第十話「タレリアの魔法騎士」⑤
「君、イイね! 幽鬼みたいな感じでやる気満々で出て来た割には、そうやって笑うと普通の子みたいだ。なんだ、リンド卿って、帝国でも有名なんだね!」
「うふふ……絵本や小説になってるくらいですからね。けど、『偉大なる騎士グラハム・レトゥリアンの大いなる旅』も有名だと思います。この二人が国を問わず、一般の民衆の間で知名度が高いのは、二人の冒険譚が一般向けに書籍作品化したと言うのも大きいでしょうね。実は、私……グラハム閣下もあこがれの人だったんですよ。そんなお方の後継者なんて、身に余る光栄です!」
……そんなのがあったのかよ。
俺? 知らないよ。
「ああ、それも知ってるよ! 帝国随一の狩猟騎士グラハム卿の若かりし日の大冒険を描いた冒険小説の代名詞……。リンド・シュバルツアーとグラハム卿は、お互いライバル同士で、まるで導かれるように各地で相対し、時に本気で戦い、時に敵味方を超えて共闘したり、どっちの作品にも二人が共闘したり、双方が本気で戦うシーンが出てくるんだよね……。アレは実に胸が熱くなる名シーンだったよね……」
「そうですね。本来敵同士の二人が……同じ敵を倒すために力を合わせて戦う。そして、同じ力量を持つと認め合い、本気で戦い好敵手と認め合って……いつしか芽生える男たちの熱き友情っ! かっこよかったです! それに、両方読んでると、お互いの胸の内とかも解って、二倍楽しめますからね。ああ言うのっていいですよねぇ……。リンド・シュバルツァー絶体絶命の危機に、助太刀に入ったグラハム様の名セリフ「貴様はここで死ぬ定めではない。ここで死んで勝ち逃げなぞ、この俺が許さんっ! 立てっ! 共に戦ってやろう!」とかっ! もう胸アツでした」
「だよねっ! だよねっ! あれは二人が初めて共に戦うシーン……そして、二人共ボロボロになりながらも勝利し、無言で酒を酌み交わし……。「帝国の酒も悪くないな……また飲ませろ」……タレリア人のリンド卿が、この言葉に込めた思いは深い……飲みたいじゃなくて、飲ませろって表現なのも、また奥ゆかしくて尊いね」
「そうですね……それまで敵対してた二人のわだかまりが打ち解けた瞬間を表した、とてもとても深く尊い言葉です。そして、その返しがまたいいんですよね! 「それはいいが、酒代は貴様が持て……なぁに、命の値段だと思えば安い物だ」……と来る! なんと言うか、渋いですっ! 素直に後で一杯やろうと言うんじゃなくて、酒代オゴリで貸し借りナシだと言外に告げながらも、なんだかんだで、一緒に飲もうって言ってるってのが良いですね……。そして、二人で笑い合って、お互い肩を支え合いながら、帰還の途に付く……熱き男たちの友情の始まり……ほんと、尊いシーンですよね」
「いやぁ、タレリアでは、タレリアの魔法騎士が仮想敵国でもある帝国の狩猟騎士との共闘したり、友情を交わし合うなんて、あり得ないとか言ってる人も多いんだけど。あの話って全部実話で、二人は年老いても未だに交流があって、年に一度お忍びで中立都市で会って飲み交わす仲だって……そんな話だってあるんだ。ボクはその話、本当だと思うよ……」
「ですよね……。国や立場を超えたアツき友情。やっぱり浪漫、王道ですよねー! 他にも「三国航路」と言う名作はご存知ですか? あれは帝国婦女子の間では、もはや必見と言われてる大ヒット作なんですよ!」
「うそっ! 君! ルーティストだったの! うわぁっ! 同志がいたよっ! そっか「三国航路」って帝国発祥の作品なんだっけ……。タレリアでは一時期、敵性書籍ってことで発禁になったんだけど、ファンがデモ起こして、処分を撤回させた……なんて話もあってね!」
「そうなんですか? いや、これは是非、ゆっくりと語り合わなければ……」
なんだか、すっかり打ち解けたような雰囲気で、盛り上がってる二人。
……これ。
なにがどうなってるの?
ああ、けど……三国うんたらはしらんけど。
お忍びでどうのって話は、それっぽいの覚えあるなぁ……。
どの国にも属さない中立都市のサイレンって都市国家があるんだけど。
ジジィは、年に一度古い友人に会うとか言って、ボロ布みたいなのを着て、お忍びでサイレンにまで出張って行って、やっぱり似たようなボロを着た禿頭のジジィと三日三晩くらい一緒に飲んで騒いで豪遊しまくって、散財しまくるとかやってるんだが……。
まぁ……あれだ。
エロエロなカッコのおねーちゃんとか侍らして、キャバクラはしごとか、そんな感じ?
あのハゲ爺さんって、不良ジジィの不良仲間かと思ってたけど、あれがかの有名なリンド・シュバルツアー卿だったんだ……。
なお、未だ現役って話で……どこも大変だよな。
確かに、遠巻きに護衛みたいなのがわんさか張り付いてて、当然、同じジジィのお忍び護衛の俺達と鉢合わせたりしたもんだが。
お互い見なかった事に……とか言って、毎度穏便に済ませてたんだよな。
毎年、同じメンツと鉢合せるから、去年なんか、連中と一緒になって飲んだりもしたもんだ。
お互い事情は詮索しなかったけど、話してみれば割と気のいい奴らで、また来年! ……なんて言って別れたんだよな。
「……失礼しました。問答無用で斬りかかろうとした無礼……平に陳謝致します」
「気にしなくていいよ。ボクも君を問答無用で敵と認識しちゃったからね。そうだね……リンド・シュバルツアー卿とグラハム卿のように、狩猟騎士と魔法騎士の間に友情が成立することだってあるんだ……。こうしている今も、戦えと言う囁き声が聞こえてくるけど、必ずしもこの声に従う必要もない……。こんな風に打ち解けて、話をしてしまうと、さすがにやる気も失せるよ」
「そうですね。そうかもしれません……確かに貴女には邪気がない。きっと悪い方ではないのでしょうね……。ですが、おっしゃる通り、我々は本来お互い敵同士と言う立場……帝国とタレリアの関係も、今は落ち着いていますが、いつまた再戦となっても不思議ではありません。その立場を乗り越える為には、お互い超えなければならない試練があります。……お解りでしょうか?」
「そうだね……。あの二人も最初は敵として出会い……戦い、全力を出し切って、お互いを認めあう事が出来た。ボク達も出会ってしまった以上、このまま一戦も交えずに退く訳にはいかない……。となると、やる事はひとつ……」
「そうです。正直、この身に余る力……果たして、どこまでのものか、私自身にも解りかねています。ですが、今の私は並大抵の相手では、相手にすらならない……。私のお父様ですら、一蹴してしまったほどです……」
「随分な自信……いや、事実なんだろうね。実際、そこで倒れてる人達は、相当な腕利きだったけど、今のボクの敵じゃなかった。この場に今のボクと戦えるほどの者がいるとしたら、多分君だけだろうね」
「貴女が蹴散らし、倒れた者達はいずれもA級冒険者……間違いなく、最強の部類に入る方々です。私には解ります……貴女は今の私に匹敵するほどの力があります……」
「……なんだ、この人達って冒険者だったんだ。それもA級……正真正銘の強者達か。ボクもかつてはB級の冒険者だったんだけどね……。ちょっとしたミスでダンジョンで手酷い怪我を負って、右目と片足を失って……強制引退を勧告されてね。……今では、ギルド調査員と称する閑職で誰からも軽んじられる……その程度の存在に成り下がってしまったよ。タレリアでは、戦い傷を負った移民の末裔の居場所なんて何処にもないんだ……。ねぇ、ボクは……これからどうなるんだろう? こんな異国……帝国で、魔法騎士の力に目覚めたなんて……。よってたかって、なぶり殺しになるとか、そんな運命が待っていそうだけど……」
彼女、冒険者だったのか。
それもB級といえば、十分に強豪。
あの片目の眼帯と、右足だけ長ストッキングなのはそう言うことか。
まだ若いのに……なんて不憫な話なんだ。
彼女には救いが必要だ……そう思った。
……俺に出来ることはなにか無いだろうか?
ユリアちゃんと目が合う。
彼女も同じことを思ったのだろう……コクリと頷くと彼女の目を真っ直ぐ見つめ返す。
「……貴女が取るに足らない弱者ならば、そうなっていたでしょう。ですが、この私すらも圧倒するようであれば、それは帝国にとっても価値がある存在と認められるのは間違いないでしょう。もちろん、貴女の祖国……タレリアも放っておくはずがないです。つまり、貴女は己の価値を示す事で、自らの運命を掴み取らねばならない……。これは、私と戦う理由になりませんか?」
……ユリアちゃん! 脳筋っ!
己が価値を示したいなら、自分と戦え!
どいつもこいつも雑魚ばっかりで物足りないから、本気で殴らせてくれたら、殴り返されても文句は言わない。
レッツバトル! シャル・ウィ・ダンス!
要するに言ってるのはそう言う事。
と言うか、互角っぽい相手の登場にウズウズしてるっぽいな……この子。
でも、ユリアちゃんの言ってることは多分正しい。
彼女が狩猟騎士であるユリアちゃんと互角に戦って、その実力を証明すれば、ユリアちゃんの言う通り、タレリアは彼女のことをほっておかないし、帝国もあわよくば取り込めないかと懐柔策に走るだろう。
つまり、どう転んでも彼女にとっては、悪い話にはならない。
「悪くない提案……だね。狩猟騎士は魔法騎士の本気の大魔法すら、正面から軽く耐えしのぐと言う……。手加減無用でも簡単には倒せない……。確かに、ビギナー同士の腕試しとしては、お互い悪くない相手かもしれない。と言うか、本気で行っていいのかな? 君、どう見ても年下だし、見た感じ10才とかそれくらいだよね? ボクはこの力にまだ慣れてない……手加減なんて器用な真似、出来る感じがしないよ? うっかり殺してしまったら、流石に寝覚めが悪いよ……」
「お察しがよろしくて、助かります。我が名は、ユリア・ランスフィード……故あって、帝国の刃……狩猟騎士として、覚醒したてで、見ての通りの若輩者ですが……。手加減など無用と言っておきましょう! むしろ、立ちはだかる壁……そのような認識で結構です!」
そう言って、ユリアちゃんは魔剣シュトライザーを抜くと静かに正眼に構える。
やばい、この子……小さいけど、めちゃくちゃ決まってる!
それに、立ちはだかる壁とか、言い回しもかっちょええ!
文学少女だけに、色んな英雄のセリフとか覚えてて、いつか使ってみたいとか思ってたんだろうなぁ……。
「ご丁寧にどうも痛み入る……。そう言えば、名乗りもまだったね……ボクの名は、ミレニアム・ウィル・レトゥリアン。まったく……お祖父ちゃんから、我が家は帝国貴族の末裔だって話は聞いていたけれど。これは、一体どう言うめぐり合わせなんだろう? 戦って運命を掴み取る……か。確かにそれも悪くない……。けど、そうなると君になんの得があるんだい? ボクだって、ここまで聞けば自分が八方塞がりの四面楚歌だって事くらい解るよ。敵中孤立、助けの当てもない……お情け……のつもりかい?」
「神々は……力を欲し、力を持つに相応しき者にこそ、力を与えるそうです。貴女は力を望んだ……自らの運命を切り開くために……そう心から願い、運命を切り開く力を引き当てた。であるならば、この私がその試練として立ち塞がると言うのもまた一興。ふふっ、私も私で本気で死合った上で、今の自分の限界を知りたいのですよ。その為ならば、勝ち負けなんてどうでもいいんです。例え、死線を垣間見るほどの戦いとなっても、それもまた一興でしょう」
「……あっはっは! 解ってきたよ……君は、たぶん生粋の戦士なんだろう。でも、悪くない……その意気、とっても気に入ったよ! ……要するに、君はボクと命懸けで戦いたいってそれだけなんだろう? その気持ちは解るっ! それに、ボクも……君を認めさせた上で、戦いに勝って、ボク自身の価値を証明する必要がある。ああ、確かに命を賭した戦いの理由としては十分だねっ!」
「ご納得いただけたようで何よりです。お互い不慣れかも知れませんが、ここはひとつ肩の力を抜いて、お互い全力で……本気で存分に死合ってみましょう!」
「そうだね……。この力がどこまでのものか……ここはひとつ腕試し、何よりボクの運命を切り開く為の試練として……本気でやらせてもらうよっ!」
……なんだか良く解らないけど。
お互いお手頃な相手っぽいから、一戦交えましょうって事か?
ユリアちゃん……割と蛮族思考。
薄々そうじゃないかなーって思ってたけど、君、やっぱりかよ……血は争えないねぇ。
でも、確かにミレニアムちゃんは、帝国貴族の血を引いているとは言え、外国のタレリア人。
祖国にさしたる思い入れはないって言うのが、言葉の端々から伺えるけど、その事実は動かない……である以上は、このままなぁなぁでほな、さいならとはいかないだろう。
もっとも、こちらのやらかしで誘拐同然に連れてきちゃったから、ごめんなさいするのはこっちだと思うんだけどなぁ……。
でもまぁ、狩猟騎士に覚醒したユリアちゃんと互角に戦った……なんて、実戦で示せたなら、彼女がタレリアに戻るにしても、有利になるだろうし、ユリアちゃんもタレリアの魔法騎士相手の実戦経験を得られるってのは、美味しい話だろう。
なお、怪我したり、命の危険だの、そんな心配はしてない。
狩猟騎士ってのは、そんなヤワじゃないからな。




