5人目は脱退予定
ロック工房
それはかつて存在した伝説的ギルド【夜明けの太陽】にて仲間の武器を造り、鍛え上げ、鉄を叩いていたとある冒険者が5年前に自らの出身地であるシンヘルキにて開いた工房だ。
店主の男は凄腕の冒険者であるとともに最高峰の技力を持つ鍛治師、大工。
とにかく金槌を握ることであるならば高い水準で物を作り上げることができる。
評判はもちろん上々。
手伝いの娘も言葉を強いもののそれには己の物作りに対する明確な信念があってのものなので気に触ることはない。
そんなロック工房からは少年と少女の驚愕の声が響いていた。
「贈り物2つ目はうちの娘。欲しがってた腕のいい大工だ」
「お、お、お、お、親方ァ!?冗談だろ…?」
「俺もお前くらいの時は各地を旅して回ってたさ。それにトゥリタナまでの道中には鍛治の聖地とも言われるアヅラタンがある。鍛治は教えなかったのはそこで鍛えて欲しかったからだ。あとパパって呼ぶんだ」
「でもコイツ!オレのこと女子って呼びやがったんだ!ハッキリ言うけど嫌いだね!」
「アテラ。お前は自分のことを一端の大人だと思っているようだが…実際歳は変わらんだろう。それに職人としてみてもお前の技術はまだ青い」
「ぎぎっ…!」
「もちろん工房で育つ技術もある。だが時には資材や人手が不十分な状態で働かなきゃいけねえんだ。それは今回身に染みただろ?」
確かに今回の親攫いでシンヘルキ全体がかなり深刻な状況に陥ってしまった。
その中でもアテラはかなりの働きをしてくれたようだがそれでもなお経験は足らないとロックは悟ったのだろう。
「それにリントとスノウが地球に帰ったら誰が荷車の面倒見るんだ?」
「あ、考えてなかった」
「だろ?こう見えてもうちのアテラはCランク冒険者だ。戦闘の腕前もリントには及ばないだろうが当てにはなるさ」
「なるほど…私たちが地球にいる間も旅が進められるって考えたら悪くないかも」
「おい待て!何勝手に決めてやがる!オレは行くだなんて一言も言ってねえ!オレはこのまま親方の元で腕を磨いてシンヘルキ…いや世界中の誰よりも腕のいい職人になるんだよ!」
「気持ちは嬉しいがなアテラ。俺からだけの技術を積んでもいずれ頭打ちだ。だからまずはリント達とアヅラタンまで旅をして鍛治を学んでそこから決めればいい。シンヘルキに戻って俺と鍛治を磨くのもよし、そのまま旅を続けて未知の技術を積むのもよしって訳だ。だからまずは世界を知ってこい」
「うっ…親方がそういうなら…」
同じ物作り同士で分かる話があるのだろう。
ロックに丸め込まれたアテラは最終的にリント達に着いて行くことに決めた。
「そういう訳で仲間が2人増えたんだぁ」
アヤネの研修が終わる時間に紹介場にアテラを連れて戻り、紹介場の談笑スペースにて合流予定だったアレタに新たな仲間を紹介した。
「わぁ。おめでとうリントくん」
祝福としてパチパチと手拍子を贈る。
「んで、ここからが本題なんだけど…アレタやっぱ俺たちと来ない?」
「それは厳しいかなぁ。僕集団行動苦手だし」
いつものリントであれば相手の意見と気持ちを尊重して大人しく引き下がる。
しかし前回とは事態が変わり何としてもアレタを引き込まねばならない。
「あと1人見つかればギルドが作れるんだ!それに俺以外全員女子なんて居心地がめっちゃ悪くなる気がする!」
「は?」
「えー?」
「おい」
あ、背中からの視線その他諸々痛い
痛い痛い怖い
「それは一理あるね。でもごめん、やっぱり僕は1人で流れの薬師をやってる方が性に合ってるんだ」
「そこをなんとか!次に入ってくれる人見つかるまででいいから頼むよ!」
「うーん…ちなみに次の目的地はどこに行くんだい?」
「アヅラタンを経由してトゥリタナ!」
「トゥリタナか…大分遠いし特に用はないけど」
「お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い!」
「分かったよ。でもひとつだけ僕のわがままを聞いてくれないかい?」
とても今年16歳になるとは思えないほどみっともない姿での頼み込みを見て女子陣は冷ややかな目を送るがアレタは汲み取ってくれたようだ。
条件付きだが一度折れる。
するとリントの顔は分かりやすく喜んだ。
「うん!なんでも!」
「アヅラタンの前にナフィコに寄ってくれないかな。噂だけど商人達による合同市場が開催されるそうなんだ。そこで色々と薬に使う材料を見たいんだ」
「ナフィコ…聞き覚えあるな…」
初めて聞く気はしない。
おそらく昔、家族で旅をしていた頃によったことがあると思う。
「ナフィコは別名【学院都市】とも呼ばれる国よ。名前の通り様々な学校があってそこに通う生徒とその親達が大まかな国民ね。私も数年前は通ってたもの」
「思い出した!なんかバカでかい塔があるとこだ!よしナフィコ行こう!そうと決まればギルド立ち上げだぁ!」
「ちょっと!名前はどうするのよ!」
「それはこっち来てからずっと決めてたよ。俺達の親父達がいたギルドの名前は夜明けの太陽。だから名前をちょこっと拝借して考えたんだ」
スノウ、アヤネ、アテラ、アレタの前に立ち、胸を張り、高らかに、仲間となる4人に告げた。
夜は終わり朝が来る。
朝が来たのならば太陽が昇り始める。
早朝に5人の少年少女はある工房へと集う。
その工房には大柄の男が2つの荷車の最終整備を行なっていた。
それを終えると今度は荷車を引く魔獣【ダリオル】が荷車を引きやすいようにダリオルにも様々な装置をつける。
「これで完成だ。問題なく引けるさ」
「おっほぉ〜!かっけぇー!」
「最初に二つ角の兎の依頼を受けてよかったわね。親御さんも無事に戻ってきてかなりサービスしてくれたもの」
リント達がシンヘルキに訪れてから受けた初めての依頼はダリオルの牧場に現れた二つ角の兎の討伐。
その時対応してくれた依頼主はまだかなり若く見えたがどうやら親攫いの被害に遭った結果、1人で牧場運営を回していたらしい。
牧場の依頼を受けてくれた感謝と両親を取り戻してくれた感謝からかなり力の強く人懐っこい個体のダリオルを9割引の格安で譲ってくれたのだ。
「でもでも、ダリオル一匹で荷車2つと私達5人運べるの?」
この世界にまだ浅いアヤネが疑問に感じたらしい。
ダリオルは地球の動物で例えると少し大きく岩のように硬そうなサイだ。
お世辞にも巨大とは言えないその身体で部屋がついた荷車ともう一個を動かせるのか疑問に思うのも無理はない。
「むしろこいつにとっちゃまだ余裕あるくらいだろ。スノウんとこはこの部屋タイプの荷車8個くらいで3匹で引いてたんだぜ」
「そうそう。ダリオルって思ってるより力持ちなのよ」
「へー。こんな可愛いのにやるじゃん」
「可愛いかしら?」
「よし!じゃあ荷物載せたら出発だ!」
リントとスノウ、アレタは鞄を後ろの荷車に入れ、アテラは自分の金槌や釘などありったけの仕事道具を積み込んだ。
アヤネは特に何も持っていない。
その様子を見たロックが裏口から路地に出る扉を開き、旅立ちを見届けるべく待ってくれている。
「よっしゃぁ!俺達【昇る太陽】の旅立ちだ!目的地はトゥリタナ!まずはナフィコに向かうぞ!」




