騎士学校の不良生徒
気が付いたらリントとはぐれていたアレタが懸命にリントを探しているとそれぞれ合同市場を楽しんでいた昇る太陽のメンバーと偶然再開した。
「ちょうど良かった。スノウちゃん達、リントくん見なかった?」
「え?あのバカ迷子になったの?」
「目を話した隙に…面目ない」
「まあでも日が暮れたら宿舎に戻ってくんだろ。オレは先に戻ってるぜ」
「アテラちゃん…荷物凄いね」
アヤネはアテラが抱えている荷物を見る。
左腕には鉱石を抱え、右肩には3本の木材を担いでいる。
「他の荷物は宿舎に送るよう言ってあるからな。ちょっと整理してくらぁ」
「アテラの言う通りね。私も戻ろうかしら」
「下手にばらばらで探すとさらにはぐれそうだからね。僕は探すついでにもう少しだけ市場を見てくるよ」
「私も歩き疲れたかも…ちょっと戻って休も」
このギルド、誰もギルドマスターであるリントの心配をしていないのである。
ちなみに唯一探す心意気を見せたアレタはこのナフィコで別れる予定だ。
さて、そのリントはというと…
「ぎゃっはっはっは!お前すげえな!」
「お前こそ!よくそんな若さでギルドマスターやってんなおい!」
めちゃくちゃ意気投合していた。
「騎士学校の学生なのに仕事バックレて市場見てるとか超不良じゃん!騎士道精神ねえなぁ~!」
事のきっかけは2人が同じ本を気にかけた所。
一触即発の雰囲気はあったが向こうの学生が折れた訳では無いが本を譲ってくれた。
話を聞くと少年は不死雷轟鳥についてかなり興味を持っているが周りの人間はそうではなく、むしろバカにしてくる有り様だったがリントが不死雷轟鳥について興味を持っていると感じたらしくそこから打ち解け、歩きながら会話して今に至る。
「騎士道精神なんてあるか。俺ぁ本当はカヤト自然学院に入りたかったんだよ。えーっと…」
「俺はリント・ヒナタ。リントでいいよ」
「そうか。俺ぁバル・ファナラ。一応ジャルザン騎士学校に通ってる」
バルと名乗った赤いベリーショートの少年。
背中に背負っている大剣に目が行きがちだが制服越しでも分かる体格や筋肉の付き具合から見て、かなりの手練れだとリントは察した。
「バルは不死雷轟鳥…ヴォルトアン・ヘアットに興味あるの?」
「ヴォルトアン・ヘアットは目標だな。俺ぁこの世界に存在する全部の種類の魔獣を観察して俺だけの魔獣図鑑を作るんだ」
「すっげーな!完成したら見せてくれよ!」
「なんなら途中の奴が家にあるぜ。見に来るか?」
「うっはぁ!行く行く!」
ギルドマスターであるリントが常日頃からこんな感じでほいほい着いていくのでスノウは心配するだけ無駄だと分かっていた。
バルの家にのこのことアホ面でついて行く。
この国の学生は世界中から集まるのでほとんどの生徒は学生時代のスノウのように宿舎に身を置くことがほとんどなのだがバルは珍しくナフィコの生まれらしい。
「おじゃましまーす」
「気ぃ使わなくてもいいぜ。妹と二人で暮らしてるけど今あいつは律儀に仕事してっからな」
合同市場が開催されている間は治安維持だけでは対応できないことも多いので魔法学院と騎士学院も治安維持の手伝いとして駆り出されるらしい。
そしてバルはめんどくさいからと途中からバックれてサボっていた。
「ほらよ。この本棚が俺の特製図鑑だ」
おそらくバルの部屋であろう場所に入ると2メートルはある本棚があり底に入っている本すべてが図鑑だという。
「ほほう。どれどれ」
左上から本を取り出すしてページを捲る。
1ページには魔獣のスケッチ、片方のもう1ページには生態の解説や弱点の魔法属性など事細かく記入されている。
「すげえ出来だな。できればこのまま貰ってきたいくらい」
「いつか出版するからその時買ってくれ」
しばらくその図鑑にのめり込んでいるとバルが神妙な顔で一つの話題を振った。
「お前はヴォルトアン・ヘアットに何か目的があるのか?」
ヴォルトアン・ヘアットについてだった。
もちろん、リントが旅をしている理由の半分を占めているので出来ることなら積極的に情報を仕入れたい。
「おう。だから今は雷獄の雨が最後に会ったトゥリタナを目指してるんだ。他に手掛かり何もないから困った困った」
リントの目は図鑑から動かない。
だが次の話題は流石に体が動いた。
「もしヴォルトアン・ヘアットを呼べるとしたら…お前はどうする?」
図鑑から目を離してバルを見る。
確かにそれが出来るなら俺達の目標にかなり近くなるかもしれない。
「それが出来たらかなり楽かもな。きっとたくさんのギルドや冒険者がこぞって討伐に来るぜ」
そんな事はほぼ不可能だ。
不死雷轟鳥、凍てつく大陸亀、爆ぜる火山龍の3体は地球の科学技術製品がなぜか魔力に反応して爆誕してしまったこの世界の最強魔獣。
異界融合と呼ばれ、人の手による制御は不可能だ。
「気にならないか?謎に包まれたヴォルトアン・ヘアットがどんな姿をしているか」
リントは一度、異界管理局にてヴォルトアン・ヘアットについてケンゾーから聞いた事がある。
『かつて幸運で勇敢な学者が常に雷を纏う不死雷轟鳥の真の姿を目撃、触れることができた。その際に死に物狂いで持って帰ってきたのがこの基板なんだ』
その真の姿を学者がスケッチした物を見せてもらいその正体に驚愕した。
果たしてその事をバルに伝えてもいいものか…
多分ダメなので黙っとこう
「興味はあるなぁ。どんな姿してんだろ」
「見せてやろうか、そいつのスケッチ」
バルの言葉はリントの興味を引くには十分過ぎる程だった。
なぜバルがヴォルトアン・ヘアットのスケッチを持っているのか、それがただ気になる。
「ついてこいよ」
どうやらこの部屋とは別の場所にあるらしく通路を跨いで反対の部屋に案内された。
その部屋はバルの部屋より1.5倍ほど広く本棚や本の数も比ではない。
中でもとりわけ大きい本をバルが手に持って床に座ると開いた。
「ヴォルトアン・ヘアットは常に雷とそれに呼応するマナを纏っている。けどこのスケッチはたまたまそのマナと雷を纏っていない本来の姿を写した物だ」
リントが見たそのスケッチは以前、異界管理局でケンゾーから見せてもらった物と記憶の誤差はあれどほぼ同一。
「どう思う?」
「どう思う…確かに普通じゃ考えられないよな。あんな強い魔獣の真の姿がコレだなんて」
分かりやすく伝えるのなら、金属のがらくたの寄せ集めが鳥の形をしたオンボロ機械。
それがヴォルトアン・ヘアットの正体だ。
「でもきっとこれがヴォルトアン・ヘアットにとって落ち着く姿なんだろうな。あいつだって生きてるんだから」
「…そうか」
「これはバルが描いたの?」
「いや、何十年か前に父さんが描いたスケッチだ。父さんは冒険者でありながらカヤト自然学院で世界中の魔獣を研究して時折教鞭を取っていた」
「すごいんだな。じゃあ今も先生やってるの?」
「過労で数年前に死んじまった。最期は痩せ細って好きだった冒険にも行けなくなって悲しそうだったよ」
「……ごめん」
「気にするな。逆の立場だったら俺もそう聞く。でもこのスケッチにそんな反応したのはお前が初めてだ。父さんも向こうの世界で喜んでるさ」
そこからはバルと他愛もない話をした。
戦った魔獣の中でどれが一番強かったか、変な生態の魔獣はいなかったから、この図鑑にいない魔獣の話をしたりと比較的穏やかな時間を過ごしていると窓から見える景色に橙色がかかる。
「っと、もう夕暮れか。俺戻るわ」
「俺も一旦ジャルザンに帰るか。めんどくせー話聞いてすぐ解散するのに」
「そっか。しばらくナフィコにいるからまた話そうぜ」
「おう」
リントとバルは背中を向けて反対方向に別れていった。
「っつー事があった訳よ」
「うんうん。で、なんで私とアヤネの部屋にいる訳?」
ユーレア魔法学院の宿舎に戻りスノウとアヤネが寝泊まりする部屋であぐらをかきバルと過ごした時間を話す。
「だってしょうがないじゃん。アレタは荷車で薬作ってるしアテラもなんか作業してるし」
リントの言う通り、アレタは自分の仕事道具で今日買った材料を合わせて新薬を作っているしアテラに関してはかなり立派な何かを作り上げようと精を出している。
「女子の部屋に簡単に入るなって言ってるの」
「まあいいじゃん。私はその話もうちょっと聞きたいなー?」
「任せとけ。バルってやつは…?」
アヤネの要望にお応えしてさらに深い話に入ろうとすると外の様子が一変している事に気付いた。
「あれー?雨でも降るのかなー?」
「この暗さ…結構降るんじゃないか。アレタとアテラにこっち入るように伝えて___」
『ピッシャァァァァァンッ!!!』
突如国に響き渡る魔獣らしき咆哮。
耳を軽く撃ち抜かれたような衝撃に襲われる。
「何かの音…耳痛いんだけどー…スノウちゃん?リントくん?」
咆哮の後、一瞬でリントとスノウの顔色が白くなっていた。
スノウに至っては小刻みに体を震わせ、過呼吸気味になっている。
「うそ…なんで…ここで…?」
体の隅々に刻まれた消える事のない恐怖。
今それが、10年振りに呼び起こされた。
「スノウちゃん!?どうしたの!?」
スノウの体を揺さぶり正気を取り戻させようとするアヤネだが治る気配はない。
「凛斗くん!スノウちゃんが!」
リントもスノウほどではないが過去の記憶の鎖が体を縛る。
体が硬い。
それでも動かなばらない。
「リント…リント…」
心配するアヤネをよそにスノウは勝手に身体が動き出し、自然とリントにその身を預けた。
「怖いよ…」
「…心配すんな。大丈夫だ」
震えるスノウを抱きしめて安心させる。
次第に体の震えが治り呼吸も正常にできるまで落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「うん…ごめん」
その一部始終を見てしまったアヤネは息を呑んだ。
「ね、ねえ?何が起こってるの?」
しかしそれでも今起こっている事態を理解せねばなるまい。
「綾音。絶対外に出るな。地下室があればそこに行ってくれ。アレタとアテラにも伝えてくる」
「ちょっと!そういう事聞いてるんじゃ_」
「スノウ。ジャルザン騎士学院はどこにある?」
今のリントにはスノウしか見えていない。
それを察したアヤネはこの場で話す事はもうなかった。
「ここから西に見える塔みたいな建物の下よ。私も行く」
「無茶するな。アレとこの学校について知ってるのはうちのメンツだとお前しかいない。頼めるか?」
「…任せて。ギルドマスター」
頼んだぞ、と言い残すとリントは宿舎の部屋を飛び出してジャルザン騎士学院へと足を急がせた。
「スノウちゃん…一体何が起こってるの?」
「暗くなった空、甲高い魔獣の鳴き声はある現象の前触れよ」
「なんなの、なんなのそれ!」
神妙でどこか寂しげにスノウは呟いた。
「雷獄の雨。私とリントが探している魔獣、不死雷轟鳥がこの近くに現れたという事よ」




