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02 田園都市ユートピア


 オープンカーのオーディオからラジオが流れていた。液晶画面には“AM 810kHz AFN Tokyo(横田基地)”とある。ようはハンドルを片手で操作しながら洋楽を口ずさんでいた。


 あおいは助手席から見える景色に一喜一憂していた。昨夜、病院から見えていた建物の多くは、二十階から三十階は優に超えるタワーマンションであった。度々、マンションの自動ドア越しに綺麗なエントランスの中が伺えた。

 ところどころに広々とした緑地の公園があり、子連れの親子や若い男女が遊んでいた。真新しいアスファルトの道路に沿って、大きな桜の木が植えられている。桜の木には無数の青葉があり、そよ風に揺られて葉擦れの音が聞こえていた。小さな風力発電機と太陽光発電機の取り付けられた街灯が等間隔にある。電柱や電線はなく、圧迫感はないもののそれでも青い空が少し狭いように葵は感じていた。


「今! 走ってる道路やそこの歩道にも床圧電システムが採用されているらしいぞ!」


 葉は弟に街の造りを一つ教えてみたが、床……なんて? という具合で、葵はなんのことかまったくわからないでいた。

 葵はそんなことよりも都市の街並みを見ていて、時折、目にする二人一組の軽装備をした人型ロボットが気になっていた。人型ロボットは道端に落ちているゴミを拾い、指定された近くのゴミ箱へ捨てている。ロボットの芝刈機がマンションや公園の芝生を刈っていた。


「あのロボットたちはピンキーって名前だ!」


 葉は嬉しそうに言った。


「俺の友だちが作ったんだぜ⁉︎ 今や、地球上にあるどの施設にも配備されているらしい!」


 空飛ぶ車もなければ、異星人もいない、葵はそれでもまるで近未来の都市に迷い込んでしまったような心持ちになっていた。葉はそれに気付いて街の説明を始めた。


 都市の正式名称は、第二施設 関東支部───この都市へ住居を移した市民のあいだでは、正式名称では呼び辛いということで、第二の奥多摩おくたま、未来都市、田園でんえん都市ユートピアと勝手に呼び名を変えていった。葉はこの都市のことを繰り返し田園都市ユートピアと口にしていたので、葵もそう呼ぶことにした。


「葵! あの中央の高い建物が見えるか⁉︎」


 葉はよそ見をしながら言った。葵は遠くの大きな壁に囲われた建造物を目にした。


「あの防壁に守られているのが第二施設 関東支部の本部だよ! スカイツリーより高いんだぜ⁉︎ ───俺、あそこにある検問所で働いてんの! すごいだろ⁉︎」


 と葉は誇らしげに言った。葵はあんな立派な建物の場所で働いているなんて、素直にすごいなと思った。それから葉は街の説明を続けた。葵は頭の中でその説明に沿って地図を作り上げた。


挿絵(By みてみん)


 田園都市ユートピアの全貌は円形であり、総敷地面積は約二〇〇平方キロメートル。都市は三つの地区に区分され、中央の第三地区に第二施設 関東支部 本部がある。第三地区の敷地面積は約十五平方キロメートル。第三地区を囲う防壁の四方には検問所が設置され、兄・葉の勤務地となった。


 第三地区の防壁外側、周りに広がる街並みが第二地区である。敷地面積は約六〇平方キロメートル。第二地区はさらに四分割よんぶんかつされていて、A区画・B区画・C区画・D区画となっていた。各区画にマンションや役所、学校や公民館、病院や商業施設、チェーン店やスーパーとある。日向家の新しい家はC区画の中央寄りにあり、葵の転校先はB区画にあった。


 第二地区の防壁外側が第一地区である。敷地面積は約百二十五平方キロメートル。そこでは様々な企業が参入中であり、今も多種多様な施設が建設工事を進めている。平坦地で行われるような従来の農産業もビルの中で行われる予定だ。

 田園都市ユートピアの地下には地下鉄の線路が幾重もあり、関東や北陸、東北や関西方面にも繋がっている。

 各地区との境界には全長一〇〇メートルを超える防壁があった。


 検問所も大きくわけて三つある。

 第一地区の敷地に入る際。

 第二地区の街に入る際。

 第三地区の第二施設 関東支部 本部に入る際。

 そして、各地区の四方に検問所がある。第二地区の街中には、幹線道路を使用する場合に限り、小規模な検問所を通らなければならない。

 

 第一地区と第二地区の検問所には自衛隊の特殊警備部が担い、街中にある小規模な検問所と第三地区の第二施設 関東支部 本部にある検問所には、警察の警備部が街の治安を含めて担っていた。


 葉は車を路駐させて言った。


「ここ、葵が通う中高一貫校」


「え?」


 葵は鉄格子の向こうに学校を見た。普通の中学校というよりは、どこかで見た自衛隊や警察の訓練学校みたいな場所であった。


「普通科と訓練科のどちらにするか、中学から選ばないといけないんだ。高校から進級するときも普通科か訓練科を選び直せて、高校の訓練科はお金が貰えたっけな。この街には他にも高校があるから、葵の行きたい進路に進むといいよ。高校に上がる際に編入学したっていいし」


葉兄ようにい、普通科と訓練科の違いって何?」


「普通科は今まで通りの学校生活って感じだな。普通科でも基礎体力の向上を図るための科目があったはずだ。普通科は中学校も高校も部活動が自由。訓練科はやめとけ。より実戦的な体術や基礎体力の訓練、特殊な機器の操作や射撃とか。実務や法律の勉強もあるな」


 葉は弟の頭をぽんぽんとして言った。


「葵は普通科にしとけ? 俺がなんとかするから」


 葉は車のアクセルを踏んで続けた。


「葵宛に学校の書類が来てるから、帰ったらおばあちゃんと一緒に見ようぜ」


 葵は腑に落ちない現状に苛立ちを覚えながらも、仕方のないことであると言い聞かせるようにして言った。


「僕はもとのいた学校には戻れないんだ……」


「そうなるな……」


 葉は弟のテンションが下がっているのを見て、励ますように言った。


「ひと通り回ったし、飯でも食いに行くか⁉︎」


 葵はそのひと言を待っていましたと言わんばかりに相槌を打った。


「行きたい‼︎」


 ◆


 第二地区から第一地区へ移る際に、防壁に設置された検問所を通らなければならない。葉は職員専用道路を使い、葵はハラハラとしながら、兄と検問所の警備員とのやり取りを助手席から見守っていた。警備員の付けていたハーネスには警棒と拳銃をぶら下げていた。警備員は歩み寄って身分証の提示を促す。葉は手慣れたようにお疲れ様ですと言って身分証を見せた。警備員は身分証にある顔写真と葉の顔を交互に照らし合わせ、よしと口にして通ってもいいぞとジェスチャーした。車は何事もなく通り抜けられたのだった。

 

 防壁の幅は約一キロメートルあり、高速道路のトンネルにあるような明るいライトが奥へ続いていて、葵は連続した光の羅列を眺めていた。

 葉は防壁を抜けたあとも一般道とは違い、職員専用道路を使った。幹線道路はのぼりとくだりで合計十四面もあり、そのうちの十面が一般道として使われ、職員専用道路が右端に二面、中央の一般道をまたいで反対側の左端に二面あった。第一区画の地域は建設工事が進んでいて、どこも白い仕切りで囲われていた。葵たちのオープンカーは一般道に走るクレーン車やミキサー車とよくすれ違った。


 葉はふと思い出して言った。


「パーキングエリアでラーメンでも食うか⁉︎」


「ラーメン!」


 と葵が満面の笑顔を浮かべた。

 葉は、休日になると地方の美味しいご飯を食べに一人旅をしていた。葉がこの都市へ来てから一週間あまり、行きつけの店が何軒かできていたのだ。変わりゆく環境の中で、それでも変わらない兄の姿に葵は安心感を覚えていた。


「醤油ラーメンなんだけどな! 国道十六号横浜横須賀道路にあるYASMOCCAやすもっか横須賀店、そこの醤油ラーメンと同じ味がするんだわ!」


 と葉は嬉しそうに言った。


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