第15話
剣と煉瓦の鈍い衝突音が辺りに木霊する。離れた位置にいる彼の鼓膜にすらかなりのダメージを与える程の爆発音が鳴るが、ゴーレムの繋ぎ目は切れることも、砕けることも無かった。強いて言うなら白い縦の傷がついた程度で…効果は薄そうだ。
ゴーレムが振り返るまでの間に彼女は一度跳び、後方へ。地面に剣を突き刺すと、自分とゴーレムの間に神秘を仕掛ける。
ゴーレムは振り返り、彼女へ向けて一直線に走る。巨体、且つ重いだろうその図体似合わず、意外にも100メートル15秒程度では走れそうだ。
「ッ…」
思ったよりも素早いそのゴーレムに罠が発動する。彼女が先程剣を刺した地面に足を着いた瞬間、小さな落とし穴が出現し、ゴーレムの下半身を落とす。
もうちょっと深くしたかったけど…。
彼女の周りに岩の剣が出現する。それは落とし穴の中のゴーレムに向けて発射されるが…先程と同じく、小さな傷をつけただけだ。とはいえ、落とし穴に落ちてしまえば、このヘンテコな人形には、崖を掴んで登ることなどできはしないだろう。
…と、高を括っていたのだが。ゴーレムは一度深く踏ん張ると、3メートル程飛び上がり、穴から抜けることに成功した。
「えぇ!?」
驚いている間にもゴーレムは彼女に迫りくる。
距離は既に3メートルも無い。
別の神秘を構えるには時間が足りない。
冷や汗が背中を伝う。
迫りくる巨腕が光を覆う。
死ぬにはまだ、早すぎる。
反射的に腕で顔を庇おうとして…眼前に姿を現した、細身の刀に目を奪われた。
腰と右足の繋ぎ目に向けて一閃。…が、そのあまりの固さに、剣は途中まで進んだものの、切り落とすことも無く、刺さったまま詰まってしまう。
「ちぃッ…!」
彼女が斜め後方に下がったことを耳で確認しつつ、自身の元へ引くように刀を滑らせ、なんとか剣を回収する。ゴーレムは一瞬動きを止めていたが…優先順位に於いて彼は彼女に敗北したらしい。ゴーレムの視線が彼を通り過ぎて彼女に向いているのを認識すると、澪は一瞬のみ彼女を振り返った。
「引くぞ!!」
予想に反して彼を無視して彼女の元へと駆け出したゴーレムの渾身の右ストレートが放たれる。速度も申し分ないそれを彼女はなんとか神秘を纏った大剣を盾にして防ぐが…あまりの衝撃で5メートルほど吹き飛ばされ、木に激突した。
「夕!」
「っぅ…」
残身の後、ゴーレムは吹き飛ばされた彼女がまだ生きているのを確認すると、追撃の為に更に走る。
「っ…!」
距離の差を埋める為全速力で走った彼はゴーレムの横を追い抜き、滑るように彼女の前に出る。風を切る音が耳を塞ぎ、窮地が彼の集中を極める。
「――!!」
再び真っ直ぐに放たれた右ストレート。彼女は背後に座り込んでおり、伏せて回避でもしようものなら安全の保障は無い。彼は背中の大剣を抜くと、牙突の構えを取る。
一歩前に行き、拳の縁、横にその先端を合わせる。
人間一人が体育座りした程度にはあるその拳を剣の腹でずらすことは叶わず、逆に彼自身が拳に押され引っ張られてズレるハメになったが…同時に、肩の繋ぎ目に大剣の突きを放つ。
寸でで繋ぎ目を切断された大拳は彼女の頭上スレスレを通り過ぎ、相手の勢いを反作用させるように放たれた大剣の一撃はピッタリとハマり、ゴーレムの右腕を切断した。
が、痛みなどないのだろう。大して怯みもせず続けざまに今度は左フックが放たれる。
「間に合わないっての…!」
大剣を盾代わりに、今度は彼が吹き飛ばされる。
5メートルほど飛んだ辺りでなんとか足を地面に着け、背後にそびえる木に背中をぶつけるのを防いだ。
「ちぃぃッ…!」
急ぎ駆け出すが、既に遅い。彼女は大剣を地面に突き刺したまま、未だ立ち上がれずにいる。
左腕が振りかぶられる。一秒にも満たない溜めの後、致死急の左ストレートが放たれる。
「っぅぅぅううううううううううう!!!!」
全力で走り出していた彼の目の前で、拳が彼女に届く寸前まで…彼女はゴーレムを真っ直ぐに、目線を外さず正面から見据えていた。




