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人魚、拾いました


シンヘルキの街を抜けた【昇る太陽】一行は最初の目的地であるナフィコへと旅を進めていた。


ギルドマスターであるリントはダリオルに跨り手綱を握っている。その左右にはアヤネとアテラが足を合わせて歩いている。スノウは部屋タイプの荷車に、アレタは二両目の一般的な荷車でそれぞれ体を休めている。


「昔は親父の膝の上でしか乗れなかったな…」


10年前に家族で旅をしていた頃はダリオルの手綱を握るどころか跨らせてもらえなかった。

何度頼み込んでも大きくなったらなと言うばかりで、結局父親の膝の上が関の山。

そしてその父親と母親はいなくなって、リントだけが地球に戻された。


「ねーねー凛斗くん。私も乗せてよー」


急な魔獣の襲来に備えて周辺の警戒をしていたアヤネが見上げて話す。


「だーめ。綾音は魔獣と戦って経験積んでくれ」


「えー!私もう強いよ!Cランクスタートだし!」


「ランクはあくまでランク。戦闘でそんなのが武器になるわけじゃない。実際、俺と綾音が戦ったら俺が勝つだろ?」


アヤネが冒険者登録をした際に行った研修と試験の結果、素質を見込まれてCランクからのスタートとなったのだ。

つまり今、ギルド内の冒険者ランク序列はこう。


スノウ(B)>アテラ=アヤネ(C)>リント(D)>アレタ(E)


スノウもアヤネと同じく素質を見込まれてBランクスタート。

アテラは工房の手伝いの合間に鍛錬として依頼をこなしてランクアップをしたらしい。

アレタは冒険というよりかは薬師の活動を重きにおいているので正味ランクは関係ない。

リントは10年前の段階ではCランクだったがブランクがあるからとDランクに下方されている。


「てか試験ってどんなことやったの?俺昔すぎて覚えてないんだけど」


「紹介場で雇用してる冒険者さんと戦ったよ。魔法使えないからクナイと身体能力で挑んだけど強かったなぁ」


「勝った?」


「引き分けだよ。でも強くていい人だった!ご飯奢ってもらっちゃったもんね!確か名前は…エッスっていう女の人」


「なーんか聞き覚えあるなぁ…似たような人が知り合いにいた気が…」




少し離れたナフィコの街…


「くしゅん!」

「へっぷち!」

「ぶるべっしゅ!」


アッス率いる終わりなき死者(ノットデッシース)達は何故か3人揃ってくしゃみをした。




「ま、とにかくアヤネはしばらく戦闘だ。人と戦うのと魔獣と戦うのじゃ訳が違うからな。それにこの先レカルネラ以上に強い奴が出てくる」


一瞬だけ地球に舞い降りた魔王を思い出す。

いつの日か、リントが魔王と相対する可能性だって十分にあるのだ。


「というか。オマエどうやってレカルネラに勝ったんだよ。Dランクのくせに」


今度はアテラが口を突っ込む。

その時の戦いを知らないアテラから見たらなぜDランクのリントが引退したとはいえ元Aランク冒険者のレカルネラに勝利できたのか理解が難しい。


「ほぼ運。最初の予定は俺とスノウのどっちか片方が相手してダメージ受けたら交代してアレタが傷を癒す戦法だったんだよ。でもロックさんがレカルネラに痛手を与えてくれてたから俺1人で相手して残った2人は船を調べさせてた」


「なんだ。親方のおかげか」


「そう言われたらそうだな。でも俺が本気でやっても及ばないのは分かってたからアレタからポーションとかもらった上で挑んだ。何なら一旦負けると思って戦ったよ。てか実際負けたし。レカルネラがトドメ刺さなかったから結果的に勝てた」


「そんなに強かったの?」


「もう一回戦ったら絶対勝てない。断言できるね」


最後もレカルネラを倒したというより、レカルネラが()()()()()()感覚だ。


レカルネラ戦ではリントの実力というよりかは事が上手く運んだと言った方が正しい。

冷静に考えたら未熟な少年が引退したとはいえ一流の冒険者に挑むなど鼻で笑われるだろう。


「そろそろ昼にするか。スノウとアレタ呼んでくれ」


手綱を少し引いてダリオルに止まるよう合図する。


「ちょうど川あるし、ちょっと水汲んでくるから薪用意しといて」


川に沿って移動していたのでダリオルから降りて荷車から金属のバケツをアレタから貸してもらい川の水を汲んだ。


「これを沸かして水の確保…ん?」


上流から何かがどんぶらこと流れてくる。

大きさからおそらく生き物だと思う。


というより…人?


「おいおいおい待て待て待て!!」


溺れてる様子はなく、仰向けに浮いてはいるようだ。

すぐさま上に着ている衣服の類と靴を脱ぎ捨て入水して流れてくる人に向かって泳ぐ。


「おいあんた!おい!」


流されていたのは青く唸る長い髪を持つ女性だった。

体を揺すりながら呼び掛けるが応じない。

リントは人を抱えながら泳いだ経験は流石にないがそれでもやるしかない。


「ぬぅぉぉぉぉ!!」


左手で抱えながら足を懸命に動かしてなんとか陸に上がり、女性を担いで仲間達の元へ急ぎ叫ぶ。


「アレタぁ!急患だぁ!」


焚き火を行おうと薪を組んでいたアレタはその言葉に気付く。


「そこに寝かせて!」


足を止めてその場に仰向けに寝かせるとアレタが女性の手首を触り脈の確認と呼吸の確認を手早く行なう。


「これは…」


「これは!?」


「寝てるだけだね…」


「…は?」


なんとこの女性。

医療に精通しているアレタの診断ではただ睡眠を取っているだけらしい。


「寝てる?」


「うん」


「川から流れてきたのに?」


「うん」


「世界は広いなぁ」


「…うぅ」


流されていた女性が目を覚ました。

体を起き上がらせあたりを見渡す。

と思いきや


「すぅ…」

「いや二度寝すな!」


再び目を閉じてしまったので思わずツッコんでしまった。




「なるほど。あたしは川に流されていたのね」


その女性に状況を説明した。

上流から流されてきた事、リントが川から運んできた事を。


「なんで理解してないんだよ…」


「あたしはシフラ。助けてくれてありがとう」


「俺はリント。この昇る太陽のギルドマスターだ」


「スノウよ」


「私アヤネー!」


「オレはアテラ。大工」


「僕はアレタ。薬師をやってるんだ。シフラさんは川から流れてきたみたいだけど…なんで?」


「あたし人魚だもの。水にいるのは当然でしょう?」


「え、人魚なの!?」


リントは驚く。

人魚といえば水中に暮らしを置いて上半身は人間、下半身は魚の尾のような種族だ。

しかしシフラは上も下も人間に見える。


「あぁ、脚の事?水陸どっちも動けるように変身出来るの。触る?」


生脚に釘付けになっていたのがバレていたようだ。


「え、触る!」

「触ってんじゃない!」


遠慮なしにシフラの生脚に触れようとしたリントをスノウが頭を叩いて止めるとアレタが屈んで目線を合わせた。


「上流の方からって事はナフィコの方向だね」


「そう、ナフィコに知り合いがいてその人に会いたいの」


「お、奇遇。俺たちもナフィコ目指してるんだけど一緒に行く?」


「え?」


「だって人魚と言っても女の人が1人で動くのは危ないし、人といた方が楽しくない?」


「あなたの仲間になれって事?」


「仲間になってくれたら嬉しいけど…それは任せるよ」


リントはシフラに右手を差し伸べた。


「じゃあナフィコまではご一緒しようかな」


シフラはリントの手を掴んだ。

それが意味することはもちろん


「ようこそ昇る太陽へ。短い期間だけどよろしく」



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