第十一話「魔法騎士VS狩猟騎士」②
「ははっ、ホントにボクを練習台にするつもりみたいだね! けど、ボクだって年上だし、冒険者としての年季だって上だろうからね。そんな練習台とか甘く見てもらっては困るよ! いけっ! 『地走槍』!」
ユリアちゃんの両脇の地面から岩で出来たツララみたいなのが瞬時に生えてくる!
けど、ユリアちゃんはその前に反応して、避けてる。
しかも、殆ど動かず最小限の動きでとか……完全に見切ってるんだ……。
「……君の反応速度、尋常じゃないね。今の地走槍……死角から、瞬時に二方向から同時に突き刺してくるから、普通はまともに反応できないのに……一歩も動かず避けるんだ。オークやオーガクラスあたりでも、あっさり串刺し……一発であの世行きなんだがね……」
「勘……ですかね? 右を見ながら左を見るくらいなら、ワケないでしょう? なんにせよ、私、対魔術戦の経験は薄いですからね……。知らない魔術のほうがきっと多いでしょうからね……。いいですよ! 今みたいに、ドンドン、遠慮なく仕掛けて見てください。このレンジはミレニアムさんの距離でしょうからね! 小細工上等、遠慮も無用です!」
しれっと言ってるけど。
右を見ながら、左を見る?
俺達みたいなナックル……猫の目は、人間と違ってちょっと斜めに付いてるから、かなり視界は広い。
そう言う事なら、まだ解るけど、人間の目でそんなマネ出来んの?
ちなみに、人間の視野角は90度から100度くらい。
ネコとか馬とかだと、180度と圧倒的な差がある。
実際、ちょっとクビ動かす程度で真後ろも見えるからな。
この辺は、ハードウェアの差だな……眼球構造的には、俺らの目って広角レンズみたいになってるからな。
特に動体視力に関しては、なかなか優秀にできてる。
ちなみに、人間の視界は、一点集中型だから、注目したところは見えてるけど、それ以外の周辺視野は見えてても、脳が認識してないんだよな。
まぁ、特殊な訓練を受けたり、ある種の才能で生まれつき全体視みたいな事が出来るやつもいて、「八方眼」なんて呼ばれ方もしてるんだがね。
けど、今のユリアちゃんの動きは、ほとんど同時に地面から生えてきた土の槍に反応して避けてた。
……多分、その「八方眼」っぽいな……。
けど、それ……狩猟騎士の能力とか関係ないぞ。
「へぇ、言ったね? なら、本気でドンドン行くよ! こうなったら、手数で勝負かけるよ! いくら君でも、対応出来る数に限度ってものがあるだろう?」
火炎弾、氷柱、不可視の風の刃……次々に放たれるんだけど。
ユリアちゃんは、その悉くを回避していく。
「なるほど、魔術攻撃はその前段階で微弱な魔力が来るんですね。さっきから感じていた魔術の気配の正体はこれですね……。要は、この前兆魔力を避けるだけで、十分。空間発動型の魔術も出現ポイントに前兆がありますね。……なるほど、狩猟騎士相手に魔術は無意味と言われる訳が良く解りますね」
そんな軽口とともに、怒涛の勢いで放たれる攻撃魔術をユリアちゃんは、尽く回避していく。
何が凄いって、唐突に空間が爆発するような火炎系魔術すらも、事前に回避行動に移って避けてる事。
どうも、魔術の前兆を察して避けてるみたいだけど……そんなん、あるの?
「……冗談っ! 掠めるどころかまるっきり当たらないと思ったら、前兆魔力を感知してるってのか! 確かに理論上存在すると言う話は聞いてたけど、普通は感知できないほど微弱なものだから、無視できる……そのはずじゃなかったのかっ!」
「微妙な魔力の揺らめきと、後は気配や臭いですね。先程の傭兵の方々との戦いで知ったのですが、弓矢や弩で狙われてると、当たるかどうかが事前に解るんですよ。どうも、狩猟騎士の能力の一つではないかと思われますね」
でもまぁ、狩猟騎士って確かにそんな感じなんだよな。
巨大モンスターの放つ鬼のような弾幕でも、まるでそこに来るのが解ってるかのように、ほとんど避けきっちまうからな。
まぁ、ゲームの場合は「パリィ」ってスキル発動で、自動回避モードになって、プレイヤー操作では不可能なくらいの超反応での神回避とか出来るようになるって感じだったんだがね。
例え、物理的に避けきれないような弾幕張られても、それはそれって感じで、集中防御で軽く耐えきっちまうし……。
狩猟騎士ってのは、割と接近戦に特化されてるように見えるんだけど、その実ほとんどの飛び道具を無効化してしまう。
この辺が、軍勢相手でも相手にならない理由の一つなんだよな……。
「……なるほど、感知能力に優れてるってことかな。確かにそれは強みだろうな……。確かにそう言う魔物も実在するからね……」
「魔物ですか……ちょっと詳しく聞かせてもらってもいいですか? いずれ相対する機会もあると思うので……」
「ああ、ダンジョン深部に出現する「パリィストライカー」って言ってね。……魔法や弓矢、あらゆる遠距離攻撃をほぼ確実に回避する難敵なんだ……。宙に浮かんだ布切れのオバケみたいに見えるけど、投射系はまるで効かない上に、その場にいる者たちから徐々に生命力を奪うエナジードレインと言う攻撃を仕掛けてくるんだ。範囲系攻撃魔術で一気に吹き飛ばすか、思い切って近づくほか攻略法が無いんだけど……ひらひら飛びまわって、打撃系も効かないからとにかく厄介な相手なんだ」
「ダンジョン……。そんな魔物が出るのですか……魔術師や近接格闘系の戦士にとっては天敵に近いかも知れないですね。色々と興味深いですね……ありがとうございました、すみません! 戦いのさなかにこんな興味本位の質問を……」
「いいよ、ボクはダンジョンに関しては詳しいからね……。他にも魔術を無効にする魔物ってのは珍しくはない……。だからこそ、魔術の使い手でもインファイトスキルは必須と言われているんだ。だが、君がパリィストライカー同様、何やっても避けられるとなると、投射系魔術はもちろん、空間系も駄目そうだな。広範囲殲滅魔法で避けるまもなく吹き飛ばすか……。設置型の爆雷弾とかも……いや、そんな見え見えの罠にかかるような間抜けには見えないから、置いても牽制にしかなりそうもないな。これはまた厄介な相手だな……」
さすがに、ミレニアムちゃんもユリアちゃんのチートっぷりに頭を抱えてる。
確かに、これは酷い……完全回避インファイターとか、魔法使いじゃ手に負えないだろ。
「それにどうやら、初歩クラスの魔術なら、触れただけで消せるみたいですね」
言いながら、ユリアちゃん……。
自分で打ち出した火炎弾を片手で弾いて、お手玉みたいにクルクル回すとか器用な真似をやってのけてる……。
その上で片っ端から、ペシペシ片手で叩いて、消していく。
無造作……その一言だった。
「火炎弾をそんなおもちゃみたいに扱うなんて……。なるほど、初歩魔術の物量で押すってのも、そんな調子だと無駄みたいだね。となると、やはり遠距離魔術戦では厳しいな。となると、やはり接近戦に賭けて、魔術と剣を取り混ぜた魔剣士流で行くしかないか。幸い体格ではこっちが上、勝機はある……けど、君みたいなおチビちゃんを殴る蹴るとか斬りつけるのって、やりにくいんだけどな」
なお、ユリアちゃんとミレニアムちゃんでは、頭一つくらい体の大きさが違う。
取っ組み合いになったら、さすがにちょっと厳しいと思う。
「そうですか? 私、大人の男の人達をワンパンで殴り倒すとか出来ましたからね。確かに身体は小さいですけど、甘く見てると、返り討ちですよ?」
あー、うん。
ブルックリンもデカイけど軽く宙舞ってたからな。
ウェイト差ってなんなんだろうな!
「確かにね……君、魔法騎士の防御結界を一撃で割るとかやってくれたからね。言っとくけど、さっきの物理結界。ドラゴンブレスにも耐えるくらいには、強力みたいなんだけどさ。まったく、どんな攻撃力なんだか……。おまけに、さっきからの防壁の展開速度はなに? 後出しで余裕で防がれるってどう言う事? 自分でも驚くくらいの術式展開速度なのに追いつかないとか……君、ちょっとレベル高すぎなんだけどさ……」
「詠唱破棄による高速展開術式……。実戦では多分、これが一番かと思います。もちろん、防御力は本来の手順より下がりますが。狩猟騎士の魔力は無尽蔵に近いですからね。質より量で補うと言う考え方が最良かと。それにしても、初見で私の剣を見切って、蹴り飛ばすとか信じられない真似をしてくれましたね。体術の心得もあるようで……」
「そうだよ。ボクはこう見えて、近接格闘もこなせるんだ。もっとも、正面から狩猟騎士の君と力比べなんてやったら、ちょっと分が悪そうだけどね。どのみち、ここはボクのレンジだ! 質より量……確かにそうかも知れない。なら、ここは一気に押し込ませてもらうよ! 火術『不知火』! それではアドバイス通り数でゴリ押しさせてもらうおうかっ! 『散華の陣』っ! 行くよっ!」
ミレニアムちゃんが、両手で簡易魔法陣を描くと、それがブワッと20個くらいに増殖。
「ははっ! なんだこれ……一つ魔術陣描いたら、それを魔力のある限り、複製展開可能って……そうか、これが万の軍勢すら焼き払ったと言われた魔法騎士の無限陣かっ! 悪いけど、これが数の暴力って奴だ……さぁ、受けてみろっ!」
魔術陣がうぞぞっと左右に展開すると、嵐のような火炎弾の連撃が始まる!
えー? 数で押すって言ってたけど……。
そんな、魔法陣のコピペ一斉展開とか、デタラメかよっ!
「……時間差の上に、この数! やはり、魔法騎士……尋常な火力じゃありませんね! これは私でも防ぎきれないかも!」
ユリアちゃんもバックステップで、躱していくんだけど、魔法陣が次々と展開されて、下がる先にドンドン追撃が来てる。
避けれないと悟ったらしく、襲い来る火炎弾を剣と素手でガンガン弾いてる。
けど、その表情には焦りの色が見えてきてる……。
でも、その割にはどことなく楽しそうにも見える。
あー、相手が自分の予想を超えてきて、押されてる……それすらも楽しいってか?
「悪いけど、君相手に、遠慮なんてしないからねっ! 20連を凌ぐなら、次は50連不知火……さすがに、これはもう避けきれないでしょ?」
ミレニアムちゃんの背後に、これでもかって数の魔法陣が展開される。
そして、それは言葉通り50個もの火の玉へと姿を変える。
……どうやら、自重なんてする気もないらしい。
ユリアちゃんが一気に飛び退くのと同時に、一斉に火の玉が様々な軌道を描きながら、発射される。
一発一発がドカドカと弾けて、爆発の連続!
洒落になってねーと思ったら、ユリアちゃん……居ねぇっ!
「消えた? いや……そこか!」
ミレニアムちゃんが斜め上に向かって、一斉射撃!
ユリアちゃん、上空に飛び上がっての突貫を仕掛けようとしてたようだったのだけど。
それは悪手だ……空中に飛び上がっても、軌道なんて容易く見切られる!
「悪いけど、飛んだのなら撃ち落とすまでだ! 残り全ての不知火……いけっ!」
ミレニアムちゃんの怒涛のような連射式火炎弾が確実にユリアちゃんを捉えたっ!
これはさすがに……っ!




