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第48話

「誰かの理想に…」「…なれたなら」


 時計の針は止まった。


 ――――――――――――――――


 あの日から数日後、クォーリアは1人で里の外に出ていた。


 …2人で歩いた道。途中からはおぶってもらった森の道。


 …結局、また…1人になってしまった。


「誰かの理想になれたなら…か」


『…あやつの願いは、既に果たされていたのじゃな…』


 自分の胸に手を当てて、思い描く。

 …あの日まで、ハッキリとは結ばれていなかった少女の理想の形は…今は既に、ハッキリと明確な1人の形を取っていた。


 ――――――――――――――――――――――


 あの日から数日後、夕空逢は多くの人を救っていた。

 しかし、全ての”救うべき人”ではない。既に何人か、死なすべきではない人を死なせてしまっていた。


 それでも、時間は進んでいく。


「ふぅ。…ちょっと休憩」


 こうしている間にも誰か困ってるかもしれない〜というのは解っているが、休まなければ自分が死んでしまう。自分が死んでしまったら、もっとたくさんの人が死んでしまう。


 夕空は彼女ができる限りの範囲で…多くの人を救い続けていく。これからも、ずっと。


 森の中で怪異に襲われていた人を助けた後の彼女は、大樹に寄りかかり…息を吐いた。


「…そういえば、近くに入口があったっけ…」


 あの日、あの後…夕空とクォーリアは和解した。クォーリア曰く『澪に託されたことがあるんじゃろう?彼奴はそれを応援しておった。…なら、妾からは何も言わん』とのこと。


 …迷惑かな、と思いつつも…彼女は里に向けて移動を始めた。


「…誰かの理想になれたなら……か」


 …彼女の理想は彼女自身だ。ただ…仮に異性の理想を上げるなら…『夕空逢』の起源を言い当てた、彼になるかもしれない。


 ―――――――――――――――――――――――


「む?」


「あれ?」


 入口となっている空間の歪みの前で、2人はバッタリと出くわした。


「…久しいのう、夕空逢」


「そうだね…といっても、1週間ぐらいしか経ってないけど」


 なんとなく気まずくて目を逸らす夕空。ただ…実は彼女はクォーリアに頼みがあった。

 …神秘剣を譲って欲しい。多くの人を救う為に。

 だから…この場で帰るわけにはいかなかった。


「…茶でも飲んで行くか?」


「…いいの?」


「うむ。…彼奴がお主の何を気に入ったのか、興味があったしの」


 なんて、からかう様に笑いながら言うクォーリアが、ゲートを潜り抜けていくのに続いて、夕空もゲートを潜り抜けた。


 ―――――――――――――――


 ゲートを潜り抜け、里の入り口に辿り着く。


 その瞬間に…まるで、深海に沈んでいくかのように、ふわふわと…夕空とクォーリアの前に、1つの影が落ちてきた。


「…確かにそう、言ったけどさ」


 影はふわりとその場に着地すると…頬をかきながら気まずそうにそう呟いた。


「なっーーー!」


「ええええええ!!!」


 ゲートを潜った者の”理想”を形にする。

 あの日まで”理想”が無かったクォーリア。

 あの日には”理想”が形作られなかった夕空。

 2人の”理想”はまさに…同じ形をしていたのだ。


「…お主、は……澪、なのか?」


「そうであってそうじゃない。…もし仮に死体から北本澪を蘇らせたら、この場に2人、北本澪がいることになる」


 言いながら苦笑いして『どうしよっか?』なんて尋ねてくる”彼”。


『誰かの理想になれたなら…』その願いが、本当の意味で果たされた瞬間であった。


「…まさか、これを見越して…?」


「?何が」


 無意識に呟いた言葉だ。彼の記憶には無い。無論、仮に蘇った場合でも。


「…なんていうか……まず、一個聞きたいんだけど」


 思案を巡らせ始めようとする2人に待ったを掛け…照れ臭さを隠す様に、首の裏を掻きながら、目下1番の疑問を尋ねた。


「…どっちが”俺”を”理想”としたんだ?」


 その問いに、ポカンと口を開けて2人は顔を見合わせる。


 そして…


「私が君を呼んだんだよ」


「んなぁっ…!違うぞレイ!妾の”理想”に決まっておろう!」


 先手を取ったのは夕空で、彼の手を握ると…勢いに乗ってその頬に口付けをした。

 遅れて顔を真っ赤にしたクォーリアが間に割って入り、彼の胸元に抱きつき、決して離すまいとギュウギュウと拙い握力で締め付けてくる。


「むぅ〜…お主、そういう性格じゃなかったじゃろうっ。皆のヒーローはどこにいったんじゃ!」


「澪は『私』を受け入れるって言ってくれたもん」


「な、なんじゃとーッ!?」


「…ええと、どうしたらいいんだ?この場合…」


 陽光が照らす理想郷の一角で、言い争う2人と、それを宥める1人がいた。

 理想の自分になれた少女と、自分の理想を見つけられた少女と、誰かの理想になれた青年。

 3人の時間は…これからも続いていく。


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