帝都炎上編その七
少年は鉛のように重い身体を引きずり、赤い空を目指し歩んでいる。
自分の使命を果たすために酷く荒れたコンクリートの上に足を踏み出す。
普通の生活を営んでいれば絶対に経験しない事だ。
極普通の学生で居れば非難をして、この紛争が早く終わる事を祈っていれば良い。
だが、今の自分はその市民を守る立場にいる。
誰もが争いを歓迎する人間はいないのだ、何時も平和で誰もが笑顔で過ごせる「日常」が誰もが望む事だ。
平和を望む事は当たり前の事だが、それが「日常」になってしまうと人間は感覚が麻痺してしまいそれが当たり前になる。
平凡過ぎると刺激を求め、刺激を受け続けると平凡を望む。
人間は常に矛盾している生き物だ、それが人間なのかもしれない。
生物学者も人間がどうして生まれたかは答えは知らない、このまま人類が続く限り答えは見つからないかもしれない。
人間が何を思い、願うのは悪い事ではない。それは誰もが持つ感情であり、自然なのだ。
考えるのを止めてしまえば、人類は発展が止まるだろう。常に人は前を向いて生きている。
便利にしたい、褒められたい、注目されたい、これは人類が発展する上で必要な欲求だ。
人が行動を起こす時は至って簡単だ。
他人より優れていると証明、他人が持っていないものを手に入れる、簡単な理由だ。
人間は簡単な理由で他人を蹴落とす事が出来てしまう。
昔の偉人が残した言葉がある、天は人の上に人を造らず。
だが人は人の上に立ちたいのだ、自分が優越感に浸りたい為に。
その為に誰が持っていた、人に親切、思いやり、譲り合いを忘れてしまった。
誰もがこの感情を持ってれば、争いと憎しみは消えるだろう。
少年は空を見ていた。真紅に染まった空をその瞳に映した。
瞳には決意と闘志が宿っていた、使命感や責任感では無い。
自分の意思でここに来たのだ、この争いを止める為に。
この歳で大儀とか正義の為とか祖国の為とか何てさっぱり解らない。
けど、あの男を早く止めなければいけないと言う気持ちが強い。
感覚で、あの男が近くに居るのが解る。
「自分から出て来てくれるとはな、嬉しいよ」
仮面の下から聞こえて来る歓喜と冷酷が薄気味悪い。
「早く部隊を下げて下さい、取り返しが付かなくなります!」
「今さら撤退だと?君の頭の中は平和ボケでもしているのか」
口で言っても駄目だと解っていたが、戦うしかない。
勝機はゼロに近いだろう。でも、僕がやらなければいけない。
「ほう…、私と戦う気か?ただの入れ物が?良いだろう、少し相手をしてろう」
お互いに手に得物を取る。
幻徒が早乙女煉と対峙してから、数分後。
帝都第四区画に進軍中の中隊規模の部祖集団に対して、残っている魔術士部隊と強化外装部隊を展開。
その援護に第五部隊の四人は加わる事になる。
現在、大日本帝国軍陸軍に残された兵力は一大隊と非科学部門だけである。
援軍の要請はしているが、待っているだけの余裕は無い。
今の状況は疲弊と緊迫の二つが当てはまる。
ここにいる者全員が寝ずに戦っているんだ、誰もが心と身体が疲れていて当たり前なのだ。
だが誰も口に出さない、ここにいる者なら自分だけが苦しいとは思っていない。
「これで、終わるといいっすね…」
一人の兵士が隊長に言う。
「俺達で終わらせるんだよ」
映画のような台詞に周りは笑ってしまう。
「隊長、がらにもない事言うんですね。でも、今は同じ気持ちです」
そして、大日本帝国軍に所属する者にこの通信が流れる。
『これより、この戦いは最終局面に入る。敵軍の大将である、早乙女煉が出て来ると言う事は向こうも余裕が無い事の証明である!
これが最大の好機である!我々の力を一つに合わせれば、この未曾有の危機を乗り越えられるとわしは確信している!
今こそ、大日本帝国軍の強さを示す時である!進軍開始!』
この口上を聞いていた、全兵士の士気は一気に高まる。
「相変わらず、じじいは暑苦しいな…」
「何時もの事じゃないっすか。それより大丈夫ですかね、幻徒の奴?」
「多分な…」
この数十分後。対空魔術士隊、対空兵器、第五部隊所属天ノ雷火により小型電磁砲搭載飛行型強化外装部隊は鎮圧される。
その後、空軍により無人偵察機が送られるが、敵側している大型兵器により撃墜される。
「やはり、使って来たか…。おい、王将を出せ」
「それは駄目です!閣下が前線にお出向きになられるなど…」
「ぬしは今の状況を解ってるのか?若者が命をかけてる時にぬくぬくとしていられるか!貴様はそれでも軍人か!わしは行くぞ!その為に来たんだ!」
机を叩くその音に指令室の全員の身体が固まる。
「閣下、準備が出来ましたので外にお出向き下さい」
その声に反応し、静かに立つその姿は巨大な怪物だ。
誰もがその気迫に当てられ、身が竦む。
「おい、なんだよあれ?」
最前線に立っている兵士が小さく見える物体に反応する。
「あれはまさか…。全員に通達する、左右に散らば…」
隊長格が逸早く危険を察知して、通信を行おうしした時だった。
巨大な閃光が迫り、感じた事が無い恐怖で身体が動かない。
これで自分の命は終わるんだと確信した時だ、目の前に巨大な影で遮られる。
「これが奴らが開発した、巨大兵器の威力か?大した事はなかったな」
「将軍?!」
「無事か?」
「な、なぜ将軍がここに?!」
「わしもぬしと同じ軍人だぞ?戦場に出るのは当たり前だ」
その姿は戦国時代の武将そのままだった、それを目の当たりにして唖然としているのだろう。
大日本帝国陸軍将軍のみ装着を許された、強化外装「王将」。
これを装着する時は緊急時のみで一般兵士と魔術士は目に余り触れる事は無い。
「ぬしらは下がっていろ」
一歩前に出る。その一歩は重く、世界が沈んだ幻覚をこの戦場にいる者全員が見た。
これが帝都軍将軍の力なのか、少し進んだだけで耳鳴りの幻聴が聞こえる。
随分離れているはずなのに重圧が身体に伸し掛かる。
「お、おい…。あれなんだよ…」
敵側の兵士が口が開くと同時に甲冑を纏った大男が目の前に立っていた。
「うぁぁぁぁ!」
「この国に土足で入った事を後悔するんだな」
その言葉は本物の鉛のように敵に打撃を与える。
銃を持っているはずのに引き金が引けない、指が鉄のように重くて動かない。
右手を力一杯振り下ろす。すると、数十メートルのクレーターが綺麗に出来上がる。
中隊規模の人間が一気に三分の一になっていた。
「大した事ないな…。あれか?」
早乙女煉が用意させた大型電磁砲に視線を向け歩き出す。
「こっちに来るなぁ!撃てぇ!撃てぇ!」
「意思も誇りも無い、ただの烏合の衆か。もっと、気合を入れんか!」
怒号だけで、無数の弾丸を地の落とす。
再び、左腕を力一杯振り上げる。
すると、視界に映る物が爆炎に包まれる。
「全兵士に通達する、戦術級兵器は無力化した。これより、敵残存戦力の殲滅に入る」
爆炎を眺める。その姿は巨人そのもの、獅子王将軍は若い頃に戦場で二つ名をつけられた「豪腕の巨人」。
その生まれ持った恵まれた巨体、対術、膨大な魔力量、才能により対峙した相手に重圧を与え自分の姿を倍以上の大きさに見せる。
まるで、動物のように威嚇する。これは本人は意識していない、これも生まれ持った物なのだ。
まさに生まれながらの獅子、天は二物を与えた。
何も恐れる事も無く歩を進める、その姿を他人の瞳にはどう映るか。
獅子王京志郎は考えた事が無い。相手も自分も命の取り合いをしているのだから、そんな事を考える暇が無かった。
階級が昇格する度に最前線から遠ざかり、司令室に篭る事が多くなった。
だが、この状況に不謹慎だが感謝している。戦場の雰囲気、血の匂い、負の感情が混じりまさに地獄。
胸が高鳴り、自然と顔に笑顔を浮かべる。
「うぁぁぁぁぁ!」
「逃げるな!撃てぇ!」
隊長格と思われる人間が指示を出すが使命感より、恐怖が勝り背を向けている。
所詮は付け焼刃で集めた兵士だ。誇りも意思も持ち合わせていないのだろう。
米国一の反政府勢力が聞いて呆れる。
「せめて、苦しまずに行け…」
一言呟き、右腕を前に出し掌を開く。
目視可能な範囲で潰れて爆発を起こし、怒号が響く。
見慣れた光景に胸の中で黙祷を捧げる。
幾ら兵士として未熟でも立派な戦士しては変わりはない。
どんな事情も関係無い、その勇士を胸に刻む。
獅子王将軍は戦場に出たら、何時も戦った相手に敬意を払う。これは尊敬していた、先輩から教わった事だ。
戦場で心を殺したら人間じゃなくなる、殺すだけなら機械でもできる。命を奪うのなら、敬意を払え。
先輩から聞いた言葉はずっと覚えている。そうだ、殺すだけなら機械でも出来る。
「そろそろ、終わりか…」
凹凸だらけの景色を眺め呟く、戦場の後は何時も空しいものだと思う。
決して、誇れるものでない。軍に戻れば賞賛されるだろうが、ただの人殺しなのだ。
戦争と言う言葉で正当化しているだけなのだ、人が死んで誰が喜ぶのか。
この戦争に大儀と正義は無い。だから、早く終わらせなければいけない。
終わったら、戦死者達に手を合わせよう。それが生き残った者の勤めだ。
『こちら、非科学部門第五部隊隊長八雲風斗。聞こえますか?』
「うん?風斗か、どうした」
『じじか。そっちの状況はどうだ?』
「ほとんど片付けたが多少残ってるな。後、じじいは止めろ」
『これは失礼しました、将軍閣下殿。それより、幻徒の方が気になる』
「何?星下君がどうかしたのか?」
『あいつ一人で早乙女煉の元へ行きやがった』
「それを何故早く言わなかった!」
『こっちも急がしかったんだ!だから、俺と明で様子を見に行く。こっちには由紀と雷火を置いて行く』
「危険すぎるぞ!ちゃんとした戦力を連れて行かねば、お前達も危険な目に合うぞ!」
『そんな余力は今無いだろう!様子を見に行くだけだ!』
「ならば必ず明ちゃんと星下君を連れて帰って来い。これは命令だ」
『相変わらずむちゃを言うな…。了解』
突然に通信で少し驚いたが、何時もの事だと心を落ち着かせる。
むしろ、この方が何時も通りで調子が出せる。
久しぶりの戦場で肩に力が入っていたが、風斗のお蔭で本来の力が出せる。
この調子で残存勢力を片付けられる。
肩を回しながら笑みを浮かべ、敵の下へ歩みを進める。
「どうした?それで終わりか?土本を殺した時の力はどうした!」
呼吸が熱い。自分の身体に熱を帯びているからか、それともこの結界の中にいるからなのか。
今はそんな事を考えている余裕は無い。
「はっはっ…」
全身が痛いが闘志は消えていない。
「そう来なくてはつまらないな。だが何時まで、力を使わずに戦えるかな?」
ポケットの中にある魔力生成剤を二つ取り出し、口に中に入れる。
すると、今までに無い激痛が襲う。
「くっ!」
だがそんな事を気にせずに力一杯踏み込み距離を詰める。
「何っ!」
刃が仮面をかすり、亀裂が入る。
さらに一瞬で三撃を叩き込む、それを十回連続で切りつける。
だがそれを受けて止めてしまう。
「はっはっ…」
音速で刀を振り回したはずなのに、掠り傷程度ですんでいるこの男は化け物。
「どうした?それで終わりか?」
二つの刃が重なり二人の距離が自然と近くなる。
「はぁっ!」
刀を振り上げ距離を取り、再び踏み込む。
「学習がないな…」
距離が詰まった瞬間に地面を蹴り、空中で回転し頭に向けて刃を向ける。
その速度は目で追えるはずがないのだが、まるで知っていたのように交わしてみせる。
だが仮面に刀がかする、それと同時に何かが割れて落ちる音がする。
「はっは…」
数メートル先に着地した幻徒は後ろを振り向くと背中を向ける男の姿が目に入る。
「貴様…」
怨念と良く似た声が耳に入り、一瞬身体が硬直する。
そして、ゆっくりと顔を正面を向けるとそこには自分がいた。
「え?!」
その姿は自分のドペッルゲンガーだ。世界には同じ顔の人間が三人いるとされているが同じ国にいるとは思わなかった。
だがその顔は自分とそっくりだが、両目の色が赤い。
「この顔を見られたからには貴様を殺す!」
その暴言を吐いた瞬間に幻徒の身体が吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
垂直に身体が飛ばされ、さらに刃で身体が切り刻まれるのが感触で脳に伝わる。
そして、身体が無造作に地面に転がるとゆっくりと近づいて来る足音が薄れていく意識の中で耳が拾う。
「無傷で持ち帰ろうと思ったが、どうせ頭と核が残っていれば死にはしない…。
痛め付けても大丈夫だ。死ぬ痛みを味わえ、この地獄からの獄炎でな!」
早乙女煉の身体が淡い朱色で包み込まる。
するとこの世の物とは思えない色の炎が作り出され、幻徒に地獄の炎が放たれる。
身体が炎に包み込まれ熱さを通りこし、身体中が痛い。
痛みで持っていた刀を落としてしまった。熱さで左腕が焼け落ちる。
熱さで顔の半分が灰になる。熱さで腹部の半分が剥き出しになる。
意識がはっきり言って朦朧している、生きているかも曖昧な状況だ。
第三者から見れば、もう死んでいるとしか思えない。
それは普通の人間の話だ。星下幻徒は「人間」では無いのだ。
彼は作られた「ホムンクルス」の為、しかも特別製の作り物。
刃物で刺されようが、バットで殴られようが、銃で撃たれようが、ビルから落ちようが、多少の事は平気だ。
例え、人類が想像した天国と地獄のような創作物で出来た物でボロボロでされても必ず再生する。
こんな状況の為に作られたと言っても過言ではないのだ。
誰もが子供の頃に考えた、絶対に負けない完全無欠のヒーロー。
それが星下幻徒だ。
例え、身体が半分焼けても必ず再生する。
必ずこの男を止めると言う鉄の意志が行動原理の星下幻徒は無敵だ。
腰が少し曲がっている状態で口を開く。
「この身体で本当に良かったよ…」
口を開く事も出来るはずがないのだが、それが出来る。
「化け物め!なぜ私を殺さない!その力ならどうにでもできるはずだ!どうして力を使わない!」
距離は離れているが反響して声が響く。
「僕はあなたに生きて、罪を償って欲しい。それにあなたにも家族がいるはずだ。
僕にも大切な人達がいるから守るって決めたんだ!それにあなたも止める!
もう誰かを殺して生きるのは嫌何だ!もう、誰かが苦しむ顔何て見たくないんだ!」
「だから、使わなかったのか…。とんだあまちゃんだな」
「第二領域起動!全魔力開放許可!百二十パーセント!」
『生命の危機を探知いたしましたので、第二領域発動を許可します。百二十パーセントの魔力開放。全方位の展開を発動します』
機械的な声がどこからとも無く聞こえると同時に眩い光が幻徒から放たれ、何かが割れる音が響く。
早乙女煉が展開する、移動式結界が破られる音だ。
「何?!」
「テュルフィング起動!アロンダイト待機!」
幻徒の手には突如を現れた、魔剣が強く握られていた。
テュルフィング。それは持ち主の願いを三回まで叶えると言う言われる宝剣。
だが、四回目は持ち主の命を奪ってしまうと言う代物である。
「良いだろう!それが貴様の本気なら私もこれを使おう。これで死ねる事を誇りに思うが良い!」
煉も幻徒に答えるかのように右手に紅蓮の炎が集まり刀の形になる。
これはどこにも存在しない魔術。煉が二十五年間で自分で考案し、付くり出した秘術だ。
体内に流れている魔力を一箇所に集め形にする。これは殆ど他人には見せた事が無い。
先ほどまでの刀と違い、刀身が朱色で出来ている。彼の魔術は「煉獄の炎」
大日本帝国で使用している火が発生する魔術は誰もが想像する物で物体が燃えるのも時間がかかる。
それに火災が発生した場合燃えるのは限られるが、早乙女煉が使用する「煉獄の炎」は万物を焼き払う。
ぶつかり合う二つの刃。人の想像を超える速さで切り合い、自らの命を削り合う。
「宝剣を使用してその程度か!」
他人がこの光景を目にしたらどう思うか、その答えは無い。
それは人の目には映らないからだ。人の目で追えない速さは決まっている。
光速で動く事だ。二人は今、人の身では体現出来ない速度で命の取り合いをしている。
「僕はこれが何かなんて知らない!ただ、記録されていただけだ!」
「ではなぜ、貴様は手にしている!貴様が願ったのではないのか!」
「そうだよ!僕は願ったら、大抵の事はできる!きっと、世界も滅ぼせる!」
「ではなぜ、自分の思いどうりに動かない!なぜ組織と言う小さい所にいる!
その力があれば、貴様は悪魔にも神もなれると言うのに!貴様の中にはその力があると言うのに!」
「僕はそんな事に興味は無い!僕が願うのは大切な人達が普通に暮らせる事だ!
あなたが一体何を願っているのか知らないけど、今やっている事は間違っている!」
「間違っている?何が間違っていると思うのだね?人が何を思うが自由だと思うがね!
それに人は何を基準に善と悪を判断する?君にそれが解るのか?たった十五年しか生きていない君に!」
「そうだよ!僕は子供で何が悪いとか正しいとか解らない!はっきりしている事はあなたがしている事は間違っている!
自分の願いの為に多くの人を犠牲にして何が望みだ!」
「今まで平凡に過ごして来た子供に私の何が解る!私の願いだと?良いだろう、教えてやる!過去に戻り、人生をやり直す事だ!」
「そんな事の為にこんな事を起こしたのか!あなたは狂ってる!」
「私が狂ってる?それがどうした?貴様も人間もどきのホムンクルスではないか!
私が狂っていると言うのなら、貴様も狂っているだろう!」
「違う!」
「何が違うと言うのだ?殺しても死なない、核兵器と同等の兵器を身体の中に保有している化け物が!
いい加減認めろ!貴様は最初から人間として作られていない!貴様は化け物だ!」
「僕は身体が作り物で、簡単に死なない身体でも心まで化け物になったつもりは一度も無い!
僕は感謝している!この力の使い方を教えてくれた人達に!」
二人が刃を交えている上空にヘリコプターが一台、飛んで来た。
『視聴の皆さん、あの光景が見えるでしょうか?あれは男性でしょうか?
男性、二人が刃物のような物を持って争っているようです!今、我が国で何が起きているか上空でお伝えしていきます!』
報道用の民間機が上空を飛んでいる。恐らく、幻徒が放った光の柱が原因であろう。
民間人は非難させたはずだ、この状況でマスコミが出てくるのは不味い。
報道されては不味いのではなく、危険な状況だからだ。
『どっちがテロリストが解りませんが…、どっちも同じ顔!?でも服装が違う?
あっちが大日本帝国の制服だから、あっちの赤いのが攻めて来たテロリストでしょうか?
ここからでは良く見えないからもっと寄ってくれない!』
『それは無理ですよ!危険です!』
この映像をテレビ越しで見ていた、避難民の中に帝都大学付属高校の生徒達も二人の様子を見ていた。
「あれ、幻徒じゃないか!」
「え?本当だ!」
逸早く気づいたのは虎雄だ。
「何で、あいつがあんなにボロボロなんだ?」
不安そうな口調でクラス委員長が言葉を漏らす。
「もかして、あの攻めて来たテロリストと一人で戦ってるんじゃ?」
テレビ画面に映し出されている情報だけでは解らない事が多すぎる。
しかもこの場に居るのは魔術の事が全く解らない一般市民だ。
「それに剣見たいな物持ってないか?両手に?」
「え?本当だ!相手も日本刀持ってる」
「幻徒の野郎…。俺に何も言わずに一人で戦ってるんだよ」
虎雄が自分の無力に唇を噛み、手を強く握り締める。
親友が一人で身体をボロボロにして、戦っているのに自分は避難所でその光景を眺めているだけ。
傍観者になっているだけの自分に憤りを感じても何も出来ない。それが悔しかった。
ずっと一緒にいたはずなのに今は遠くに感じてしまう。
今出来る事はただ無事を祈るだけしかだけしか出来ないのか。
親友を助ける方法はないのか、一つだけ思いついた。
「どこ行くの?佐々木君?」
気が付けば避難所の入り口の前に来ていた。
「ちょっと君!どこに行くのかね?外は危険だぞ!」
兵士の一人が肩を掴み、引き止める。その腕を掴み、耳のインカムを取り上げる。
「な、何をするんだ!」
これの方法で自分の声が幻徒に届くが解らないが、今は出来るのはこれしかないと思った。
「幻徒!聞こえるか!聞こえるなら、返事をしろ!」
『何だ?どこの者だ?』
「幻徒!聞こえるか!」
ただ、叫んでいた。これが馬鹿げているのは解っていた。でも、理屈じゃない。
『もかして、友人か?おいこの通信を直ぐに全ての回線に流せ!』
『ですが、明らかにいたずらでしょ?』
『こんな熱いいたずらをする馬鹿がどこにいる』
『了解、直ぐに回線に流します』
その声はずっと続いていた、大切な友に届けるために。
「おい、幻徒!聞こえているなら、絶対に帰って来い!俺と皆が心配してるぞ!」
「おい君!いい加減にしないか!」
聞き覚えのある声に思わずに口元が笑ってしまう。しかもあんな大声で、恥ずかしいにも程がある。
だが不思議と胸が熱くなるのが解る、これが友情か。
クサイ言葉だが、言い言葉だ。
親友の声が自分を奮い立たせる。どうやら、命を捨てるのは間違いらしい。
「アダロンダイト起動、テュルフィングと共に併用!」
魔力が体の中に逆流して来て、今にも吐きそうだ。
魔剣と聖剣を同時に持っている者はこの世に恐らく一人だけ。
「面白い事をするな!そんな事をしても私には勝てんよ!」
再び光速での戦闘が始まる。
先に動いたのは幻徒だ。左手にアダロンダイトを盾に一直線に切り込む。
聖剣アダロンダイト。円卓の騎士の一人、ランスロットが使用したと伝わる剣である。
折れない剣としての性能を持つ。他にも、魔剣としての言い伝えもある。
二つの斬撃が四分音符で刻まれるが煉はそれを受け止める。
「くっ!」
身体中が軋む、動かす度に痛みが走り顔が歪む。
「苦しそうだな!聖剣と魔剣を同時に使っていれば当たり前か!」
その通りだ。強大な力が体に流れ込んで来て、それに耐え切れずに身体のそこら中に皹が入る。
この身体が壊れてもこの男を止めると決めた、その意思だけで今は剣を振るう。
さら十六分音符で刻みを入れる。
「くっ!貴様の魔力は底無しか!」
さすがに捌ききれなくなってきたのか、息が上がっている。
だが幻徒の方は全身の痛みで意識が飛ぶ。
「うっ!」
その隙を煉は見逃さなかった。即座に蹴りを入れ、幻徒を吹き飛ばす。
気が付けば空を見ていた、痛みで起き上がる事も出来ない。
今理解出来るのは、自分が吹き飛ばされた事だけだ。
「やっと、大人しくなったか。はっ、はっ…」
聞こえるのは、苦しげな声と自分の心臓の音だけ。
ここで終わるわけには行かない。
痛みで動けないはずなのだが、ふらふらと立ち上がる。
「まだ動けるのか、さすが化け物だ。私の為に死ね!貴様は人類が作った願望の塊だ。
貴様に中にある聖遺物集合核さえ手に入れれば、私は過去を変えられるんだ!普通の人生を送るために!」
過去を変えたいと思うのは誰もは一度思う事だ。過去を変える事は人類史上誰もいない。
それを可能にする物がたった一つだけある。星下幻徒の体内にある「聖遺物集合核」だ。
現実にタイムマシンが開発されたとしたら、教科書の内容は常に変更になる。
一番解りやすいのは歴史の改竄だ、自国が有利になるのなら各国の代表は喜んで時間を遡るだろう。
世界の警察であるアメリカ合衆国を戦争で敗戦させる事も中国とロシアが世界の中心になれるかもしれない。
それが時間を操ると言う事だ、誰もが時間を戻せたらと何時の時代も思った事だ。
だが、それはタイムマシンがあったらと言う前提での話だ。
人類は過去の過ちや失敗で考え、前に進み、成長している。
失敗があるから人は考える。過ちがあるから人は前に進む。
先人がいたから人は学ぶ。過去があるから未来がある。
それが人間だ。
「あ、あなたは…。そこまでして過去を変えたいのか!」
皹だらけの身体で叫ぶ。声を出すだけで、砕けてしまいそうだ。
「今まで平凡に暮らして来た、貴様には解らないだろうな!私は親の愛情何て知らなかった!
何時も冷酷だった!貴様には理解出来ないだろう、窓から見える子供達の遊ぶ姿がどれだけ羨ましく見えたか!
私は一度だって、父親と触れ合った記憶が無い!抱きしめられた事も無い!だから過去に変え、人生をやり直す!」
この人はただ、寂しかっただけ。それが間違った方向に行ってしまっただけ。
間違った道を歩いているのなら、真っ直ぐに直してやれば良い。顔が下を向いているなら、手を引いてやれば良い。
そんな当たり前の事がこの人は出来なかっただけ。
覚悟は出来ている。胸の中心に手を当てる。
「ぐっ!」
自分の心臓である聖遺物集合核を鷲掴みにして取り出す。
激痛で視界がぼやける。
「貴様!何をする気だ!」
「あんたが欲しいのはこれだろ!こんな物があるから、争いが起こるんだ!」
力一杯に握り締め、透明に輝く球体を砕いた。
痛みで息も出来ない、視界が半分になり。ただ、苦しい。
これが死ぬと言う事なのか、直面してもまだ理解出来ない。
それもそうだ、死ぬのはこれで初めてだ。死を覚悟した事は何度もあったが、本当の死と言うモノは経験した事がない。
気軽に経験して出来るものでは無いが、今自分の死が訪れようとしている。
『生命維持装置の破損を確認をしました。これより情報漏洩防止の為、全ての情報を削除をいたします。
それと共に魔力の限界を解除いたします。全魔力を開放開始』
「馬鹿な…、何だこれは?!私は知らないぞ!」
何故か生きている。否、これは生きているのでは無く、時間を延長しただけ。
どこまでも化け物だなと痛感する。でも、これで良いんだ。
こんな物が人類にあってはいけない。壊して、正解なんだ。
「貴様!自分が何をしてるのか、解ってるのか?!」
一言だけ、呟いた。
「知らない。でも、これであなたを止められる」
何故か痛みが無くなり、身体が羽の様に軽い。
それに身体中から、淡い金色の輝きが溢れ出す。
「くそっ!私の悲願をよくも!」
再び紅色の刀を出し、向かって来る。
落としてしまった、刀が足元にある。拾い上げ、名を呼ぶ。
「行くぞ!正宗!」
『システム起動を確認。正宗起動』
最後の切り合いが始まるが勝負にならなかった。
光速で切りかかるが幻徒が横に刀を振る。すると、煉の持っていた刀が切れる。
「何?!」
そして、二回目の攻撃を幻徒が仕掛けると刀が完全に消滅した。
「もう、終わりにしよう…」
刀が消滅すると同時に早乙女煉も地面に倒れる。
それとて同時に幻徒も地面に倒れこむ。
こうして、二人の戦いは幕を閉じる。
「おいおい!幻徒の奴、大丈夫なんだろうな!」
「父さん、もっと飛ばして!」
「これで全速力だよ!」
風斗と明は車で幻徒の元で急いでいる道中だ。
「さっきから幻徒の反応が薄いんだ…。それに通信を入らない」
「星下…」
二人の不安は的中する事になる。
「二人が見えたぞ…」
視界に入るがそれはもう、倒れている光景だ。
慌てて車を停車をして、明が幻徒の側に駆け寄るがその光景はこの世とは思えない物だった。
巨大なクレーターが地面に出来ていて、何かが燃えた跡もある。
それに巨大な亀裂も地面に入っている。
「マジかよ…。これは俺も初めてだ…」
風斗が唖然とするほどの悲惨な状態だ。
「星下!おい大丈夫か!」
ボロボロの幻徒を抱きかかえ、今にも涙が零れそうだ。
「あ、明さん…」
「どうして、こんなになるまで…。どうしてお前は何時も何も言わないんだ!」
「ご、ごめんなさい…。心配をかけたくなくて…」
幻徒の身体は亀裂が入り触れただけで身体の一部が崩れていく。
「謝るな!そう思うのなら、生きろ!私はお前がいないと嫌何だ!」
「ごめんなさい、その約束は守れそうにありません…」
「頼むから目を閉じるな!」
金色に染まった少年の瞳は静かに閉じる。
それと同時に少女の瞳から、数多の雫が少年の顔に零れ落ちる。




