3と7
分からない、何故だ、どうなっている
何故我らが3人の子供に負けているのだ
違う、正確には1人の少年…いや、少年と言うにはあまりにも強大すぎる!
雑兵とはいえこちらは14名の兵を連れて計画に支障をきたさぬよう近場にいる冒険者を片っ端から追い払う、それが出来なくば始末するよう位持ちからの命を受けていたのにも関わらずこの現状はなんだ……
相手は4名、しかもその内の1名のエルフの女は戦闘に参加せず傍観をしていた
「さて、お前らにはちょっとした借りが個人的にあるが…それは置いとく。ここで何してんだ?」
二回りも年が離れているであろう赤髪の大剣を携えた少年に見下されている。
「あら?バル。あなた今なんと?」
「なんでもねーよ。ほら、とっとと吐け」
躊躇いのない脅しとして大剣が首筋が掠りそうなほど近くの地面に刺さった。
「誰が言うものか…それに知ったとてお前らのような子供にはどうしようもないことだ」
「そうかよ。じゃあ次のやつに聞くか」
そう言い捨てて赤毛の少年は別の兵士の元へ今と同じ事を行う。
だがもう1人の品格の高い金髪の少女がこちらへ来て屈むとこう囁いた。
「私は彼ほど甘くはありません。質問を4回致しますので応えてください」
「4回だと?」
「ええ。黙秘を選ぶ度に手か足の自由を頂きます」
身の毛もよだつような冷気が全身を襲った。
二回りも年が離れているであろう少女が放つ事の出来る殺気ではない。
「1つ、まずあなた方がどの様な理由で鎖国中のアヴェダレオからアヅラタンまでいらっしゃったのですか?」
葛藤していた。
答えることは容易だ。
先も行った通り、知った所でこの目的を止めることが出来るのはそれこそSランク冒険者のトップが最低でも5名以上は必要。
そんな人材が今この場にいるかどうかも分からない。
「…この山の地下に現れる爆ぜる火山龍を捕獲するためだ」
どうせ止められるわけがない、白状した。
「虚偽を述べた場合でも同様、と言うのを忘れていました。今回は許しますが次は…」
「本当だ。疑うなら実際に地下に行ってみればいい」
「そうですか。にわかに信じがたい事ですが…」
しかし何故そんな事を?
それにあのクラスの魔獣など飼いならすことは不可能ですし、兵力にするにしても制御出来るとは到底考えられない…
そもそも爆ぜる火山龍はSランクの中でも間違いなく5本指に入る圧倒的な力を誇る最強の炎の魔獣
仮にSSランクが新設されたなら満場一致で昇格は容易いほど…
ならばそれらを踏まえて
「では2つ目」
「っ!まだあるのか!?」
「聴きたいことは山程。どの様にして目的を遂行させるおつもりですか?」
「それは分からない…俺達雑兵はあくまで露払い。根幹はより上の連中が成すとしか聴いていない」
「3つ目。上の連中とは何を、そして誰を指しているのですか」
「…位持ち」
想定外の言葉に体が一瞬硬直する。
位持ち
その言葉をまさかアヴェダレオから遠く離れているこの国で耳にするとは思わなかった。
「若いお前らでも聞いたことあるだろう?魔王様が直々に手合せして認められた7人の事だ。数字が若いほど魔王様からの評価が高い、今回はその3と7がこの地に来ている」
一番数字が高い位持ちの7でも単騎で一国の殲滅が行えるとかつて父の友人である某国の近衛隊長が話していた記憶がある。
自体は想像より深く、厄介なことに、何より危険度が高い。
「…ご協力感謝致します」
少女は立ち上がり兵に一礼し背中を見せた。
生殺与奪を握っていたのにも関わらず敵である自分に感謝の意を見せた事に驚く。
「あぁそう。まだ1つ質問が残っていました」
少女は振り向いてこう訪ねた。
「もし位持ちが上から下まで全部振られていたのなら、あなたはどのくらいなのですか?」
その質問に兵はこう答えてやったのさ
「心は27番だ」
こうして俺は右腕に深い傷を追うことになった
先程のアヴェダレオとの戦闘を終えたバル達は情報の共有を行った後、仲間との合流とアヴェダレオの計画の情報収集を目的としてベリダバ山の中を引き続き歩くことにした。
「しっかしバルっちバリ強いねー。ウチめちゃビビったわー!」
緊迫した雰囲気に合わないような口調でマイカはバルを褒めた。
「確かに。アタシと学校で試合した時より何倍も強そうだった」
「どこの世界に妹に本気でぶつかるバカがいるんだよ」
「はァ!?」
「落ち着きなさいカルフェ」
突っかかろうとしたカルフェをシャルロッテが諌める。
「先程の戦いを見るにあなたがこんなにも輝いているのは今の環境だからこそ、という訳かしら」
「少なくともジャルザンにいた時よりかはな。俺ぁは清流より泥水、ペットより獣の方が生きやすい」
「…そうだったわね」
少し歩みを早めてバルの前にカルフェが立つ。
「久しぶりにあなたのナカにいる獣に会えたわ。あの時みたいに…ね?」
そういいながらバルの腹部から胸にかけて艶めかしく指でなぞる。
「何度も言ったわ。飼い殺しはあなたには似合わない、でも私はあなたに獣として生きてほしくない、だからあなたは私の下に戻るべき。あなたのことは私がこの世界で一番理解しているの。私ならあなたを一番輝かせることが出来る。私も、あなたと一緒ならより輝いて生きていられる」
「確かにこの世界で俺の事を理解出来るとしたらお前しかいないだろうな」
「そうよ。だから……」
「でも違う世界の奴ならどうだ?」
バルはシャルロッテの指を払った。
「…は?」
「俺ぁ今の旅で結構満足してんだ。同じくらいの力のやつがいる、くだらないことで笑うしたまに肝が冷えることもある。死にかけることだってあった。だけどそれが何より心地良い」
「そんな戯言…」
「じゃねえよ」
シャルロッテを壁際に詰めて顔の横に右手をつき視線を他に行かないようにする。
「ちょっとバカアニキ!あんたシャルロッテ様になんて態度を!!」
自分が敬愛する人間に対して不遜な態度を取った兄に腹立ちポイントがMAXに達したカルフェが声を荒げた。
「たった数回俺と戦りあっただけで俺の全部が分かるわけねえだろ。お高くとまってるだけじゃ見えねえ事だってあるんだぜ」
シャルロッテの額を人差し指で軽く弾いてバルは離れた。
「ごめんなさいシャルロッテ様。バカアニキにはキツく言っとき…シャルロッテ様?」
凛々しく、強者としての振る舞いを常に一般生徒を魅せ続けていたシャルロッテの見たこともない恍惚とした表情。
(バル…だいしゅきぃ……!)
それはまるで恋をする乙女…
(堪らない…あの自身に満ち溢れた顔をブチ壊したい…あの時みたいに獣になってお互い貪り合いたい…生死感じる緊張感を感じながら何度も何度も戦りあいたい……そして私だけを見るように徹底的に調教して私だけのバルにしたい…あぁ、あなたは何故こんなにも私を欲望に正直にさせるのぉ……)
を通り越して欲を抑えきれない我が儘な魔女。
「シャルロッテ様…?」
「…!ごめんなさい。少し考え事をしていたわ」
「すっごいヘンな青春送ってんねーバルっちとシャルっち」
一連のやり取りをやや面白がりながら見ていたマイカがやや引きつった顔でバルを見ていた。
「もう関係ねえよ」
「身内は大事にしなー?ウチみたいに__」
首元に鋭いナニカを押し当てられた感覚、何の脈絡もなく。
「「「ッ…!?」」」
「ひゃぁっ!?」
突如、全身を襲った脅威の感覚に対してマイカは急ぎ前方確認、バルとシャルロッテはカルフェを守るように陣を組み、カルフェのみが腰を抜かして尻餅をついた。
(この魔力…かなりの上澄み!?)
「3人とも!今すぐ引き返す…」
「きゃあぁぁっ!!」
マイカの呼びかけと同時に女性の悲鳴が前方から響く。
誰よりも早く動いたのはバル。
それを追うようにシャルロッテも前に駆けた。
「シャルロッテ様ぁ!」
「あぁもう!言う事聞けし!!」
立ち上がってシャルロッテを追いかけたカルフェ、3人を連れ戻す為にマイカも走った。
対峙して2分、圧倒的に絶対的に暴力的に敗北を確信している。
「ボクはさぁ…ヒマってやつが大っ嫌いなんだよね」
「何をっ…」
少年と呼ぶには妙に大人びていて、大人と呼ぶには妙に純粋さがありとても気色悪い。
もう1人の仲間はこいつの手によって意識はあるものの立ち上がることは出来ない程、痛めつけられている。
「ミイナちゃん…かふっ、逃げて…くだ…さい…!」
「メルトが全員出てけって言うからさ。ヒマになっちゃって散歩がてら冒険者達と遊ぼうとしたのに…」
「お前と…遊んでいるつもりは…無いっ!」
「あっそ」
気色悪いヤツが右手を左へと振るうとそれに連動している見えない何かが短剣を構えている左腕にぶつかって飛ばされた後、今までのダメージの蓄積もあり立ち上がることが出来ずに地面に倒される。
「きゃあぁぁっ!!」
「ミイナちゃん!」
だめだ…このままだとソフィアもウチも…やられる……
「じゃあ次行こっかなぁ。あ、一応ボクの事見られてるから始末しとかないと怒られるか」
気怠そうに歩いて倒れているミイナの前に立って右腕を上げる。
腕が振り下ろされたら、きっとそれが終わりの合図。
なんでこんな所にアヴェダレオがいるんだよ…くそっ…
薄れゆく意識の中、後悔と無念だけが最後まで少女の中に残っていた。
姉さん…すみません……最後まで着いて行きたかったっす……
「【迅雷断裂】……」
不意に第三者の声が耳に入る。
「【瞬雷】!」
気力を振り絞り見上げるとそこに敵はおらず、消えかけの一筋の閃光が。
少し正面を見ると大剣を構えた赤髪の少年が自分達を庇うかのように立っていた。
「まったく…嬉しいねえ遊び相手が来てくれるのは。でも一言声が欲しかったかな」
そして赤髪の少年の更に向こう側に自分達を痛めつけていた敵が少し汚れた状態で立っている。
「おいおい。どう見ても悪そうなヤツが弱そうなヤツいじめてたら密告かどさくさに紛れて一発殴るが基本だろうが」
睨み合いが始まる中、少年の仲間であろう少女に抱えられる。
「カルフェ!そこで寝てる女ども連れて離れてろ!」
「やってる!」
「だめです…あの人はあまりにも強すぎます…」
倒れているソフィアを何処かの学校の制服らしき物を着た赤髪の少女が両腕で抱え上げる。
「あのバカは頑丈だからあんた達を逃す時間くらいなら稼いでくれる、大丈夫。もう1人のお仲間は…」
「問題ありません。彼女は私が」
同じ様にウチも金髪の女学生に抱きかかえられる。
「ちょっとちょっと、勝手に割って入ってきてどうこうするのやめてくれないかな?知らない人にそういう事されると腹立っちゃう…よっ!」
男の右足に接している地面が踏み込みによってひび割れるとミイナを抱えた金髪の女学生へと向かい走り出す。
「バル・ファナラ、通りすがりの冒険者。これでいいか?」
それを突然、横から投げられたであろう大剣が遮り急停止を余儀なくされる。
急ぎ大剣が飛んできた方向を向くとバルという少年の拳が迫っていた。
対応は出来ずに甘んじて一発顔面に受け入れよう。
「ッ…!」
どうやら彼も理解してしまったようだし。
「おぉ…効くねぇ。でもそんなんじゃダメだよ」
「とっとと離れろ!どんだけ時間稼げるか分かんねえ!!」
付き合いのあるシャルロッテとカルフェですら見たことのないバルの戦慄した顔。
その顔だけで敵対している人物が只者ではない事を知らせた。
「バルっちじゃ無理!こいつはウチじゃないと…!」
「俺ぁ回復魔法とか使えねえんだ…だから目の前の敵と戦う事しか出来ねえ。だから倒れてたやつも、シャルも、カルフェも、今の俺じゃ守れねぇ。多分アンタじゃなきゃ無理だ…だから、頼む」
多くの冒険者や戦士を見てきたマイカだからこそ分かる。
この手のタイプの子が素直に頭を下げる時はプライドや生き様を放棄して形振り構っていられない時。
「分かった…少し離れてあの子達の手当をしたらウチも戻ってくる。それまでは…死ぬな」
「…善処する」
苦し紛れの笑み、そしてマイカが後ろに去っていくのを感じながら敵に向き直る。
「優しいな。襲う隙なんていくらでもあったろ?」
「それやったらあのエルフと真っ向からやり合う事になるじゃん。それはゴメンだね」
衣服に着いていた砂埃を軽く払いながら言う。
「バルくんって言ったっけ?お名前教えてくれてありがとう。ボクはレオード・ウォールデン、アヴェダレオからわざわざやってきました、と。これでお友達かな?」
「そうだな。人を舐め腐った顔のヤツと関係を持つのは初めてなんでな。お手柔らかに頼まぁ」
「「あっはっはっはっは!!」」
【迅雷断裂】 【精神壁】
バルの創案魔法【エヌエス】の発動動作と同時に拳に雷を纏うとレオードの背後に落ちていた大剣がバルの手へと最速で戻り大剣に雷に呼応したマナが付着。
対するレオードは簡易的な詠唱のみ。
バルによって発せられた地を駆け出す音がその戦いの開演を告げた。




