帝都炎上編その一
十一月初頭。早乙女煉は軍が用意した米国行きの飛行機に搭乗していた。
その飛行機の中にはパイロット、開発主任の山田、数人のボディガードしかおらず他の部外者はいない。
もちろんテロ対策が一番の念頭だが、早乙女煉の情報が少しでも表に漏れないように本人が気にしているからである。
自分の素顔が知られれば、今の地位から引きずり降ろされる可能性が高いからである。
だが自分の素性が表に出て早乙女家がどうなろうが、どうでも良いのだ。
利用価値が無くなれば、関係を切る事も計画の中に入っている。
自分の中では巨大な権力も目的達成の為の駒の一つに過ぎない。
悲願が達成すればこんな醜い世界も変えられる。そんな事を書類に目を通し、飛行機の個室で外を眺めながら考えていた。
「ふん…。予想外の展開だったが、次の手は考えている」
独り言を呟いているとドアから、叩く音が聞こえて来る。
「総隊長、お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
どうやら、ボディーガードが尋ねて来た様だ。慌てて、仮面を被る。
「鍵を開ける。少し待て」
個室の部屋の鍵を開け、扉を開ける。
「失礼します、総隊長。お休みの所、申し訳ないですが後一時間程で米国に到着いたしますので準備をよろしくお願いします」
「解った、下がって良い」
「はっ。失礼します」
ボディーガードは頭を深く下げ、部屋を後にする。
アメリカ合衆国メリーランド州大日本帝国駐米部隊非科学部門赤い番犬本部。
「早乙女煉総隊長殿に敬礼!」
滑走路に並ぶ、肌の色がばらばらな兵隊達。この兵隊達は全てが早乙女煉の部下達になる。
その中には黒人、白人、日本人が混じっている。
「出迎えご苦労。二ヶ月の間、私の留守をありがとう。ボブ」
「煉、そんな事は気にしなくて良いんだよ!それより今夜、飲もうぜ!帰国パティーだ!」
「ありがとう、話はまた後で」
「また後でな!」
煉に陽気の出迎えの先頭にいたのは赤い番犬総部隊長ジョン・ボブスレイ。
筋肉隆々の黒人で性格も陽気で面倒見も良く、上下関係無く慕われている。
冷酷で残酷な男もこの暖かい男に心を開いている。
二ヶ月ぶりの隊長室に新鮮さを感じてしまう。
普段、自分が使っているはずなのに少しの間離れただけでこんな気持ちになるのは歳を重ねたからだと少し笑う。
つい自室に帰って来たと言う安心感から気が緩んで仮面を外しそうになるが、ドアから叩く音が響く。
「総隊長。帰国早々申し訳ありません、第一秘書のマリーです」
「入って良い」
「失礼します」
部屋に足を踏み入れたのは体系はモデル級で美人なアメリカ人である。
「総隊長が不在の間、問題が発生しましたのでご報告します。優先事項から申し上げます、私はあなたと会えなくて寂しかったです」
「冗談はどうでもいい、何があった?」
「はい。では本題に入ります、黒い愛国者に動きがありました」
「何?今頃?」
黒い愛国者。米国を拠点にする反政府組織である。構成人数は不明。
主な活動は麻薬と武器の密輸入と売買に国外の組織との情報交換。
これだけならただのマフィアだが、この組織の目的は米国に駐在している日本軍の前面撤退。
この組織は日本軍のみ妨害工作や攻撃をして来るのだが、米国に住む市民は彼らを指示し、支援をしている者達もおり警察も手が付けられない。
なぜこのような反日組織が誕生したか、千九百四十五年までに遡る。
この年は米国と大日本帝国が同盟条約を結び、その証として両国に駐屯基地を作った。
基地を作る際にその場所に住んでいた、住民に撤去をした。その方法が強引だった為に怒りを買ってしまう。
その中には自営業を営んでいる者達の強制撤去や暴力での撤去を当時の帝国軍は行った。
その中には一般人も混ざっていたのだ、これでさらに怒りを買う。ついには暴動までになりそれが尾を引き、それが組織の原型になる。
だが、その後にそれを知った当時の政治家達は謝罪と保障をしたのだが事態は収まらなかった。
そんな歴史があるが煉は興味が無かったが、この組織を利用しようと初めから考えていた。
「報告ありがとう。下がって良い」
「最後によろしいでしょうか?」
「何かな?」
「今夜、私は空いてます」
「そんな事はどうでも良い」
「それでは失礼します」
秘書が部屋を出る。
「相変わらず、変な奴だな」
思っている事が口に出てしまう。
久しぶりに座る自分の椅子に深く腰を下ろすし、報告書類と電子端末のメールに目を通すがはっきり言ってどうでも良かった。
その中で目を引く報告がある、それは黒い愛国者に関する内容だ。
一ヶ月前に駐米大日本帝国軍との武力衝突により、黒い愛国者側にかなりの損害が出た。
詳しい内容は黒い愛国者の幹部一人が逮捕された事と構成員に死傷者が多数。
これは好機だとばかりに仮面の下に笑みが生まれと同時に閃きが頭の中を過ぎった。
「今日は潰れるまで飲んでくれ!煉の為のパーティだからな!」
帰国した夜に部隊総隊長のボブが煉の為にパーティを開いた。
「総隊長!二ヶ月間、お疲れ様でした!」
この会場にいる部下全員が早乙女煉を尊敬している、「早乙女」と言う後ろ盾があるからではない。
世界に通じる権力を持っていると言ってもここは自由の国アメリカ合衆国である。
煉がまだ訓練生の時、「早乙女家の人間」と言うだけで僻みや嫉妬の眼差しで見てくる人間はいくらでもいた。
それにその権力に群がる蝿は腐るほどいた。それに嫌気が刺し、アメリカ留学を志願した。
ここの人間達は自分が何者かは知ってはいたがそんな事はお構いなしに接してくれた。
「ありがとう!私の為に集まってくれて、心から感謝する!それでは乾杯!」
日本で飲む酒より、何倍も美味かった。
「総隊長~、ジャパーニーズの話聞かせて下さいよ~」
「構わないよ」
そして、楽しい宴はあっという間に過ぎて行く。
その次の朝、早乙女煉は十一月の寒さにびくともせずに刑務所の前に来ていた。
「総隊長。なぜ、このような所に?」
「君は私の護衛をしていれば良い。余計な事を考えるな」
「はっ。総隊長がそう仰るなら」
たった一人しかいない護衛が煉の迫力に負け、思わず身が竦んでしまった。
本音は言えば護衛何て要らなかったのだが、秘書が口やかましく言われたから仕方なく一人だけ付けた。
朝の事を思い出しながら歩を進めた、すると警護の者が口を開く。
「失礼ですが?どのようなご用件でしょうか?」
「昨日、連絡した大日本帝国駐米部隊の総隊長早乙女煉です」
「これは失礼しました。こちらです」
警護が二人を招き入れる。
早乙女煉がわざわざ刑務所に出向いた理由、それは建物の奥にある。
「時間は一時間だけです」
強面で筋肉隆々の警官が煉を中に入れる。
鏡越しに中年で眼鏡が特徴の人間が座っている。この男が黒い愛国者、幹部の一人コリー・オーズリーである。
このような大物が刑務所でバカンスをしているのは理由がある、それは一ヶ月前の話だ。
涼しくなり始める十月の頭。黒の愛国者が物資を受け取る為、港にコリー・オーズリーとその部下数十人が作業していた。
その情報が警察に流れていたらしく、襲撃された。部下達を逃がす為に囮になり、捕まった。
この話は直ぐに組織本部に報告が行き対策が練られている。
「あなたがコリー・オーズリーですか」
最初に口を開いたのは煉。
「今日は面会だって、聞いてたんだが…。ただのコスプレ野郎かよ」
いきなりの挨拶にびくともしない。こなんのは日常茶飯事だ。
「初めまして、私は駐米部隊非科学部門赤い番犬総隊長の早乙女煉です」
「聞いた事な…、あぁ。あのオカルト集団の隊長か、それでその総隊長が何の用だ?」
鼻で笑い完全に馬鹿にされているが、仮面の下は崩れない。
「単刀直入に言おう。本部の場所を教えろ」
「あっははははは!あんた、面白いなっ!はいそうですかって教える人間がどこにいる?それに俺達は家族と仲間は売らない。過去にあんた見たいな奴がいたがもちろん始末した」
陽気に笑い出したと思ったら、急に声色が変わり表情も険しくなる。
この迫力はさすがと言った所か、どの位の修羅場を潜って来たのだろう。
「もちろんただとは言わない。あなたの望みを聞こう…」
「は?望み?ま、叶うんならここから出たいけどな。バカンスも悪くはないけどな」
「それだけで良いのか?直ぐに手配しよう」
煉は口を開くと席を立ち、その場を立ち去る。
その数日後、黒い愛国者。幹部の一人、コリー・オーズリーは釈放された。




