オルトノ
「しゃあっ!!じゃあ…行くぞおらぁ!」
リントの掛け声とともに狭間へと足を踏み入れた昇る太陽一行とマリーナ。
空気、大気中のマナ、温度など感じる感覚は現状何も変わらない。
景色としては暗くて奥までは見えないが天井や壁は一般的な洞窟と大差はなく地面も多少荒くはあるが歩行は容易。
「暗いだけだな」
「そうだね、ちょっとまーってね」
アヤネが魔法を唱えるための特定行動である両手を合わせ、呪文を小言で唱える。
「“陽光”」
開いた手のひらには小さな光球が輝いていた。
「おお!いつの間に覚えたんだよその魔法!」
「スノウちゃんとシフラちゃんが教えてくれたんだ。さっき」
「さっき!?」
「本当にさっきよ。アヤネ、素質かなりアリね」
「えへへ」
「難しくはない汎用魔法だけどすぐに使いこなすのは才能」
「へぇー。アヤネお前すごいじゃん」
「もっと褒めてもいいんだよ?」
「んじゃあアイツ倒して報酬もらったらベタ褒めすっか」
道にして直線だがやや広い空間に出る。
不自然にも明るく円形になっておりどうぞ戦ってくださいと言わんばかりにお誂え向きな場所だ。
そして中心にて待ち受けたるは全容が歯車と鉄で構成されたロボットのような奇っ怪な魔獣。
その名はオルトノ
上半身のシルエットは人間に見えるが下半身は案山子のように一本足で地面から少し浮いているように見える。
魔獣と称するには幻想味がかなり欠如している姿をしているが一周回ってそれもアリだなと感じてきた。
「なんつーか…コレほんとに魔獣か?今日日地球の映画でも見ねえよこんなん」
「ダディオ氏の言う通りの姿だね。歯車と鉄で構成された未知の魔獣だ。作戦通り、僕は攻撃が来ないところまで下がるよ」
「魔獣…って言うには生命感ないねー」
「変わんねえよ。あれぶっ壊しゃいいんだろ?」
「おう。じゃあ作戦通り俺とバルで前衛、スノウとシフラが後衛、アヤネとマリーナは後方待機、アレタとアテラは道具面でのサポートでよろし__」
カッと魔獣の頭部、それも人間に当たる目が赤く光ると同時に光線が発射された。
それを視認したバルが一歩前に立ち大剣の広い面で受け止める。
「せっかちなやつだな。今壊してやるから待ってろ…よ!」
目線を合わして我先にとオルトノへ駆け出すが拍子抜けするほど妨害も回避も防御もなく、懐にバルの侵入を許し、大剣を切り上げた。
「…ッ!!」
人間でなら脇腹に位置する場所にしたから大剣を切り上げたのだが感触は、“硬い”だった。
魔獣を斬ったという感覚ではなく、鉄に斬りかかった感覚をイメージしたがそれに浸る暇はない。
なぜなら先程の光線を放たんとオルトノの目線がバルを見つめているからだ。
「着火」
オルトノの顔面に飛び込んできたリントの炎纏う膝蹴りが入り光線の発射を別の場所へと逸らさせる。
「かってぇこいつ!!」
地に足をつけたリントはすかさず何度か拳での打撃と回し蹴り、そして力を込めた技。
「【魔拳 打炎突化】」
右拳を力強く握り魔力を集中させ貫く勢いでオルトノの腹部に叩き込むと多少、後ろへと飛ばされてったが決定打にはならない。
リントの攻撃が区切りがついたタイミングでバルはほんの少しだけ後退し、大剣をオルトノの腹部へと投げた。
「ちっ」
しかし高音が一瞬響いただけで特にダメージは負っていないだろう。
「おっさんが言ってた通りだな。硬すぎて普通に殴る斬るじゃ多分埒あかねえぞ」
バルは手のひらを握って開くと投げた剣が手元に戻り、構える。
リントもバルの位置にバックステップで戻った。
「現状、物理攻撃はきっついな。魔力込めた魔拳でちょっと手応えあったかなぁって感じ。それより…」
「攻撃が少なすぎるな。最初と俺に撃とうとしたビームの2回以降、手出してこねえ」
「ありがたいような舐められてるような…いやそれはそれでめっっっっちゃ腹立つからうちの副団長さまの魔法でも食らってもらうか。スノウ!シフラ!」
「内に眠る未知の可能性に命ず。我に仇する全ての愚者に懺悔の時を与えなさい。【懺悔の氷】」
「汐の導き、満る月に祈る。我が道を阻む愚者に愛しき海の力を示せ。【人魚の口遊び】」
前衛の男子組がダディオから渡された情報の真偽確認と小手調べを行っている最中、後衛の女子二人は渾身の魔法の一撃をオルトノにお見舞いするべく魔力を高めており、ちょうどそれが今、完了した。
ただ今回はそれだけではない。
スノウとシフラ、お互いの魔法の融合を試みる。
「「【極嶺水氷】」」
二人の魔法は巨大な人魚を模した形となる。
そして空を泳ぎ旋回した後、吹雪纏う尾びれがオルトノを襲い、目を開けられないほどの吹雪と耳を閉じたくなる轟音が今いる空間を包み、その場にいた多くは目を瞑った。
唯一、視聴覚を閉ざさなかったスノウがオルトノの状態よりも疑問に感じたのはシフラだ。
確かに魔法の融合はとても強力よ
でも軽率に行えることじゃない
魔法を使う者同士の魔力の相性、使う魔法の属性相性、体質とかのいろんな条件が噛み合わなければ失敗は確定
事前のチェックで私とシフラの相性が良かったのが確認できたから実行に移したわけだけど…
正直、強すぎた
私が二人いてもあの威力の半分程度しかきっと出せない
つまり、シフラは私以上の力を持っている
シフラ…あなたは一体…
「スノウちゃん!これアレタくん特性の魔力回復薬!」
反動か少し俯いているシフラの背中を擦っているとアヤネが後方から素早くアレタ特性の魔力回復薬を持って最後方から参上。
「ありがとうアヤネ。んっ…んっ……」
「シフラちゃんも!」
「えぇ。ありがとう…」
「シフラは一旦下がりなさい。かなり消耗してるでしょう?」
「…甘えさせてもらうわ」
かなり疲れ切った表情でシフラは後退りしてアレタとアテラが退避している最後方まで下がる。
「どう?倒せそう?」
「さあどうかしら。少なくとも、ここで終わってくれたらかなり楽だったんだけど」
スノウの視線の先には倒れてはいるものの活動は停止していないオルトノの姿が。
「倒せてないの…?」
シンヘルキでレカルネラが造っていた船の中にいたあの魔獣だったら確実に屠れるであろう威力も、オルトノにとっては決定打にはなり得ないらしい。
「そうね。まだ先があるようね」
機械の駆動音と同時に起き上がったオルトノは自身に纏わりついているくず鉄がぼとぼとと地面に落ちて新たな姿を露わにする。
その姿は噛み砕いて言うと、銀の人間といったところか。
「皆様お気をつけください。オルトノはこの形態からが戦闘の始まりです」
事情を知るマリーナが全員に向けて警告を発し、スノウは出発前にダディオが教えた情報を記憶から掘り起す。
『オルトノが四肢がある人の姿になれば正式な侵入者として認めたということだ。それまではちゃちな攻撃しかしてこねえ』
『へー』
『そうか』
『あんた達ちゃんと聞きなさいよ!!』
…リントとバルは半ば聞いてなさそうだったけど
「人の姿になったのはありがてぇ。一番やりやすいフォルムだからな」
「あんたの得意分野でしょ?任せたわよ」
「おっけーおっけー任せんしゃい!」
「キツくなったらすぐ言えよ」
「おう。そんときゃ頼むぜ」
バルは一度下がり、スノウと同じ後衛に移りリントが負傷した際の補助に回り、リントは一歩前に出てオルトノの正面に立って改めて全身を見る。
身長は2メートルより大きく体格もがっしりと重みがあり相撲取りを想起させるほど威圧感もある。
不意に、戦いは始まった。
オルトノの右腕が鞭のようにしなやかに無駄なく動きリントの首を狙う。
「っとぉ!」
体を反らして躱す。
戦いが始まったのを後ろから確認したアヤネとマリーナもアレタとアテラの道具班が待機している最後方まで下がるがアヤネが疑問を呈した。
「あれー。3人で戦わないのかなー?」
「でけえ魔獣とかならそれがいいんだけどな」
「いくら体格の大きい人型でも、3人で戦うには標的が小さすぎるからね。自分と体格が近しい人と戦うなら余程の連携が取れてないとむしろ足を引っ張りかねないんだ。それに…」
「それに?」
「リントくんならきっと勝つよ。僕はそう信じてる」
アレタには確信があった。
巨大な森崩しの猪、元Aランク冒険者のレカルネラを下してきた僕のギルドマスターならやり遂げて見せる、と。




