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命導の鴉  作者: isaka+
第四章 星天燃ゆる雪の都

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第五章 双極輪廻のレクイエム / 序幕 「眼下に広がる世界」 三

 ビセンテは光球に揺られながら、石柱内を軟体魔孔を進む。目的地であるラグランジュの核は地下深くにあるため、進むと言っても実質はほぼ下降し続ける道のりであった。


 光球に包まれて移動を開始してから五分程度が経った頃、下降を続けていたビセンテは直径二十メートル程度の広さがある球体状のホールに入る。


 ホールには、球体を上下に半分割するように透明なガラスの床があり、光球はその床の中心にゆっくりとビセンテを着地させると音もなく静かに消失した。


 透明度が極めて高いガラスの床は、そこに立つ者を、まるで球体状のホール中央に浮かばせているかのように錯覚させる。ホールの中は明かりが灯されており、それなりに明るかったが、壁面が全て真っ黒であるために若干の息苦しさを感じさせた。


 ホールに降り立ったビセンテは、中心部を円形に取り囲むように置かれた計器類の一つを黙々と操作する人物に歩み寄る。


「ヒタリ、準備の方はどうだ?」


 ヒタリと呼ばれた女性はビセンテの声にビクッと肩を揺らしてから振り返る。ヒタリは先日、ユフムダルで司祭のインサに化けてウィルマに剣を届けた人物であった。


「なんだ、ビセンテか。ビックリさせないでよ」


「ああ、悪い。驚かせるつもりはなかったんだが、そこまで集中しているとは思わなかった」


 ビセンテがそう言うと、ヒタリは気持ちを落ち着けるように胸を一度撫で下ろす。それから神妙な面持ちでモニターに視線を向けて、手元のキーボードを叩いた。


 ヒタリの目の前にあるモニターには呪文のように様々な演算結果が数字の羅列として表示される。


「ラグランジュは問題ないかな。いつでも動かせると思う。ただ例の件は思ったより難易度が高いよ」


 モニターの数値を見たビセンテが苦い表情をした。


「予定よりだいぶ小さいな」


「うん。でもこれ以上の大きさは無理。バランスが崩れてラグランジュがひっくり返っちゃうから」


「確かにギリギリか・・・。やむを得まい、これでいこう。予定より小さいとはいえ、目下の課題だったセロロミゼへの対策も目処がついたし、なんとかなるだろう」


「え?そうなの?」


 驚いた様子で首を傾げるヒタリに、ビセンテが深く頷く。


「さっきリアスと話をしてな。・・・ジゼルをあてがうことになった」


「へぇー、意外。リアスがそう言うなんて」


「だが、妥当な決断だ」


「まぁそうだね。じゃあこの件は、このサイズで進めることで『青衛』に作業をさせるよ」


「ああ、頼む。・・・ヒタリ、全方位天球モニタをつけるぞ。どうにも黒一色の部屋は息苦しくて落ち着かない」


「えー、この暗い感じの方が集中できるのに」


 口を尖らせるヒタリをよそにビセンテが機械を操作すると、にわかにホールの壁面全体が白く発光し、続いて一面に広大な空の鮮やかな青が映し出された。


「綺麗な空だな」


「いや、超まぶしいんですけど」


 ヒタリが目を細めながら眉間に皺を寄せる中、ビセンテはフッと笑みを浮かべてから壁面に映し出された空を眺める。 


 透明な床を通して、球体状のホール下方に目を向ければ、純白の積雲が優雅に風に流されており、その雲の合間からは雪化粧によって白く染まった一際高い山の頂上が見えた。


 その雄々しくそびえる山はゼラモリーザ。


 そう、ビセンテたちが今いるのは、ゼラモリーザの直上に浮遊する、アリオンたちが天島と呼んで崇める島の中枢であったのだ。


 ふと、その山の頂上が小さく煌めく。


「ん?ゼラモリーザから軌道エレベータで誰か上がってくるみたいだが、誰だ?」


「多分カーリヴィンだよ。さっきホゾの道に入ったって通知があったから」


「そうか。滅多に帰ってこないカーリヴィンも来たか。皆、大いなる意思の下、着々とラグランジュに参集しているようだな」


 ビセンテがメガネの縁を持ち上げてそう言うと、ヒタリが目を伏せながら頷く。


「今回は一大決戦だからね。流石にすっぽかす奴はいないと思うよ。でも正直、怖いよ。・・・多分みんな生き残れないだろうから」


「言うなヒタリ。アリオン共が翼を手に入れた以上、ラグランジュの優位性は失われたも同然だからな。苦しいがもうやるしかない」


「うん。分かってる。・・・分かってはいるけど、辛いね」


 弱々しい声で絞り出すように呟くヒタリを見て、ビセンテが優しく微笑む。


「だからこそ、みんなのために出来ることは全てやっておかないとな」


 ビセンテはモニタ上に弧を描いて映る星の地平線を力強い眼差しで見つめて、大きく息を吐いた。

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