薬師の旅人
30分後、リントは意識を取り戻した。
「あっぶねぇ!溶けるかと思ったぁ!」
体の内面が煮えたぎり血液という血液が沸き立つかと思うほどの高温状態から我ながらよく帰ってこれたものだ。
大着火を始めて解放した時はばあちゃんが体丸ごと凍らせてなんとかなったけど…かっと熱くなっちゃうのが俺の悪いとこなんだよな
「あ、起きた」
「起きたんだね。気分はどうだい?」
「あんたは…」
そう、この旅人の男。
以前に火吹きの偽竜と遭遇したところをリントが助けたあの旅人である。
「君に助けられるのは二度目だね」
「そうだ!あの時の旅人!魔獣に好かれてるの?」
「はは。まあ…そうかも。どうだい、僕の薬は効いたかい?」
「へ?薬…」
そういえばなんか口に冷たくて甘いジュースみたいな飲み物飲んだら体が一気に涼しくなった気がする。
あれがこの旅人が作った薬だったのか。
「あれか。めっちゃ効いたよ。なかったら多分溶けてた!」
「それは良かった、薬師冥利に尽きるよ。僕はアレタ・ウリー。旅人兼薬師で歳は19歳だ」
「くすし?」
「薬屋とか医者だと思ってくれていいよ」
「おいしゃさんかぁ。俺はリント・ヒナタ。15歳の冒険者!というかなんで追われてたの?」
「いやぁ…次の調薬で必要なキノコが森崩しの猪の縄張りだったみたいで…」
「私はスノウ・メロウル、リントと同い年よ」
「アレタは冒険者じゃないの?」
「肩書は一応冒険者、Eランクだけどね。どっちかっていうと各地でいろんな支援を受けたいから冒険者登録したって感じかな。僕は冒険とか未知の場所とかじゃなくて人を治す薬を作るために旅をしているんだ。だからあんまり戦いとかは得意じゃなくて…君たちは?」
「俺はチキューから来たんだ。最近向こうにハーモラルの魔獣出てきて困ってんだよねぇ。それの調査と個人的な要件が2コくらい」
「私はこのバカのお守り」
「へえ。チキュー…ヒナタ…聞き覚えがあるな…ま、いっか。この道を使うってことはシンヘルキに行くのかい?」
「そだよ」
「よかったらご一緒してもいいかな、僕もシンヘルキに用があってね。今までの恩返しじゃないけど食材の目利きや調理には自信があるんだ。ここから先は宿がある村や集落の数は少ないからね」
「全然おっけー!仲間は多い方が良いし!」
「あんたさ…時間忘れてない?」
「時間?」
「連れ戻されるんでしょうが!」
「ああ!」
すっかり失念していた。
そういえば48時間のタイムリミットが刻一刻と近づいていたのだ。
「どうしようどうしよう!」
「どうするも何も…そういえばケンゾーさんからあの鉄の箱の場所決めれる道具もらってなかった?」
「あのバス停もどき…いや!俺は自分の目でこのハーモラルを_」
「あんたのそのわがままなければまあまあ予定短縮できるんだけど?」
「…しゅん」
リントの鞄を無理矢理開けて先日、異界管理局のケンゾーさんから渡された謎の模型のようなものを取り出した。
チキューからこっちに来る時に呼び出す鉄の箱はこの模型に似た看板から出発していた事を思い出す。
「恩返しというのなら、一つだけお願いがあるわ」
見慣れない形をした模型をスノウから渡されたアレタは少しだけ困惑しているように見える。
「私達はあともう少しでハーモラルからいなくなってしまう。だからあなたはこのままシンヘルキに向かってほしいの。そして5日後のこの時間にそのヘンテコな模型を地面に刺してほしいの」
「ス、スノウ?俺を治してもらったりして十分恩は返してもらったぞ?」
「じゃあ火吹きの偽竜の時の恩ね」
「案外がめついなお前…」
「それだけで君たちの役に立てるなら全然やらせてもらうよ」
アレタもアレタで結構なお人好しだな
というか二回も魔獣に遭遇してるのに大丈夫か?
「決まりね。あと、これも渡しておくわ」
赤い石もアレタに渡す。
「これは離れていても声が届く変な石よ。私達は青い石を持っているからもし不測の事態が起こったらその赤い石に話しかけなさい」
「分かったよ。できれば使わなくてもいいようにしたいけどね」
「無茶言ってごめんアレタ」
「気にしないで、受けた恩はしっかり返すよ。ところでどうやってチキューに行く_」
ずどぉん!
さっきの森崩しの猪の足音など比ではない轟音とともにすぐ近くに見たことのない車輪のついた鉄の箱が落下していた。
「なに!?なに!?」
状況を理解できないアレタをよそにリントは森崩しの猪の角とマナストーンを抱えて、何かを準備するようにスノウはリントに密着する。
そして鉄の箱の中から巨大な白い手が伸びてリントとスノウをがっしりと掴むとその中に引きずり込まれて空に昇り消えていった。
「…チキューって凄いなぁ」
己の知らぬ事象を身に受け世界の広さを痛覚したアレタは恩人に報いるべくシンヘルキに足を動かした。
そして世界は変わり朝のハーモラルから夜の地球へ。
いつも通りのバス停に着くとバスから強制的に下車される。
もう少しだけ優しく降ろしてほしいところだが無人運転のこのバスにはどう伝えれば良いのやら。
「ねえ、今思ったんだけど」
帰路といっても徒歩1分の家に向かう途中の会話だ。
「こっち来れば夜なのにハーモラルで寝る必要あったの?起きて数時間でまた寝ないといけないじゃない」
「スノウ…俺さっきめっちゃ疲れたんだけど」
「あ、そっか」
自宅に着くと少しだけ違和感を感じる。
この夜19時過ぎの時間帯に誰も家にいないのだ。
「じいちゃーん、ばあちゃーん。いないのー?」
家に上がりあらゆる部屋を覗き込むもどこにも祖父母の姿はない。
「買い物…にしては遅いわ。ピールは19時に閉店だし」
「…なんで知ってんの?」
「おばあさまと何度か買い物に行ったわ。地球での私服も買ってもらっちゃったし」
「馴染んでんなぁ。あ!だからあのブラ」
「凍らすわよ?」
「スミマセン」
なるほどね、俺が学校に行っている平日の昼間はばあちゃんと買い物行ってるのか…
一昨日の生姜焼きといいスノウが日本料理を覚える可能性もありそうだな
「ま、疲れたし風呂でも入って気長に待つ___」
体全身に強烈な衝撃を感じた。
先日の大顎の喰竜の比ではない。
抑圧的でもっと痛々しい殺意を直接この肌に感じさせる。
全てを壊さんとする破壊的な魔力が痛いほど体を襲う。
「な、なんだこれっ…!」
「痛い…この魔力…強すぎる!」
魔力の発信源を掴めない。
地球には魔力を放つ生き物は基本的にはいない。
なので魔獣や魔力を放つ者が現れた場合は簡単に場所の特定が可能なのだが、今回のコレは桁が違いすぎる。
魔力が強すぎてまるでそこかしこにいる感覚故に場所の特定が出来ない。
「じいちゃんの魔力…裏山だ!」
ほんの一瞬だけこの強烈な魔力に抗う別の魔力を感じ取った。
「おじいさま達はこの魔力の主に抗うために…」
「行くぞスノウ。なんだか…やばそうだ」




