第十七話「ダンジョン突入!」③
「小休止と大休止って、軍隊の用語ですよね? それ。ミレニアムさんって従軍経験もおありなんですか? タレリアでは冒険者が軍に動員されたりするんですか?」
アーニャちゃんが不思議そうに訪ねてる。
まぁ、帝国軍って基本的に、貴族階級の騎士団が中心で、戦いは基本的にプロの仕事って感じだもんな。
なんでまぁ、帝国には徴兵制度とかそんなもんはない。
つか、素人を戦場に数合わせで動員しても、魔物相手じゃまともに戦力にもならない。
一般人が戦うとなると、辺境なんかだと自警団とかがせいぜいだし、都市部では希望者に軍事訓練の真似事させるくらいだな。
実際のところ、一般市民に武器もたせて、軍事訓練なんてやらせるくらいなら、有事に際して、混乱なく無事に避難出来るように避難訓練でもやらせた方がマシ。
領地によっては、領軍とか編成してる場合もあるけど、基本的にどっかの国の軍勢が攻めてくるよりも、モンスターが相手ってのがこの世界では、当たり前なんだよな。
「タレリアで……それも帝国移民の末裔ともなると、食い扶持のために仕事なんて選んでられないからね。そりゃ、従軍経験だってあるさ……」
うん、コレ以上は聞かない方がいいぞ、アーニャちゃん。
従軍経験があるってことは戦争にだって、参加してるって事なんだからさ。
タレリアも内乱とか、隣国の聖国との小競り合いとかも何度かやってるし、空賊なんてのが出て、その鎮圧とか人間相手に軍を出すとかあまり珍しくないと聞いてる。
必然的に、ミレニアムちゃんは人を殺した経験だってある……まぁ、そう言う事なんだろうな。
俺の……夏目雄馬の信念として、子供に人殺しはやらせないって思ってたけど。
……ミレニアムちゃんみたいな場合もあるんだよな。
とりあえず、アーニャちゃんの隣に行って、尻尾で脛をペシペシと叩く。
チラッとこっち見て目があうので、指を横にふる。
「あ……ご、ごめんなさい、悪いことを聞きましたね。でも、昔、タレリアに移住した帝国民の末裔の方々は、50年前の戦争のせいで、肩身の狭い思いをしてるんですよね……。戦争さえなかったら……ってそう思います」
「……気にしなくていいよ。あの戦争はタレリアが帝国の領土を掠め取ろうとして、返り討ちにあっただけの話だよ。悪いのは、帝国を侮った当時のタレリアの愚かな指導者達さ。どのみち、今のボク達には何の関係もない話のはずなんだけどね……」
なんともやりきれない様子で大きくため息を吐くミレニアムちゃん。
そんな半世紀も前の事で、差別されるってのも理不尽な話ではあるわな。
もっとも、今のミレニアムちゃんは、帝国への亡命希望者って扱いだからな。
タレリアには、親類縁者も残ってないし、国に恩義があるわけでもない。
異国の地で友と肩を並べて、国という垣根を超えて、人々のために戦う。
……それが魔法神アドリエの導きなのかもしれない。
そんな事を本人の口から聞いている。
この話も、とっくに皇帝陛下の元に届いてて、帝国側としては、ジジィの親類でもあるのは確実なので、帝国貴族の末裔として扱った上で、亡命と言う形で受け入れる方向で話もまとまりつつあるらしい。
タレリア本国では、スラムの住民は国民扱いされてないそうなので、向こうもミレニアムちゃんに関しては、おそらく把握できていない可能性が高いらしい。
もっとも、ミレニアムちゃんがタレリアでも十六人しか居ない魔法騎士の一人なのは事実なので、相応に揉めそうではあるんだが……。
話としては、国と国の国家戦略レベルの話なんで、俺らがどうこう出来るような話じゃない。
でもまぁ、皇帝陛下からも本人の意志を最大限尊重するとのお言葉を頂いているので、さすがに悪い話にはなりそうもないんだよな。
「……ただいまですっ! あら、皆様ももうすっかりお揃いでしたか……すみません、ついはしゃいでしまって……。あ、これ戦利品です。なかなかのサイズの魔石だったので、持ってきましたよ!」
なんか、ラグビーボールサイズの魔石抱えてるし。
こんなデカい原石はさすがに初めて見る……。
「うん、おかえり。これは凄いね……ここまでのサイズだと、軽く数億セクトの値が付くと思うよ!」
日本円で、数千万かよ……。
さすがに、A級パーティでやっと仕留められるような魔物だけに、魔石も欠片どころじゃねーのな。
「セクト? 確か、帝国のガルと当価値なんでしたっけ……となると、一億とか二億ガルって事ですか。いつものケーキ屋さんの紅茶とシフォンケーキセットが五千ガルだから……。えっと、何人分ですかね?」
……ユリアちゃん、意外と暗算苦手。
指折り数えようとして、桁が多すぎて訳わかんなくなってる模様。
まぁ、身近な安いものに例えて価値を実感する。
いわゆるチロルチョコ換算みたいなもんか。
「……うん、ざっと四万人分だな。インラント市の半分くらいには配れる計算になるな」
インラント市って何気に10万人都市だったりする。
市外の農村とかを入れると、グラハムアイランド全土だと25万人ってとこだな。
ナックルも入れると軽く50万くらいはいると思う。
なお、帝都は50万人都市で、帝都のあるロイヤルガーデン島は、世界でも有数の大型浮遊島でもある、こっちは軽く100万人……。
帝国全土だと、国民総数は二-三千万人くらいはいるだろうな。
ナックルも入れたら、五千万人くらい?
タレリアや聖国が一千万人くらいなのを考えると、帝国の強さが解るってもんだ。
しっかし、全世界でも一億に届かないとはねぇ……。
厳しい状況だってのは、この数字からもうかがい知れるぜ。
「あう。多いんだか、少ないのかよく解らなくなりました……」
「まぁ、一人でそれだけの金があれば、五年くらいは遊んで暮らせるだろうなぁ……」
「はぁ、そんなに……ですか。ゴブリンキングであの程度なら、狩りまくれば、大儲けですねっ!」
「そうだね。けど、こんなのが簡単にゴロゴロ取れてたら、冒険者はもっとお金持ちだらけだろうからね。さすがに、このサイズは希少だし、ゴブリンキング自体が早々出食わすような魔物じゃないんだよ」
「そうなんですか? じゃあ、もっと狩りまくりましょう! ダンジョンの魔物なんて、片っ端から狩っていけば、もう大儲け! 儲けたお金は皆に配れば、皆幸せになれますねー」
まるで、ダンジョンが金山か何かみたいな言い分だけど。
まぁ、そう言う考え方もあるわな。
実際、帝都にある帝都ダンジョンなんて、生かさず殺さず、生殺し状態で何年も冒険者の練習場代わりに使われてるし、場所によっては鉱脈に繋がってるからって、鉱山みたいにされてるようなところもあるって言うからな。
「まぁ、そうなんだけどね。けど、序盤から、あんな風に飛ばしすぎると、後々に響いてくるんだから。今回みたいな長丁場が予想される状況では、ペース配分を考えるってのも大事なことだと思うよ。まぁ、あんな猪武者みたいな戦いぶりしてちゃ、どんな勇者も長くは持たないからね。そこは気をつけるべきだよ」
「そうだな。俺らがジジィとダンジョン討伐戦やってた時も、ジジィの体力配分とかこっちが色々気を使ってたからな。グラドドドスと戦う前からバテてちゃ駄目だろ……むしろ、なるべく楽をするように考えてみてくれよ」
「あ、はいっ! そ、そうですね! ちょっと反省してます。クロイノ様も無事で良かったです!」
……相変わらず、俺の言うことはすんなり聞くのね。
「まぁ、俺のことは気にするなよ。んじゃま、先へ進むか……ダンテ、ジル! ちょっとユリアちゃんを休ませないといけないから、今度は俺らが前に出るぞ!」
「そうだな。俺らの役目はそう言うことだからな。すまんが、先陣の仕切りは俺が預かってもいいか? 一応、俺……パーティーリーダーだし、ダンジョン探索も結構手慣れてるからよ」
「ああ、ダンテはベテラン冒険者だからな。そこは任せるぜ」
そこら辺は、別に出しゃばらねぇぜ?
ナックルってのは、基本的に無責任だからな。
「任された。まずフォーメーションだが、ジル、お前は俺の右後ろ、クロイノは左後ろ。どっちも前よりも側面と頭上を警戒しろ。この三人で前衛を組んで、先頭を進む。残りは少し後ろで固まって、殿はダリオ……後ろはアンタに任せたぜ」
「うむ、妥当な配置だな。まったく、ここに来るまでにも通路だけでなく、妙なところから何度も奇襲があったからな」
「そうだなぁ……。壁が崩れて、いきなりオーガとかさすがにビビったぜ」
うぉ、そんなのと出くわししてたのか。
ちなみに、オーガはB級の魔物でもあるんだが……。
……よく、このメンツで倒せたな。
「ごめん。ボクもちょっと先行し過ぎてたよ。けど、ユリアちゃんがいれば、その手の奇襲はなんとかなると思うよ」
「そうですね……。私も途中、壁の中に気配があるのは気付いてたんですが……。やはり、そう言うのも潰すべきだったんですね」
「まぁ、しゃあねぇよ。ユリアちゃんはまだまだダンジョン戦はビギナーだからな。けど、その気配感知が優れものなのは知ってるから、見つけたら警告してくれればいいぞ。俺らが対処する。なぁに、俺らは護衛なんだから、仕事くらいさせてくれよ」
まぁ、これくらいは言わせて欲しいもんだ。
「解りました! じゃあ、しばらくの間、お願いします! うふふっ、守られるってのも悪くないですね。確かに、結構進んだと思ったのに、まだ半分って知って、先が遠いって思ってましたからね。では、今後はユリアはお休みと言うことですね!」
「うん、そうしてくれ。基本的に、ダンジョン攻略戦での狩猟騎士ってのは、切り札みたいなもんだからな。切り札をザコ相手に使うなんて、もったいないだろ?」
「確かにそうかも知れませんね……。さすが、クロイノ様です!」
さて、ユリアちゃんも了承してくれたことだし……。
こっからは事実上の未踏区域を俺らが先頭切って進むことになるって訳だ。
警戒しつつ通路を抜けると、20m四方程度の広間に出る。
一応、地図通りではある。
これまで同様、如何にも人工物って感じの何もない石壁の広間なんだが……。
こりゃ、なんかいやがるな……。
「ダンテ……」
同じ様に広間の入り口で立ち止まったままのダンテに声をかける。
「ああ、解ってる! 何も居ねぇように見えるが、なんかいるぜ? 罠か? それとも敵か?」
ひとまず、広間の中には何もないように見える。
敵の姿もなければ、目立ったものもない。
なんとなく、煤けたようにも見えるんだが……。
なんとも言えん。
地図上には、休憩ポイントとしてお勧め……みたいなコメントが書いてある。
「なんですかね……これ。気配はあるんですが、空気みたいに部屋中に満ちてると言うか……」
「……これは高濃度の瘴気? これ……多分、広間に入るといきなり、瘴気が魔物になるパターンだ! モンスターハウスかもしれない……。要警戒だ……慎重に対応しないと」
うぇ……モンスターハウスかよ。
部屋に入ると、出入り口がロックされて次々と魔物が湧き出してくるってアレ。
ハンターナイツでも、一対一なら余裕の雑魚でも、複数方向からタコられると結構キツイからな。
ダンジョンモードで複数の狩猟騎士でパーティ組んでても、モンスターハウスは、結構キツかった覚えがある。
ちなみに、モンスターハウスでの基本戦術は角っこに入り込んで、フォーメーション組んでの持久戦が基本。
三人一組で、角の一人を回復係にして休憩させつつ、一度に相手にする数を最小限にして、ローテーションしつつ乗り切るって感じだったけど。
あれ……リアルでやっても、動けなくなってジリ貧ってなるような気がする。
壁を背中にってのは有効かもしれないけど、アーニャちゃんやナスルさんみたいな純後衛がいると、そうもいかない。
……ここはどうしたもんかな。
と言うか、前回攻略時にはここはただの広間で、何もなかったみたいなんだよな。
やっぱり、このダンジョン自体も色々と変化してるような感じがする。
ミレニアムちゃんも、コアが活性化してるって言ってたし。
ストックが心許ないので、ぼちぼちデイリーに切り替えます。




