異世界の熊さんは喋るらしい
思考停止中
思考停止中
ジョウキョウ ノ ハアク ヲ カイシ シマス
夕飯作る
↓
謎の浮遊感&落とし穴どーん
↓
森の中
↓
フル装備な熊さんとエンカウント
↓
熊さんが捕食者の目でこちらを見ている
↓
デデドン!!(絶望)
「………ねぇ」
「」
「…ねぇってば」
「」
熊さんがこちらを見ながら話しかけてくる。
ん?話 し か け て く る ?
「熊さんが、シャベッタァ?」
「??人なんだから、そりゃ喋るわよ」
野太い。それでいて鼻にかかるような猫なで声はどこから?
「なぁに呆けてるのよ?それよりアナタここで何してるの?」
辺りを見回してみるも居るのは自分とこの熊さんだけ。先程までうるさい程に鳴いていたはずの虫や獣の声もしなくなっている。
ということはこの野太い猫なで声(熊だけど)は目の前の熊さんから?
僕はぽかんと口を開けたまま熊さんの顔をじっと見つめる。
あ、やばいそろそろ首が攣りそう。でも目を逸らせばその瞬間にパクッといかれそう。
でも、言葉が通じるのなら全力の命乞いをすれば或いは、、
「ハァ…」
僕が思考の海に沈んでいると熊さんはため息を一つもらし、スっとその巨体に似合わず素早い動作でしゃがみ込んだ。それでも未だ顔の位置は30センチほど高低差があるのだけれど。
すると急に視界が暗くなり両方の眉毛の上あたりにぷにっとした感触。
あ、なにこれ気持ちいい。と思った次の瞬間
「起きなさい!!」
という言葉、いや、大気をも震わせる咆哮と共に【ドフンッ!!】と眉間にとてつもない衝撃が走った
「?!??!!」
人って本当に痛い時って声すら出ないんだね。
首を仰け反らせながら後方に2転3転転がったけれどもそれを気にしない、気にしてられないほどにおデコが痛い。
大丈夫これ?頭の形変わってない?顔が半分に折り畳まれたりしてない?ダメこれ涙とまんない。
蹲りながら必死に痛みに耐えていると前方からまた例の野太い声が
「大袈裟ねぇ。ちょいと指で弾いただけじゃないの。」
涙で滲む視界のまま視線をあげると右手をパーにして、その中指に左手を添えながらこちらを見ている熊さん
「デコピンって言っても、それおっちゃんとかがやるタイプのやつぅ…」
目線を上げただけの土下座のようなポーズでおデコを抑えながら涙目で抗議をする僕の姿は端から見ると実に滑稽だろう
熊さんは僕を見下ろした状態のまま立ち上がりスタスタとこちらに近づいてきた
「起きたわね?起きてないならもう1発やるけど?」
「完全覚醒!!即活動可能でアリマス!!」
熊さんがまた僕の顔に手のひらを向けてきたので即立ちあがり、背筋を伸ばし敬礼をキメるが、やはりそれでも熊さんを見上げる形となった
「そう。それは良かったわ、言葉も通じるようだし、魔物の類でもないみたいね。
ところで坊やひとつ聞いても良いかしら?」
「なんでありましょうか!」
「その前に普通に喋ってもらえる?あとその変な格好もやめて頂戴」
「アッハイ」
僕は敬礼をやめて、改めて熊さんに向き直った
「それでだけど、ソレは何かしら?嗅いだことの無い匂いだけれど、凄くいい匂いがするのだけれど?」
と言いながら熊さんが指をさしたのは僕と共にこの地にやってきた相棒だった。
―――――――――
「はぁぁぁ?異世界に落ちてきた。ねぇ?」
「ええ。僕にも何がなんだか」
あの後カレーに興味を持っている熊さんにソレは食べ物であると説明し、心に少し余裕ができたところでまた僕の腹の虫が騒ぎだしたため2人で食卓を囲むことに。
僕は食器が無いことに気づき、それを熊さんに言うと、熊さんは葉っぱを編んだり倒木をくり抜いたりして瞬く間に食器を作り、その際に出た木屑を集め、何やら赤い色をした小石のような物を取り出しそれをポイと木屑の中に放り込むとパチパチという音とともに火がついた。
そして2人でカレーと熊さんが持っていた保存が効くという硬いパンとそこらに生えていた赤と紫の斑点模様の見るからにアウトなキノコ(熊さん曰くこのキノコは高級食材らしい)を木の枝に刺し火にかけた
そしてそれらに火を通すまでの間、熊さんに「なぜこんなところに武器も持たずに居るのか?」「どこから来たのか」「なにをしに来たのか」などを聞かれたため、僕はそれに答え、こちらもいくつか熊さんに質問させてもらっていた。
熊さんの名前はヴィルヘルム・スパーダというらしい。
「ヴィーさんって呼んでね。名前も姓もゴツくて乙女味に欠けるもの。」
「あの、ヴィルヘルムさ「話聞いてたかオイ?」
「ヴィーさん」
「なにかしら?」
さすがにいきなり愛称は失礼かと思い、普通に名前を呼んだら猫なで声が一気になりを潜め、ドスの効いた声に。
僕は即座に考えを改め愛称を呼ぶことに。少しチビったかもしれない。
それはさておき、僕としてはこちらに来てしまった理由もわからず、元居た場所では当然熊さんもといヴィーさんのような方は居ないし、先程木屑に火をつけた赤い小石(ヴィーさん曰く火の魔石というらしい)も見たことがないし魔法というものは物語の中でしか聞いたことが無いので、これは異世界転移というやつではないかと思う。最近の漫画はそういうの多いし。かと言って自分がそうなるとは予想だにもしてなかったけど。
「うーん、今のアナタの話を聞くだけでは何とも言えないわねぇ。」
「そうですか…」
と、ここでカレーがコポコポと煮立ってくる音が聞こえた
「とりあえず難しいことは置いといて食事にしましょう。ぶっちゃけ今はアナタのことよりこのカレー?というものに凄く興味があるわ!」
「…えぇ?」
ヴィーさんの言葉にガックリと肩を落とすも、早く食べたいのは僕も同じなので早速カレーを器によそい、ヴィーさんお手製のスプーンを手にカレーを食べ始めた
「お、うまくできてるみたいだ。」
僕作ったカレーはキーマカレーと呼ばれるもので、おおまかな材料は普通のカレーと大して違いは無いもなくお肉にじゃがいも、人参、玉ねぎというものだけれど、お肉は豚ひき肉で野菜も細かく刻んでおり、じゃがいもは茹でてマッシュしてある。
お肉は切らなくていいし、野菜も刻んだり潰したりするだけで簡単だし、
具材それぞれが小さいこともあり火が通りやすく時短ができるためガス代の節約にもなるし、一気にいっぱい作れるから僕のような学生にはオススメだ。
それに今日は少し奮発して市販のルーを使わずスパイスから作ってみたり、蜂蜜や桃のペーストなんかも入れてみたのだが、上手く出来てて良かった良かった。
僕がちょっとお高い食材を無駄にしなかったことに安堵していたが、カレーからヴィーさんにふと視線を移してみると、様子がおかしいことに気がついた。