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受付嬢三年目・魔法世界の悪魔

 魔物達は待っていましたとばかりに私達へ襲いかかってきた。


「セリエーラ(大波)」


 ララの背中に乗りながら避けようとすると、飛沫をあげた大波が魔物達を飲み込んでいく。


「ありがとうニケ!」

「こっちは気にせず、ぶちかましてきなさい!」


 大蛇(オピス)に乗ったニケが親指を立てて私の横を飛んでいく。騎士達も大丈夫だと声を掛けてくれ、私達三人は更に上へと上がっていった。



「自ら来おったか」


 博士に取り憑いたシュテーダルは、自分を囲む私たちを見て大声で笑う。

 これはシュテーダルとの戦いだが、時間との戦いでもある。魔物を相手にしている騎士や王子達の体力の限界、私たちもそうだ。

 シュテーダルはひとしきり笑うと、その身体からは――アリスト博士の背中から黒い手のようなものが生えだした。まるで卵の殻を割るように、私達は何が出てくるのかと身構える。


 博士の中から出てきたのは、銀色の長い髪、二つの赤い瞳、顔は青白く、額には青い目玉が一つ。首から下は龍のような黒い鱗で覆われていて、普通の人間と身体の形は限りなく近く、それでも人間とは言えない奇妙な生き物だった。尾てい骨のあたりからは龍の尻尾のような長い尾がはえている。


「やぁっと会えたな。待ち焦がれていたぞ」


 先程までのしゃがれた男の声ではない、青年のような声だった。

 一方でアリスト博士の身体は支えを失ったように地上へと落ちて行く。


「博士!」


 ララと急いで助けに行こうとしたが、博士が落ちて行った先にはロックマンがおり、ユーリの背中の上で彼を無事に受け止めている。

 気がついてくれてよかった。


「あんたがシュテーダルなのね」

「そうだが? なんだ、もっと大きな怖い怪物かと思ったか? ん?」


 三対一は卑怯かもしれないけれど、大勢の血を、魔力を取り込んだと思えば三人なんてまだまだ足りないくらいである。

 シュテーダルは長い舌をベロリと出して、自分の頬や額を舐めた。


「氷の力に耐性がないことは認めるが、そう容易くはいくまい」


 そう力強く言った途端、私たちの身を削るような突風が吹く。そしてそれは文字通り私達の身体に傷をつけていき、突風は一瞬だけに留まらず、刃物のように三人の身体を切りつけた。ララは幸い結晶化をして丈夫になっているので体勢は崩れることはなかった。私自身も受け身を取り、どうにかやり過ごす。

 対象を囲んだら一斉に攻撃を仕掛ける約束をしていたので、三人で目を合わせた。

 氷型の魔法使いであるキリナという女性騎士と、ラッドという男性騎士へそれぞれに目くばせをする。


「ワーマシャ(屑の矢)」


 硬そうな黒い鱗がどんなものなのか調べようと、私は氷の矢を放った。


「だめだ弾かれるぞ!」


 他の二人も同時に技をかけたが、消えたりどこかへ移動したりと狙いが定まらず当たらない。私も何本かは跳ねのけられたり空振りしたりしたけれど、偶然当たった個所はジュワ……と音を立てて鱗の一部が剥がれかかる。

 確かに耐性はないらしいが、大きな損傷を与えるには足りない。


「だが当てられれば勝機があるということか」

「隙を作ることが先決かもしれないですね」


 攻撃を受けながら三人で再び固まると、騎士の二人は一瞬の隙を作ることが大切だと話した。


「一斉に攻撃を仕掛けるのも良いが、ここは隙を作る役と……っとまた来るぞ!」


 私達の間を黒い閃光が切り裂いた。その際キリナさんの腕に火傷のようなものが出来てしまう。治癒魔法を使い治そうとするが、一度は傷口が塞がるもののまた広がってしまった。なんてことだ。もしかしてあの黒い閃光、触れたら最後治らない傷を負わせられるのかもしれない。

 これには流石に冷や汗をかく。


「氷は吾に、それはそれは優しく微笑んでくれた。お前も吾に慈しみの笑顔を見せてみよ」

「誰が見せるかっつーの!」


 三人でまた散り散りになりシュテーダルを囲む。


「きゃあああっ」

「キリナ!」


 しかし分かれたのが悪かったのか。

 悲鳴をあげたキリナさんの首には、いつの間にかシュテーダルが牙を突き刺しその溢れ出る血を舐めていた。

 みるみるうちに彼女の動きは鈍くなり、足元から氷漬けになっていく。

 急いで彼女のもとに飛んで行くもキリナさんはシュテーダルの手を離れて落下してしまい、近くにいたラッドさんが彼女の身体を魔法で浮かせて防御膜の中へと避難していった。


 これで氷型はあと二人となってしまった。外に出てから数刻も経たないうちにこんなことになるとは。

 あらかた予想はしていたけれど、どうにも私達には不利過ぎる状態とは言えこれではあまりにも……。


「うまい、うまいぞ! もっと、もっとだ!」


 ラッドさんの後を追ってか下の防御膜を破戒しようとするのを見て、私は氷の糸をシュテーダルにグルグルと絡みつけて両手でグイと引っ張る。


「ぜっったいに行かせないわよ!!」

「貴様!」


 シュテーダルは一気に筋肉を増幅させ氷の糸を太くなった腕でブチブチと自力で解くと、私の方へ向かって来る。

 何という力だ。あまりにも簡単に切れたそれに顔を顰める。その間にもシュテーダルは黒い雷のようなものを鞭のように操り、それを振りかざして攻撃をしてくる。

 何度も何度も撃ち込まれるが、それに反撃して私も自分を守りながら氷柱を出して叩きつけたり、氷の吐息を吹きかけて足を凍らせたりと何処か一部分でも動きを止めようと動いた。

 ララは私の狙いどころを分かっているように飛んでくれる。


「先にお前を早く取り込んでしまうのも悪くない」


 卑しい目でシュテーダルは私を睨んだ。


 冗談ではない、誰が取り込まれるものか。

 私の身長よりも数倍大きな黒い手を両脇腹から出したシュテーダルは、それを自分の手のように動かしてバチンと虫でも捕まえるように私を捕らえようと右往左往に、物凄い速さで動かした。逃げても逃げても追われるそれに対抗しようと、人差し指を向けて呪文を唱える。


「アモネス・フィア」


 竜巻のようなとぐろを巻いた吹雪を敵に向けて打ち放つ。

 ゴゴゴと威力を上げて突っ込んでいったそれはシュテーダルの出した防御の壁と、黒い手を貫いて本体に直撃した。


「グァッ! ……愚かなっ」


 直撃したそれに体勢を崩すも、敵を倒すまでには至らない。肩の辺りに傷を作ることは出来たが、立て直しが早いので呪文を唱えて攻撃をしようにも、その間にあっちの魔法が発動してしまい邪魔をされる。魔力を気にして小出しの魔法しか仕掛けることが出来ていないが、どこかで一発大きな魔法を仕掛けなければ確実にひるませることが出来ない。


「小癪な魔法を使いおって……!!」


 傷を負った肩を押さえているシュテーダルは、そう叫ぶと私ではなく違う方向へ向けて黒い閃光を放とうとする。


 何をするつもりなのかとその先を見ると、魔物と戦っている友人の姿が見えた。


「ベンジャミン!」


 彼女に向かって放たれた光を阻止しようと私の意識はそちらに向かう。巨大な結晶鏡を出現させて間一髪のところでそれを反射させるように仕向けると、狙い通り閃光は跳ね返っていった。

 それに気がついたベンジャミンが助かったわと私へ手を上げたが、それは一瞬のことで、次には私の後ろを指差して焦ったようにこちらへ向かって来る。


「逃げてナナリー!」


 友人の無事にホッとしていた私だったが、その一瞬の隙が命取りになることを相手が分からないわけがなかった。気づいた時には、龍を象った邪悪な渦が私を取り込もうと背後へと迫っているのが見えた。

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