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21話 他種族来訪



 巨大な木をくり貫いて作られた広いドーム。

 ちょっとした会議室くらいはあるんじゃなかろうか?

 そんなところに俺は居た。

 会議室っぽいというか、まんま会議室だな。

 今からここで話し合いをするんだから。


 この森に住む亜人種族の勢力争いの中で常にトップを争ってきた二大巨頭。


 ゼクト族とネビ族の長たちと。


 村長がかなり頑張ってくれたらしく、族長たちと話し合いをしたいと提案してから一ヶ月も経たない内にこの会談が実現となった。


 俺は上座に座り、族長たちが到着するのをじっと待つ。


 ここで一つの疑問が。

 Q.何故スケルトンが会議の中心人物が座るべき上座に腰を下ろしているのでしょう?


 A.俺が知りたいです。


 いや、知ってるんだけどさ。


 普通はここでエルカ族の村長が中心になって話し合いをするべきだと思うんだけど、村長は自分がやったらどうしても今までの確執から揉めてしまうと言って辞退してしまい。その役目を俺に押し付けてきたのだ。


 俺としては、村長が出来ないならその息子にやらせろと思ったんだが、エルカ族の導き手として俺に出席して欲しいんだと。


 何を言っても駄目、俺が仕切るべきなんだとよ。

 フフ、話を聞いてくれません。

 コミュ障を拗らせ、未だにぼそぼそとしか喋ることの出来ない骸骨に会議の中心で喋れと申すか。

 内心の声が駄々漏れなら結構スムーズに話せると思うんだけど。


 しかし、実に面倒くさい。

 結局、村長は、エルカ族には――自分で言うのもなんだが――こんなに強い人がバックにいるんだぞ、とアピールしたいだけなんだろうし。

 政治、めんどい。


 ライダー技修得に勤しみたい俺はまったくやりたくなかったんだが、護衛として任命されたヤディカちゃんがヤル気満々になってしまったので、いやいやながらもヤらざるを得ない。


 最近、『薬調合』というスキルを得て、毒の中和剤を肌に纏わせることが出来るようになった為、ヤディカちゃんはより沢山の仕事をするようになった。

 村の中で皆と一緒に居られることが嬉しくて仕方がないらしい。

 護衛を任されて誇らしさと嬉しさで輝くヤディカちゃんの顔を見たら、そりゃあ断れないよ。


 多分、いや恐らく確実に村長はそこらへん計画してヤディカちゃんに話を持ってっている。

 おのれぇ、まだそういう所は長生きした人にゃあ勝てないな。

 師匠にもよく、戦い方に狡さが足りないと言われていたしなぁ。


 仕方ない、文句はもう言わないよ。そもそも言い出しっぺは俺だしね。

 こうなってしまうのも仕方がないかも。

 ただねぇ、俺はいつまでもこの島に居るつもりはないんだよ。

 世界の管理者とやらの依頼である、この世界全体のレベル上げをしていく積もりだからね。


 世界の管理者っていうとなんか黒幕っぽいな。

 管理職の人、とかでいいか。


 まぁ、それはどうでもいいとして、ゼクト族とネビ族のレベルだって上げていく予定なんだから、今の強さに胡座かいているとあっという間に引っくり返されるよ。


 俺がいなくなった後、君たちどうすんの?

 俺はエルカ族の指導者になるつもりはないからね。


 ま、具体的にこの後どうしていくかは、ゼクト族とネビ族の様子次第なんだけどさ。


 俺も暇じゃあないから、わざわざ嫌がる人を無理矢理鍛えるつもりはないし、明らさまにこちらを見下してくるようなら苛つきもする。


 仮に二種族の代表達がそんな態度だったら、無理やり和解することはしない。

 出来るなら力になりたい。でも拒まれるなら協力しないよ。お互いに不干渉でいようね。


 そんな関係性で丁度いいと思う。

 村長には理想を語って聞かせたけどね、俺の中身なんてそんなもんです。


 さて、そろそろ時間なんだけど……うん、当たり前のように二種族とも遅刻だな。

 前提としてこっちを下に見ているんだろうから、当然っちゃ当然だろうけど。

 試し行動ってことでもあるんだろうな。


 力を付けた元弱小種族が調子に乗って我々を呼びつけた。

 業腹ではあるが、ここは一つ話にのって試してやろう。


 大体こんな所だろう。


 まぁでも多分意味ない。

 俺の後ろに控えている村長とその息子さん、ヤディカちゃんの三人も冷静に姿勢を保っている。


 自分達がどう思われているかも、これからどう思われようとしているかも、ちゃんと共有している。

 会談の前の情報共有。当たり前ですから。




 やがて、巨大な木の幹をそのまま利用した扉が開かれ、幾つかの人影が入ってきた。


「あら~、待たせちゃったかしら~」

「ふん、巫女様、エルカ族なんぞ三日でも四日でも幾らでも待たせてやれば良かったのです!」

「あら~、時間にだらしないのは駄目よぉ」


 いや、あんたら遅刻だから。


 どうやらゼクト族が先にご到着のようだ。

 ゼクト族は様々な虫の特徴をもった亜人で、その枝族の数がもっとも多い。


 護衛の人は一人。随分な自信だが、それもそうだろうな。

 何故なら、護衛の厳ついおっさんは明らかにカブトムシだったからだ。

 分かる。分かるぜ。

 カブトムシなら仕方がない。だって強いもん。

 巫女って呼ばれてた人の方は、分からん。特徴を隠してるっぽいな。


 枝族ごとに文化の違う混沌とした彼らを治めるのは、巫女と呼ばれる人物だ。

 世襲制ではなく、巫女本人が次代の巫女を見出だし鍛えるという。


 彼女が今代の巫女か。

 とかいって先代とか知らないけどね。

 随分とのんびりした雰囲気の奴が来たなぁ。


 あと巫女とか呼ばれているのに、服が巫女服じゃない。これは詐欺ですぞ!

 その服はどちらかというとシスター服である!

 まぁでも体のラインが出ちゃうようなコスプレめいたシスター服だから良いと思います! 良いと思います!

 大事なことなので二回言いました。

 体のラインはスレンダーな程なのに、出るとこしっかり出てますね!

 ありがたや、ありがたや。


 師匠は筋肉で、エルカ族は種族的におっぱいが旅に出てしまっているからな。

 コレが転生後初めての女性成分ですわ。

 うむうむ。良いものを見せていただいた。



 ふぅ……、落ち着こう。

 まずは挨拶。社会人の基本を忠実にやればパニクらないはず。


「初めまして。私はカサンドラ・ヴォルテッラという貴女は――――」

「突然ですいませんが~、そこ、私の席だと思うので退いて下さいな~」

「…………は?」


 馬鹿な……、挨拶カット、だと……!?


 予想外すぎて一瞬頭がパニクった。


 いったいどうすれば良いんだ?

 いや、そうだ、こんな時のために色々カンペを仕込んでいるんだ!

 困ったときはプランC!


『プランC:いわゆる、ピンチです』


 俺のばか野郎ぉ!

 そうだったネタ仕込んだんだったぁ!

 一人でデュフフフとか笑いながら書いた覚えあるわコレ!


 だからぁ巫女さんよぉ、俺ってコミュ障なの!

 今日のために話す言葉を考えて暗記してるんだから、唐突な行動をするな!

 噛まないように必死すぎて、アドリブなんか出来んわ!

 元々出来ないけどね! はっはっは! 参ったか!


 それなのに、こっちの挨拶ぶった切って何を言ってんだコイツは?


 ん? いや待て。

 こいつは、こちらを試しているんだな。

 どういう形で仕掛けてくるかと思ったけど、こんなに直ぐにか。


 ほわほわと天然のような空気を出してるが、こりゃブラフだな。こちらを見る目付きは天然なんてもんじゃない。


 まるで格闘家が相手の戦力を推し量るような目付き。

 コミュ障だけど、ボディ・ラングエージなら得意だぜ。


 なるほど、族長ってのは舐められたらお仕舞いなんだな。

 まずは自分の優位性を強調する。発言の流れを作り、場を制す。そうして自分の要望を通そうとしているのだろう。


 つまり、取り敢えず叫んで目線と流れを持っていきたいってことだね。

 プロレスのマイクパフォーマンスみたいなもんだな。


「私が遅れたからぁ、もう来ないと思ってその席に座っちゃったんですよね~? そこ、話し合いの主になる人が座る場所ですよ~?」


 オーケー、そちらがそのつもりならこっちもやろう。

 乗るしかない、このビックウェーブに!

 マイクパフォーマンスすることを、強いられているんだ!


「あぁ。だから私が座っている。貴女の席はあちらだゼクト族の巫女殿。気が利かなくて済まないな。言われずともこれくらいは分かると思ったんだ」

「あらあら~、貴方はエルカでもネビでもゼクトでも無いみたいね~。お行儀が悪いわ~」


「話し合いの場で喧嘩を吹っ掛ける上品なお嬢さん。こちらの誠意は伝わらないかな?」


 こういう時ばっかり舌回るんだよね。

 気分はもうカメラマンとファンの前で対戦相手を挑発するプロレスラー。

 しっかりとエアマイクを握ってます。

 フゥー! 楽しいィ!


「それとも喧嘩したいのか? 止めておけ、地面を舐める趣味はないだろう?」


「貴様! 巫女様に対してその口の聞き方はなんだ!」


 護衛らしき大男が俺に掴みかかって来る。

 お、いいね。場外乱闘かい?

 プロレスってもんを分かってるね!

 よーしまずは話し合う前にOHANASHIといこうか!

 今日ばかりは『聖剣(エクスカリバー)』を『ベルリンの○い雨』と呼ぼう!


 あれ? 何の話し合いをしたかったんだっけ?


 楽しくなるとすぐにコレだよ。

 だから話し合いに向かねって言ったのに。

 基本的に脳筋なんです分かってくださいよ。


 うーん、でもこれもボディ・ラングエージの話し合いっちゃあ話し合いだし、示威行為って駆け引きには大事だよね!



「護衛の人、カサンドラに手を出さないで。怒る、よ」


 僅かな風切り音。

 次の瞬間には、護衛の足元に小さな穴が空いていた。

 俺の護衛、というよりもお目付け役のヤディカちゃんが、毒液を飛ばしたのだ。

 猛毒を自在に調合できるようになったヤディカちゃんにはこのくらい朝飯前だろう。


 怒るよ、のセリフは多分俺に言ってるな。

 調子に乗ってハッスルするな、と。

 オーケー、オーケー。

 安心するんだヤディカちゃん。俺は至って冷静さ。悪乗りなんかしないぜ。


 ただな、一発だけなら誤射かもしれないんだ。


「カサンドラ、分かってない、でしょ」

「大丈夫だ。問題ない」

「大丈夫じゃない、問題だよ」


 なぜその返しネタを知っている……!

 いやでも一発だけなら誤射かもしれないって俺の生まれの国の国是だから、俺は有りなんだよ。


「カサンドラ、分かってない、でしょ……!」


 何故ばれたし。


「なるほどね~、そこのスケルトンがぁ、エルカ族が唐突に自信を付けた訳なのね~」

「ちぃ、エルカの毒持ちめが……」


 いま何て言った護衛のおっさん。


 せっかくヤディカちゃんが止めてくれたのに。

 ヤディカちゃんは職務を果たしただけですよ?

 ヤディカちゃんは何にも悪くないでしょうが!

 オゥコラおっさん、ウチの娘に何を言うてくれてんのじゃ? あ゛ぁ?

 ヤディカちゃんがちょっと傷付いた顔しただろうが!

 おんしゃあ角ば生えちょるゴキブリのごたる頭ぁ剥いて割ったらんかぁ!? お゛ぉ?


 いかん、怒りのあまり似非九州弁が出ている。

 感情を抑えるのだ……!


「おい。訂正しろ」

「ふん、エルカにおもねる骨風情がなにをぬかすか! 毒持ちを毒持ちと言って何が悪い!」


 ふぅー……。

 なぁおっさん、まだ引き返せる範囲だ。

 ちゃんと謝れば俺にだって寛容の心はある。


 でもまぁ、いきなりわだかまりを解けなんて難しいよね?

 俺も無理を言ったかもしれない。

 何て言ったって相手は今まで下に見ていたエルカ族と、雑魚モンスター代表スケルトンだ。

 謝るのもプライドが邪魔して言えないよね。

 じゃあもう謝らなくていいよ。


 だからさ、ちょっと面貸してくれねぇかな?


 『威圧』と『邪気』を発動し、茶色い光沢をもった角ゴキブリに似たおっさんを睨み付ける。


 カブトムシがモデル?

 ご冗談を!

 カブトムシってのはもっとカッコイイものです。

 それをモデルにするってことはきっと高潔な武人とか、俗世を棄てた格闘家とか、そういう人だよ。


 おっさん、お前は違う。


 あのな? 此処には話し合いに来たんだよな?

 来たってことはもうある程度踏ん切りが付いているんだよな?

 だったらいい大人が子供に八つ当たりしてんじゃねぇ。

 そんなお前がカブトムシっぽいとかヤディカちゃんに謝れ! カブトムシにも謝れ!


「ぐ、くく……」


 俺の『威圧』に耐え兼ねて、おっさんは地面に膝をついた。

 抵抗しきれなかったようだな。

 ふん、貧弱貧弱ゥ!

 巫女さんも青い顔をしている。

 だったら挑発するな。


 そもそも下に見てたエルカ族が急に強くなって焦ったから此処に来たんだろうが。

 そこで中心にいる人物に喧嘩吹っ掛けるとか馬鹿じゃねぇのかお前ら。

 そういうのって基本的に同格の相手同士でやるもんだろ?


 マイクパフォーマンスなら良かったよ。

 少なくとも立場では同格なんだからさ。

 だけどな、暴力でくるなら暴力で返すぞ?

 残念ながら“ 力 ”では同格どころじゃあねぇんだよ。


 人となりを見極めたかったんだろうが、遣り方をマズったな。

 ことヤディカちゃんにおいては俺の沸点は低いぜ。


「す、スケルトンごときが、こ、これほどまでとは……!」


 このツノツキチャバネゴキブリは駄目だな、頭が固すぎる。話し合いになりゃしない。


 巫女さんは、まだこっちを見てる。

 優等種族の意地があるってか?

 ここで引いたら隷属させられると思ってるのか?

 まぁいい、このゴキブリモドキよりは話し合いになるだろ。

 うん、そうだよ。話し合いをするはずだったんだよ!




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