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10話 リハビリ生活




 修業だ。とにもかくにも。


 さて、今の俺に欠けているもの、多くあり羅列し切ることは出来るないが、自分が生き残る上で今一番必要なもの。

 言うまでもなく手足だ。


 失ったら補えばいい。

 だが、一時的なものでは意味がない。

 『魔力自在』の常時展開は魔力の保有量的に不可能だ。消費に対して回復が追い付かない。


 ならばどうするか?


 固定すればいい。


 常に垂れ流すのではなく、物質として固定してしまえば消費せずにそのままキープ出来ないだろうか?

 『魔力自在』では操作した魔力に性質を付与することが出来る。

 これで“ 固定 ”という性質を作り出すことが出来ないだろうか?


 魔力を動かすのにはイメージが最も大切だ。

 ならば、出来る出来ないも自分の心ひとつであるはず。


 よし、まずは実践だ。

 男は度胸。何でもやってみるものさ。


 まずは魔力で骨と筋肉を作り出す。

 欠損した左腕をなぞるように魔力が伸び、半透明の腕が作られる。

 体感的にはこの時点で魔力の半分が吹っ飛んでいる気がする。

 やはり、燃費が悪い。


 次に固定化。

 イメージは硫化したゴムが固まっていく感じだろうか?

 いや実際はどんなもんか知らないんだけど、弾力を持たせつつ固まるってイメージがゴムにしかないのよね。

 “ 固定化 ”の硬くなるってイメージが強すぎて動かせなくなったり脆くなったりしても困るしね。


 よし、イメージは出来る。

 『魔力自在』による“ 固定化 ”を開始――――



 一瞬で意識がブラックアウトした。



 うぉ!?

 何だったんだ、今のは?

 意識がトンだぞ!?

 うぐぐ……。

 頭が痛い、割れてるんじゃ無かろうか?

 触って確認。良かった、割れてない。


 うーむ、“ 固定化 ”の消費魔力が膨大すぎて『無茶』のステ異常軽減ではカバーし切れなかったのかな?

 魔力を使おうと思っても鋭い頭痛がするだけで一向に出来ない。

 しまった、枯渇したか。


 仕方ない。違う修業を行うとしよう。

 と言っても片腕しか残っていないこの状況では、出来ることも限られているんだけどね。


 無茶して骨が折れても不味いから、軽く岩壁に向かって貫手の練習でもしようかな。



「なに、してるの?」


 大体500回くらい突き込んだ所で、呆れた声が聞こえてきた。


「修業だ」

「寝てて、って言ったのに」


 帰ってきたヤディカは咎めるような視線で俺を睨んだ。

 いやー、さーせん。

 でも修業をするか考えてるかしないと落ち着かないのよ。これも【修行中毒】の効果なのかね?


「……そんなにぼろぼろなのに、鍛えるの?」

「あぁ。ぼろぼろだからこそ鍛えないとな。次は負けたくない」

「情けなく逃げてた、くせに」


 痛たたた、痛いとこ突くね。

 まぁこっちも命は惜しいからさ、勝てなきゃ逃げるよ。

 戦力的も糞もない文句なしの敗走だって、する時はするよ。

 生きてれば次は有るんだから。

 心は折れても志は折れないのさ。


「そうだな。だからまた戦える」

「……好きにすればいい」


 おっとぉ、また呆れられた?

 こんな女の子にアホを見る目されたらヘコむわぁ。

 ちょっぴり自己嫌悪していると、俺に何かが投げ付けられた。

 ヤディカちゃんが森の中から探してきたものか。

 俺は見たことがない、洋梨のような見た目の果物だった。


「スケルトンが何食べるか、分からないけど、それ、食べれたら食べて」

「大丈夫だ。ありがとう」


 口に入れてSP回復させる行為が食事というかどうかは微妙だけどね。

 排泄物も出ないし便利っちゃあ便利。

 味も分かるしね。




「修業したら、強くなれるの?」


 黙々と洋梨モドキを食べていたヤディカちゃんが唐突に切り出した。

 俺はとっくに食べちゃってます。食いきった後に『下級鑑定』していないことに気付いた。まったく抜けている。

 しかし、いきなりだね。

 こっちに興味持ってくれて、おねーさん嬉しいよ。


「……いや、どうかな?」


 だから、出来る限り誠心誠意を持って応えよう。


「強くなれない修業をしてるの?」

「強さに果てはない。上には上がいる。強さとは比べるものだからな」

「ふーん……」


 やべっ、興味なかった?

 ごめんね、さくっと本題入らなくてごめんね。

 コミュ障のくせに人恋しいから距離感の測り方が分かんないのよぉ!

 今結論言うから、少しだけ待って!


「修業をしたところで強くなれるかどうかは分からない。だけど、強くなりたいから修業をするんだ」


 今度はすっ飛ばし過ぎた?

 ヤディカちゃんの顔、あんまり表情動かないから読み取れないよ。

 くそぉ! 自分の錆びて腐ったコミュニケーション能力が憎い!


「そういうもの?」

「そういうものだ」


 ヤディカちゃんは自分の手をじっと見ながら何かを考えているようだった。

 毒を持って生まれたから戦士になったって言ってたよな。

 どのくらいここで暮らしているんだろう?

 洞穴の生活感は、一年や二年じゃきかない感じだけど。


「あたしも、強くなれるかな?」


 何かと思えばそんなことか。

 ヤディカちゃんがどれだけ戦えるか分からないけど、はっきり言えることは1つある。


「なれるさ。私よりずっと強く」


 ヤディカちゃんは少し驚いたように俺を見て、照れたように笑う。

 うんうん、女の子はそうやって笑ってるのがいいよ。

 せっかく可愛いんだからさ。


「も、もう寝る、おやすみ」


 照れ笑いしたことが恥ずかしかったのか、さっさと毛皮に丸まり、横になってしまった。


 疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてくる。

 それともあれか、戦士だから何時でも何処でも眠れるように訓練してるのか?

 まぁ、まだまだ成長期なんだろうから、たくさん眠るのはいいことだ。


 それにしても、私よりずっと強く、か。

 こんなに弱い俺がよくもまぁ言えたもんだよな。

 結局俺は今まで一度も勝ったことがない。

 ましてや今は両足と片腕を失っている。

 そこら辺の雑魚モンスターどころか、野生の犬にも勝てないだろう。


 せめて、魔力固定化を物にできたらな。

 取り敢えず今は眠ろう。

 眠って魔力が回復したら、また修業をすればいいんだ。




◆◆◆




 それから数日間、ヤディカちゃんの所でお世話になっていた。


 魔力が枯渇するまで固定化の訓練を繰り返し、その後は体を鍛える。


 不自由は多かったが、ヤディカちゃんはぶっきらぼうに振る舞いながら甲斐甲斐しく構ってくれる 。

 きっと、寂しかったんだろうな。

 まだまだ子供の年頃で、戦士という過酷な仕事をしながら一人で暮らしていたんだもの。

 俺には毒が効かないから、好きなように触れあえるのも嬉しいらしい。

 俺が気にしないことがわかった日からペタペタ触ってくるようになった。


 因みに、ヤディカちゃんの戦士としての実力は本物だった。

 一度、洞穴にイノシシに似たモンスターが近付いてきたのだが、ヤディカちゃんが一振りした腕から飛び散った毒液を浴び、数秒悶絶して動かなくなった。

 毒液恐いでしょう。


 『下級鑑定』は死体にならば適用できるらしい。

 死んだイノシシを試しに鑑定してみると情報が表示されたのだ。



・チャージボアの死体

 ジュリアマリア島に生息する突進猪の死体。

 高濃度の毒に汚染され、食用や加工には適さない。


 ……毒液恐いでしょう。


 自分の毒ならば問題ないのか、ヤディカちゃんは仕留めたチャージボアを手際よく捌き、内臓や毛皮、骨や肉などを切り分けていた。

 凄まじく体力を使う仕事だと思うのだけど、ヤディカちゃんはやり遂げていた。

 俺は手伝おうとしたのだが、やったこともない作業を手伝える筈もなく、邪魔だから引っ込んでろ的なお言葉を頂いた。


 そもそも作業が洞穴から離れた場所でやるので、俺はほぼ無力である。

 でも何もしないのもやっぱり悪いので、ヤディカちゃんがイノシシ捌くのに使った器具を洗わせて頂きました。

 それくらいなら魔力の骨ですぐに出来るからね。


 固定化はまだ難しいけど、持続時間は伸びてきているのさ。

 スケルトンだって成長するのだ!


 イノシシの肉は毒抜きの薬草で包んで少し寝かせ、今日の夕飯となっている。


 イノシシの肉を豪快に焼いた焼き肉だ。

 塩に不足はないようで、好きなだけ使ってよいとのことだった。

 肉!

 食べたかった肉!

 口の中に涎が溜まる気がする。

 しかも塩まである!


 寝かせてあった肉は味が熟成し、とろけるようだった。

 ヤディカちゃんもとろけるような顔をしていた。

 カエルって基本肉食だもんね。虫的な意味で。

 山盛りの肉は次々に焼かれ、俺たちの胃の中に消えていった。

 使わなかった内臓は器具を綺麗に洗って塩漬けにしているのだそうだ。

 それも楽しみで堪らない。ぜひ味見をさせて欲しい。


 SPはかなり回復したようだ。

 やはり肉は偉大だ。

 動けるようになったら積極的に狩ろう。

 骨付き肉の残りを口に含みながら、俺はふと思い付いた。

 骨って流用できるんじゃん?


 チャージボアはかなり体格のいいモンスターだった。その骨ならばかなり頑丈な素材に出来るだろう。


 師匠の体を改造することに抵抗はあるが、欠損状態のままでいるのは厳しい。

 まぁ、駄目でもともとだ。やるだけやってみよう。


「ヤディカ。済まないがチャージボアの骨を譲ってくれないだろうか?」

「いいよ、何に使うの? 修業?」


 二言目に修業が出てくるとは、ヤディカちゃん、俺のことが分かってきてるね。

 骨を使った修業はパッと思い付かないよ。


「私の足を補えないかと思ってな」

「ふーん……、ちょっと待ってて、持ってくるから」


 ヤディカちゃんはわざわざ骨を綺麗に洗ってから持ってきてくれた。

 水気を拭われた白い骨を見て、優しさが伝わってくるような思いがした。


「済まない。ありがとう」

「いい、それより、どうやるの?」


 そこら辺はあんまり考えていなかったよ。

 ふふふ、思い付きで行動するからこうなるのです。

 取り敢えず、サイズは明らかに合わないのでパズルのように組み合わせるのは無理だね。

 うーん、強引に魔力の糸で繋ぎ合わせて見ようか?

 あ、やべ、今日の鍛錬で枯渇させちゃってるや。


「済まん。今すぐは無理だ」

「そっか、ちょっと残念」


 うわぁあ、ごめんね、ごめんね。

 こんな小さな女の子がっかりさせるとか万死だね!

 あ、俺もう死んでるわ。

 じゃあ、どう償おうか!?

 うぐぐ、この接続を失敗する訳にはいかん!

 これ以上がっかりさせるわけにはいかないからな!

 明日に備えてイメージトレーニングを行うのだ。

 リアルシャドー出来るくらいの想像力を今ここに!



〈 行動経験が一定の値を越えました。

     スキル『分析』を獲得しました 〉

〈 行動経験が一定の値を越えました。

     スキル『高速思考』を獲得しました 〉



 お、このインフォメーションも久しぶりに聞いた気がするな。



〈 スキル『集中』『瞑想』『高速思考』の取得により上位スキル『千思万考』を獲得しました。『集中』『瞑想』『高速思考』は『千思万考』に統合されます 〉



 うぉ!

 更に追加か。

 いや、上位スキルに進化したんだから、追加とはまたちょっと違うのかな?




《ステータス》

名前:カサンドラ・ヴォルテッラ/菅野 照彦

種族:スケルトン

Lv.10

HP:17/37 (-20)

MP:150/150

SP:37/37

攻撃力:55+5(-30)

防御力:14 (-5)

素早さ:14 (-14)


◇スキル

『不死属性』『魔力自在』『千思万考』『無手の才』『足掻く』『下級鑑定』『言語理解』『幸運』『分析』

『根性』『無茶』『跳躍』『ダッシュ』『耐久走』

『恐怖耐性』『毒無効』『麻痺無効』『睡眠無効』



◇称号

【転生者】【修行中毒】


〈 進化待機中です 〉




『分析』

 対象の言動を観察することから結果や効果を予測することが出来る。



『千思万考』

 上位スキル。

 思考時間を短く縮め、遅延した時間の中での思考を可能とする。時間の密度は任意。



 少しずつステータスは回復しているようだな。

 そして新しいスキル。

『分析』はまだいいんだが、『千思万考』?

 何となく意味のわかる『高速思考』があっという間に統合されてしまったので、それより上というのは分かるんだけどなぁ。

 もう一つ統合されてしまった『瞑想』とは意味が真逆な気がするし。


 まぁ、使ってみよう。『千思万考』発動。




 ――――音が消えた――――




 いや、音が届くまで時間がかかりすぎているのか。

 死ぬ瞬間に走馬灯を見るのは脳が集中しているからだ、と聞いたことがあるが、これはそれが更に酷くなったものか。


 体が全く動かない。

 動くのだろうが、動くことを認識出来ない。

 確か、時間の密度は任意と書いてあったな。

 ではこの状態も緩和出来るはずだ。


 現在の思考加速は、約1000倍。

 1時間が約40日以上に感じられる速度。

 ここから更に早くも遅くも出来るのか。


 うむ!

 修業にぴったりじゃないか!




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