17 奇襲攻撃
八月八日、午前三時五十四分───。
まだ日も明けぬころ、五台の黒い車が田園都市ユートピアの職員専用道路を使い、第三地区を抜けて、近くの飛行場へ向かった。先頭から三台目、車の後部座席には氏家 千春の父・氏家 兼光日本防衛大臣とその秘書が乗っていた。運転席と助手席にはSPが同席している。第一地区 第二施設 関東支部 本部に設置されたヘリポートは花火大会の打ち上げ台として使用されたため、氏家らは近くの飛行場で政府専用機に乗り、九州まで行こうとしていた。
「あとどれくらいだ?」
氏家は葉巻を味わいながら訊いた。氏家の隣に座っていた秘書がせかせかと到着時刻を調べていると、
「飛行場まで三〇分は掛かりますよ!」
運転席のSPがバックミラーに映っていた氏家に声をかけた。助手席のSPが余計なことを口にする。
「娘さん、やっぱり日向家の長男でしたね」
「よりにもよって、日向 一幸の息子を好きになるとは……」
氏家はドアの角に肘をつき、頭を抱えて、娘・千春のことを思った。その様子を見かねて、運転席に座っていたSPが器用にも前方と後方の車との間隔を気にしながら話題を変えた。
「にしても、田園都市ユートピアの花火は全国一位の規模を誇るんじゃないですか? なんせ花火六万発ですよ⁉︎」
「急遽、決まりましたからねえ」
秘書は苦笑いで言った。
一〇分後───。
氏家らの目的地である飛行場から約五キロのところ、大柄の男が複雑に交差している高速道路のガードレール上で仁王立ちをして、二つ下の道路を眺めていた。男はふつふつと苛立ちを覚えていた。
「待たせやがって、通告より二十分遅れじゃねえか」
男はそう言って氏家らの車を目視で確認した。先頭車両が二〇〇メートル先まで迫って来ると、男はガードレールからのそっと飛び降り、その勢いのまま先頭車両のボンネットへ突っ込んだ。大柄の男によって先頭車両のバンパーが大きく歪み大破したかと思えばエンジンが爆発して、それに乗客が巻き込まれた。先頭車両の爆発した惨状に二台目の車が急ブレーキをかけると後続車に連鎖した。幸いにも、氏家はシートベルトをしており、葉巻を床に落とすだけで済んだ。
「氏家先生! 大丈夫ですか⁉︎」
助手席のSPがシートベルトを外し、身を乗り出して後部座席を覗いた。
「ああ……大丈夫だ。何が起きているんだ?」
「先頭の警護車両がやられました!」
と言って、運転席に座っているSPが胸元のマイクに向かって状況の把握を仕切りに行った。
「……了解! 後方にバックします!」
運転席のSPがそう言って車を後方にバックした。すれ違うようにして、四台目と五台目が前進して行った。氏家の乗っていた車はその場で半回転して逆走する形で現場を離れた。
「ラスト・ジャッジメントか⁉︎」
氏家が怒鳴った。
「おそらく!」
助手席のSPが切迫して答えた。
「敵は一人、または複数の可能性があります! これより緊急事態の対処に移ります! 一度、この場からできる限り離れます! それから近くの出口で高速を下ります!」
三分前、先頭車両が爆発した現場より───。
大柄の男は爆炎の中から現れ、二台目の警護車両から降りた数人のSPから銃弾をくらっていた。しかし、男には一切効かず、堂々たるその姿がSPたちには怪物に映っていた。四台目と五台目からもSPが合流し、中には能力が使える者いたが、男に一人また一人とねじ伏せられていった。気付けば、男の周りには誰も立ち向かう者はいなくなり、あたりには血溜まりと硝煙の残り香、車の燃料が燃えた臭いが残っていた。
男は舌打ちしてターゲットが乗っている車両を追った。




