魔法世界のほんとう
「貴女がお姫様だなんて、面白いですわね」
「やめてよ、もう」
そんな中でも今ここにマリスがいてくれることは何よりも安心できるのと同時に、そんな安心感を与えてくれる彼女に、一番に伝えなくてはならないことを思い出した。
伝えなくても良いのかもしれないが、どうしても、迷惑かもしれないけれど、マリスだからこそ話しておかなくてはならいことがある。
「ねぇ、マリス」
「どうかしまして? そんな深刻そうな顔をして」
「私、私ね」
私の顔色を伺い心配そうな表情をするマリスを見て、膝の上で手をぎゅっと握り締めた。
「私ね、好きな人が出来たよ」
「……それは、アルウェス様かしら?」
返された言葉に目を見開く私を、可笑しそうに目元を緩めたマリスが声を出して笑った。
「ふふふ、私も馬鹿ではなくってよ。それに学生時代から、貴女の頭の中はアルウェス様でいっぱいでしたでしょう」
「いっぱいって!?」
なぜそんな当たり前のように話されるのだ。
あの頃はそんな気持ちなど微塵もなかったはず。それにアイツにそういう気持ちを感じたのはついこの間のことで、けしてそんな、
「何をするにもロックマン、ロックマンって、二言目にはあの方の名前が出てきていましたもの。わたくしが呆れるほどでしたわ」
「ご、ごめん」
マリスにそう見えていたのなら、今更何を言っても言い訳でしかない。
しかしそんな前から彼女にそう思われてしまうような態度をとっていた私も私である。客観的に聞いていてあほうでしかない。
「謝ることではないわ。でしたら、その想いを伝える気はありますの?」
「それは」
「逃げますの? ご自分の気持ちから」
「逃げるなんて」
「嘘をつきますの? 好きではないと」
気持ちがハッキリとした以上、いつまでも秘めて、ましてや一生隠していくことなんて私の性分上できやしない。
だからどうせいつか相手に伝えるのならばとマリスに先に告白したが、想いを伝えるのかと直球で聞かれると、今まで感じたことのない酷い動揺が全身をかけ巡った。
アイツに、ロックマンに、彼に、それを伝えるということ。
きっと馬鹿にされるに違いない。
急に何を言っているのかと怪しまれるのがオチである。
「わたくしは、己に正直に生きています。貴女は嘘が嫌いとおっしゃっていたはずだけれど、違いましたの? 気持ちは待ってくれませんわ。平和なこの世も、またいつ崩れるか誰にもわかりません」
「マリス」
「ふん、当たって砕けてみれば良いですわ! わたくしは何度も砕けていますけれど?!」
「自虐しないで!」
「それにアルウェス様は恩賞に『婚姻の自由』を望みましたのよ。一代限りですけれどね。今ではそこら中の女こどもが色めき立っているのですから、気が気ではないのですわ!」
婚姻の自由?
何故そんなことをロックマンは望んだのだろうか。
不思議に思っていれば、何回砕け落ちたと思うの貴女は甘いですわ、いいや甘くない上手くいくとは微塵も思ってない、だからその意気込みの悪さが甘いと言って……など、ぎゃーきゃーと二人でそんなやり取りをしたのち、マリスは王女の仕度があるからとのことで裏へと戻っていった。
久しぶりの喧嘩腰の冗談じみた言い合いが妙に心地好い。
私は目を閉じて一人、マリスの言葉を胸に刻み込んでいった。
*
「マリスさん、良かったの?」
「意外にも恋敵の背中を押しちゃって」
特別、友人としてナナリーに会う機会を許されていたニケとベンジャミンは、裏手からその様子を見ていた。普通にナナリーに会うつもりが聞こえてきた会話が会話なので途中から出るに出られなくなり、マリスがこちらに来るまで見守っていた二人は、彼女がこちらに戻ってきたところをつかまえて話しかける。
マリスはニケとベンジャミンを見て、聞かれていたのかと苦笑した。
「好きになったと、わたくしに馬鹿正直に報告に来ましたのよ。普通なら隠すようなことを、迷いもなく、アルウェス様のことを好いているわたくしに。恋する気持ちは対等だもの。わたくしはそんなナナリーが好きですわ」
キョロキョロと周囲を窺い、友人を探しているであろうナナリーのほうを見て目を細める。
「ずっと、ずっと彼を見てきたのよ。それにどうせ取られるなら、ナナリーになら、本望ですわ。どこからか出てきたポッと出の新参の姫君よりも、悔しくありませんもの。ただ、胸をちょっと貸していただけるかしら」
二人の腕をぐっと引き寄せて、その腕に顔を押し付けた。
「大好きな殿方と、大好きな親友なんだもの。泣かないわけには、いかないでしょう?」
これで本当に、本当の失恋なのだと。
マリスはベンジャミンとニケの腕に包まれながら、声を上げて泣いた。
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