世界の狭間のセイブツ
マリーナ・ツヴィラは主であるダディオの命でレクゥーリアという世界が生み出す秘宝を手にすべくリント・ヒナタ率いるギルド【昇る太陽】を近辺に出現した世界の狭間へと案内し、その中に存在する機械魔獣オルトノを倒さんと行動していた。
しかし過去の挑戦者の傾向からみてこのギルドはダメだろうと内心で決めつけなるべく負傷者が出ないように立ち回る予定でいた。
だがオルトノと交戦している少年はマリーナの想像をゆうに超える物で少なくとも対等に渡り合っているようにも見える。
的確に攻撃を躱し、いなし、自らの負傷を最低限に留めて隙を見つけては確実に自慢の拳をオルトノへと殴る。
「ありえません…」
このレベルの戦いでDランク冒険者…?
とてもDランク冒険者の15歳の少年だとは思えない。
この形態のオルトノと対等に戦えるのならBランク上位…いや、Aランクに属していたってなんら不思議ではない。
「しっかしまあ、うちのリーダー様って結構強ぇんだな」
自分の出番がないと悟ったアテラは大槌を楽に構えてぼそっと呟いた。
「ご存じなかったのですか?」
「ん?ああ。オレがココ入ってから強ぇ敵と戦ってねえからな。たまにアレタが話してくれるくれっけど実際ここまでやれるとは知らなかったぜ。つーか知ってんのスノウとアレタくらいだろ」
「失礼ですが…リント様のご年齢であそこまでの戦闘能力は少々疑問に感じます」
「あいつ、ちっこい頃は家族で旅してたらしいんだとさ。んで親父さんに鍛えられたって」
「成る程…かなり手練れのお父様だったのですね」
「ま、それとタメ張れるスノウとバルもなんだって感じだけどな。センタレアの直属魔法使いのスノウはともかく、バルに関しちゃただの騎士学校の生徒だったろ」
ここでリントとオルトノの戦闘に変化が起こる。
オルトノが自身の右腕を突き出したかと思えば樹木の枝のように数多に分かれリントの全身を襲った。
とっさに腕を交差させ防御に移るが完全に対応しきれなかったようでリントは左肩に出血を起こしてしまう。
好機と読み取ったオルトノはここぞとばかりに猛攻を仕掛けるが二人の間に大剣を携えた赤毛の少年が割って入り襲う右腕を切り落とした。
「交代の時間だ。お前は下がってな」
「ちぇっ。まだやれんのに」
バルに交代を告げられたリントは不服そうにスノウが待機している場所まで下がり、アヤネが迅速に運んできたアレタ特性の治療薬を負傷した肩に浴びせ、着火を解く。
「行くぞ銀人間。真っ二つにぶった斬ってやらぁ」
啖呵を切ったバルは宣言通り大剣に雷を纏わせると刀身は青白く光り周辺の空気が弾ける。
「【迅雷断裂】…」
残っている左腕でバルを襲うべく先と同じように腕を枝分かれさせようとした途端、バルの刀身の雷を知覚したオルトノはまずいと察したのか後退りを始めた。
「【万雷】」
切り上げた大剣のその一振りは雷と同等の速さを持ち、それより重い。
リントは瞬きをしたが、その一瞬の後オルトノの左腕は宙に浮いていた。
「おい。俺ぁ身体真っ二つにする気だったんだぜ」
しかしバルの目の前にいるのは両腕を失っただけの銀色の人間。
両腕をでも切り落としただけでもかなりの手柄だがそれでもなお満足には程遠いらしい。
「どーやって避けたんだ。結構魔力込めてぶっ放したんだが…よッ!」
手を休めずに大剣をオルトノの胴体に向けて勢いよく投げるが胴体に穴が開き剣はすり抜けて向かいの壁に突き刺さる。
得物を手放したと判断したオルトノは左足を刃に変化させて即座にバルへの距離を縮めた。
さて、ここで解説したいのがバル・ファナラの戦闘スタイルについてだ。
バルの戦闘スタイルは大まかに分けて2パターンある。
1つ目は雷の魔力を大剣に蓄えて爆発的な攻撃力で敵を制圧する単純明快なスタイル
自身が得意とする【迅雷断裂】は大剣に雷に魔力を込めることによって攻撃性と攻撃速度を高めるバル独自の技。
【迅雷断裂万雷】は噛み砕いて言うと…超強いということだろう。
「バカがよ」
そして2つ目はファナラ家の創案魔法【エヌエス】を用いての立ち回り
自分の掌を始点、剣などの握るものを終点に設定し自身の掌を開き閉じをすることによって終点のものを始点とした場所まで戻ってくるというもの
なお、始点へと戻ってくる経路は使用者によってある程度自由に決めることができる
バルが右掌を握ってすぐ開くと突き刺さっていた剣が間にいるオルトノの背中と衝突して姿勢を崩させた後、手元へと帰り再び持ち主に握られる。
「【迅雷断裂】」
姿勢を崩しているオルトノ、必殺の一撃を放つ準備が完了しているバル。
どちらが優位に立っているかは一目瞭然だった。
オルトノが普通の生物であれば、だが。
世界の狭間と呼ばれる空間に存在する生物が普通であるはずがないと気付くのが0.2秒遅かった。
確かにバルの刃によってオルトノの上半身と下半身は真っ二つに分たれた。
もちろんバルは勝利を確信していたがそれは間違いだったと知る。
ちがう
あまりにも軽すぎる
オルトノは刃によって胴体を斬られた訳ではなく偽竜のように自らの思考で胴体を切り離したのだ。
それだけでなくバルによって斬り落とされた両腕と上半身と下半身が銀の粘着質な液体となって前後左右、四方からバルに飛びかかった。
現在のバルの体勢はオルトノの上半身と下半身を斬るため大剣を水平に動かしてまだ振り終わっていないため、どうあがいても防御態勢は間に合わない。
「【影溶】」
バルの背後の影から昇る太陽で最速を誇るアヤネが姿を表すと見事な早業と命中性で四方から襲う粘着液体と化したオルトノにクナイを投げてすべて命中させて食い込んだ。
「マリーナさん!」
「承知致しました!」
その後方では付き添いのマリーナが忙しなく指先を動かすとオルトノだった液体は途端に地面へと落下し動くことが難しいのか大人しくなる。
「…助かった」
自分の窮地を救われたバルはどことなくばつが悪そうな顔をしていたがアヤネは気にすることなくウィンクで返す。
「これで…決着か?」
4つに別れたオルトノはもはや微動だにしておらず活動は停止していると言っても差し支えはないだろう。
「はい、今のオルトノに継戦能力はもはやありません。あとは魔力を用いた攻撃で消滅させればレクゥーリアは出現するでしょう」
戦闘が終わったと判断したそれぞれはリントやバルがいる中央に集まる。
マリーナの言葉を信じれば今のオルトノに戦闘能力は無いとのことなのでリントは拳に炎を、スノウは杖に氷を、バルは大剣に雷を、アテラは大槌に岩を、それぞれオルトノだった破片にぶつけるべく振りあげて落とした。
その瞬間、地面に激しい揺れが起こる。
それも立っているのがやっとな程の強さでアレタは完全に尻餅をついている。
「わ、わ、うわぁー!」
「なになになに~!!」
「マリーナさん!この揺れ何なの!?」
「っ…!分かりませんっ!こんなこと…今まで…!」
状況が把握しきれないスノウはマリーナに問いかけたがマリーナにとっても不測の事態であるらしく慌ただしく首を右往左往させ状況把握に努めていた。
揺れが増す中、天井が一部崩れ落ちたり珍妙で見慣れないモノが床から掘り起こされたかのように地面から出現し始める。
「ちっ!何だよこの箱みてえなのは!」
バルのすぐ近くに姿を表した物はへその辺りまでの大きさがある長方形のやや細い白い箱。
だがリントとアヤネにとっては見慣れたものだった。
「これ…エアコンの室外機か!」
「こっちは昔のテレビだよ!なんで!?」
どういうわけか地球でしか見かけないはずの機械が続々と昇る太陽の面々に表れ続ける。
ここで尻餅をついていたアレタが気付く。
「オルトノがいない!」
その呼び掛けで地面に視線を移すが銀色の粘液と化していたオルトノが姿を消していた。
「上だ!」
戦況の変化に真っ先に気が付いたアテラに続き全員が天井を見上げる。
「まじかよ…」
「何なの…これ…」
銀の繭が、そこにはあった
人の背丈より大きく、分厚い
繭から伸びている糸が地面に出てきた機械をすくい上げて繭の中に溶けてゆく
最後に、扇風機を運ぶと繭の全面にヒビが入り光が溢れ出す
「ッ!全員ぶっ放せ!絶対に!!ここで壊せぇ!!!」
生物の知識に長けたバルが叫ぶ。
返事をするまでもなくスノウは氷魔法を使用してつららを生成し発射、アヤネもクナイを投げる。
続いてアテラは天井から落ちてきた岩を大槌で打ち飛ばして、バルは大剣を投げてリントも足部強化の魔法を使って飛び上がり出来る限りの力を振り絞って殴りにかかった。
接触した感想はとにかく硬く殴りかかったのはこっちなのに骨にまで響くような硬さで攻撃が通じるイメージが沸かない。
その最中見てしまった繭の中にいるモノ。
それが外気に触れてしまった瞬間、魔力爆発が発生しリントは地面へと叩きつけられた。
「がはっ!」
「リント!大丈夫!?」
「リントくん!」
スノウとアレタはすぐに駆け寄るがリントはすぐに起き上がり臨戦態勢に移る。
「こいつは…だいぶやべえぞ…」
繭から羽化したソレは無抵抗に地面に落とされる。
今までの歯車を纏った姿でも、銀色の人間でもなんでもない全く新しいオルトノの姿。
背中に翼膜のない鉄くずでできた両翼にヒト型でありながら刃で構成された四肢、六つ目の顔面を持つ金色の生物
オルトノ・デァーデ
それの誕生である。




