10 射撃テスト
この物語は、架空のフィクションです。
藤原には太陽にも似た威圧するオーラがあった。
「すみません!」
葵は藤原の迫力に押されて、つい、開口一番で謝り深々とお辞儀をした。
少しして、
「いいわよ別に、私の勘違いだし」
藤原は後方に振り向きながら、
「私こそ悪かったわね」
と一歩だけ前に踏み出し、その場で立ち止まった。葵に見下したような眼差しを向けて、
「あんまり自分から謝らない方がいいわよ」
と言い残して、藤原は少し離れた。
・・・・・・なんなんだこの女は。
と、葵は腹の虫の居所を悪くするのだった。
「みんな訓練用のスーツに着替えたね」
氏家は保健室にいたときの黒いスーツのまま、刀を携えて生徒たちの前に立った。生徒よりも低い背丈に、先生と言われなければ、その姿は子どものようである。
「日向、こっちに来い!」
葵は氏家の隣に急いで歩いて行って、生徒たちの前に立った。
「今日から訓練科へ転校して来た日向 葵だ。自己紹介」
ぶっきらぼうに振られ、葵は緊張しながら応える。
「はじめまして、日向 葵です。これからよろしくお願いします」
氏家が左から生徒の紹介をした。
藤原 木の実。
出席番号一番。
田中彩芽。
出席番号四番。
三谷 英二。
出席番号二番。
秋山 想姫亜。
出席番号五番。
作間 淳平。
出席番号三番。
「知っての通り、藤原、三谷、作間は啓示現象が起こる前からこの学校に通っている生徒だ。田中、秋山、日向は啓示現象が起きてからこの学校に通い始めた生徒だ。田中を除いて、先に通っていた生徒の方が射撃テストの点数が良い。生徒のあいだで優劣を付けず、自分自身のベストタイム、ベストスコアとだけ競うように!」
氏家は軽いため息をついて続けた。
「これから射撃テストを始める。そこに射撃用の銃器を用意した。自分の使いやすいものを選べ」
氏家は葵を見上げて、
「日向は初めてだな」
と言って、銃器の説明をした。
訓練用の銃には従来の形を採用し、生徒が使いやすいようにカスタマイズも多彩、弾丸には訓練用の電気弾が採用され、殺傷能力が低くなるようリミッターがかかっており、訓練用のスーツを着ておけば、仮に対人誤射を受けても痺れる程度で済む。
マガジンに実包はなく、Cタイプのコードを用し、コンセントから充電して使用が可能となる。これにより通常の弾薬数から数倍の弾丸数を獲得し、安価で量産が可能なため、コストパフォーマンスにも優れている。
トレイカートには銃器とそれに付随する装備品やマガジンが立てかけてある。
自動拳銃には、グロック19 Gen.5、SFP9M。
短機関銃には、KRISS 《クリス》 Vector 《ベクター》、MP7A1。
自動小銃には、20式5.56mm小銃、HK416。
氏家は口頭で銃器の名前だけを言って見せ、操作性や特性の説明は省き、葵にどれか二つ選べと催促した。葵は携帯ゲームでしか銃の知識はなく、どうしようか悩んでいるうちに、兄の部屋にあった写真の中で映っている銃を思い出した。葵は自動拳銃にSFP9Mを、短機関銃にはMP7A1を指さした。
氏家はトレイカートの数ある装備品からMP7A1にアタッチメントとして、ドットサイトとアングルフォアグリップを取り付ける。葵は氏家からそれらの銃器と専用のマガジンを二本ずつ持たされた。使い方の説明は簡単に、弾が無くなったらセレクターにある緑色の点が赤く点滅すると。そうしたら、マガジンを変える。その二言のみだった。
自動拳銃と短機関銃にはショルダーホルスターやスリングベルトのようなものはなく、スーツに直接的に装着できる。自動拳銃のSFP9Mは、腰の右側にそえると磁気が発生し、磁石のように付く。短機関銃のMP7A1は、聞き手の右手でグリップが握れるように、腰のうしろより高い場所に付ける。マガジンは左太もも上から腰の左にかけてスーツに取り付ける。氏家の説明通りに葵はやった。
「あとは的に構えて引き金を引くだけだ。いいな」
氏家はそっけなくそう言った。
「では、射撃テストを始める。今回は挙手制とする。誰から行く!」
葵の隣に立っていた藤原よりも背の高い三谷が手を上げた。
氏家は言った。
「三谷、前へ」
三谷は葵を見下ろして、
「やり方、見てろ」
と言って前に踏み出した。三谷は軍隊の挨拶でもするかのように声を高らかと上げる。
「三谷 英二! 出席番号二番!」
三谷は銃器のあるトレイカートまで歩いて行った。HK416のみを選び、アタッチメントにホロ サイトとバーティカルフォアグリップを取り付けて、着ているスーツにマガジン一本を取り付けた。
地下六階、フロアの広さは二平方キロメートルある。フロアの半分は射撃訓練用にステンレス製の板が迷路のように設られ、いたるところに射撃の的が用意されていた。
三谷はフロアの中央に立ち、自動小銃を構えた。氏家と生徒たちの立っていた位置より前のフロアが次第に下へ落ちていく。射撃訓練用の迷路と、その前に立っていた三谷のことを上から見下ろせるようになった。落下防止柵が地面から現れ、柵越しに氏家と生徒たちは三谷の射撃テストを見た。
「いいか始めるぞ!」
氏家のかけ声に、
「お願いします!」
と三谷が返事して、小声で呟いた。
「『高速精密射撃』」
ピーーーーーーーー。
フロアにアラームが鳴り響き、天井にあるタイムが作動した。三谷は自動小銃を構えながら小走りで迷路の中へ入って行った。迷路の板にはゴールまでの矢印が表示され、その通りに三谷は進んだ。その進行方向に表示されている的が赤色の電気弾によって次々と倒されていく。
三谷は壁際に沿うよう駆け出し、背後に振り向き的を撃つ。ローリングのあと地べたに這いつくばり仰向けになって、ひらけた空の的を撃つ。そのままうつ伏せになり、前方二〇メートル先の的を撃つ。中腰になり、人質の後方にある的を撃つ。立ち上がり、前の角を抜けて、各部屋のクリアリングのあとそれぞれの的を撃つ。
そうして、三谷は射撃訓練用の迷路を抜けた。
ピーーーーーーーー
再び、アラームが鳴り響き、タイムが表示された。三分二十六秒とある。的の的中が100/100と表示された。射撃訓練用として設けられた迷路の板と的の配置が変わり始めた。
ぼくにはできない・・・・・・
と葵はタイムを見上げて思う。
三谷の立っていたフロアがもとに戻り始める。氏家は生徒らに言った。
「次は誰が行く」
一人、か弱そうな女の子が手をあげた。
「田中 彩芽、出席番号5番」
「田中、銃の用意」
「はい・・・・・・」
と田中はどこか自信なさげに言った。
田中はKRISS Vectorを選び、サイトはなく、アドバンスドグリップのみを取り付けた。替えのマガジンも持っていない。
射撃訓練用のフロアがもとに戻り切ると、三谷が氏家や生徒の前まで戻って来て言った。
「今回も田中に負けたわあ! 悔しいぜえ」
「三谷くんもすごいよ」
と田中は視線を地面に向けたまま言った。
「なんだそれ、嫌味か」
三谷は笑いながら銃を置きに行った。田中はトコトコとフロアの中央に歩いて行って立ち止まる。射撃訓練用のフロアが地面の方向へ下がり始めた。下がり終えると、氏家が言った。
「いいか!」
その合図に対して、田中は銃を構えた。
「『絶対不可避』」
と田中は口にする。
ピーーーーーーーー。
アラームがフロアに鳴り響いた。と同時に田中がその場で銃の引き金を引いた。KRISS Vectorの銃口から発せられた電気弾が真っ直ぐ伸びたかと思えば、奇怪な方向に走り、すべての的へ目がけて飛んで行った。百もの的を真ん中に射抜く。アラームが鳴り、タイムが二十四秒と表示された。田中のいたフロアがもとの位置に戻る。
「一昨日より上達したな」
氏家は田中の肩に手を置いて言った。
「その調子で励め!」
「はい・・・・・・」
と田中は短機関銃を置きに行こうとしたそのとき、生徒の前で盛大に転んだ。拍子に、短機関銃が地面の上を回転しながら葵の足元に軽く当たる。場の空気が一転した。生徒の笑い声が上がる中、葵は銃を拾い上げ、田中のそばまで歩いて行った。依然、田中は恥ずかしくて起き上がらない。
葵は銃を差し出して言った。
「田中さん、これ」
田中はのそっと起き上がり、葵から銃を受け取るとそそくさとトレイカートに置きに行った。
「礼もねえのかよ」
三谷は呆れたようにそう言った。
氏家は生徒の射撃テストを実施していった。藤原は嫌味を言いながら、作間と秋山は愚痴を溢しながら、最後に葵の番が終わり、成績の発表がなされた。
【射撃テスト】
田中 彩芽
順位:一位
的中:100/100
タイム:二十四秒
三谷 英二
順位:二位
的中:100/100
タイム:三分二十六秒
藤原 木の実
順位:三位
的中:100/100
タイム:五分十二秒
作間 淳平
順位:四位
的中:89/100
タイム:六分四十九秒
日向 葵
順位:五位
的中:66/100
タイム:八分七秒
秋山 想姫亜
順位:六位
的中:51/100
タイム:九分十五秒