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超本気モード


「あのー…スノウさん?ご機嫌は…?」

「…」


ぷいっと顔を逸らされる。

誤ってスノウの下着を天に掲げてしまって一晩が経つ。

おそらく残り数時間ほどでバスが迎えに来て強制的に地球に連れ戻されるので少しでもシンヘルキへの道を進めておきたい。


「というか、あの下着ってハーモラルでも流通_」

「あ゛?」

「ひぃっ!なんでもありません!」


怖い

怖すぎる

こんなに怖いのは家の襖に穴を開けまくってばあちゃんに死ぬほど怒られた時以来だ


「あ、スノウさん。ここから道が山、森、海沿いで分かれているらしいのですけれども…」

「ふーん。確か一番近いのは森だけどその分道が険しいって聞いた事あるわ。山はベリダバに近づくと強い魔獣が出るらしいし海は穏やかな道だけどやや遠回りね。基本的には海を通る冒険者が多いらしいわ」

「じゃあ海にすっか?」

「あんたに任せるわ。ただ山はやめた方が良いかもね」

「でも時間が惜しいな。森から行く?」

「おーまーかーせーしーまーすー。どーせ私は魔法士団からの()()()()なので!一応、できる限り、可能な範囲で、()()()の!命令に従いますぅ!」


機嫌損ねた女ってめんどくせぇ〜!


「じゃあ森からで…」

「りょうかいしましたぁ〜。では行きましょうか」


言葉の一言一言に怒り、不快、不愉快が最高に込められていてかなり痛々しく心に刺さる。

惚れてる相手からあんな対応されるとこんな気持ちになるのか…


木々に覆われた森を微妙な空気で進む。

逆に魔獣が飛び出してくれた方が雰囲気変わるから心の底から魔獣が出てくることを祈るのも吝かではないか。


「ん?」

「なにか…いる?」


周辺の背丈以上の草むらを掻き分ける音。

まるで昨日のゴブリン達が襲いかかってきたようなあの感覚だ。


キタキタキタァー!

なんか良い感じの魔獣でお願いします!


「うわぁぁぁ!」

「うおぉぉ!?」


草むらから飛び出してきたのはどこかで見覚えのある旅人らしき男。

だがその表情は何かに追われている切羽詰まる顔だ。


「君は!?いや、そんなことより…」


旅人が飛び出てきた方向からはずしん、ずしんと巨大な何かが迫りくるのか大きな足音が近くなる。

そして今度こそ、木々の奥、そして高い草むらから飛び出すのは…


森崩しの猪(フォレスタッド)だぁ!」

「ブンオォォォォォォ!!」


人間二人分の背丈を持ち横幅は3メートルはある。

最も特徴的なのがかつて地球に存在したマンモスと同じ様な牙を持っており、そんな巨大な猪が鼻息を荒げながらこの旅人を追いかけていたのだ。


「ひぃぃえぇ!」


旅人がリントにくっついて離れなかったので森崩しの猪(フォレスタッド)はこちらに迷いなく突撃してくる。


「スノウ頼んだ!」


咄嗟に旅人をスノウの方向に突き飛ばして森崩しの猪(フォレスタッド)の角を掴み、真正面から受け止めるもその力は想像以上で後ろの巨木に体を押し付けられた。


「リント!?」


と思われたが木にぶつかる寸前のところで持ちこたえていた。


「舐…め…んなぁ!【大着火(イグナイト・ロアー)】ぁ!」


大着火(イグナイト・ロアー)

わかりやすく言えば現状の炎を扱っている時のリント()()()()()()だ。


体全体に循環する魔力を速めろ

もっと強く、さらに硬く、つま先から頭の天辺まで、指先から反対の指先まで魔力を巡らせて心と身体を熱くしろ


「ぬぅぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!」


ご自慢だろう角をへし折ってやるとその身に何が起きたのか理解できていない森崩しの猪(フォレスタッド)が困惑しているうちに勝利をもぎ取りに行く。


「【魔拳 連紅炎(まけん れんこうえん)】」


この発音を深く覚えている体が反射的に()()を取った。


あとは、もう、自分の力が残っている限りこの炎の拳を叩き込むだけだ。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!りゃぁ!」


最高記録は半年前の5秒間のうちに32発。

だが今回の記録は…


「記録更新!40(よんじゅう)…」


最後の一発は気力多め、ついでに魔力マシマシで顔面にぶち込んでやった。


「1発ッ!」


渾身の一撃だ。

仮にこれで倒せなかったら俺の負け。


「…ぶるふぅ」


密着していた右拳から森崩しの猪(フォレスタッド)は自然と離れ、横たわるように倒れた。

儚い光のマナとなりその身のおおよそを生命の循環へと繋げていく。

最後に残ったのは森崩しの猪(フォレスタッド)が生きた証のマナストーンとリントがへし折った二本の角。

マナストーンに至ってはここ最近で一番大きく、バランスボールと見紛うほどだ。


「凄い…凄いよ君は!」


興奮した顔と目つきでリントを見る旅人とは裏腹にリントの方はかなりふらふらとしており視線も定まっていない。


「リント、大丈夫…なの?」

「すのー…」


おぼつかない足取りで少しずつスノウに近づく。

現在、この大着火(イグナイト・ロアー)には弱点と呼べるデメリットが複数存在する。


一つは体内の魔力循環を強制的に加速させるため身体全体の負担が大きいこと


二つは瞬時に大量の魔力を消費させるため仮に仕留めきれなかった場合、継続して戦闘を行うことが難しくなること


三つは…


「何よこれ…リントの身体…熱すぎる!」

「ひやしてぇー…」


異常なまでの体内温度の上昇だ。

前者2つは魔力的なデメリットであったが、この体内温度の上昇に関しては単純に人間の生命活動に危険が及ぶ。


崩れ落ちかけたリントの体を抱き、受け止める。


「ちょっと待ってなさい!すぐに冷やしてあげるから!」

「できればあいのハグもー」

「必要ないみたいね」

「ごめんなさいほんとにお願いします冷やしてくだ…」


気を失ったリントを膝の上に乗せ、軽く魔力を掌に込めて冷気をリントに当てると蒸気が発生する。



「間に合わない…もっと強い氷魔法を使わないと!」

「これを飲むんだ!」


スノウがさらなる魔力を掌に込めようとしたタイミングで旅人は鞄から液体の入った瓶を取り出して飲ませようとするがそれを止めたのはスノウだった。


「リントに何する気よ!」

「これを飲ませるんだよ!君がこれから使おうとする氷魔法では彼の体との温度差で結果的に悪影響だ!」

「信用できない…」

「こう見えても僕は薬師なんだ。資格の掲示だって出来る!だけど今は…飲ませる!」

「ちょっと!」


瓶の蓋を開けてリントの口に無理矢理、藍色の液体を口に注ぎ込む。


「大丈夫、安全性は保証されてる。これは魔氷草(まひょうそう)の蜜と花蜂(ハナバチ)の巣から取れた蜜を調合してミガレユノの雪解け水で薄めた特性の鎮熱剤なんだ」

「…熱が引いていく」

「どう?嘘は言ってないよ」

「感謝はするわ。でも一応、識別水晶を出しなさい」


少なくとも嘘は言っていない。

この男はリントを救いたいと心の底から思っている事を感じる。

資格を確認するとして今はリントの無事を祈ろう。


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