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魔法世界のほんとう

「この良き日が訪れたことを、嬉しく思う。世界の終わりというものを体感した者の一人として、この身が声が、同じ者達に届いているという現実に、心はどうしようもなく震えるばかりだ」


 復興祝いのパーティーは、王様の挨拶から始まった。壇上に並ぶ王族の椅子にはゼノン王子の元気そうな姿が見える。

 あっという間に整ったパーティーなので、同じお城の中にいても王子と会えることはなかった。

 そもそもゼノン王子と私のような国民が会えること話せること自体が異例なので、残念さを感じるのはお門違いである。


「そして今日、世界の終わりを始まりと変えてくれた最後の功労者、ナナリー・ヘル。彼女が深い眠りからようやく目を覚ましてくれた。さぁここへ、恩賞の儀を行おう」


 王様に促され、私は数段ある階段を上がり壇上の中心まで歩いた。マリスから流れを聞かされていたので、一礼をして王様と向き合う。英雄みたいな言われ方にむず痒さと気持ち悪さと申し訳なさやらが心で入り乱れる。

 私が壇上に上がると島中と言っても過言ではないほどの、割れんばかりの拍手喝采が起きた。心臓に響くほどの量だった。


「君のご両親とは話をさせてもらった」


 ゼノン王子に遺伝したであろう艶やかな黒髪をなびかせて、ゼロライト王は大きな声でなく、普通の声量で世間話をするように私へ話をする。


「私、まだ二人とは話せていないのですが」

「ヘル家の処遇については彼らを交えて話し合いをした。まだ纏まってはいないが、彼等二人には一時的に海の王国へと行ってもらっている。海の王族の血縁者、そしてその王女と王女の娘とあれば、生半可な扱いは王国では出来ない。たとえ家出し、勘当同然の身だったとしても、だ。海の者達が助けに来たということは、つまりそう言うことなのだ」


 二人は、今回海の王国にドーラン王国が助けられたということで、王国の使者として同盟を結びに海の王国まで行っているのだという。いつまでもこのままでは当然いられないので、その辺りの決着をつけつつ正式な両親の処遇を海王様が下すのも待っているのだとゼロライト国王様は言った。

 何せ海の中と陸の上の時間の流れが違うのもあるので、まだまだかかりそうだと私はため息を吐く。


「私はこのドーラン王国を出て行ったほうが良いということですか……?」

「そうではない。功労者には百万ペガロと、望みを一つ叶えるという恩賞を与えている。君はまだそれを受け取っていない。ナナリー・ヘルよ、望みは何かあるか?」


 望みの部分を聞いて、辺りは静寂に包まれる。

 壇上から、私は皆を探す。ニケ、ベンジャミン、サタナース、ゾゾさん、アルケスさん、ハリス姉さん、所長、みんな、みんな。


「私はどうか、変わらない毎日を望みます」


 私の望みは、叶うならば。

 お姫様でもない、特別な何かでもない。


「今までもこれからも、変わりません。私はここでドーランの人間として生きて、大好きな受付のお姉さんになって働いて、家族や友人たちと共に過ごし、人生を謳歌していきたいのです」

「変わらないということはとても難しい。海の王族の血縁者として認知され、氷の始祖の力を宿らせているということが認知された今、普通とは程遠いものとなった。それでも君は普通を望むのか?」

「望みを叶えてくれるのなら、私はそれを望みます。平民として今まで通りに」

「……そうか……。アルウェスの言った通りだったな」


 眉毛が下がり、それでいて笑っているような表情をした王様はロックマンの名前を口にした。

 どういう意味だろうかと考えていると、王様が大きく二度手をパンと叩いた。


「あいわかった! さぁ宴を始めよう、魔術師長はここへ!」


 壇上の反対側から、紺色の外套に身をつつんだ金髪の眼鏡の男が歩み寄る。長い髪を横に流し、その先を髪留めで纏めている。

 いくつもの指輪を両手にはめており、金色の長い杖を床に突きながら私と王様の側まで来た。


「では国王陛下、祝福の魔法を。このドーランが何百年先までも光輝く国であるように」


 その男が金の杖を振るうと、空からは光の粒子が落ちてきた。


 見渡せばそれは国中に降り注いでいて、まるで光の雪が降っているような光景に目を奪われた。

 人々は空へ手を伸ばしている。


「はい、君にも祝福を」

「痛っ」


 長髪眼鏡の男――アルウェス・ロックマン――は国民達の歓声を背景に、私のおでこをその金の杖でコツンと小突いた。

 痛い何すんのよ、と鈍い痛みに苛立ちながら相手の顔を見る。


 澄ました顔立ちは相変わらずで、髪は以前よりもさらに伸びている。

 あの最後に見た姿からは想像できないくらいに元通りになった姿を見てしまうと、胸が締め付けられるような安心したような、悔しくも嬉しいような、鈍くて淡い痛みを感じた。


「今……皆の記憶からヘルに関しての記憶を、一部を除いて排除した」

「記憶を?」

「世界の誰も、君が海の王族であるということを忘れるように。誰の記憶にも残らないように」

「世界って……は、せ、世界!? 王国内だけじゃなくて、もしかして」


 世界中、大陸中に魔法をかけたとでもいうような言い方。

 この光の粒は……。

 それが本当ならば普通の魔法使いでは出来ない、とんでもない魔法をかけたこととなる。

 本人はそれを知ってか知らずか、昨日の夕飯は野菜を食べた、くらいの感覚で言っているのだから恐ろしい。


「僕は世界に嘘をつく。どう恨んでくれてもかまわないよ」


 そう言って頬を軽く撫でられた。

 長い指先から温かな熱を感じる。

 

 私の願いは、ただ普通に過ごしたいというものだった。考えてみれば、もう普通なんて言葉はつけられない。無理なお願いだろうとは感じていた。

 記憶を消すというのは、嘘よりも重いものだ。

 嘘が嫌だと言う私にロックマンは今、何を言っただろうか。


「だけど君の世界は君の中にちゃんとある。それだけは覚えていて」


 その言葉に言いようのない切なさを感じて、私は思わず奥歯を強く噛んだ。

 私はずっと庇われっぱなしで。


「まぁこれで、仕事も他も落ち着いて過ごせるんじゃない? あと心配しないでね、君のご両親には掛けないようにしてあるから。それと海の中まではさすがにかけられない」


 ロックマンはおどけてそう話す。


「踊るは人生! 家柄容姿、しがらみも今日この日は関係ない! ただ手を取り合い踊り明かそう!」


 王様の言葉に、ワァ! と歓喜の波が中心から広がっていくのが分かった。

 頬につたう涙を拭えば、空には赤い花びらが舞っていた。

2話更新です。

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