第九話「今日から俺はペットなんだぜ」③
「ふむ、話はまとまったな。まぁ、そんな訳じゃ。ユリアちゃん、お主がワシの後継者と言う事で決まりじゃが、特段別に何かをさせるつもりはない。当面は今まで通り、学校に通い、将来に備え勉学と修行に励むが良い。まぁ、ちょっとばかり皇都に行って皇帝陛下に謁見したり、各地への挨拶巡りだの、帝国のお偉いさんの歓待だの、領地の視察などもあるが……。どれも急ぎでもないし、頻繁なものでもないからな。決して、悪いようにはさせぬつもりだ」
確かに、隣接する他の浮島の領主達との関係も良好だし、領民たちも気の良い奴らばかりだからな。
美少女ロリっ子領主様とか、むしろ皆に可愛がられそうだ。
ちなみに、帝国では狩猟騎士の適合者自体が激レアなのもあって、女性の狩猟騎士とか、10代の若造なんて前例だってある。
男女差別だの年功序列なんて言ってたら、なり手なんて無くなっちまうってのが現実。
なにせ、平民からのパッと出と言う例だってあるからなぁ……。
なんせ、どんな奴が狩猟騎士になるかなんて、解ったもんじゃないからな。
帝国側も相応に柔軟な対応ってもんを心がけてるって訳だ。
さすがに、年齢一桁領主ってのは前例ないけど、それでも多分、なんとかなってしまうだろう。
狩猟騎士ってのは、それくらいには帝国にとっては、重要戦力だからな。
寝返りだの出奔なんて事になったら、国家としての一大事だから、そりゃあもう優遇されてるし、手厚く保護もされている。
当然ながら、国を挙げての惜しみない支援と行動の自由が与えられることになっている。
権限だって、破格のものが与えられるからなぁ……。
なにせ「帝剣十六輝」に対し命令権を持つのは、皇帝陛下その人のみ。
そんな風に帝国憲章にも書いてあるくらいなので、ぶっちゃけ皇帝陛下の次くらいにエラい立場なんだぜ?
もちろん、家格とか実績、年齢なんかで序列はあるものの。
「帝剣十六輝」同士の間でも命令権は存在せず、出来ることは個人的なお願いや報酬を払ってのギブアンドテイク。
要するに信頼ってプライスレスな代物が物を言う世界なのだよ。
しっかし、ユリアちゃんがそんな「帝剣十六輝」の一人になるなんて……。
どいつもこいつも大領主様とか、将軍様だのそんなのばっかりだから、さすがにハクは見劣りするし、年始の謁見式とかに呼ばれたら、背が低すぎて、どこに居るのか解らなくなっちゃいそうなんだがね……。
でも、馬鹿にされたり、蔑まれるって事は絶対ない……それは断言してもいい。
ジジィはああ見えて、「帝剣十六輝」内の序列ではトップクラスの存在なのだよ。
なんせ、上位陣の親衛騎士団長やら、帝国空中艦隊司令長官とか、その辺はジジィの弟子だったり、教え子だったり……。
ジジィは、軍学校の教官なんかもやってたから、帝国軍にも顔が利くんだよな。
そんなジジィの後継者ってのは、もうそれだけで一目も二目も置かれる存在になるだろう。
今はちょうど世代交代の時期らしく、ここ5年くらいで4人くらい代替わりしたんだったかな……。
ちなみに、二人は40代になったからって潔く後進に譲り、二人は……病死して、微妙なのが後釜になった。
いけすかねぇ奴らで、どっちも先代が死んで、代替わりしたんだが……。
その死因も不審な点が多く、帝室の監査が入って色々と取り調べとか調査が行われたらしいんだけど、何も見つからず、推定無罪とされた。
その後釜の若造共は……どうにもいい噂ってものを聞かない。
やたらと金かけて、私兵軍みたいなのを組織してたり、領民に重税を課したりだの。
本来、帝国民は帝国内の往来は自由ってことになってるのに、領民の流出防止とかで領地を妙に閉鎖的にしてて、監査なんかもしょっちゅう食らってる。
ぶっちゃけかなりの問題児だと聞いてる。
とは言え、狩猟騎士をどうにかするなんてのは、皇帝陛下でも難儀するような話なので、是正勧告や抜き打ち監査でのあら捜しくらいで済んではいるらしい。
なにより、門閥貴族や皇族ともつながりがあるようで、現皇帝批判も平然とやってるとも言われてるくらいだからな……。
まぁ、今の皇帝陛下も先代皇帝からの引き継ぎで色々こじれたみたいだからな。
だからこそ、皇帝陛下の忠臣を自認するジジィも意地になって、現役狩猟騎士として、無理に無理を重ねてきたんだよな……。
おまけに、このグラハムアイランドって、帝国でも最下層空域に属する……要するにバケモノ共の巣窟になってる地上に一番近い、いわば最前線の浮遊島群なのだよ。
当然ながら、この地のリスクは他よりも遥かに高い。
魔獣の襲撃頻度も他の地域に比べると格段に高いからな……一番安全だといわれてる皇都辺りと比較したら、倍は高いと思う。
その代わり、高度が低い分温暖で過ごしやすく、農作物の生産量も帝国トップクラス。
面積もかなり広い部類に属するので、戦略的にはかなりの重要拠点でもあるのだよ。
そんな帝国の要衝と言っていい領地を任されているって時点で、ジジィって割と問答無用で尊敬されてるんだよな。
ジジィの異名の一つ……「帝国の盾」ってのもあるんだが、それはそう言うことだ。
とは言え、お飾りとか陰口叩かれない為にも、さっさと実績とかも作らねぇといけねぇんだよな。
まぁ……初仕事はグラドドドス退治かね。
あれも、遅かれ早かれ始末しねぇといけねぇ。
けど、あんなの所詮、チュートリアルだからな。
俺がいれば、余裕大勝利だっぜ!
「グラハム閣下、畏まりました。ご安心を……私もランスフィード家の一人娘として、将来お父様の後を継ぐ心づもりでしたから。閣下の後継者ともなれば、更なる重責を担うことになるでしょうが、なんら問題はありません。けど、出来ればですね……ユリアの心の支えとして……ですね」
そう言って、腕の中の俺をじっと見つめるユリアちゃん。
「うむ、解っておるよ。クロイノであろう? コヤツは我が忠臣でもあるからな……。今後は、常にお主の側にいると言っておったから、そこは安心するが良いぞ」
……言ってないからな?
でもまぁ、是非も無しってやつだ。
「ああ、俺はこれからずっと君の側にいるよ。ユリアちゃん……今後ともヨロシクな」
テヘペロッ! 言っちまったよ!
俺が答えによほど感動したらしく、ユリアちゃんは涙をポロポロ流しながら俺を優しく抱きしめる。
ついでに、ほっぺに軽くチュッと!
やっべぇ……女の子にほっぺにチューとか!
もう、女の子と縁がない非モテ野郎なんて誰にも言わせないっ!
……まったく、我ながら女を泣かせるとは罪深いねっ!
クーデター騒ぎもこのまま鎮圧されて、後継者問題も解決!
この調子だとすべて丸く収まりそう……。
……そう思ったんだが。
次の瞬間……!
俺には、それが一瞬視界が歪んだ……くらいの認識だった。
けど、突然、ユリアちゃんが険しい顔になって椅子から立ち上がると、俺を正面からギュッと抱きしめて窓側に背中を向けて座り込む。
ユリアちゃん、手で耳をふさいで、口を開けろって……耐爆防御姿勢?
ジェスチャーで自分の真似をしろと言いたいっぽい仕草をしてる。
なお、猫耳は気合い入れるとパタンと折り畳んで、手を使わずとも耳を塞げるのだ。
耳を折りたたんで、口をポカーっと開けると、ユリアちゃんが良く出来ましたと言いたげに微笑むと頭を両腕で包み込んで、カバーしてくれる。
更に、背後に防壁の魔術を幾重にも発動し、重層シールドを展開。
早速、狩猟騎士の能力を使いこなしてるのも驚きだけど、そうせざるを得ないってことか?
おいおい、ユリアちゃんがここまでやるとなると、相当強烈な爆風かなにかが来るんじゃ……。
それを見たブルックリンも慌てて立ち上がると、ジジィを庇うようにその前に立ちはだかり、ユリアちゃん同様に重層防壁魔術結界を展開する。
同席していた神殿の神官達も訳も分からないままながら、危険を察したらしく、即座に防御魔法を発動。
更に建物周囲の結界が起動したらしく……辺りが水を打ったように静かになる。
何事? と思う暇もなく……周囲が赤く染まって、いきなり療養院の窓ガラスが吹っ飛び、そこら辺じゅうに破片が飛び散り、ワンテンポ遅れてズシンと言う爆発音が響き渡る。
こ、これは……っ! しょ、衝撃波が先に来ただってっ?
だとすれば、これは相当近くで強烈な爆発が起きたって事だ。
光が見えてから、爆音が聞こえるまで2秒弱。
爆心地から、1kmも離れてないな……おまけに衝撃波が音速を超えてたとなると、相当な威力だ。
そもそも、爆弾なんかが炸裂しても通常、その衝撃波は音速なんて超えない。
超えたとしたら、一瞬で音速以上の運動エネルギーを発生させたってことだ。
俺、これでも理系の大卒……それくらいの計算出来るぜ?
それだけに、どれだけヤベェことが起きたかってのは、多分この場の誰よりも解ってる。
更にあちこちから重たい音が響く。
多分、吹き飛ばされた瓦礫やらが、次々と落ちてきてる音だ。
療養院の建物にもデカいのが当たったみたいで、建物が揺れる……。
けど、神官の一人が最初の時点で建物周囲の結界を起動してくれてたようで、それ以上は何も起きない。
まったく、これはユリアちゃんのファインプレーだな。
真っ先に反応してこれでもかって位、強力な防壁張ってたからな。
他の連中もそれを見て、何が起こるか理解する程度の判断力はあった。
つか、ユリアちゃんも、なんでこんなのに、反応できたんだか。
「……か、かなりやべぇ爆発だったぞ。ユリアちゃん、外の様子を見せてくれっ!」
「はいっ! 解りました……クロイノ様! て、敵襲でしょうか……。けれど、今のは何も無い所に唐突に爆発的な魔力が立ち上ったようでした……一体、何が? この感じ……強力な魔術? けど、こんな威力……あり得ない」
そこまで解るもんなのか……この子なにかと半端ねぇな。
けど、ユリアちゃんでも何が起きたのか正確に把握は出来ていないようだった。
……窓の外はもうもうたる煙。
けど、猛烈な風が吹きすさんで、たちまち砂埃がかき消されていく。
ここは高台に建ってる上に二階だから、割と視界も開けてて街の様子もよく見える。
……500mほど先、大きく建物が倒壊してる様子が解る。
けれど、爆心地と思われる辺りは比較的被害が少ない……どうなってんだ? これ。
「この様子だと、爆心地は冒険者ギルドの辺りだな……ジジィッ! ブルックリン! やべぇぞ……こりゃ、街に相当な被害が出てるぞっ!」
ブルックリンと、グラハムのジジィも外の様子を見て、呆然としている。
つか、あんなレベルの爆発……ユリアちゃんは魔術とか言ってたけど。
いきなり、何もない所に非常識レベルの魔術が使われたってことか?
なんだそりゃ。
けど、考えてみれば、もう一つ……やべぇネタが残ってたんだった。
もうひとりの覚醒者……ジジィの後継者候補だったってヤツ。
まさか、これ……狩猟騎士のオーバーブーストなんじゃねぇか?
爆心地も位置的に恐らく冒険者ギルド……となると、結論は自然に出る。
さては……やらかしやがったな!
例のもうひとりの後継者。
ギルドが保護してるとか言ってたけど。
……あの様子だと、体の良い監禁ってとこだったんだろう。
まぁ、保護も監禁も紙一重ではあるんだが。
そこら辺は信頼関係次第ってところでもあるからな……。
ギルドマスターのベルガってのが、どんなヤツかは良く知らんが……。
おそらくその信頼関係の構築の段階で、下手打ったんだろう。
多分、その結果が……これだった。




