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YEHI OR/イェヒ・オール  作者: 海風 野花
第一章:田園都市ユートピア
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4.5 藤原 木の実


 私は小さいころからずっと一人でした。


 先生も同級生もみんな、私の名前を知るやいなや腫れ物に触れたように離れていくのです。原因は、───お祖父さまにありました。

 お祖父さまの名前は、藤原《ふじわら》 実孝《さねたか》、第二施設関東支部の全出資者であり、所有者兼所長をしています。以前までは、大企業の会長を務めていたそうです。裏社会にも精通していたようで真相の曖昧な悪い噂ばかりがありました。反社会勢力との繋がりがあるとか、政治家のスクープを握っているとか。

 私と関わると良くないことが起きるという噂は、常にまとわり付いていました。


 最近、移住者のあいだではこの施設のことを田園都市ユートピアだなんて呼んでいるみたいだけれど、啓示現象が起こる前から、もっと言えば、三ヶ月前からこの施設で暮らしていた身としては、この施設に理想郷《りそうきょう》なんて要素はどこにもありません。

 ディストピアとまでは言いませんが、前回、暮らしていた世田谷区の方がよほど理想的でした。家や庭は広々としていて、家政婦さんが美味しいご飯を作ってくれました。都心からも近いのでお買い物もたくさんできました。この施設には行き付けだったお店もなければ、美味しいご飯が食べられる場所も知りません。学校の訓練科ではどう接したらいいのかわからない生徒が数人。

 私にはお祖父さましかいないというのに、───そんなお祖父さまでさえ、数ヶ月に一度だけお会いするくらい。毎朝、通学でお迎えに来てくれる執事の方もお祖父さまのことは何も教えてくれませんでした。


 四日前から自宅向かいの部屋に明かりが付くようになりました。部屋の窓からおばあさんと二〇代後半くらいの男性が見えて、なんだか羨ましいと思えました。

 三ヶ月前には、マンションに暮らしていたのが私以外に誰もいなかったので、部屋の中ではバレないと思い、いつものようにブラとショーツで過ごしていました。カーテンを開けっぱなしにしていた無防備な私のせいもあります。裸族と言われればそれまでだけれど。

 エアコンの効き過ぎでパジャマに着替えようとしたとき、何か視線を感じて、窓の向こうを見たら、男の子が向かいのベランダでこっちを見ていました。それもずっと。こんなときに恥じらいを感じられればいいけれど、私にはそういうものを持ち合わせていなくて冷静に考えていました。男の子は、おばあさんと暮らしていたお兄さんの弟さんなのだろうと思いました。二日前におばあさんとお兄さんが話していたところに出会《でくわ》して苗字を知りました。


 日向《ひなた》───と。


 日向と聞けば、お祖父さまが頭を悩ませている人の苗字でした。そして、日向家の男に下着を見られてしまった。これは藤原家の一人娘として、しっかり話しておかないと、そう思い、次の朝に話しかけることにしました。私は、執事に車で彼のあとを着いて行くようにお願いしました。彼が私の通っている学校の正門で自転車を降りるところが見えました。私よりも小さな男の子、お祖父さまを悩ませる男の息子、ナヨナヨした彼の表情を見て、嫌悪感を覚えました。

 これはきっと八つ当たりに近いのかもしれません。苛立ちに歯止めが効かず、私の体は動いてしまって、気づけば、彼を空高く飛ばしてしまいました。


 あとでお会いしたら、私から謝らないと。


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

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