11話 躍進の兆し
修業にぴったりなスキル『千思万考』をゲットした俺はさっそく活かすことにした。
時間はどうしようかね。1000倍でいいかね。デフォルトの設定がそれっぽいしね。
『千思万考』発動。
時間が止まったかのような感覚。
あー、これに動きが付いてこれれば無敵なのになぁ。
まぁ、目標ってことで。
とにかく今は骨を接ぐためのイメージトレーニングをするのだ。
なけなしの魔力を使い、アバターのように俺の分身を創造する。
実際作っている訳ではなく、単純な魔力による思考の補佐だ。
俺自身は動けないのでね、動く姿をこれでシミュレートするのだ。
ついでに『分析』も発動しとこう。
何か分かるといいな。
『下級鑑定』によると、このイノシシの骨は
・突進猪の堅骨
突進猪の後ろ足の部分に当たる堅牢な骨。
となっている。
前の世界でやったゲームを思い出すな。大剣とか、双剣とか。俺はボウガンが好きだったな。
あのシリーズ、もう少しで新作発売だったんだよなぁ……。
こういうこと考えているとまた勘違いしそうになるから止めよう。
俺はこの世界を真剣に生きるんだ。
もとの世界に帰ることが出来るその時まで。
そんな訳でこのイノシシの骨だが、腕に使うには大き過ぎる。
指も再現できないので、ただの骨製の棍棒振り回すだけみたいになってしまうだろう。
使うなら足だ。
だがそれでもやはり大きい。
辛うじて残っている足の骨にまったく合わない。
かといって合うように削り出せば、その分耐久性は下がるだろう。
どうするべきか?
まず最初はそのまま強引に接続してみるか。
なに、ここは『千思万考』の世界。空想の中で実験しているに過ぎないんだから、失敗したっていいのさ。
魔力の糸(空想)を出し、自分の足とイノシシの骨を繋ぎ合わせる。
うわ、足だけやけに太いな。立てんのかこれ。
少し動くだけでぎしぎしと不安定に揺れる。
うーん、これは無いな。
立って歩くのはなんとか出来るとして、戦闘には到底耐えられそうにない。
では削るか。
魔力を細かく操作し、ヤスリのような形状に変える。
『分析』が発動しているので、ムラなく削ることが出来た。
少し削っては足に合わせ、また整える。
繰り返し、繰り返し。
地味だがこういう作業は大好きだ。
子供の頃からプラモデルには没頭する方だったしね。
納得がいくように仕上がったのは、体感時間で朝を迎えてからだった。
慌てて顔をあげるが、周りはまだ真っ暗。
『千思万考』使ってるのも忘れてたわ。
改めて思うけど本当スキルって便利。
ただ、完成したのはまだ一本だけ。
しかも接続部分だけ。
こりゃ先が長いわ。
それにやはり耐久性は下がるようだ。
こうして触るだけでもイノシシの骨が薄くなっているのが分かる。
これならばまだ人骨のほうが固いだろう。
正直言って、使い物にならない。
方やバランスが悪く戦闘にならず、方や耐久性が低すぎて戦闘に耐えられず。
イノシシの骨は失敗だなぁ。
仕方ない、明日ヤディカちゃんには謝ろう。
そんで、骨で笛でも作ってあげるか。
あ、それも練習しとこ。
いくら練習や実験で消費しても現実に影響ないってこれも充分チートだな。
『千思万考』を解除してみると、辺りはまだ真っ暗だった。
ふむ、時間は殆んど経過していないようだ。
すごいな、さすが上位スキル。
それになんだか調子がいい。
魔力枯渇の頭痛が感じなくなっている。
《ステータス》
名前:カサンドラ・ヴォルテッラ/菅野 照彦
種族:スケルトン
Lv.10
HP:37/37
MP:150/150
SP:37/37
攻撃力:55+5(-30)
防御力:14 (-5)
素早さ:14 (-14)
◇スキル
『不死属性』『魔力自在』『千思万考』『無手の才』『足掻く』『下級鑑定』『言語理解』『幸運』『分析』
『根性』『無茶』『跳躍』『ダッシュ』『耐久走』
『恐怖耐性』『毒無効』『麻痺無効』『睡眠無効』
◇称号
【転生者】【修行中毒】
〈 進化待機中です 〉
HPとMPが全回復している……。
え? ということは何? 『千思万考』の時間内でもMPは回復するってこと?
そういや『瞑想』も統合してるから、回復促進の効果が受け継がれているのか。
『千思万考』はチートだと思っていたけど、予想を更に越えていた。
戦っている最中に使えば、相手にとっては瞬時にHP・MPが回復したのと同じことじゃん。
魔法使い放題じゃん。魔法使えないけど。
やったね! より人外化が進むよ!
まったく嬉しくないけどね。
強いスキルを得て嬉しいような悲しいような。
まぁ、自分が人間だと思っている限り、俺は人間だ。そうであるはずだ。
そうだ、魔物の力には頼らないぞ!
俺はあくまでこの肉体の――いやもう骨だけど――力と武術で強くなってやるんだ!
俺がそうやって自分の決意を固めていた時だった。
洞穴の中に、ガランガランと大きな鈴のような音が響いた。
入り口の方からだ。
いったい何事かと気を張り詰める。
「…………」
出来る限り気配を殺しつつ魔力で足を作る。
魔力が全快の今、ほんの数十秒程であれば両足を維持できるのだ。
数十秒あれば、なんとか戦えるだろう。
最悪、ヤディカちゃんを抱えて逃げることだって出来る。
音が洞穴に響いて数瞬。
ヤディカちゃんが跳ね起きた。
「緊急事態……! 村が危ない!」
聞いたことがない切羽詰まった声だった。
どうやら尋常じゃない事態が起こったらしい。
そのまま飛び出していこうとするヤディカちゃんをなんとか呼び止める。
「待て! 何が起こっているんだ? 私にも説明してくれ」
「この音は、緊急事態の知らせ。村を、モンスターが襲ってる」
「私が協力出来ることがあれば――――」
「無い、じっとしてて」
取りつく島もない。
結局、一度も振り返らずにヤディカちゃんは走っていってしまった。
「ヤディカ……」
そりゃあね、腕1本しか残ってないスケルトンに何が出来るのかって話だよ。
だけど、こうも無力だと、歯痒い。
仕方がないことかもしれないけどね。
足を魔力で作ったとして、稼働時間数十秒って実際何が出来るのさ?
ヤディカちゃんの言う集落の場所だって知らない。
ついでに言えば、村を襲ってるモンスターの強さも未知数だ。
もしもまた赤角熊がいたら、もしくはアイツに匹敵するモンスターだったら?
勝てるわけがない。
俺が行ったところで、何が変わる?
スケルトンの残骸が増えるだけだ。
ヤディカちゃんだって強い。
ヤドクガエルの猛毒に触れて無事に済む生物はなかなかいないだろう。モンスターも生き物である以上、有効なはずだ。
あぁ、ちくしょう。
俺、言い訳してんなぁ……。
赤角熊の恐怖は思った以上に俺の心に傷を残していたみたいだ。
魔物がいるかもしれない。
それだけで体が震えてくる。
勝てないという強烈なイメージが体に焼き付いてしまっているんだ。
ヤディカちゃんもそれを見抜いて、協力を断ったのかもしれない。
だけど、このままここで腐っていていいのか?
俺はいったい何のために力を身に付けたんだ?
俺はどうして強くなりたかったんだ?
ここでぼろぼろのまま座り込んで、女の子に戦いに行かせる為じゃあねぇ。
無力感に苛まれて落ち込む為じゃあねぇ。
ぐだぐだ言い訳重ねて戦いから逃げる為じゃあねぇだろうが!
根性だせよ菅野 照彦!
いつまでゲームのつもりで遊んでんだテメェは!
今立たなきゃいつ立ち上がる?
死ぬ気になるのは今だ!
勝てない自分を乗り越えるのは今だ!
ヤディカちゃんに恩を返すのは今だ!
自分のビビりくらい、さっさと捩じ伏せやがれ!
「ッだらぁあああッ!!」
残っている右手で顔面をぶん殴る。
カーッ、痛ぇ、でも気合い入った。
俺は今まで何処か他人事だった。
もともと引きこもりのニートだったからな、本気を出して戦うのが怖かったんだ。
自分の価値がそこで決まってしまう気がして。
だから最善を尽くさなかった。出来ることしかしなかった。
その悪癖が、何処かに残っていたんだろう。
カサンドラ師匠の地獄の特訓でそんな馬鹿なところは死滅したと思ったけど、案外しぶとかったんだな。
まぁ、三つ子の魂百までって言うしな。
きっとまだウジウジしたり、言い訳して逃げたがる部分は残っているだろう。
だけど、もう気にしてやらねぇ。
自己嫌悪するくらいならぶっ飛んでやる!
「ぬんッ!」
イノシシの骨を下半身に接続。
強度が下がるくらいなら多少のバランスの悪さには目を瞑ろう。俺が慣れればいい。
後は魔力で強引に補助すれば動けるようにはなる!
〈 行動経験が一定の値を越えました。
スキル『同化』を獲得しました 〉
〈 行動経験が一定の値を越えました。
スキル『骨加工』を獲得しました 〉
ナイスインフォメーション!
接続が強くなった気がするぜ!
力を込めて立ち上がる。
よし! 問題は無い。恐らくスキル『同化』のお陰だ。
『下級鑑定』はヤディカちゃんを助けてからだ。
今いくぜ! ヤディカちゃん!
走る。走る。
一度同化した骨は接続に魔力を必要としないようで、『千思万考』を経ることで全回復した。
脳内世界でイノシシ足の訓練もしている。
もう走る程度なら問題ないぜ!
カサンドラ師匠には悪いが、やはり人間の骨よりか遥かに耐久性が違う。
『ダッシュ』『持久走』を発動させ、力任せに踏み込んでも軋みもしないのだ。
だが現状に満足しては、人は成長を止めてしまう。
より上手く、より速く、より馴染むように体を動かす。
日々これ修業なり!
〈 行動経験が一定の値を越えました。
スキル『最適化』を獲得しました 〉
〈 スキル『分析』『同化』『骨加工』『最適化』の取得により上位スキル『骨融合』を獲得しました。『分析』『同化』『最適化』は『骨融合』に統合されます 〉
〈 スキル『骨融合』の効果によりステータスが上昇しました 〉
〈 スキル『骨融合』の効果により“ チャージボア ”の固有スキル『猛進』を獲得しました 〉
〈 スキル『ダッシュ』はスキル『猛進』に統合されます 〉
インフォメーションさんオッスオッス。
『骨融合』ってなんだよ。またスキルの内容を確認する前に統合されちゃってるよ。
それと固有スキルって?
モンスターが種族とか個別で持ってるスキルってこと?
『骨融合』はそれを獲得しちゃうわけね。
うわーぉ、マジかよ。
モンスター倒す旨味跳ね上がったわ。
俄然やる気が湧いてきたぜ!
ん!?
脚がバキバキと音を起てて縮んでいく、いや、細っていく?
ひ、ひぇえ、なんじゃあこりゃあ!
異音はすぐに収まった。そして、足はイノシシの骨から人間の骨の形へと変化していた。
これも『骨融合』の効果か。
『骨融合』の果てに異形の化け物スケルトンにならなくて良かったわ。
人の形に戻れるなら、忌避感もちょっとは軽減出来るだろう。
それに、換装ではない。
つまりカサンドラ師匠の部分はしっかり残せるということだ!
すんばらしい!
『骨融合』にはこれからお世話になる気がするな!




