第十七話「ダンジョン突入!」①
そんな訳で、ダンジョン前に居た魔物の群れ2500は、ミレニアムちゃんの新魔法『メテオストライク』で軽く全滅した。
あったりまえながら、かなりの広範囲に渡って、灼熱地獄状態だったんだけど。
ミレニアムちゃんが氷結魔法ドカドカ打ち込んで、冷ましてくれたから、普通に歩ける感じにはなってる。
予定通り、飛行船からは全員フリーダイブし、ミレニアムちゃんの浮遊魔法で、全員無事に降下できた。
けどまぁ、ちょっとした飛び降り自殺体験だったぜ……アマリリスとかジョビジョバやらかしてたしな!
なお、俺もちょっと出たが。
下半身常に丸出しだからな! さすがナックル、なんともないぜ?
……まぁ、そんな感じで俺らもすでにダンジョン前。
冒険者ギルドの連中とも合流して、早速なんか知らんけど暇そうにしてたギルマスに捕まった所だった。
「なんとも凄まじい事になったのだな……。で……どの程度取り逃がした? 敵も馬鹿ではないだろうからな、この地形ともなると、上空から攻撃されたら、一目散に森に散ったと言ったところだろう。一応、4割を取り逃がしたと想定して、1000くらいは逃げ延びたと思っているのだが……。正直言わせてもらうが、むしろ、これは面倒なことになったかも知れんぞ」
……おう、ギルマス。
その想定、一桁違うし、多分要らぬ心配だと思うぜ。
「そうだな……せいぜい、100かそれ以下ってとこだな。後は全部燃えたり、こんな風に彫像みたいになってるぜ? 要は魔物共はすでに壊滅した……話聞いてなかったのか?」
……題名「悪鬼の断末魔」ってとこかな?
苦しそうに天に手を伸ばしたまま、溶岩被って、彫像になったオークが突っ立ってる。
もっとも、中身はとっくに空っぽになってるだろうけどな。
ダンジョン由来の魔物ってのは死ぬとチリに還るんだ。
唯一残すのは、魔石の欠片だけ。
魔力貯蔵用の魔石ってのは、この魔物が残す魔石の欠片を精製したもので、冒険者たちにとっては、ダンジョン由来の魔物と戦って得られる数少ない戦利品になる。
死体が残るとか、ウザいことにならないってのは結構なことで、返り血ですら消えちまうんだよな。
もっとも実入りが少ないってのは、やはり寂しいよな……。
地上由来の魔物とか、定着して野生化してるような魔物は普通の生き物と同様に、死ぬと死骸が残るんだがね。
ダンジョン由来の魔物はそこら辺が明らかに異質……。
限りなく半実体の不安定な生き物で、本来はダンジョンから離れて長生き出来るような奴等じゃないんだ。
もっともダンジョン由来のでも、大型の魔物になると、生きてる間に鱗とか引っぺがしたり、牙を折ったりすることで、素材回収も出来るんだが、軽く命がけだから、リスクに応じたリターンとは言い難い。
ゲームでも、超デカい巨大魔獣を倒しても、得られる素材は鎧一個分に満たなかったりしてたけど。
あっちも倒したら急いで素材回収しないと、死骸がチリになって取りそびれるって仕様だったんだよな。
こんなところで、ゲーム踏襲とはなんとも……。
そう考えると、ホント……この世界ってなんなんだ?
星空が地球と明らかに違うとか、自然科学の観点で見ても、ここは箱庭の作り物世界とか、VR世界とかそんなのじゃない。
ゲームの世界が具現化したとか、明らかに違うんだよな……。
ディティールがあまりに細かすぎるんだよ。
けど、いくつもの点でハンターナイツの世界と共通してるってのは、事実なんだよな。
……果たして、どっちが先なんだろうな。
ゲームがあって、ゲームと酷似した異世界が出来たのか。
或いは、この世界を知る者がハンターナイツを作ったのか。
可能性としては、後者なんだが……。
何故、何のためにこの世界を参考にしたんだ?
そもそも、なんでこの世界を知ってるんだ?
CAPCOPの開発室にしても、スタッフのメンバーも極秘扱いで顔写真や実名など一切不明。
海外に拠点があるって噂だけど、それすらも定かじゃない。
まぁ、考察するのは後回しかな……情報が足りんし、向こうの事なんて、もう調べようがない。
しかしまぁ、こうやって改めて見渡してみると、似たような彫像状態の魔物がゴロゴロしてて、なんとも無残な光景だった。
もっとも、こいつら魔物は人間だろうがナックルだろうが容赦しねぇからな……。
奴等は奴等で、お互いコミュニケーションしてたり、ある種の文化のようなものがあるみたいなんだが。
人間を見ると、問答無用で殺しに来るってのが基本。
アレはなんかもう、本能とか使命みたいな感じっぽいので、お話し合いとかやるだけ無駄。
さすがに、あの数が街や村に押し寄せてたら、どこも軽く全滅だろうし、インラントだって、あれだけの数が押し寄せてきたら、ただじゃ済まなかった。
ここで全滅させることが出来たのは、誰にとっても良いことだったと思うぜ?
魔物やダンジョンコアと、俺達はやるかやられるかって関係なんだ。
情けも容赦も要らない。
ただ、殲滅あるのみってな。
「……100だと? 2500も居たのに、生き延びたのは、たったそれだけなのか……? 信じられん……魔法騎士とはそれほどまでのものなのか?」
「こんな嘘、言ってもしょうがねぇだろ……。大体、地面がこんなになってんだ……多分、1万が相手でも結果は変わりなかったと思うぜ?」
多分俺、大げさじゃないと思う。
「わ、解った……! たしかにそうだな。では、ひとまず、一チームをここに残して、入り口周囲を確保させた上で、ナックル工兵隊に、駐機場を整備させ、第二陣の到来に備えるとしよう……。予定では、ダンジョン前に防御陣地を設置して、戻ってきた奴らを食い止め迎え討つ算段だったが、その程度の数しか生き残らなかったのであれば、そこまでする必要はないな」
100匹っても、バラバラに逃げてっただけだから、そのまま逃げっぱなしってのも多いだろうからな。
戻ってくると言っても、散発的に数匹づつとかそんな調子だろうから、そこそこ戦えるやつが10人もいれば、なんとかなるだろう。
「だと思うぜ? 逃げ延びたのは足の早いゴブリンライダーとか、ウルフ系、それに羽付きの魔物とかそんなのばかりだろうしな」
「解った。であれば、ここはもう最低限の戦力で事足りそうだな。では、我々ギルド職員チームの主力とA級冒険者チームは、予定通り、君らの後を追いながら、退路確保に努める……まぁ、それでよさそうだな」
一安心と言った様子のギルマスのおっさんが安堵のため息を吐くと、タバコを咥えるので、すかさずマッチを擦って火を付けてやる。
一瞬、驚いた顔をされるんだけど、中腰になっておずおずと火を付けると、美味そうに吹かしてる。
俺もタバコを咥えて顎をしゃくると、向こうもマッチを擦って火を付けてくれる。
なんとなく、お互い笑みを交わしあって、揃ってスパーッと紫煙を吹かす。
そんなもん、お互い自分でやれよって話なんだがね。
火を点け合うのも、付き合いのうちってな。
タバコミュニケーションの基本だぜ?
「なんとも、気が利くのだな……。まったく、ナックルなのに葉巻なんぞも嗜むとはな。お前達はつくづく享楽的な生き物なのだな……」
「へへっ! 俺らは太く短く楽しく生きるってのがモットーなんだよ。うん、あんたも気が利くな……火ぃあんがとな。無能呼ばわりして悪かったな……」
「無能で結構。……俺もとっくに限界を感じてるよ。この仕事が終わったら、引退を真面目に考えんとな……こんなジジィが最前線でいつまでも踏ん張ってるようじゃ、後が続かんからな」
「そうかい……欲がなくて結構なことだ。けど、ジジィ共には、若モンの踏み台になるってお役目も残ってるんだぜ? せいぜい、気張るんだな」
「若者の踏み台か……。まぁ、それも悪くないか。実際、現場の仕切りもエミリーに取られてしまったからな。おかげで、こんな所でナックルと立ち話をしながら、葉巻を吹かす程度には暇って訳だ」
「いいんじゃねぇか? それで……。暇ってことはいつでも動けるってことなんだからさ。こう言う現場にも一人くらいそう言う奴がいた方が皆、気楽に仕事できるってもんさ」
「……そんなものか? いや、そうかも知れんな……。ふふっ、ありがとう。俺はお前さんのことを誤解してたのかもしれんな。俺のヘマと優柔不断で、さぞ迷惑をかけただろう……すまなかったな」
「……気にすんなよ。んじゃ、俺もそろそろ行くぜ? 我らが姫君がお待ちなんでな……もう、暴れたくてウズウズしてるみたいでなぁ」
ちらっと見ると、ユリアちゃんも魔剣シュトライザーを抜いて、準備体操みたいなことしてる。
ちなみに、防具は胸甲みたいなのと脛当てくらいで、めちゃくちゃ軽装。
最初は、シャツと短パンみたいなトレーニングスタイルでやる気だったみたいだけど。
乱戦になったら危ないからって、最低限の防具を装備してもらったって感じ。
まぁ、首周りとかせめて、急所くらいは守ってもらわないとねぇ……。
もっとも、俺は防具なんて付けねぇんだけどな!
一応、俺も以前は盾お供らしく、ナックル用の鉄の鎧とか着てたみたいなんだが、こないだのグラドドドス戦で、ぶっ飛ばされた時に木っ端微塵に吹っ飛んだらしい。
アマリリスの話だと、ド派手に錐揉しながら、地面に叩きつけられて、鎧もバラバラ。
誰もがあいつ死んだなって思ったらしい。
俺もよく覚えてないけど、まぁ……軽く昇天しかけてたみたいだしな。
うん、気をつけよう。
「……武運を祈る。我々は約束通り君たちの背中を守らせてもらう」
生真面目な顔で、一礼するギルマス。
ちったぁ、気合入ったか?
「そうしてくれ。じゃあ、またな! 帰りもよろしくな!」
……そんな訳で、ダンジョン入り口に集合っ!
主力は、ユリアちゃんとミレニアムちゃん。
サポートチームのメンバーは……。
ダンテチームのリーダーのダンテにナスルさん、ジルとアーニャちゃんにダリオの4人と一匹。
俺らナックルチームは、俺とアマリリス、サビーネとティゲル。
なお、ナックルチームは俺以外は非戦闘系だ。
アマリリス、回復サポート。
サビーネ、雑用&ゴミ集め……良いもの拾ってくると良いな。
ティゲルは荷物持ち。
今回は小さなリアカー引かせて、ユリアちゃん用の予備装備や行動食や水なんかを積ませて、持たせてる。
ちなみに、こいつは大虎種と呼ばれるレアナックルで、とにかくナックルにしては図体デカくてパワー派だから、荷役には持ってこい。
もっとも、見かけの割に全然臆病だから、戦闘向けじゃないけど、力仕事なら大得意。
俺らは、前に出ないで後方警戒や横穴の警戒を担当しつつ、逐次サポートする感じだな。
できれば、俺らナックルチームが先行して、ルートスキャンくらいやりたいところだが、ユリアちゃんは先陣切って、全部蹴散らすって言ってるから、むしろ、追いつく方が大変かもしれない。
けど、こないだのクーデター騒ぎで一緒に戦った仲間たち。
そんな奴等と共に戦うってのは、いいねぇ! 実に燃えるよ!
ガランドゥ号は、近くに降ろして、ギルド職員チームのひとつが警護してくれるって言うから任せてきた。
ギルドの連中は、飛行船も物資とかを降ろした上で、一旦帰して第二陣を乗せて、戻ってくるらしい。
要は、インラントとのピストン輸送で、一気に戦力を増強するつもりらしい。
ダンジョン内に突入する後続部隊は、受付チーフのエミリーたん率いる職員一軍チームと、A級の三パーティ。
こっちは俺らの後追いで突入して、分かれ道や小部屋やらを制圧して回って、退路確保が任務。
後ろは任せたってところだな。
ギルマスは……エミリーたんが陣頭指揮とか無理すんなつって、結局、ダンジョンの外の掃討作戦の指揮って事で、職員二軍チームを預かって、第二陣の中級、下級冒険者チームの取りまとめもやるって事になったらしい。
「とりあえず、もう動くものはないみたいですね。ミレニアムさん、そろそろイイですかね?」
準備体操を終えたユリアちゃんが魔剣シュトライザーを抜くと、剣を構える。
「うん、そうだね。これだけ撃てば、さすがにもう大丈夫かな? でも、曲がった先にはまだまだ残ってると思う。まったく、あれだけ葬ったのに、まだ出て来るのか。まぁ、そんなものだけどね。フォーメーションは、ユリアちゃんが先行して、軽く蹴散らしていってよ。ボクはクロイノ君達と共に進みながら、残敵を掃討するとするよ。要は後ろは任せろってことだ。君は前だけを見て、先に進むことに専念するといいよ」
ミレニアムちゃんは、さっきからボコボコとダンジョンの入口から攻撃魔法を撃ち込んでて、入口付近を掃討してたんだが、ひとまず制圧完了したようだった。
「解りました! ユリアは、当たるを幸い薙ぎ払っていきます。取りこぼしはお願いしますね!」
それだけ言うとユリアちゃん、抜身の剣の柄に手を添えて、クラウチングスタートみたいな姿勢で姿勢を低くする。
何となく嫌な予感がしたので、ユリアちゃんの背後からそそくさと飛び退く。
「数多なる雷よ……我が身に纏て、一迅の雷鳴と化せっ! 『雷纏天翔駆』!」
ユリアちゃんの全身が青い電光に包まれて、ドカンと地面を蹴って、すっ飛んでいく。




