女運と水難
剛斬力の襲撃後。大日本帝国軍非科学部門本部の被害は建物は大した事はなかったが、警備をしていた兵士と所属兵士達が負傷。
今後、このような襲撃を防ぐため本部で対策を検討されている。
この襲撃により、剛斬力がどこの組織に所属しているのか調査を開始。
調査も空しく敵の尻尾を掴めずにいたのだが、一だけ手がかりを発見した。
季節は蝉の声が鳴り響き、暑さが肌に纏わり付く。
そう、暦は七月。
夏り始まり。日が落ち、煌びやかな星達の中心に月が浮かぶ。
「ふぅ…」
月の明かりの下、幻徒は一人木刀を握り集中していた。
汗を流し考えいた、どうしたらもっとあの『力』を使いこなせるのか。
なぜ、自分にあんな超人じみた『力』があるのか自分自身答えはまだ無い。
答え何てどうでも良かった。だが、この『力』が自由に使えるようになりたい。
ただ、それだけだ。
剛斬力と対峙した時の事を思い出す。
『魔力生成を開始します』
自然と力が身体の内側から湧いて来ると同時に表情に笑みが生まれる。
「星下、こんな時間に何をしてるんだ?もうすぐ、消灯の時間だぞ?」
「あ、明さん!?」
突然の声に驚き、力が抜けて行く。
「こんな所で何をしているんだ?部屋に戻れ」
一瞬、明の瞳には何時もの幻徒は映っていなかった。
それは全く別の生き物だった、身体の周りに淡い光が包んでいた。
「じゃ~、僕戻りますね」
「おい、星下…」
「なんですか?」
「悩みがあるなら、私で良ければ相談に乗るぞ?」
「え?悩みですか?特にないですよ、おやすみなさい」
この時明は幻徒がどこか遠くに行くような気がして、胸騒ぎがした。
風斗は誰も居ない事務室で通信モニターに向かっていた。
「将軍、調べて頂きたい事があるのですが…」
何時もと違い真面目な表情で画面の向こうを見つめる。
「珍しく連絡があったと思ったら、頼み事か?それで何だ?」
髭を触りながら、用件を聞く。
「はい、前回の襲撃で土本が現れました」
獅子王は少し表情を歪める。
「その事か…。実はなわしも調べさせたんだが…」
「本当ですか!?」
何時もは覇気が無い顔だが、今回は険しくなっている。
「聞きたい?」
「はい」
「わしの頼み事も聞いてくれんかの?」
この将軍の頼み事は何時も風斗に無理難題を吹っかけて来る。
「見合いの話があるだが、受けてくれんかの?お前も良い歳だろ?」
「はぁ!?見合い!?」
突然の事で思わず、声が大きくなってしまう。
「嫌か?」
「嫌ではありませんが、将軍。私は…」
「そうか、嫌か…。これな~んだ」
画面越しに将軍は胸ポケットから、一枚の写真を取り出す。
その写真には見覚えのある光景が写っていた。
「げっ!?くそじじい!何でそんな物持ってんだよ!」
驚きすぎて素が出てしまった、その写真の中身は若い女性と完全に酔っ払っている風斗の姿が映っていた。
「明ちゃんに見せたら、怒るだろうな~。残念だよ、風斗君…」
娘をダシに脅されている、これは選択の余地は無い。
「わ、解りましたよ!受けますよ、その話!でも、ちゃんと情報は貰いますよ!」
「決まりだな!見合いは今度の日曜だからな、準備しておけ」
「了解」
「え?!風斗さんがお見合い?!何時なんですか?!」
幻徒と明は何時ものように訓練でグラウンドを走っていた。
「あぁ、獅子王将軍から勧められたらしいんだが」
明の表情はあまり良くないのを察し、尋ねる事を試みる。
「そのお見合いの相手って、誰なんですか?」
少し重苦しい空気が二人の間を流れる。父親の縁談がそんなに気負いする事なんだろうか。
幻徒は頭に疑問の二文字が浮かぶ。
「それが父さんにも知らされてないんだ、急に決まった事らしくて」
それは不安になっても仕方がないと納得するが、年頃の娘が父親の見合いを気にするのは自然の事か。
「急に決まったって、何時するんですか?」
「今度の日曜日の予定だ…」
「え!日曜?!直ぐじゃないですか!場所は?!」
「第一区画二番地の早乙女旅館」
予定日を聞いて、驚きを隠せない。
「うっ…!」
突然、身体に痛みが走り足が止まる。
「どうした、星下?」
明も心配になり側による。その時そよ風が二人の間に吹き、仄か(ほのか)に明から甘い匂いが鼻を刺激する。
「あ、あの…。大丈夫で…」
「本当か?顔も赤いぞ?」
今まで生きて来て、女性がこんなに近くによって来たのは初めての経験で恥ずかしさで表情に出てしまった。
「熱があるかもしれん。腕を出して見ろ、脈を測る」
幻徒の左腕を掴み脈を測る、初めて女性の柔らかく暖かい温もりが直接伝わって来る。
意識した時、さらに心臓の鼓動が早くなる。
「やはり、体調が悪い見たいだな。医務室に行くぞ」
そのまま、幻徒の側から離れずに医務室に向かう。
「失礼します。涼子さん、いますか?」
医務室の扉を開ける、幻徒はここに来るのは二度目になる。
まだ、消毒液の独特の匂いのはなれない。
「あら、明ちゃん。今日はどうしたの?それに星下君も…。二人で珍しいわね」
「はい、星下が訓練中に体調を崩しまして」
清水女医は母親のように二人を笑顔で迎え入れる。
「それは大変ね、ふうちゃんのとこにいるから体調も崩すわよね。星下君、ここに座って」
幻徒は清水女医の目の前に座る。初めてこんな近距離で、目の当たりにするが美人で豊胸。
それに女神ように慈愛に溢れている笑顔。まるで男の妄想の集合体見たいな女性だ。
「星下、変な事を考えいるんじゃないだろうな?」
ナイフのような鋭い視線が背中に突き刺さる、なぜ考えている事がばれたのだろう。
「あら明ちゃん、妬いてるの?そんな年頃になったのね~」
明の顔が真っ赤になっていた。
「や、妬いてるって?!別に星下とはそんな仲ではありません!」
「赤くなって、恋人に笑われるわよ?」
「や、止めてくださいよ…。星下も何か言ってやれ」
恥ずかしそうにしている、明が可愛く見えて眺めていたらこちらに話題を振って来た。
「僕は嫌じゃないかな~」
「ふふ、青春してるわね。ところで最近、ふうちゃんは何しているの?こっちに顔見せないけど?」
話が変わり、『ふうちゃん』と言う人物の話題になる。
「はい。父さんは元気ですが…、縁談の話が来まして…」
「え!縁談!それどう言う事よ!私は何も聞いてないわよ!説明しなさいよ、明ちゃん!」
突然人が豹変して、すごい剣幕で明の両肩を鷲掴みにする。
「落ち着いて下さい。私も動揺してるんですから、あのだらしない人に縁談何て…」
「それで相手は誰なの?日時は?場所は?」
清水女医もかなり動揺している。この反応を見れば、風斗も隅に置けない人である。
この女医の人気は大日本帝国一を争うほどである。
良く、訓練で怪我をしたと多くの兵士がこの医務室に訪れる。
その目的はもちろんこの女医である。
食事に誘われた回数は星の数、プロポーズを受けた数は優に三桁を超え、恋文は山のように積まれている。
だが、全て断った。求愛して来た男性の中には財閥の御曹司などが混ざっていたが、この女医には興味が無い。
「相手は父さんも知らないと言ってました。後、日曜日に相手と会うとだけ…。場所は確か、早乙女旅館と言ってました」
「解ったわ!日曜ね!こうなれば、尾行よ!」
強く拳を握り締め、決意する。
幻徒は心の中で呟いた
「風斗さんも隅に置けないな」