↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/28

女運と水難その2

お見合い当日。天気は雲ひとつ無い晴れ。

「これで良いか?」

珍しく髭を剃り、ぼさぼさな髪を整え、スーツを着る。

「ネクタイが曲がってる」

「自分でやるよ…」

娘にネクタイの位置を治されて、少し照れている。

これはどこにでもある、日常風景だ。

だが、今日は八雲風斗の人生で初めてのお見合いだ。

「じゃ~、行ってくるわ。今日はお前達も休みで良いから」

第五部隊の事務室の扉を開け、出発する。その後ろ姿を少し不安そうに見送る。

「こちら、明。対象は出かけました」

『了解。こちらも行動を開始します、合流地点で会いましょう』

耳に仕込んでいる小型通信機から清水女医の声が聞こえる。

何故こんな事になっているかは、この数日前に清水女医が風斗の事が心配だからと尾行を提案した。

それもかなり強引に、しかも第五部隊員全員巻き込んで。

『おい明。隊長、もう本部を出たぞ?』

続けて、雷火の声も聞こえる。

「了解。追跡開始だ。目標、八雲風斗」

「あの~、本当にするんですか?」

「良いから行くぞ!」

明は幻徒を引きずりながら、事務室を出る。


ここは帝都第一区画三番地。宿泊施設や高級料亭が連なっている区画である。

初めて来たが、何て退屈な場所なんだろう。

私はもっと賑やかな場所が好きなのだ、任務だから仕方無く足を向けた。

任務は『星下幻徒を連行または捕獲する』だったはず。

対象の情報を小型情報端末で確認する。

名前星下幻徒、年齢十五歳。帝都大学付属高等学校在籍。

現在、大日本帝国軍非科学部門第五部隊に所属。

「私とたいして変わらないわね~。どうして、隊長達は狙うのかな~。ただの学生なのに」

幻徒の写真を拡大して、ため息が一つ零れる。

「イケメンなら、やる気出たにな~」

水面を歩きながら、独り言を呟く。

初めての日本で退屈な任務。本当に今日は最悪だ。

由紀(ゆき)・ブラウンは退屈そうに水面を散歩する。


「こちらです、お連れ様が来るまでごゆっくり」

老舗旅館早乙女。自分の給料では一泊もする事も不可能な場所に着き、仲居に部屋に通される。

部屋の内装は純和風。この場所にいるだけで緊張してしまい思わず、正座をする。

「こんな所に来るのは久しぶりだな~。帰りてぇ…」

せっかくの休日を見合いで潰されてしまう、それを考えるだけで憂鬱だ。

こう言う格式ある場所は嫌いではないが、座っているだけで疲れる。

「お連れ様が御つきになられました。どうぞ、お入り下さい」

一瞬自分の目を疑った、獅子王将軍が連れてきたのは見覚えがある女性。

「凜?!どうしんたんだ、お前!もしかして、見合いの相手って…」

「お久しぶりです、風斗隊長…。いや、風斗さん」

綺麗にまとめられた金髪に鮮やかな淡い桃色の着物。

そして日本人離れした整えられたか顔、見つめると吸い込まれそうになる。

大日本帝国軍非科学部門第一部隊第一中隊隊長獅子王凜。

獅子王京志郎の愛娘である。

「八雲君、今日は来てくれて感謝する。凜も八雲君もお互いに家庭を持つのに丁度良い歳だと思い、この縁談を設けさせてもらった」

内心、この爺さん余計な事をしてくれたと本気で思っている。

「父さん、長いお話はもう良いですから…」

「すまんな、わしばかり話してしまって。若い二人に任せて、年寄りは退散しようかの」

間の前の凜は笑っているが、将軍は目は笑っていなかった。

頭の中に娘を泣かせたら、解るなと聞こえた気がした。苦笑いが自然と表情に生まれる。

将軍が部屋を去ってから、二人の空間が生まれる。

一体、何年ぶりだろう。こいつと二人きりになるのは。

「風斗さん。何年ぶりですかね、こうして会うのは」

最初に口を開いたのは凜からだ。

「そうだな…、五年ぶりかな?もう、覚えてないわ。もう、俺が隊を抜けて大分経つしな」

「十年ですよ、隊長がいなくなってから」

瞳を潤ませ、まるで乙女のように嬉しそうに話す彼女は単純に美しい。

「十年も経ったのか、早いな~。明ももう十八だしな。俺も歳を取るわけだ」

「そんな、隊長は十年前と変わってません!それに今日だって、素敵ですよ」

「褒めても何も出ないぞ。お前の方こそ、綺麗じゃないか」

普段、絶対言わない事を言ってる自分が恥ずかしい。

だが、凜は頬を朱色に染めて口を緩める。

「ほ、本当ですか?嬉しいです…」

二人で会話をしている最中、見に覚えがある気配が四つある事に気づき部屋の窓に視線を向ける


「二人とも…。楽しそうね」

双眼鏡で二人の様子を奥歯を強く噛む。

「あの~、清水先生。塀に上がるのは不味いと思うんですけど…」

下から、忠告の声が聞こえるがそんな事は気にしない。

「父さんが鼻の下を伸ばしている…。撃ちますか?」

「まだ、駄目よ。デレデレしちゃって、私に綺麗何て一回も言った事もないのに!手何て握ったら、蜂の巣にしてやるわ…」

今、自分の胸には黒い物が渦巻いていた。自分以外の女と過ごしていると言うのは面白くない。

「人目があるんでもう、止めた方が良いんじゃないですか~」

「良いんじゃないか?面白いし」

雷火が何か企んでいる笑う。

だが旅館の塀に女性が上り、双眼鏡で部屋を覗くと言う行為はまさに異様。

「雷火さん、そんな暢気な…」

さらに二人の光景を目の当たりにして、奥歯をさらに強く噛み。

血の味が口に広がる。

「やっぱり、若い方が好きなんじゃない!」

「あの~、困るんですよね。旅館の周りでこう言う事されると…」

下から男性の声が聞こえるが耳に入らない。

今はあの男の方が重要だ。

「す、すいません!清水先生!明さん!早く降りて来て下さい!」

「仕方ないわね。場所を変えるわよ…、ちっ」

自然と舌が口の中で音を鳴らす。

「ちょっと、あんた!態度悪すぎだろ!」

「すいません!それでは失礼します!」

頭を下げ、二人を連れて逃げる。


「なぁ、凜。ちょっと、外を歩かないか?」

「は、はい…」

早乙女旅館の庭は色彩豊かな自然と清らかな池。

眺めているだけで吸い込まれてしまいそうだ。

その中が絵に男と大和撫子が三歩下がって歩を進める。

「あのさ、凜」

「はい…」

「旅館の外に行かね?」

風斗は頭の中で四つの気配を追っていた。

必ず旅館の外にあいつらはいる。


獅子王凜は十年前から八雲風斗に憧れていた。

ずっと異性として意識して来たのだが気持ちを中々伝えられなかった。

凜が始めて風斗に出会ったのは彼女が十八歳の頃、非科学部門第一部隊の第一中隊に配属が決まって直ぐの事である。

この頃の事を今でも鮮明に覚えている。

「お前か?将軍の娘って?でも、普通だな」

真っ直ぐな目で凜を見ていた。「将軍の娘」ではなく、一人の人間として。

それからだ、風斗に惹かれたのは。それから、ずっとこの風斗の背中を追って来た。

もう背中を追うのではなく、風斗の隣にずっと居たい。

そして、一生を過ごしたい。

だが、風斗の目は凜を見ていなかった。


気が付けば夕日が沈み、帝都に流れる川を茜色に染め上げる。

「凜、お前に言っておきたい事がある…」

「え?」

普段は絶対にしないネクタイを緩め、凜の事を見つめる。

凜は風斗の真剣な表情に心臓の鼓動が早くなり、頬を赤らめる。


この二人の様子を木の陰から見つめる四人がいた。

「何か、いい感じですね…」

「そ、そうね。でも、悔しいわ…」

この二人は不安そえに風斗と凜の様子を見ていた。

それもそうか、清水女医からして見れば好いている男が他の女に取れてしまうかもしれないのだから。

「もう、帰りませ…」

この時、幻徒は頭の中に何かが走る。これは魔術師が近くにいる時に感じる電波見たいなモノだ。

しかも、感じはかなり近くにいる。

視界を動かし、それらしき人物は見当たらない。

周りには民間人と思われる人間しかいない。

それではこの反応はどこから来る物か、さらに集中して魔力を追う。

それは風斗達の近くにいて、水面を歩いていた。

「おい、幻徒。どうした?!」

幻徒は何時の間にか、魔術がいる川に走って行く。


水面で呆けていると、一人の少年が走ってくる。

「もしかして…」

捕獲対象が自分からやって来たのかもしれない。

こんな楽な仕事はない、しかも相手はただの学生で新兵。

赤子の手を捻るより、簡単な任務で終わってしまうとつまらない。

足を少年の方へ近づける。

「ねぇ、君が星下幻徒君?」

「そうだ」

「え?」

「僕が星下幻徒だ。あなたは僕を捕まえに来たんだろ?」

相手が私の目的を知っていた、二回も失敗すれば察するのだろう。

さすが日本人だ、察する能力は優れている。

「敵にも礼儀正しいのね。私も名乗らなければいけないわね、由紀・ブラウンよ」


何時もの魔術師の格好は奇妙だと、幻徒は思っていた。

今回の敵だろうと思われる、女性も上半身はビキニで下はジーパンでる。

肌は褐色で瞳の色は右目は青色で左目は黒色。

そして、髪は茶色のショートヘアー。

一つだけ付け加えるなら、かなりの美形である。

「聞きたい事がある。どうして、あなた達は僕を狙う?」

敵を睨み付けると急に相手の顔が真っ赤になっていた。

「わ、私もしらないわよ?!こっちが聞きたいくらいよ!」

この時、由紀・ブラウンは今まで抱いた事がない感情が胸の中に生まれた。

星下幻徒を直接見た時心臓の鼓動が早くなり、何だが恥ずかしくなって来たのだ。

それに相手が何だがきらきらして見えた。

そう、これは恋だ。由紀・ブラウンは幻徒に一目惚れをしてしまった。

「僕は民間人がいる所で戦いたくない」

「そ、そうね。私は帰るわね!」

「え?」

顔を赤くしながら、水面を物凄い速さで走って行ってしまった。

「帰った?」

幻徒は今、起きた事が整理するのに時間がかかった。


夕日が沈む、川辺で見詰め合う男女は言葉を探して立ち尽くす。

「凜、その気持ちはただの憧れだ。恋愛とかじゃない」

「え?風斗さん、いきなり何を言ってるの?」

凜はいきなりの言葉に戸惑っていた。自分の気持ちは憧れではないはずだ。

十年間ずっと大事にして来たこの気持ちだ。

「私は風斗さんの事が…」

「すまない、凜。お前の気持ちには答えてられない。それにお前はもっと俺よりお似合いの奴がいるぞ、もっと足元を見てみろ。

そいつの方が俺よりずっと、お前の事を知ってる」

私は振られたのか。そう実感した時、視界がぼやける、胸が痛い。

「解りました、風斗さんの気持ちは私ではなかったんですね」

「すまない…」

背を向け、瞳から流れ落ちる雫を見せないようにする。

「やっぱり、駄目だったか…」

独り言を呟き、好いていた人の前から遠退いてい行く。

その姿を煙草の煙越しの見つめる。

「おい、お前ら。もう出て来い!ばれてるぞ!」

近くにある、木の陰から知っている顔が出て来た」

「ばれちゃった…」

清水女医は気まずそうに顔を出す。


「俺が気づかないと思ったか?最初からばれてたぞ。雷火まで一緒になって、何やってだ」

「暇だったんで…」

日が沈み、月が顔を出していた。

月を映す川を見つめながら、風斗は清水女医の顔を見つめる。

「何よ…」

「涼子、何で俺を尾行した?」

「だって、ふうちゃんが心配だったんだもん」

「は?心配?」

「父さん、涼子さんを責めないで!私が余計な事を…」

明が涼子の事を庇おうとするが。

「別に責めてるわけじゃない。涼子、俺がちゃんとしなかったのが悪かったんだ」

涼子の顔を真剣な顔で見つめる。

「え?いきなり、何?!」

風斗は涼子の左手を掴み、誓いの言葉を口にかる。

「来年、結婚しよう…」

「は?」

今度は清水女医が聞き直す。

「冗談で言わないぞ、俺は」

「…、嬉しい。本当?」

「本当だ」

二人は手を繋いだまま、見詰め合う。

「何故、もっと早く言わなかった」

暗がりから近づいて来る、人物が一人。

「獅子王将軍?!なぜ、ここに?!」

「凜の様子がおかしかったのでな、もしやと思ってな。おい、風斗」

その表情は何時にも増して、怖かった。いや、恐怖そのものだ。

「はい…」

威圧感が半端じゃない。これはもしかして、死ぬかもしれない。

本気で死を覚悟した。

「何故、好いている女子が居ると早く言ってくれなかった?水臭いぞ」

「いえ、将軍の申し出を断るのが…」

「気にするな!わしも娘に我がままを断れなかったのが悪い!それより、式は何時だ?わしも出席するからな、今から楽しみだ!幸せにな!」

豪快な笑い声を響かせながら、夜道に消えて行った。


帝都内の廃ビル

「おい!どう言う事だ、除隊だと!質問に答えろ、ブラウン!」

「任務失敗の責任を取り、隊を除隊いたします。それに私、しつこい男は嫌いです」

男女の声が夜の廃ビルの中に響き渡る。

「待っててね、幻徒!絶対に会い行くから!」

由紀・ブラウンは所属していた部隊を抜け、愛しの彼に側に行く為に胸をときめかせ夜の街に消えて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。