第16話
『ずぼっ。』
不意に間抜けな効果音がしたかと思うと、ゴーレムは再びバランスを崩す。左足元に唐突に深い落とし穴が開いたらしい。となるとどうなるか。左足が落ち、右足は、ゴーレムの寸胴以上に寸胴な体格では45度までが曲げられる限界だろう。ポッキリと折れていた。
左ストレートも狙いがズレ、腰の入ってないパンチは彼女の鼻先を掠めただけ。
それでも得物が届く位置にいるのだ。ゴーレムは再び左ストレートを試み、腕を後ろに引き、勢いを溜める。
しかしそれが放たれるよりも早く、穴に落ちたゴーレムの頭上から肩の繋ぎ目目掛け、大剣が落とされ、左腕もまた、切断された。
「北本さん……助かったよ」
「…ああ」
危うく死ぬ可能性すらあった戦闘を乗り越えた。二人の顔は安心からか疲弊に染まっていたが、澪が夕空に手を差し伸べると、彼女は少しだけ微笑んで、その手を取った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…こいつ、どうするか」
やはり頭は重要な箇所だからか、首を切ろうともしたが全く切れる様子が無い。
光る眼は宝石らしく、できれば破壊したくない。まぁ、見えなくさせる必要がある場合は躊躇わないが。
「終わりましたかなも?」
木の上から声を掛けてきたのはタフキだった。
「行動不能にはしたが、硬くて手が出せん。頭は一際固いから完全に機能停止させることもできなくて、どうしようかと思ってる」
「なもし。なら、村に持っていくなも。」
「……大丈夫だとは思うが…どうするつもりだ?」
「なももっ。お任せくださいなも!実は村長に頼まれてるなも!内緒にするように言われてるなも!」
「??まぁ、いっか!でもどうやって持っていこう。結構重いよ?」
「村のみんなを呼ぶなも!」
自信満々、気分上々のタフキのその言葉に、『…その図体でできるの?』とは聞けなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
村の狸たちの協力もあって、なんとかゴーレムと、斬ったパーツ達を村に持ち帰った。(意外と力持ちだった)
「おつかれさまなも二人とも。では、早速作業に取り掛かるなも!」
出迎えてくれたタスキの一言で、ゴーレムがどこかへと運ばれていく。
「何に使うんだ?あれ」
「2人への報酬にするなも!楽しみにしてるなも!」
…と、はぐらかされてしまった。
「…装備、作ってくれるのかな?」
「…かもな」
小声でこっそりと耳打ちしてきた夕空に同意を返す。なんとなく察しはついていたが、黙っていることにした。
――――――――――――――――
一週間連絡がつかない神秘使いには捜索依頼が発生してしまうが、今日は村で泊まることにした。料理もご馳走してくれるらしい。怪異とはいえ、育ててる作物的にも、人間と食べるものは変わらないのだろう。彼の30日の好敵手契約は、彼が協会に30日顔を出すこと、という条件であって、平日は毎日顔を出せとかそういうことじゃない。
小さな村だ。初めての人間の客、ということで、村の広場を使っての宴となった。
街灯なんてものはないが、広場のそこら中に灯篭が置かれ森の雰囲気と良く合う。机がいくつも用意され、おにぎりやフルーツが皿の上にいくつも置かれ、森の近くに流れる川から釣ったのか、串の刺さった魚が七輪で焼かれている。鶏だろうか、肉も同様に焼かれており、意外にも彼らは雑食のらしい。
「今日はこの村始まって以来初の人間のお客さんが来てくれたなも!ゴーレムを見事倒してくれたこの二人に、まずは拍手なも!」
広場の中央に参加者が集まり、狸たちの前に二人は立たされた。
小さな手でもパチパチパチパチと沢山の大きな拍手が貰え、夕空は照れくさそうに頭を掻き、彼はそっと頭を下げた。
「じゃあ二人とも、挨拶と乾杯の音頭、よろしくなも!」
司会を担当した若い狸が一歩下がった。
「夕空、よろしく」
「うんっ。…えっと」
力強く頷くと、全員に聞こえるように少し大きめな声で話し始める。
「まずははじめまして!私は衛士の夕空!こっちは侍の北本さん!みなさんに招待を頂けてとっても嬉しいです!私たちも話せる怪異と会ったことはなかったので、今日は一杯お話しましょう!…じゃあ!お腹も空いたので…乾杯っ!」
「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」
それぞれが手に持った木製のコップを空に掲げ、宴は始まった。
「おにいさん!侍なも!?」
「ああ。侍だ。神秘はないけどな」
「神秘無いなも!?戦えるなも!?」
「ああ。その分、色々なことをやってるからな」
「侍なのに大剣なも~?」
「そうだな。多分俺だけだとは思うけど…例えば、今日戦ったゴーレムなんかは、大剣がなきゃ、負けてたかもしれないな」
「すごいなも!沢山武器が使えるなもし!」
「聞いたことないなもそんな剣術士」
「そうだろうなぁ。だから、レアだぞ。レア」
「レアなも?」
「レアなも」
「レアなも~!」
寄ってきた子供たちの質問に明るい調子で答える彼を遠めに見つめる彼女。一通り質問に答え終わり、質問し返し、休憩していたのだが…一匹の狸が寄ってきた。
「衛士さん」
「うん?どうしたの?」
「衛士さんは、どうしてあのお侍さんとなも?」
「えっと…神秘が使えないこと?」
「そうなも。神秘が使えない人間は、怪異に勝てないって聞いたなもし!」
「うーん。そうだね。私も、神秘が無かったら、衛士になっていなかったと思うよ」
「なも」
「でも、北本さん…あのお侍さんは強いよ。私より」
「なも!?おねえさんより強いなも!?」
「そうなも。すごいお侍さんなも。残り四体のゴーレムも、2人で戦えば負けないなも」
「なも~♪すごいなも!あのお侍さんにも聞いてくるなも~♪」
彼の元へ駆けて行く怪異。澪と怪異が話しているのを遠目で見ていると、夕空の話になったのだろう、ふと目が合う。手を軽く振ると、手を上げて返してくれた。
敢えて彼を選んだ理由が、彼女にはないのだろう。
強いて言えば、彼が誰とも一緒に戦わないだろうと思ったから。
腕前は確か。他の侍にも後れを取らないだろう。ただ…自分はどうだろうか。釣り合うとか、釣り合わないとかを考えたことはない。好きで一緒にいるというよりも、誰も隣にいないなら、私が隣にいよう、という理由。じゃあ、彼が名を馳せた時…彼の隣を立候補する、自分よりも強い剣士が現れたなら…。
きっと、迷うことなく席を譲るのだろう。
『夕!』
「…?」
あの時呼ばれた声が、何故か今になってもう一度反芻された。




