国から出てこないのだそうだ。
その竜人たちをまとめあげている竜の王は聖獣の血を引き、神から与えられた力を使えるのだと、図書館の本には書かれていた。
「し、しかし…… ギルドカードには、人間と書いてあっただろう?」
「ああ、本来なら竜人が人間の国にいるだけで目立ってしまう。だから隠してもらった」
スティーグさんは、実はこの横流し事件の調査の為にこのギルドへ来たのだそうだ。
「鱗はこのギルド周辺を調べた時に落としたんだろう。この調査自体は国からの依頼だ。色々と縁があって、俺の親父がこの国の先王とかなり親しいらしい。この件の調査をするに当たって、鑑定のスキルを持つ者の手が欲しいと言われて、それで俺に話が来た」
「ふーーん……? って、スティーグさんって鑑定スキル、使えるんですか!?」
「ああ、竜人の王族は神から与えられた力を使えるからな。鑑定スキルも持っている」
「え? お……う……ぞく?」
驚きすぎて、次の言葉が継げなくなった。
でもそうか、すとんと腑に落ちた。
彼の異国風の服のことも。強い魔獣たちを狩る実力がありながら、冒険者初心者だったことも。貴族でないと使えないような高価な魔道具を持っていたことも。
* * *
さすがに今日は仕事を休むようにと言われ、部屋への帰り道はスティーグさんが送ってくれることになった。
というか、今日はギルドを臨時休業にするらしい。
「スティーグさん、色々とありがとうございました。助かりました」
深々と頭を下げる。スティーグさんには本当に助けてもらってばかりだ。
攫われた時には助けてもらったし、疑いも晴らしてもらったし。
「君には調査の協力をしてもらったからな。礼を言うなら俺の方だろう」
そんな風に言われるようなことを、私はしていない。私は好きな魔獣の素材を見て、はしゃいでいただけだったし……
「そういえば、君のあの能力はやっぱり鑑定スキルだと思うんだが」
少し声量を落としてスティーグさんが言った。彼には私がじっと素材を見ていた理由もばれていたらしい。
「でも鑑定スキルって、教会の上位神官様しか使えないんですよね」
鑑定とは神から授かる力の一つなのだそうだ。
なので、本来ならば普通の人間には使えない。冒険者ギルドでは、上位神官様が作った特別な魔道具を使うことで、魔獣の素材を鑑定することができている。
「ああ、おそらく君の血族のどこかに神官の血が入っていて、偶然君に鑑定スキルが目覚めたんじゃないかな? だからスキルが完全ではないんだろう。おそらく鑑定対象に条件がつく」
「条件、ですか?」
「君が強く興味を持つものにしか使えないようだ」
「なるほど、だから魔獣相手にだけで、人のことを見ようとしてもわからなかったんですね」
今までの私は、誰かに興味なんて持たなかったもんな。
「フリーダは本当に魔獣にしか興味がないんだな」
スティーグさんは苦笑いをした。
「なあ、試しに俺のことを鑑定してみないか?」
「え? なんで、ですか……」
「俺の正体が、見えてくれたら嬉しいんだけどな」
しばらく、彼が何を言っているのか理解できなかった。そのことに気付いたのは、彼が気まずそうに逸らせた顔が少し赤いことに、気付いた時だった。
「そ…… それは……」
私が鑑定できる相手は、私が強く興味を持つものだと…… だから……
「た、多分……見えますよ…… 見て、良いんですか?」
「君が、俺に興味を持ってくれていたら嬉しい」
多分、私の顔はとても赤い。スティーグさんにはそれを見られたくない。顔を覆う指の隙間から、こっそりスティーグさんを見つめる。
まだ恥ずかしそうなスティーグさんの前に、半透明の文字が浮かんで見えた。
そして彼の後ろで竜の翼が広がっていく。それは幼い頃に見た、あの竜と同じ翼だった。
お読みくださりありがとうございます!
そして、この話はひとまずここで完結となります♪
まあ、もちろんですが、この二人にはこの後も色々と(色々と)あるわけなんですけどね~
スティーグくんは、『身分が高い』ので、その身分でモテてしまっている子です。(イケメンでもありはするんですけどね)
なんでまぁ、フリーダが魔獣にしか興味ないところとか、彼女の反応とか、そういったものが新鮮なんですよね。
でもって、フリーダは普通の男性に興味がわかないだろうと思うので、ある意味ベストカップルかもしれません(それでいいのか?)
この話自体は、『ケモ耳っ娘になったからには~』の後日談の一つでもあったりします。
っても、ケモモフ知らなくても読める話になっておりますが。
スティーグは古龍んとこの長男になります。爺様に鍛えられてるので、普通に強いです(笑)
もし興味ありましたら、そちらも読んでいただけると嬉しいですー
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