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71話 疑惑



 カサンドラに認めてもらう為に、自分達だけで塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレントを倒す決意をしたヤディカ、インユゥ、カレオの三人の行動は迅速だった。


 三人がまず行ったのは協力者の確保である。

 探知と隠密に優れるヤディカとカレオが協力して周囲を素早く捜索、スライムの集落から離れたところで黄昏ていたジョンを発見した。


 ジョンはぼんやりと空を見上げていたが、近付いてくる三人を見て我に返り、にやりと笑う。


「おぅ、お仕事はもう終わったのかい?」

「ジョン、アタシ達を手伝ってくれないか?」

「あん?」


 単刀直入にインユゥが切り出す、当然、ジョンは何が起こっているのか分からず、目をパチクリさせていた。


「あー……、悪ィ、いきなり過ぎたよな。あのな、アンタの仲間は助かる。その……、まだ生きていたヒトは」

「あぁ、最初ハナっから全員助かるとは思っていなかった……。手伝えってそのことか?」

「いや、違うんだ。治療はカサンドラが全部やってる。それでお仕舞い、あとは時間の問題だよ」

「そうかい……」


 ジョンは安心したように息を吐いた。

 仲間の無事を喜ぶ、というよりも、仲間の顔を見ずに済んで良かった、といったような反応だった。

 三人はそのことに少し違和感を感じたが、ジョンにも色々あるのだろう、と深く追及するのを止めた。


「アタシ達はその間に塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレントの奴をやっつけちまおうと思うんだ」

「おいおいおい、無茶言うな、あの塩漬け野郎は生半可な相手じゃねぇ、子供にどうにかなる奴じゃねぇんだぞ?」

「だから、意味が、ある……!」


 ヤディカ、インユゥ、カレオから気迫が立ち上る。

 ジョンが見た先程のカサンドラの姿、炎と闇を纏った六腕の異形の迫力に迫ろうかという勢いだ。

 確かに、相応の実力を感じる。だが、それでも 塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレントにはまだ届かない。

 だが、彼女達は亜人の中では格段に強い力を感じる。そして、何より若く成長性が高い。

 もしも、戦いの中で強くなることが出来れば、あるいは……。

 ジョンはぷるぷると体を震わせた。

 肩を竦めたつもりであるらしい。


「それで、俺に何をしろってんだ? まさか戦力として当てにしてる、なんてこと無いだろ?」

「ある意味、そうだべよ」

「はぁ?」


 ジョンは再び目をパチクリさせた。

 当てにされているとはどういうことか?

 スライムというのは我ながら情けなくなる程弱いモンスターなのだ。出来ることなど殆ど無い。


「おいおい、自慢にならねぇがスライムってのは弱いんだぜ? 囮にでもする気かよ?」

「そう……、囮になって、欲しい……」

「でも、 塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレントのじゃないからな……? カサンドラのだよ 」

「はぁ? カサンドラの旦那の?」


 ジョンは困惑したように眉を寄せた。

 しかし、三人娘の顔は真剣だ。


「そう、カサンドラが、あたし達に、気付かないように、して……、欲しい」

「アタシ達が 塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレントの所に行ったなんてバレたら、あっという間に連れ戻されちまう。それじゃあ意味がないんだよ 」

「ジョンさんにしかお願い出来ないんだべよ、すまんけども、やってけれ」


 ジョンの頭にカサンドラの姿が浮かぶ。

 表情の分からないスケルトンながら、この三人娘をとても大事に思い可愛がっていることがビシビシと伝わってくるようだった。

 もしも、この娘達があの恐ろしい保護者を置いて危険なモンスターの住処へ向かったと知れば、半狂乱になって追いかけるだろう。

 それに立ち向かえ、というのか?

 無理だ。


「戦う必要無いからな? こう、なんつーか、上手く騙してさ……、アタシ達に注意が向かないようにして欲しいっつーか……」

「一回、家に帰った、とか……」

「足りなくなった道具を取りに戻ったとかでも良いべな」


 その嘘がバレたらどうなるのか……。

 きっと、黒い骸骨の怒りのオーラだけで貧弱な我が身が消し飛ばされてしまうだろう。

 冗談ではない。

 冗談ではない、が……。

 しかし、これはジョンにとっても都合の良い話だった。

 もしもこの娘達が万が一 塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレント を倒すことが出来たとしたら?

 そうなれば彼と彼の主が求めているものを、期待していた以上に手に入れることが出来る。

 例え失敗したとしても、元々予定していた数に変動はない。


 ジョンの頭の中で、身の危険と期待以上の成果の二つがせめぎ合い、ぶつかり合う。

 やがて、天秤は片方に傾いた。


「……仕方ねぇな、出来る限り旦那の気を逸らしておいてやるよ」

「マジか! ジョン、ありがとう!」

「骨は、拾ってあげる、から……」

「最悪、殺されることは無いべよ! だからきっと大丈夫だべ!」

「そう捲し立てなくてもいいぜ、引き受けるって言った以上はやるさ。ただし、あんまり長い間は引き留めておけねぇ、旦那をマジで怒らせたくないからな」

「分かってるって! いざとなったらアタシに無理矢理やらされたって言えばいいからな!」


 インユゥの言葉に悪気はまったくないのだが、男としてのプライドなどまったく頓着しない無邪気な一言に、思わずジョンは苦笑した。


「ハッ、流石にそれはねぇよ、これでも一応男だからな」

「へへ、男らしいじゃん。じゃあ、任せた!」

「おうよ、お前ら、死なないようにな、お前らが死んだら、俺も殺されるぞ、多分」

「ん……、死なない」

「逃げ隠れするのは得意だべ、いざとなったら、ワタスが二人を担いで逃げるだ」


 カレオが胸を張るが、ヤディカとインユゥは白けたような顔でないため息を吐いた。


「お前、一番弱いんだから、真っ先にやられるなよ?」

「担いで、逃げるのは、御免……」

「何でだべ!?」


 ヤディカ、インユゥ、カレオの三人は、喧しく騒ぎながらジョンの家の裏手、トンネル建設予定地に向かっていった。

 その顔には、これから強敵に挑戦する緊張は見られず、むしろ、ピクニックにでも向かうかのような楽しい期待に上気していた。


 インユゥがカサンドラの魔力の動きを真似て、些か頼りない強度ではあるがドリルを作り、掘った所をヤディカが毒液で固定、スライムの粘液で無い分、脆く崩れやすい毒液が保っている間に、カレオが運んだ木材で梁を作る、という連携で三人は 塩枯死樹人ソルトゾンビトゥレント に向けて、地下を進んでいくのだった。




◆◆◆




 家の中には真っ黒な俺の魔力が満ちている。

 スライムさん達の体は随分と瑞々しさが戻ってきた。このまま続けていればその内意識を取り戻すだろうな。

 ただ、一部のスライムの中には、半透明の水色っぽい体に黒いもやみたいなのが溜まってしまっている。

 やっぱり、俺の魔力が何らかの影響を与えてしまっているみたいだな。重症だったスライム程その影響は

強いようだ。


 そういえば、ビルカートのおっさんも今にも死にそうな状態から蘇生してたんだよな。

 もしかして、俺の魔力って蘇りの効果でもあるのかしらん?

 そしたら凄いな。俺を取り合って戦争が起こっちゃうんじゃないの? 嫌! 止めて! 私の為に争わないで!

 などと真っ黒い骨が言うような状況になりますな。

 うん、無いわぁ。なんのトキメキも萌えも無いわぁ。それを自分がやるってだけで吐き気を催すわ。邪悪だわ。


 まぁ、そんなグロシーンは置いておいて、ここで一つの仮定が生まれたわけです。

 俺の魔力の影響を受けるのは死にかけてるヒトだけなんじゃないか、ということ。もしくは死んでるヒト含むのだろうか? こんど狩りの時にでも実験してみよう。


 更にちょっと前のことを思い出してみよう。

 黄泉之戦兵ヨモツイクサに進化したての頃、俺は周囲を真っ黒にするほど魔力全開で走ってました。

 その時、誰かに影響を与えたでしょうか?

 報告はありませんでした。何かあったら俺や村長に連絡が来るはずだ、でもそんなことは一切無かった。亜人族どころか、草花昆虫動物魔物に至るまで、殆ど何の変化もなかったのです。


 この仮定が正しいとすると、俺はまったく無意味な懸念でヤディカちゃん達を追い払ってしまったということになる。


 オゥマイガァッ!

 敢えて嫌われるかもしれない危険を冒したというのに、まったく検討外れでしかなかったというのか!?

 マジかよ嘘でしょ? 嘘だと言ってよ〇ァアニィイイ!


「ぬ、ぉお……、こ、ここは……」

「あれ……? わたしは確か、死んだはずじゃ……」

「おい、生きてる……? 生きてるんだ!」

「これは、夢か……?」


 お、スライム達が目を覚ましたようだ。

 長らしきスライム、ズィルバさんも起きたみたいだね。

 後遺症は無いようで良かった。無い、よね? 有ったとしても、多分それは俺の魔力のせいです。保証は出来る限り頑張ります。


「ぎゃああスケルトンだ!」

「な、なんでモンスターがこんな所に!」

「落ち着け! 俺たちもモンスターだろうが、は、話せば分かるはずだ!」


 皆さん、寝起きから元気ですね。

 まぁ、魔力で体の殆どが作られている種族だから、その魔力が補充されて呪いも解けた今、元気になるのは当然と言えば当然かもしれない。

 それはそうと、皆さん、ジョンみたいに顔が濃くないね。というか、のっぺらぼうなのね。ジョンが特殊なのか。これは『覗き見』が無いと区別が付かないな。


「落ち着いてくれ。私は敵ではない」


 取り敢えず友好を示すのだ。

 例え真っ黒いな骨で眼窩に鬼火が浮かぶスケルトンであろうとも、意思疏通が出来て握手が出来るなら友達さ!ぽぽぽぽーんとね!


「ま、まさか、我らを癒して下さった暖かく優しい闇は、貴方様のお力なのですか……!」


 ズィルバさんが前に出て、ぺしゃりと潰れた。いや、土下座? 的なやつ? したのか?

 お力ってか魔力ね、保有量に物を言わせた強引な治療だった訳ですが。

 呪いを解くにはそれしかなかったみたいだけど。


「皆さんの呪いを解くには高濃度の魔力で体を満たす必要があったのだ。何か違和感などは無いか?」

「なんという……、貴方は救世主……、いや、神だ!」


 違います。この世界の管理者はゴツいオッサンです。背広が筋肉でピチピチになってる熊っぽいオッサンです。


「我らの命を救って頂いたばかりではなく、進化までさせていただけるとは……」


 はい?

 進化?

 ごめん、何が起こったのか把握できてないよ、俺。

 ちょっと『覗き見』しますよ、失礼。




《ステータス》

名前:ズィルバ

種族:薬性粘生体ミントジェリー

Lv.2

HP:100

MP:30

SP:65

攻撃力:40

防御力:30

素早さ:80


◇スキル

『流体操作』『変色』『分裂』『合体』『念話』

『水魔法』『薬精製(New! )』『発酵促進(New! )』

『毒耐性』『呪い耐性』



◇称号

【長寿】【知恵者】【薬師(New! )】【闇の眷族(New! )】




 うわぁあ、【闇の眷族】が付いてしまっている! やっぱり!

 そしてなんで進化? 俺が治療することで経験値が入るの? 意味不明です。

 ズィルバさんだけじゃない。この家に集められて俺の魔力を浴びた全員、何らかの進化をして、尚且つ【闇の眷族】の称号を獲得していた。

 そういえば体の色がみんなちょっぴりだけど違う。

 やったぜ『覗き見』使わなくても区別が付くぜ!


 うん、もう余程酷い状態じゃない限り治療するの封印しとこう。こういう種族全滅みたいなパターンそうそう無いだろ……。

 とにかく、スライムさん達がこうなってしまったのは仕方がない。何度も自分に言い聞かせたが、死ぬよりかはマシだろう。


「私は治療しただけだ。何故進化したかまでは分からない。それと、私は神ではない。ただのスケルトンだ」


 あ、やべ、勢いでスケルトンって言っちゃったけど、今の俺、種族がスケルトンじゃないわ。黄泉之戦兵ヨモツイクサだったわ。まぁいいか。


「我々スライムは魔力を糧として成長いたします。また、その為には長い年月を必要とするのです。貴方様の魔力が無ければ、一族の仲間の多くはまだ話せないままだったでしょう」

「ふむ。そうすると、ジョンは中々の長生きなのだな」

「ほほぅ、貴方様には我ら以外にもスライムのお知り合いがいらっしゃるのですな」

「何? ジョンだ。濃い顔のスライムだ。ここの一族ではないのか?」


 ズィルバさんは、ぐにょりと体をくねらせた。考えているらしい。念話で仲間にも聞いてくれているのか、周囲のスライム達もぐにょんぐにゃん動き出して、ちょっとシュール。


「救世主様、ジョンというスライムを知っている者は、我が一族にはおりませぬ」

「……どういうことだ?」


 そういえば、ジョンはここのスライム達を見たくないと言っていた。治療に立ち会いたくない、とも。

 もしかして、ジョンが仲間ではないということが露見するのを恐れたのか?


 しまった! 今外にいるのはヤディカちゃん達とジョンだけだ。

 もしかして、俺から三人を引き離すのが目的だったりしたのか? 理由は分からないが。

 くそ、嫌な予感がする!


「私は外を見てくる。危険だから皆はここで待っているんだ」

「救世主様、何が起こっているのです?」

「分からん。だからそれを調べにいく」


 おのれ、ジョン。

 もしもヤディカちゃんを泣かせたりカレオちゃんを傷付けたりインユゥちゃんを飢えさせたりしてみろ!

 蒸発させてやる!

 インユゥちゃんを飢えさせないのは俺も難しいけどな!



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