第十一話「魔法騎士VS狩猟騎士」①
と言うか、狩猟騎士も魔法騎士も自分よりも遥かに大きくて、強大な力を持つ巨大魔獣相手に戦い勝つ事を想定してるから、どっちも守りが半端ねぇんだよな。
おまけに、手足がもげるとかそんな重傷ですら、手もなく回復できる超回復力まで持ってる。
だからまぁ……過去に実際にあった狩猟騎士と魔法騎士の対決も、勝負がついた試しがない。
ジジィも若い頃、宿命のライバルがいて、全戦全分けに終わったとか言ってたが、多分例のリンド・シュバルツァーの事だったんだろうな。
なお、どっちも大御所……そんな奴らが本気でやりあって、決着が付かなかったなら、ビギナー同士なんて言うが及ばずだろうさ。
どっちも元気にピンピンしてる様子から、結局、何度戦っても引き分け……。
お互い本気でブチかましても、ケロッとしてるともなれば、むしろ仲良く喧嘩にもなるわなぁ……。
聞いた話だと、どっちかと言うと、お互いの傘下の従騎士やらお供、魔法騎士の場合、徒弟術士だっけかな? その辺が場外乱闘しつつ、そいつらが相争って不利になったら、試合終了……潔く退くとかそんな調子だったらしい……。
「さて、如何致します? 私にはこの魔剣シュトライザーがありますが……。そちらは徒手空拳。さすがに少し気がひけるのですが……」
「まったく、腹が立つほどに余裕だね……。けど、ごもっとも! そうだね……なるほど。こうすればいいのかな? 武装顕現っ! いでよ……永久の虚空庫にて眠る魔の剣達よっ! しばしなる世、我が腕に顕現せよ!」
ミレニアムちゃんが呟きながら、なにもない空間から、二振りの真っ黒い短剣を引き抜くと両手に構える。
なかなかサマになっていて、素人にはとても見えない……。
と言うか、いちいちこの大仰な台詞回しは、完全に彼女の趣味なんだろうなぁ。
「双剣術ですか……。それ……魔剣ですよね? かなりの業物とみましたが、この世ならざる剣……ですかね?」
「……みたいだね。古の魔の者が鍛えし魔剣……「黒双牙」とか言うみたいだ。魔力伝達率が桁違いに高い上に、いったい何で出来てるのやら……見たこともない材質で出来てるよ。これ軽くAクラスの魔剣だよね……『魔剣召喚』とか、ふざけたスキルだねぇ……」
その場で魔剣を召喚したのかよ! どっから? って思うんだが。
大方、神様からの支給品とかそんなんだろうな……それくらいやっても驚かんよ。
それに、魔法騎士って、白兵戦も行けんのか! さすがに多芸ですこと……。
「……良いです。実に良いですねっ! そうこなくてはっ! では、参りましょう……いざ、尋常に勝負っ!」
ユリアちゃんがめっちゃ楽しそうに、魔剣シュトライザーを改めて正眼に構える!
……この子、ちっちゃいけど構えとか超本格的。
剣自体もド派手に魔力を通して、フル活用してる感じ……あんだけ盛大に魔力を注ぎ込んでも問題ない辺り、さすが、A級冒険者が持ってただけはあるな……相当、格の高い魔剣らしい。
と言うか、むしろ宝の持ち腐れだったんじゃねーの?
ユリアちゃん、堂々たる正眼の構えで、もはや達人のオーラを放ってる。
強いっ! ……確信っ!
けど、ミレニアムちゃんも一歩も引かない。
不敵な笑みを浮かべて、黒双牙を十文字に構えると大きく足を前後に開く独特の構えを見せる。
かくして、魔法騎士VS狩猟騎士の戦いが始まった。
止めないのかって? いや、なんかもう二人共ノリノリなんですもの。
そもそも、止められないよ……こんなのっ! 化け物同士の頂上決戦とか、近づいただけでかるくしねるっつーのっ!
「まずは、小手調べ……この一撃でっ! ランスフィード流剣技、壱之型『縦横無刃』!」
ユリアちゃん、初手……上段の構えから、瞬歩で一気に間合いを詰めて、上から下へ振り下ろす大振りの剣戟!
例の瞬間移動みたいな歩法で、一気に間合いを詰めながら剣に魔力オーラを纏わせて、実際の剣のリーチよりも長く広く派手に切るって、大技!
いきなり、そんなかよっ!
さすがに、この初手瞬歩からの大技ともなると、避けきれないと判断したようで、上段から振り下ろす縦の一撃をミレニアムちゃんは、結界を張って、容易く弾く。
けれど、たったの一撃で結界は割れて、すかさずユリアちゃんの横薙ぎが振り払われる。
これも単純な力技の連撃に見せかけての、フェイント技。
振り降ろしから、切り上げと見せかけて、強引に軌道を曲げて、横薙ぎに持っていく。
けれど、その横薙ぎはミレニアムちゃんの狙いすませたような短剣の一撃であっさり、逸らされる。
鋭くも鈍い金属音……多分、今の一撃、ミスリルの重鎧が粉微塵になるくらいの威力はあった。
でも、どちらの剣も刃こぼれすら無いし、ミレニアムちゃんも力負けした様子もない。
武器の質は互角、パワーも互角……うん、どっちも凄いな。
「初見でこれを防ぎますか……やるっ!」
「そんな大振り、見え見えだったよっ! そこっ! 脇が甘いよっ!」
更に、ミレニアちゃんはユリアちゃんが勢い余って、バランスを崩しかけたところへ、回し蹴りで剣を思いっきり蹴り飛ばす。
そのまま勢い余って、ユリアちゃんが完全に背中を見せた状態で姿勢を崩すのが見えた。
「……剣に振り回されてるみたいね! もらったっ!」
「あの一瞬で剣筋を見切った? さすがっ! でも、甘いです! 参の型『昇竜刃』っ!」
ユリアちゃんが驚愕した様子で、たたらを踏むのだけど、そのまま身体を一回転させて、縦方向に強引に薙ぎ払うっ!
「……あの体勢から、持ち直したっ? なら、次はこれっ! 『爆炎』ッ!」
ミレニアムちゃんもその一撃をのけぞってバク転で回避しつつ、すかさず反撃っ!
瞬時にユリアちゃんの足元に展開された魔法陣から、ド派手な炎が真上に吹き出して、ユリアちゃんを包み込むっ!
「ユ、ユリアちゃーんっ!」
思わず、叫んでしまった。
いや、何なの? いきなり、このハイレベルな攻防?
しかも、ミレニアムちゃん……魔術の展開が冗談みたいにクッソ早い!
今の『爆炎』の魔術陣……秒で描けるような代物じゃないからっ!
彼女……そもそもの魔術師として、結構な腕前だったんじゃないか?
やっぱり、伊達に魔法騎士に目覚めた訳じゃないってことだ……彼女も素で相当な実力者だったんだろうよ。
けれど、そこら辺はさすがユリアちゃん。
剣を振り上げる勢いに身を任せ、瞬時に足元からの吹き上がった爆炎に吹き飛ばされながらも、そのまま高く飛び上がりながら、軽く着地すると、軽やかに連続バク転で一気に距離を取る。
「なかなか、実戦慣れしてるようですね……魔法陣をあんな一瞬で展開するなんてっ! それも反撃と回避を同時に行うなんて……お見事な手並みですっ!」
軽くノーダメージ! さっすがっ!
けど、ミレニアムちゃんもさるもの。
「まぁねっ! 伊達にソロでB級冒険者なんてやってないよっ! けど、その程度の距離を離したからって、安心するなんて、甘いっ! 数多なる雷鳴……我が敵を討てっ! 『雷轟』ッ!」
追撃の雷撃魔法がほとんど瞬時に、ユリアちゃんを直撃っ!
と思ったら、ユリアちゃん……地面に剣を突き刺して、あっさりと雷撃を無効化してる。
「……な、なにそれっ?」
今、ユリアちゃん……ミレニアムちゃんの雷撃の魔法陣が展開される前の時点で、剣を地面に突き刺してたよ?
要するに、追撃に雷撃が来るって読んだ上で、雷撃魔法対策の最適解で対応してたって事……。
ちなみに、雷撃魔法は一般的には、回避不能のチート魔法と言われてる。
おまけに金属製の防具だと、むしろ誘導してくるので、防御も難しい。
対処としては、発動に少し時間がかかるから、発動前に先制攻撃を仕掛けて先に潰すか、木とか皮で出来た絶縁体の防具ならダメージ軽減くらいなら出来るから、それに賭けるってとこだな。
欠点としては、使い手がそうそう居ないって事と、結構な魔力を食う上に発動も遅い部類に入るから、実戦では使いにくいって事なんだけど。
ミレニアムちゃんは、ほとんど瞬時に発動……魔法陣も一筆書きみたいな感じで瞬時に展開。
魔力消費もおそらく、魔法騎士にとっては微々たるもの。
要は、普通は気軽に使えない雷撃魔法をポンポン撃ってくるって事で、その脅威は半端じゃない。
なにせ、防御手段がほとんどないんだからなぁ……。
にも関わらず、ユリアちゃんは最良の回避方法、地面に導電体でもある剣を突き立てて、そっちに誘導することで、あっさり無効化してみせた。
数ある攻撃魔法でも最速と言われる雷撃魔法で即時の追撃をかけたミレニアムちゃんも凄いけど、それを承知で先読みで最適な手段で防いだユリアちゃん……半端ねぇセンスだ。
今の一瞬の攻防……凄まじいほどの読み合いの結果こうなったってことだ。
この二人……なんなの?
どっちも、往年のジジィよりも強いんじゃないの?
「……冗談っ! あのタイミングで『雷轟』を受け止めるなんて……」
「影方陣……不可視の魔法陣による並行魔術展開で、雷撃魔法を準備してたとはやりますね。けど、雷撃魔法って発動準備段階で、前兆があるみたいですよ。来ると解っていれば、対応も可能……。確かに雷撃系魔術は、強力な戦闘魔術ですけど、この私には効きませんよ?」
うーむ、見えない魔法陣を描くとか、そんな器用な真似やってたのか。
と言うか、それを見切ったってユリアちゃん……パネェ。
「いやいや、普通は反応なんて出来ないって……君、本気で凄いっ! ああ、もうっ! 心から称賛しようっ! ……と言うか前兆って何それ? そんなのあるなんて聞いてないよ!」
「……なんと言うか、ちょっと空気がピリッとしたんですよ。ああ、雷撃が来るなって解りました。けど、普通なら、今ので勝負が決まってましたね……あんな速度で雷撃魔法を展開できるなんて……反則ですよ。それにしても、魔術と剣術の合わせ技とは……魔法騎士ってのは、大したものなんですね」
「……ボクはこれでも元ダンジョンシーカーだからね……それもソロ専。実戦経験じゃ君よりも上だろうからね……色々と小細工に長けてると思っていいよ。それに、タレリアの冒険者なら魔術戦闘は基本だし、魔術一辺倒なんてダンジョンじゃ長生きできない。そりゃ、白兵戦くらいは出来るさ。けど……不思議な感覚だね。戦い方がまるで降りてくるように次々と思い浮かんでくる」
「ミレニアムさんもですか……。私も同じです。どうすれば勝てるか、どう避ければいいか。それが瞬時に脳裏に浮かんでくるんです。……ふふっ、いいですね! 未熟な私にとって、ミレニアムさんとのこの手加減無用の戦い。一手一手が値千金です! もっともっと、楽しみましょう!」
ユリアちゃん、エンジンかかってきたみたいで、瞳の色が金色に染まっていく。
……これまで本気出してなかったんだ。




