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76.合同訓練



 ミルとセルフが主従契約を結んだ翌日。メルルラに二人の人物が訪れていた。


「ふむ。優夜と会うのは、確か決闘をした時以来か」

 がたいの良い騎士――ガイルは街を歩きながらぽつりと呟く。


「ええ、隊長がこてんぱんにされたあの時以来です」

 隣を歩く若い騎士が笑いながらガイルを揶揄する。


「うるさいぞ、副隊長。…ん、そういえば副隊長はまだ優夜と会っていないんだったな」


「はい。決闘は見てましたけど直接は会っていませんね。いやあ、優夜君には感謝しかありませんよ。あの時優夜君に賭けたおかげで僕は借金を全額返すことが出来たんですから」

 若い騎士は両手を合わせまだ会っていない優夜を思い浮かべながら感謝の思いを伝える。


「まったく。副隊長の賭け癖には困ったものだ。そもそも、借金は全て副隊長が賭け事をするのが悪いのだろうが」


「まったくもってその通りです。ですがあの時味わった高揚感は未だに忘れられません!やはり賭け事はやめれませんね!」


「はあ」

 ガイルはため息を吐き、ある建物の手前で足を止める。


「着いたな。副隊長よ、優夜に礼を言う事ばかり考えていて今回来た理由を忘れてないだろうな?」


「忘れてないですよ!えーっと、確かメルルラの冒険者ギルドのギルド長から騎士団の依頼を返してもらうでしたよね」


「そうだ。まったく、騎士団がギルドマスターに依頼を取られすぎて困っているとは情けない。魔王軍が攻めてくるまでもう時間が無いというのに」


「あ、でも。その依頼の件、優夜君が関わってるみたいですよ」


「優夜が?」

 ガイルは首を傾げる。


「はい。メルルラのギルドマスターに聞いたんですが、優夜君が依頼が欲しいと言って、それを集めるために騎士団の依頼を取っていったそうですよ」


「なるほどな。それなら出来るだけ返してもらい、残りは優夜に任すとしよう」


「はい。優夜君なら実力としても問題も無いですしね」

 二人の騎士はそんな事を話し合いながらギルドの中に入ろうとする。その時だった。


「あれ、ガイルさん?」

 二人の騎士はその声に反応し後ろを向く。


「おお。優夜ではないか。久しぶりだな」

 ガイルは優夜と再会した喜びを抑えながら挨拶をする。


「久しぶりですね。それで、えっと…?」

 優夜は副隊長の方を向き言葉に詰まる。


「初めましてだね、優夜君。僕は近衛騎士団副隊長のベスト・ティスター。ティスター伯爵家の長男だ。よろしくね」

 若い騎士改めベストは優夜に手を差し出す。

 貴族の人か。伯爵家って確か凄いんだよな?なんか俺の周りって公爵家とか位の高い人しかいないから感覚が狂ってるんだよな。


「えっと、よろしくお願いします」

 優夜は手を握る。


「うんうん。これが僕の救世主の手かあ」

 ベストは優夜の手をじっと見つめ、そして顔をこすりつける。


「ちょっ!?」

 優夜はその行動に驚愕し、慌てて手を引き抜く。


「ああ!僕の救世主が!」

 救世主?何を言ってるんだこの人。

 優夜は初めて会ったベストに警戒心を抱く。


「副隊長落ち着け。それと、優夜すまなかったな。副隊長は少し賭け癖があってな。あの時優夜に賭けていたんだ」


「ああ……」

 なるほど、と優夜は腑に落ちる。てかこの人が俺に賭けてた数少ない内の一人だったとは。少し警戒を解いてあげようかな…?

 ガイルの説得もあってか、優夜の警戒心は二割程解けたのだった。


「てか、何でガイルさんがこの街に?」


「ああ、それはここのギルドマスターに用があってな」


「エリーさんに?」

 あの人近衛騎士に目を付けられるような事をしたのか?


「まあ来れば分かる」


「俺も一緒で良いんですか?」

 そうゆうのって部外者は駄目なんじゃ……。


「優夜も関係がある事だからな」

 ん?俺に関係がある?エリーさん、騎士……あっ。


「なるほど。分かりました」

 優夜はガイルの言葉で一つの答えに辿り着く。

 絶対依頼(あれ)の事だ。


「では行くか」

 ガイルの誘いに優夜は無言で頷く。



 ギルド長室に入った優夜達はエリーに促されソファーに座ると、ティノから差し出された紅茶を飲み、心を落ち着かせる。

「それで、優夜のみならず近衛騎士団の隊長に副隊長まで、どういう要件じゃ?」

 手に持っていたティーカップをテーブルに置いてエリーは言う。


「分かっているでしょう。王国騎士団から奪った依頼の件です。あれを返してもらいたい」


「ふむ。奪ったとは人聞きの悪い、私はちゃんと許可を得てもらってきたんじゃ」


「一方的に決定させた事を許可とは言いません。優夜に変更する事へ文句はありません。が、少しで良いので騎士団の方にも渡してもらえないでしょうか?今騎士団へ依頼をしているのはメルルラともう一つの街しかありません。このままいくと騎士団はろくに実戦をせずに決戦の日を迎えてしまいます。これは騎士団だけでなく王国の問題でもあるのです。報酬などは無くても構いません。王国騎士団の実戦さえ積めればいいのです」

 まあ、確かに。魔王軍と戦うのに味方が弱かったら魔王を倒す以前の話だからな。それに関しては俺もガイルさんに賛成だな。

 でも、何で騎士団だけでモンスターと戦っちゃ駄目なんだ?


「ふむ。それなら騎士団が単独でモンスターを狩れば良いだろう?」

 あ、エリーさんも一緒の事考えてた。


「はあ……。ギルドがモンスターを狩りすぎて、騎士団が探してもいないからギルドの依頼を受けてるんじゃないですか……。一昨日発生したオークエンペラーだって本来、騎士団が討伐する予定だったのを優夜が倒してしまったんですから」


「「何かすみません…」」

 エリーと優夜は同時に謝る。

 んー、でもオークエンペラーは仕方なくない?あのままほっといたら街に侵入してたし、不可抗力だろ。


「なるほどの。それなら、合同訓練というのはどうじゃ?」


「「「合同訓練?」」」


「うむ。騎士団はモンスターとの実戦経験を積みたい。優夜は強くなりたい。なら一緒にやってしまえば良いではないか。それに依頼の成功率が上がればギルド側としても嬉しいしな」

 エリーは自身の言った言葉に相当自信があるようで、ソファーにふんぞり返りながら腕を組んでいる。


「なるほど……良いですね、それ。早速王都に連絡し明日また来ます」

 明日!?騎士団って行動速いな。


「うむ」

 ガイルとベストはエリーに一礼をするとギルド長室から去って行く。


「さて、騎士共がいなくなった訳だが、優夜は何しに来たんじゃ?」


「オークエンペラーの買取と、新しい依頼を受けに」


「じゃあ、今日は薬草採取でもして時間を潰しておれ。どうせ今日だけではオークエンペラーの買取も終わらんしな」


「ですよね……」

 この日一体もモンスターを倒さずに一日を終えたため、少し物足りないと感じる優夜だった。

【投稿予定】

8/7 77.合同訓練②

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